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第82話 懐古と思い
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「あなたは何故私に両親についての話をしてくれたのですか?」
シグルドもキールも言わなかった事をロキは躊躇いもなく話してくれたが、何か意図はあったのだろうか。
聞いた時はショックを受けたが、そのショックを引きずる間もなく、戦場に連れてこられたため、冷静に振り返る時間はなかったが、今なら少し落ち着いたし、聞いてみたいと思った。
アドガルムに帰ってからでは、ロキとゆっくり話す時間はなさそうだし、機会は今かなと考えた。
「あの場でああ言わないとティタン王子が怒るだろ? 知らない男にミューズを連れて行かれたなどというよりは、身内が一緒だという方が安心するだろうし」
「どうでしょうか」
何も言わずに戦場に連れて行かれたと知ったら、多分身内だろうと怒ると思われる。
数日前にその事で口論していたし。
「それに、ミューズがリリュシーヌの事もディエス殿の事も知らずに過ごすのが、嫌だったのもある」
深い懐古の感情が感じられる。
ミューズは静かに耳を傾けた。
「リリュシーヌは何でも出来た。魔法も優秀で、頭もいい。剣も親父殿に教わって卒なくこなせていた」
ロキはそう言って両親について話をしてくれる。
「人間としても良くできた人で優しくて、そして明るく逞しい人であったな。俺様のように魔力の高さを驕ることもしなくて、よく諫められたよ。俺様が魔法を暴走させた時も、止められるのはリリュシーヌくらいだった」
ロキのように魔法をひけらかすことはしないし、魔力もずば抜けて高い。
華やかで、おおらかな女性であった為、人気もあった。
「ミューズの父であるディエス殿も、少し気弱だがとても優しく、人の気持ちを考えられるいい男だった。度々魔法の暴走をさせて人から距離を置かれていた俺様の事も、人扱いしてくれたな。時々吹っ飛ばしてしまったが、めげずに遊びに来てくれたのは嬉しかった。文官としても優秀で、知識も地位もあって申し分なかった。才が認められ、王城務めとなってからリリュシーヌとの婚姻の承諾を得に我が家に来たのだが……武も魔力もないという事で、親父殿は受け入れられなかったらしい」
「シグルド様が受け入れられなかった……」
厳しくも優しい自分の祖父だというシグルドのそのような一面を聞いて、なんとも言えない気持ちになる。
何を思っても言っても今更でしかないし、転移前のあの表情を思うと、婚姻の件でどれ程の後悔を抱えていたのか、想像に難くなかった。
「きっと悔いてますもの……私に話せなかった気持ちもわかります」
自分がティタンの元に嫁いだ来た時に、どういう思いをしたのだろうか。
初めて顔合わせをした時に、どのような表情をしていたか思い出せない。
懺悔の思いを抱かせてはいなかっただろうか。
「私がアドガルムに来た事で、さざ波を立たせてしまったのではないでしょうか」
シグルドもだが、キールもだ。
ティタンと互角の腕を持つというキールも、きつめの目つきではあるが、穏やかな男性である。
一緒に鍛錬をしたいというと嫌がることなく優しく接してくれ、丁寧に基礎から教えてくれた。
彼もまた知っていても言えなかったようだが、自分を従妹と知って、どう感じただろう。
「親父殿の意向は知っていたが、ミューズがアドガルムに定住するならば、内緒にしているつもりはなかったのだ。ヘンデルもいないから、あいつのいらん言い訳を聞かずに済むしな」
もしもそのままセラフィム国で誰かと結婚し、あちらで幸せに過ごすのならば、ロキとて余計な波風を立てようとは思わなかった。
だがミューズはアドガルムに来た。
「アドガルムで生まれ育った二人の事をミューズに伝えたかった。特にディエス殿の存在を隠して生きるなんて、したくなかったのだ」
