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第60話 敗走
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「ダミアン! その傷!」
思わずイシスは後退りした。
ダミアンの片目がなくなっており、腹部も血塗れで満身創痍である。
「あの野郎、よくも俺の目を!」
残った目でギッとイシスを睨む。
「さっさと治せ! あいつを殺しに行くんだから!」
鬼気迫る様子で、両肩を強く握られ、痛みで顔が歪んでしまう。
「わかったから離して!」
ダミアンから距離を置き、イシスは魔法を唱える。
傷口は塞がったが、失われた目は戻らない。
「おい、目はどうした。何故再生しない」
「無くなった部分は戻らないわ。目がないと無理よ」
イシスはまた掴まれてはかなわないとギルナスの後ろに引っ込む。
ギルナスはイシスを庇うようにして前に出た。
「あの第二王子にやられたか。お前がそんな風にやられるなんて、余程強いんだな」
「うるさい! 雑魚にかまったせいで疲れていただけだ!」
実際はライカなど遊び相手くらいだった。
ダミアンはティタンとの実力差を認めたくなく、地団駄を踏む。
「くそが! 油断しなければ勝てたんだ!」
巨躯に似合わず俊敏な動きと勘の鋭さ、場数を踏んだダミアンよりも動きが良かった。
ダミアンの姿が消え、また戻って来る。
「これで目を治せ」
ぽたぽたと垂れる血は今まさにどこかから盗ってきたような新鮮さだ。
さすがのイシスもためらいが出る。
「何てことを……!」
「次は後れを取るわけにはいかない。早く繋げ」
仕方なしにイシスはそれを繋いで治す。
逆らえば切り殺されそうな程、この男が狂っているのがわかる。
(どこの誰だかわからないけど、運が悪かったわね)
目の元の持ち主に同情してしまう。
「まるで攫う予定だった王女みたいだな」
両の目の色が変わってしまったダミアンにギルナスがミューズの事を口に出す。
「オッドアイのあの王女か。噂に違わず、甘ちゃんで美人だった。そして回復魔法の使い手だが、想像以上の実力だ。イシスよりも技術は上だ」
イシスの眉がピクリと反応するが、長い前髪のせいで誰も気づかない。
「そんな話はなかっただろ」
「セラフィムの王子の腕を脅しで折ったら、呼び出した王女がいとも簡単に治しやがった。それだけじゃない、第二王子のお付きの奴も瀕死の重傷にしたのに、あっという間に治したんだぞ。あれは欲しい、ぜひ側に置きたい」
見目もいいし、力もある。
そして威勢のよさと、脆弱な精神。
少しの修羅場であのように嬌声をあげるのだから、可愛らしいものだ。
「それとあの女がいれば、第二王子を簡単に絶望に追い落とせる」
あんな簡単な挑発に怒りを露わにしたという事は、本当に大事にしているのだ。
弱み以外の何物でもない。
「力を蓄えたら、また行く。誰も狙うな、俺の獲物だ」
狂気を孕んだ目でダミアンは呻いた。
「落ち着け。それだけの実力差があるんだから手筈を整えなくてはいけないだろう」
王子たちはこちらの想像以上に強い。
ギルナス達も何とか戦いを避け、マオを攫うようにしなくては。
「もしも俺達も失敗したら、結託して攫うしかなさそうですね。お嬢様、どう思います?」
イシスは考え込む。
「今までチームとして共同戦線を張ったことはないけど、万が一私達も失敗したらそうなるでしょうね。転移術でアドガルム王城に直接行けたらいいんだけど」
転移術は一回行ったことのある所には行けるが、四人はまだアドガルムの地に足すら踏み入れていない。
ある程度は馬か馬車で行く必要がある。
「その時は皇子達に協力を仰ぎましょう。彼らならこの前の宣戦布告の際にアドガルムの地に言っていますから」
気は進まないが仕方がない。
皇子達に頼みごとをすると見返りが大変だが、背に腹は代えられないだろう。
