隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

文字の大きさ
上 下
72 / 202

第72話 嫉妬と決心

しおりを挟む
「戦の後、アドガルムには他の国の捕虜が多くいた」
詰め寄られたティタンが話し出したのは、結婚直前の話だ。

「シェスタ国の事は知っているか? 騎士と聖女の国なんだか」

「確か男性は騎士として剣の腕を磨き、女性は聖女として治癒師の腕を磨くという国ですよね」
魔力の特性上、性別で決まることは少ないものなのだが、あの国では高い確率でそう分かれる。

「必ずではないがその傾向が強かった。初代とされる国王と王妃がそのような力に長けていたかららしいが。だから力が強く剣の腕に長けた男性や、回復に優れた女性が偉いとされ、尊敬される」
攻守のバランスが良く、国の繁栄にも良い影響を与えていた。

「他国の文化を悪しくは言いたくないが、その傾向から外れるものは除外しようとしたり、力の弱いものを見下す事がある。アドガルムではそのような事はしないが、シェスタでは平気で弱者を見捨てる、あり得ない」
マオへの対応が良い見本だ。

道を外れたものを認めることはせず、蔑んでしまう狭量な国。

「人の価値はそんな事では測れないわ」
正直シェスタ国の考えに好意は持てない。

「そんな国が俺みたいなのを知ったらどう思う?」
剣の達人で、多くの武勲を立て、シェスタの騎士達も打ち負かした。

強く逞しく、そして王族である、理想とも言える男性だ。

「ぜひ自国に来てくれ、とかでしょうか?」

「まぁそのような事を言われた。俺の妻になりたいと」
むぅっとミューズは口を尖らせる。

「それで、なんと答えたのですか」
過去にヤキモチを妬いてもしょうがないけど、感情は止まらない。

「もちろん断った。あまり知らない者を妻になんてしたくなくてな」
やけに今日は感情を露わにするのだなと、責められてるのに嬉しくなる。

あのような口論をして、また少し距離が縮まった、もっと近づいていきたいものだ。

「私とだって政略結婚だし、一日で決めたじゃないですか」

「あまりにも可愛らしかったから連れて帰りたくなったんだ、後悔はしていないぞ」
面と向かって言われると、分かってても照れてしまう。

「その妻になりたいと言った人に、少しは惹かれたりすることはなかったのですか」

「ないな。我儘で自分の力を自慢するような女は好かん。それに俺にはもうミューズがいるし、君しか見えない。愛のない結婚なんてしなくてよかった」
おいで、と促されてミューズはティタンの膝の上にちょこんと乗る。

最早見慣れた光景なので、ルドもチェルシーも同じ部屋にいるが何も言わない。

「求婚してきたものはシェスタ国のユーリ王女だ」
会ったこともない相手で、どのような人かもミューズは知らない。

マオが外遊から帰ってきたら聞いてみようかな。

「彼女は治癒師として戦に参加していた、確かに魔法は凄かったが」
リオンの身体異常を引き起こす魔法に惑わされて他の回復に回ることが出来ず、捕虜としてアドガルムへと来た。

「驚いた。あんなにも高飛車な女性は初めてだ」
もとよりティタンは他国への外交などほぼほぼ行かないし、他の国の王族とも女性との交流も少ない。

そんな中で、
「結婚してあげてもいいわよ」
などと言われて、したいなんて思うわけもない。

「いくら美人でもお断りだ。何より俺はシェスタに良い印象を持っていない」
直属の部下の出身がシェスタ国だ。

彼らが受けた傷を思えば、どうしてもその国から娶りたいとは思えなかった。

それより何よりミューズが気になったのは、その一言。

「美人なのですか、その人は」

「客観的に見ての話で、俺の好みではない。ミューズの方が綺麗だ」
慌ててミューズを抱きしめる。

「俺にとっての一番の美人はミューズだ、愛している」
落ち着いてくれればと抱きしめる腕に力を込める。

温もりと温かな言葉に、少し激情が収まってきた。

「……もやもやするのです」
ミューズの声がしおらしくなる。

「過去は変えられないし、その場にいなかった私には言う資格もないのに、それでももやもやが止まらないのです。この気持ちはどうしたらいいのでしょうか」
こんな事は初めてだ。

「本当はわかってます。どうしようもないってことを。でも寂しくて悔しい、私の知らないティタン様を知っている方が羨ましい」
ティタンと会って、初めて知る自分の醜い部分にずっと戸惑っている。

激しく感情が昂ることも羞恥で動けなくなることも、こうして嫉妬が収まらないことも全てが未知なるものだ。

そしてそれを押さえられないなんて。

今まで受けてきた教育に真っ向から逆らっている。

いけない事なのに、全然抑えが効かない。

「何でも俺に言ってぶつけてくれ。知らないところで悩まれるよりも断然いい。本音を聞けば聞くほど、信頼されているというのがわかって嬉しい」

「嫌ではないですか? これこそ我儘なのでは?」

「好きな人の我儘なら、いくらでも聞いてあげたくなる。それにミューズの我儘は俺を好き故だろ? 君は肩書きや地位に目も眩まずに俺を見てくれているんだ。そんな大事な人に甘えてもらうなんて、嬉しいに決まっているだろう。俺もミューズの周囲に男を寄せないようにしている、嫉妬深くて我儘なのは俺の方だ」
ルドやライカ、それにセシルなど信頼しているものしか寄せ付けない。

「俺以外と結婚していたらどうなっていたか、もっと幸せになっていたのではないかとあり得ない未来を想像して、一人落ち込むこともあった。だが、それらは考えても詮無い事だ。今目の前の幸せにしっかりと向き合う事が大事だと思っている」

「目の前の幸せ……」
居もしない者の事を考えるのではなく、目前の人を信じる事だ。

「その幸せを戦で無くすわけにはいかないから、残って欲しかったのだが、それも難しいよな」
何を言ってもついてくる気ならば、せめて近くにいて欲しい。

「体力づくりと、魔法の腕をもう少し磨いてくれ。これからだって何が起こるかわからない、身を守る術をもっと身につけておけば、多少リスクも減らせるだろう」
体力づくりについては師のシグルドに相談をしてみよう、魔法については防御魔法に長けた、サミュエルにお願いするのがいいかもしれない。

「そうすれば私も一緒に行けますね」
ミューズはぐっとやる気に満ちた顔をする。

先の戦はセラフィムが攻める立場となったが、今度は防衛線だ。

やむを得ない事だし、次こそただ見てるだけなんて嫌だ。

被害を少しでも少なくできるよう、ミューズも自身の魔力を有効活用したい。

人を助ける為、その為にこの力はあるのだろうから。

そして大好きな人の役に立てるなら、いくらでも頑張るつもりだ。

「無理だけはしてはいけない、そうなればまたセシルと共に後方待機だ」
もう連れていかないとは言われなかった。

「絶対に役に立って見せます!」
やる気に満ち溢れたミューズの顔を見て、静かに見守っていた従者たちもホッとする。

ようやく仲直りだ。









しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)

しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。 良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。 人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ? 時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。 ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。 気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。 一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。 他作品で出ているサブキャラのお話。 こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。 このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)? 完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

猛獣のお世話係

しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」 父は頷き、王家からの手紙を寄越す。 国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。 条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。 猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。 猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など 「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」 「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」 婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み! いつまでもモフっていたい。 動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。 もふもふはいいなぁ。 イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。 完全自己満、ハピエン、ご都合主義です! 甘々です。 同名キャラで色んな作品を書いています。 一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。 他サイトさんでも投稿してます。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...