変わり者で強すぎる魔力を持つロキは皆より敬遠されていた。
それなのに挨拶もしてくれて怯えてはいたものの話もしてくれた、嬉しかったのを覚えている。
「義兄として認めるはディエス殿だけだ。あんな腰抜けのヘンデルを、俺様は義兄とは認めん」
そもそも義兄の命を盾にリリュシーヌを手にした男だ。
認めてなるものかと今だって許せていない。
だが奪われた姪はこうしてアドガルムに嫁いできてくれて、どういう縁か取り戻すことが出来た。
そして収まったと思われた戦も再び始まる。
尊敬する姉の力を受け継いだミューズは必ずしも必要になるし、何よりこれは運命なのだと思った。
自分がリリュシーヌに出来なかった事を、ミューズに返していけるのだから。
若き時は地位も権力もそして財力も、二人を助けるには到底足りなかった。
父を止め、二人を庇う程の力があれば、違う未来があったかもしれない。
病を治す程の財力があの時あったならば、二人を助けられたかもしれない。
ロキもまた長年思い悩んでいた。
「同じ病で倒れるものが出ないよう、薬についての事もシュナイ医師と相談したり、セシルに他国の薬草を渡したりして治療薬の研究に役立ててもらっている。ディエス殿が罹った病が例えアドガルムで流行っても、今なら治せる自信もある」
貴重な薬草もセラフィム以外から手に入れられるようになり、ロキ自身も数多の病気を目にし、治療方法を勉強してきた。
そして病は治せずとも補佐を出来るように、回復魔法の精度も上げてきた。
その為に得た知識は全てアドガルムへと献上している。
故にロキは自由に他国へ行くことを許されている存在だった。
「アルフレッド王に忠誠までは誓わないが、ディエス殿が仕えたかった人だし、家族もお世話になっている国だから、滅んでもらったら困る。それにまた守るものも増えた」
ミューズの頭を優しく撫でた。
「リリュシーヌとディエス殿の大事な忘れ形見だ。俺様も命をかけて守るぞ」
大好きだった姉と義兄の子だ。
きっと守ると心に誓う。
シグルドもキールも言わなかった事をロキは躊躇いもなく話してくれたが、何か意図はあったのだろうか。
聞いた時はショックを受けたが、そのショックを引きずる間もなく、戦場に連れてこられたため、冷静に振り返る時間はなかったが、今なら少し落ち着いたし、聞いてみたいと思った。
アドガルムに帰ってからでは、ロキとゆっくり話す時間はなさそうだし、機会は今かなと考えた。
「あの場でああ言わないとティタン王子が怒るだろ? 知らない男にミューズを連れて行かれたなどというよりは、身内が一緒だという方が安心するだろうし」
「どうでしょうか」
何も言わずに戦場に連れて行かれたと知ったら、多分身内だろうと怒ると思われる。
数日前にその事で口論していたし。
「それに、ミューズがリリュシーヌの事もディエス殿の事も知らずに過ごすのが、嫌だったのもある」
深い懐古の感情が感じられる。
ミューズは静かに耳を傾けた。
「リリュシーヌは何でも出来た。魔法も優秀で、頭もいい。剣も親父殿に教わって卒なくこなせていた」
ロキはそう言って両親について話をしてくれる。
「人間としても良くできた人で優しくて、そして明るく逞しい人であったな。俺様のように魔力の高さを驕ることもしなくて、よく諫められたよ。俺様が魔法を暴走させた時も、止められるのはリリュシーヌくらいだった」
ロキのように魔法をひけらかすことはしないし、魔力もずば抜けて高い。
華やかで、おおらかな女性であった為、人気もあった。
「ミューズの父であるディエス殿も、少し気弱だがとても優しく、人の気持ちを考えられるいい男だった。度々魔法の暴走をさせて人から距離を置かれていた俺様の事も、人扱いしてくれたな。時々吹っ飛ばしてしまったが、めげずに遊びに来てくれたのは嬉しかった。文官としても優秀で、知識も地位もあって申し分なかった。才が認められ、王城務めとなってからリリュシーヌとの婚姻の承諾を得に我が家に来たのだが……武も魔力もないという事で、親父殿は受け入れられなかったらしい」