「まずは目の前の任務に集中しましょう」
ギルナスとイシスは目を合わせ頷き合っていた。
思わずイシスは後退りした。
ダミアンの片目がなくなっており、腹部も血塗れで満身創痍である。
「あの野郎、よくも俺の目を!」
残った目でギッとイシスを睨む。
「さっさと治せ! あいつを殺しに行くんだから!」
鬼気迫る様子で、両肩を強く握られ、痛みで顔が歪んでしまう。
「わかったから離して!」
ダミアンから距離を置き、イシスは魔法を唱える。
傷口は塞がったが、失われた目は戻らない。
「おい、目はどうした。何故再生しない」
「無くなった部分は戻らないわ。目がないと無理よ」
イシスはまた掴まれてはかなわないとギルナスの後ろに引っ込む。
ギルナスはイシスを庇うようにして前に出た。
「あの第二王子にやられたか。お前がそんな風にやられるなんて、余程強いんだな」
「うるさい! 雑魚にかまったせいで疲れていただけだ!」
実際はライカなど遊び相手くらいだった。
ダミアンはティタンとの実力差を認めたくなく、地団駄を踏む。
「くそが! 油断しなければ勝てたんだ!」
巨躯に似合わず俊敏な動きと勘の鋭さ、場数を踏んだダミアンよりも動きが良かった。
ダミアンの姿が消え、また戻って来る。
「これで目を治せ」
ぽたぽたと垂れる血は今まさにどこかから盗ってきたような新鮮さだ。
さすがのイシスもためらいが出る。
「何てことを……!」
「次は後れを取るわけにはいかない。早く繋げ」
仕方なしにイシスはそれを繋いで治す。
逆らえば切り殺されそうな程、この男が狂っているのがわかる。
(どこの誰だかわからないけど、運が悪かったわね)
目の元の持ち主に同情してしまう。
「まるで攫う予定だった王女みたいだな」
両の目の色が変わってしまったダミアンにギルナスがミューズの事を口に出す。
「オッドアイのあの王女か。噂に違わず、甘ちゃんで美人だった。そして回復魔法の使い手だが、想像以上の実力だ。イシスよりも技術は上だ」
イシスの眉がピクリと反応するが、長い前髪のせいで誰も気づかない。
「そんな話はなかっただろ」
「セラフィムの王子の腕を脅しで折ったら、呼び出した王女がいとも簡単に治しやがった。それだけじゃない、第二王子のお付きの奴も瀕死の重傷にしたのに、あっという間に治したんだぞ。あれは欲しい、ぜひ側に置きたい」
見目もいいし、力もある。
そして威勢のよさと、脆弱な精神。
少しの修羅場であのように嬌声をあげるのだから、可愛らしいものだ。
「それとあの女がいれば、第二王子を簡単に絶望に追い落とせる」
あんな簡単な挑発に怒りを露わにしたという事は、本当に大事にしているのだ。
弱み以外の何物でもない。
「力を蓄えたら、また行く。誰も狙うな、俺の獲物だ」
狂気を孕んだ目でダミアンは呻いた。
「落ち着け。それだけの実力差があるんだから手筈を整えなくてはいけないだろう」
王子たちはこちらの想像以上に強い。
ギルナス達も何とか戦いを避け、マオを攫うようにしなくては。
「もしも俺達も失敗したら、結託して攫うしかなさそうですね。お嬢様、どう思います?」
イシスは考え込む。
「今までチームとして共同戦線を張ったことはないけど、万が一私達も失敗したらそうなるでしょうね。転移術でアドガルム王城に直接行けたらいいんだけど」
転移術は一回行ったことのある所には行けるが、四人はまだアドガルムの地に足すら踏み入れていない。
ある程度は馬か馬車で行く必要がある。
「その時は皇子達に協力を仰ぎましょう。彼らならこの前の宣戦布告の際にアドガルムの地に言っていますから」
気は進まないが仕方がない。
皇子達に頼みごとをすると見返りが大変だが、背に腹は代えられないだろう。
「まずは目の前の任務に集中しましょう」
ギルナスとイシスは目を合わせ頷き合っていた。
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