隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

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第76話 カミングアウト

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「いっそ自分は女だとカミングアウトしてみたらどうです?」
マオと二人の部屋でそう言われた。

目を覚ましたリオンは皆にお礼を言って、最後の仕上げをすると言っていた。

リオンが集中していることをいいことに、また護衛のウィグルと会話に興じる。

「そしたらやめさせられますよ!」
マオの言葉に流石に拒否する。

折角ここまで上り詰めたのに、そんな努力を無駄にするようなことはしたくない。

「異国の文字も読めるし、褒められていたじゃないですか。それなら別に辞めさせられないですよ。寧ろリオン様も女性で安心するし、こうして二人でいても怒らなくて済むと思うですよ」
ウィグルはそれでも嫌がる。

「女性の護衛騎士は前例がないんです」
女性の騎士はいるが、護衛騎士はまた役割が違う。

主の側に常に従い、命を懸けて守る。

そんな危険な役目を負うものはいなく、また慣習的に女性は雇われづらい。

結婚、出産、育児など制約が多いからみたいだが。

「レナン様の元にもいたですよね?」

「キュアさんは騎士ではなくて術師です。結婚なんて絶対しないと公言されてますし、魔力も強いのでエリック様の信頼も厚く、護衛として選ばれました」

「聞けば聞くほど隠すのに大した理由がないのです。リオン様の側に居たいなら従者や侍女はどうです?」

「カミュ様がおりますから侍女も従者もいらないそうです」
それに異性では従者になれない。

「それなら通訳とか翻訳とか、そういうのでは駄目なのですか?」

「ただの文官では、お側に居られないんです。ましてや女では駄目です。間違いを起こさないよう、婚約者もいない王子様達の側に未婚の女性を近づけることは良くないと言われて」
勉強は好きでとくに語学に詳しくなった。

将来リオンの側で働ければと淡い夢を持って励んだのだが、その話を聞いて断念せざるを得なかった。

「リオン様の側に居られるとしたら、護衛騎士しかありませんでした」
苦しい道でも何とか近づきたかったのだ。

「長らく空いた護衛騎士の座ならなんとかならないかと思って、死に物狂いで勉強しました。体も鍛え、試験もギリギリで合格し、ここまで来たのです」
兄の名と立場を借りて、今この場にいる。

いずれは病気療養という名目で引退し、入れ替わる予定だ。

領地は遠いし、登城の機会も少ない、替わってもバレないはずだ。

「少しの間、夢を見させてください。せめて帝国からアドガルムを守るまではここに居たい、力になりたいんです」
頭を下げるウィグルに、マオはそれでも秘密にしなくていいと思っている。

「そこまで本気で頑張ったんだから、本名で堂々としてたらいいのです。それで怒ったり辞めさせたりするなら、ぼくもここを出ていくですよ」
こんなにも真剣に想ってくれている女性がいるのにリオンが気づきもしていないだなんて、勿体ない。

「ぼくなんかよりウィグルの方が王子妃に向いてる気がするのです」

「そんなこと、恐れ多いです!」
マオの言葉にあたふたとする。

「語学に精通し、愛国心に溢れていて、何より一途にリオン様を思い続けている。容姿も可愛いのです。あれ? ぼくが選ばれる理由なんてあるですか?」
ウィグルはなかなか整った顔立ちで可愛い。

空色の髪は柔らかそうで、髪と同じ色の瞳も澄んでいる。

真面目で清楚な様子に、マオは本気で自分が身を引くことを考え始めていた。





「それで、マオ。ウィグルを部屋に引き入れて何を話していたの?」
思ったより早くバレたマオはリオンの隣に座らせられている。

ウィグルは床に正座していた、青い顔をしている。

「親睦を深めていたのです、会話ないとつまらないですから」

「何だろうね。この一歩進んで二歩下がった感じは」
素っ気無い態度のマオは、本当に先程気遣いを見せてくれた彼女なのか?

変化したのはやはり二人の会話の内容だろう。

「それで何を話していたのか教えてくれる? 無理矢理聞きたくはないからさ」
はぐらかされないように釘をさすと、マオがどうするかと悩んでいるようだ。

ウィグルの青い顔が今度は真っ白になっている。

余程言いたくないのか。

「僕には話せない内容なんだね」
リオンもまたどうやって暴こうかと思考を巡らす。

マオを渡すわけにはいかない。

「とりあえず信用ならない者は側に置けない。ウィグル、言えないならアドガルムへと戻ってもらうよ」

「それは、嫌です……!」
ウィグルは体を震わし、拒否をする。

このような短い期間の解雇は彼の経歴に傷を付けるだろうから、それを懸念したか。

「帰ってからの待遇は保証する。おそらくマオに口止めでもされてるんだろ? それに病弱な妹の為にも収入を減らすわけにはいかないだろうから、全く同じ給与とは言えないけど、いいところへの就職は斡旋するから」
身元は調べているので、ウィグルの家族構成はわかっている。