「シグルド様が受け入れられなかった……」
厳しくも優しい自分の祖父だというシグルドのそのような一面を聞いて、なんとも言えない気持ちになる。
何を思っても言っても今更でしかないし、転移前のあの表情を思うと、婚姻の件でどれ程の後悔を抱えていたのか、想像に難くなかった。
「きっと悔いてますもの……私に話せなかった気持ちもわかります」
自分がティタンの元に嫁いだ来た時に、どういう思いをしたのだろうか。
初めて顔合わせをした時に、どのような表情をしていたか思い出せない。
懺悔の思いを抱かせてはいなかっただろうか。
「私がアドガルムに来た事で、さざ波を立たせてしまったのではないでしょうか」
シグルドもだが、キールもだ。
ティタンと互角の腕を持つというキールも、きつめの目つきではあるが、穏やかな男性である。
一緒に鍛錬をしたいというと嫌がることなく優しく接してくれ、丁寧に基礎から教えてくれた。
彼もまた知っていても言えなかったようだが、自分を従妹と知って、どう感じただろう。
「親父殿の意向は知っていたが、ミューズがアドガルムに定住するならば、内緒にしているつもりはなかったのだ。ヘンデルもいないから、あいつのいらん言い訳を聞かずに済むしな」
もしもそのままセラフィム国で誰かと結婚し、あちらで幸せに過ごすのならば、ロキとて余計な波風を立てようとは思わなかった。
だがミューズはアドガルムに来た。
「アドガルムで生まれ育った二人の事をミューズに伝えたかった。特にディエス殿の存在を隠して生きるなんて、したくなかったのだ」
変わり者で強すぎる魔力を持つロキは皆より敬遠されていた。
それなのに挨拶もしてくれて怯えてはいたものの話もしてくれた、嬉しかったのを覚えている。
「義兄として認めるはディエス殿だけだ。あんな腰抜けのヘンデルを、俺様は義兄とは認めん」
そもそも義兄の命を盾にリリュシーヌを手にした男だ。
認めてなるものかと今だって許せていない。
だが奪われた姪はこうしてアドガルムに嫁いできてくれて、どういう縁か取り戻すことが出来た。
そして収まったと思われた戦も再び始まる。
尊敬する姉の力を受け継いだミューズは必ずしも必要になるし、何よりこれは運命なのだと思った。
自分がリリュシーヌに出来なかった事を、ミューズに返していけるのだから。
若き時は地位も権力もそして財力も、二人を助けるには到底足りなかった。
父を止め、二人を庇う程の力があれば、違う未来があったかもしれない。
病を治す程の財力があの時あったならば、二人を助けられたかもしれない。
ロキもまた長年思い悩んでいた。
「同じ病で倒れるものが出ないよう、薬についての事もシュナイ医師と相談したり、セシルに他国の薬草を渡したりして治療薬の研究に役立ててもらっている。ディエス殿が罹った病が例えアドガルムで流行っても、今なら治せる自信もある」
貴重な薬草もセラフィム以外から手に入れられるようになり、ロキ自身も数多の病気を目にし、治療方法を勉強してきた。
そして病は治せずとも補佐を出来るように、回復魔法の精度も上げてきた。
その為に得た知識は全てアドガルムへと献上している。
故にロキは自由に他国へ行くことを許されている存在だった。
「アルフレッド王に忠誠までは誓わないが、ディエス殿が仕えたかった人だし、家族もお世話になっている国だから、滅んでもらったら困る。それにまた守るものも増えた」
ミューズの頭を優しく撫でた。
「リリュシーヌとディエス殿の大事な忘れ形見だ。俺様も命をかけて守るぞ」
大好きだった姉と義兄の子だ。
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