隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

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第68話 宰相候補と横恋慕

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「大丈夫ですか?」
悩むレナンに声を掛けてきたのは、現宰相の息子カイルだ。

宰相候補として日々真面目に仕事に取り組んでおり、仕事も出来る男なのだが、エリックとが馬が合わず、レナンもあまり話をしたことがない。

カイルに限らず男全般をレナンに寄せることが許されていないので、こうして話しかけられるのも稀だ。

隣にいるキュアもやや警戒心を強めている。

「お気遣いありがとうございます、今はすっかり良くなりましたわ」
てっきり倒れてしまった事を気遣われたのだと思った。

会う事もしばらくなかったし、エリックが側にいないので、何となく声を掛けてくれたのだろう。

エリックはリオンと話があるという事で席を外しているのだ。

「お身体の事もですが、とある噂を聞いたもので心配しておりました」
カイルは側にいるキュアやラフィアに目もくれず、憂いを帯びた目でレナンを見ている。

「噂ですか?」
一体どういうものだろう。

レナンはキュアを見るが、何とも言えない微妙な顔をしている。

「カイル様、噂は噂です。けして振り回されてはいけませんよ」
キュアがこの場での明言を避けようと窘めた。

「事実ならば早急に対策しないといけないでしょう。大事な今の時期に余計な混乱はされたくないので」
キュアの提言をカイルはきっぱりと断った。

「キュア、その流れている噂とは良くない話なの?」
母国での扱いを思い出し、レナンは不安になる。

やはり自分はこの国にも相応しくないのだろうか。

「いえ、事実とは違いますが、撤回には少々困難を極めていまして」
歯切れの悪い返答だ。

「後ほど私が伝えますわ。ですのでカイル様、お気になさらずに」
ラフィアも口を出すほどだ。

余程の事なのだろう、悪い方向に考えてしまい、つい暗く沈んでしまう。

「いえ、解決のために俺もこうして乗り出したのです。今お話ししたい、国の未来に関わる事ですから」
カイルはすぐにでも白黒つけたいようだ、こんなにも熱のあるような話し方をする人だとは思わなかった。

どちらかというとエリックといがみ合うように会話する様子しか見ていない。

「レナン様、エリック様と仲違いしているという噂の真偽は本当ですか?」

「仲違い、ですか?」
てっきり自分の無能さを責めるものかと思いきや全く違う話であった。

心当たりはまるでないのだけど、何故そう思われているのか。

「えぇ。最近のレナン様はとても物憂げで悲しげな顔をされています。氷の王太子であるエリック様に手酷い仕打ちを受けているのではと、城内でも心配している者が多数おります」

「そんな事ないですわ! エリック様はいつでもわたくしを気遣ってくれて、今だって優しく労わってくれていて」
最近の悩む姿がそのような誤解を皆に与えていたなんて、レナンは頭を抱えてしまう。

「というわけでレナン様の言う通り、全くの誤解です。では、カイル様お帰りください」
キュアが煙たがる素振りを隠しもせずに追い払おうとする。

「そうはいかない、俺は皆を代表して王太子妃の悩む理由を聞きに来たのだ。パルスでの一件もあり、今やレナン様は英雄の一人だ。騎士団、そして兵士達も感謝しているものが多い」
カイルは数少ない王太子に意見できる位置にいるからか、周囲に頼まれてきたようだ。

「仲違いでないならば、最近の物憂げな表情や仕草は何だというのです。あのような儚げで寂しそうな様子は……見ていられません」
カイルの様子に、キュアの中で警鐘が鳴り響く。

この男をこれ以上レナンに近づけてはいけない。

「妻の憂いは俺が晴らすから、カイルが心配することなどない」

「エリック様」
ようやく戻ってきてくれたことに安堵する。

エリックはレナンとカイルの間に入るように立ちふさがる。

「仲違いもしていないし、冷遇もしていない。強いて言えば愛おしすぎて困っているだけだ」

「またそのようなふざけた事を。ならば何故レナン様はあのような悲しい顔でため息をついているのですか」
カイルの憤った言葉に、エリックは睨み返す。

「カイル、お前は宰相補佐として、国王陛下の仕事の手伝いが多いはずだ。俺達とは全く違う仕事をしているはずなのに、何故そこまでレナンの様子を知れるものなのだ?」
その指摘にサッとカイルの頬が朱に染まる。

「皆が相談に来るんだ。俺は将来この国の王を支える右腕になるからと。そうなれば王太子妃を支える事も必要だ」
将来の宰相として有力ではあるが、カイルは些か真面目過ぎる。

そして白黒つけたがるきらいがあるので、やや付け込まれやすいところがあるのだ。

「将来の王は俺のはずだが、また回りくどい言い方をするものだな。俺は厭うがレナンには惚れ込んだという事か。あいにくとお前が入り込む余地はない」

「俺はそんなつもりはない!」
怒りか羞恥か、更に顔を赤くしてしまった。

「油断も好きもないものだ。やはり離れるわけにはいかないな」
見せつけるようにしてレナンを抱き寄せた。

「レナンの悩みはわかっている。最近忙しくて構ってあげられなかったから、寂しかったのだろう」

「寂しい?」
こんなにもべったりなのに。

「そう。夫婦としての触れ合いをしていなかったから、悩ませていたのだろう。皆にも心配をかけてしまうから、以前のように戻そう」
額にキスをし、エリックが微笑む。

「レナンの体が心配で世継ぎを作らないよう手を出さないでいたが、それが不仲の噂となって回るくらいならば、俺もあまり気遣いを見せない方がいいようだな」

「エリック様!」
余りにも直接的な言い方にレナンは真っ赤になる。

キュアやラフィアだけならともかく、カイルのいる前で何という事を言うのか。

「だからお前を誑かしたものにもそう言っておけ。戦が起きてももうレナンを戦場になど駆り出さない。懐妊の可能性もあるからな。俺を焚きつけた責任を取ってもらうとな」
冷笑を浮かべ、本気の目でカイルを睨んでいる。

「何を言っているんだ」
飛躍する話にカイルはまさか、という顔つきだ。

「非常に不愉快な噂を流布したものもそうだが、担ぎ上げられてのこのこと来たお前も悪い。レナンに余計な不安を与えるものを俺が許すと思うか?」
エリックの合図で、二コラが音もなくカイルの背後に立つ。

「ではカイル様。お互いに仕事に戻りましょう、今後はヒューイ様にご自身の立場をきつく教えられてからエリック様の元へと来てください。そしてレナン様の元に許可なく近づかないように。うっかり僕の手が動いてしまうかもしれませんから」
いつの間にか首元には短剣が突きつけられている。

「……わかった」
カイルの言葉とエリックの目配せで、二コラは短剣を仕舞う。

「わかって頂けて嬉しいです。ではお送りしましょう」
見送るという名目の監視を引き受け、二コラとカイルが退室していく。

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