ウィグルには病弱な妹がおり、ここ数年社交界にも出ていない。

その妹の治療のために領地経営の他、このような危険な護衛騎士という仕事に就いて、高給を稼いでいるのだと聞いた。

事実この数年妹の方に会ったという貴族は居なかった。

「給与は良いけど危険な仕事だ。治療費の為よりも家族が側にいた方がいいと思うよ」
辞めてもらう方向で話が進みだしたのを聞いて、マオが無理矢理リオンの顔を自分に向ける。

「ウィグルを辞めさせたらぼくも王子妃を辞めるです!」

「どういうこと?」
そこまでして庇うなんて、寧ろ逆効果何だけど。

「ウィグルは数少ない女性の護衛騎士です。辞めさせられたらリオン様も後悔するですよ!」

「言っちゃダメですってば!」
ウィグルは頭を抱えて叫んだ。

「どういうことなの?」
興奮する二人を見ながら、カミュとサミュエルに目を移す。

「さぁ。こちらもさっぱりですね」
二人も何と反応していいのかわからないようだ。

「とりあえず落ち着いて話をしてね、ゆっくり聞くから」
リオンが宥め、二人は交互にお互いの話を補足しながら包み隠さず話をしていった。






「まだ僕の妻を辞める気だったの?」
呆れた声でため息をつく。

「ここ最近は優しくしたり庇ってくれてたから、想いも通じていると思ったのになぁ」

「相応しい人が他に居ればお勧めしたくなるものです」

「それでマオは嫉妬しないの? 僕が他の女性のものになるっていうのは見ても平気?」

「嫉妬?」
リオンが他の女性に愛を囁く様や触れている様子を思い浮かべてみる。

「少しもやっとしますが、応援するです」

「もっともやっとして! そして引き止めて!」
珍しいリオンの取り乱しように皆が驚いた。

「あのね、いつまでも待つって言ったけど、やっぱり振り向いてもらえないのは辛いんだよ。もう少し優しくしてくれないと、さすがの僕も心が折れそうだ」
縋りつくようにマオを抱きしめる。

「僕は弱い人間だ、だから拠り所が欲しい。王子としての僕ではなく、一人の人間として見てもらいたい、それが出来るのがマオだと思ったんだ」

「はぁ」
マオはリオンの頭を無意識に撫でる。

「平和な世界が早く来ればマオと一緒にお昼寝だって出来ると思って、頑張ってきたのに、僕はここで捨てられるのか……いっそ全て投げ出してしまおうか」
その言葉にはさすがに皆が慌ててしまう。

「お待ちくださいリオン様! それではアドガルムに平和が訪れません!」

「そうです、それにアルフレッド様もエリック様も承知されないでしょう」
カミュとサミュエルの言葉に、リオンはそれでも覇気のない声で返す。

「父様も兄様もわかってくれるよ。家族だから」
失恋して立ち直れないなんて聞いても、怒ったり馬鹿になんてしない家族だ。

仕事の穴埋めもしてくれる。

「別にウィグルが女性でも男性でもどっちでもいいよ。それよりもマオの言葉にショックだ」
憧れの人のこのような姿と、言葉にウィグルもだいぶショックを受けていた。

常に笑顔と余裕を浮かべ、国を動かす王族のこのような不貞腐れた姿は、憧れとは程遠い姿だ。

「おい、マオ……」
敬語もつけず、カミュが睨みつける。

明らかに対応を間違えたのは火を見るよりも明らかだったので、弁解しようがない。

「あのリオン様、ぼくはリオン様を捨てないですよ」

「そうやって持ち上げて、後で奈落に突き落とす気だろ。もう信じない」
ますます落ち込むリオンにマオも困ってしまう。

この王子が動かないと本当にやばい。

外交的にも戦力的にも。

「ぼくは、リオン様を生涯愛すると誓います!」
マオの宣言にリオンはちょっとだけ顔を上げた。

「絶対に離れないし、何があってもあなただけを愛します。他の人にも渡しません、だから」
何という恥ずかしい事を言っているのか、自分で自分が疑わしい。

でもここまで拗れたならばしっかりと解してあげなくてはならない。

「ねぇリオン様聞いて。ぼくは、私はあなただけを愛しています。もう揺るぎません。それでは不服ですか?」
機嫌をこれ以上損ねてはいけない、そんな一心だ。

「うん。僕もマオだけ愛する。誰の者にもならない。だから他の人のところにやらないで。一人にしないで」
またぎゅうっと抱き締められる。

(何とか解決、ですか?)
意外な心根を見た気がして、とても疲弊した。

強く抱きしめられているのと、自分の発した愛の言葉に羞恥が過ぎり、他の者の顔は一切見られなかった。






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