隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

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第59話 撃退と覚悟

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重力を味方に、重い一撃を上から振り下ろす。

「死ねよ」
ティタンの注意が真上に逸れる。

そして背後からまた剣が現れた。

「ティタン様!」
ライカの声に、ティタンは身を翻して背後から現れたむき身の剣を掴んだ。

怪我はするがやむを得まいと血を流しながらも剣を引っ張った。

手に魔力は通しているが、無傷とは言えない。

「なっ?!」
意表を突かれ、ダミアンの体が大きく傾く。

どうやら背後の剣とダミアンは繋がっていたようだ。

「終わりだ」
空中でバランスを崩したダミアンに剣を突き立てた。

吸い込まれるようにして腹部に剣が刺さっていく。

温かな血と肉を刺す感触を感じながら、ティタンは何も考えず、力を込めダミアンの体を両断しようとした。

「いやあぁぁぁぁ!!」
ミューズの声に、我に返る。

一瞬注意が逸れてしまい、手を止めてしまった。

「覚えてろよ……」
低く怨嗟のこもった声が上から聞こえ、そしてかき消えた。

今度はどこから現れるのかと警戒したが、どうやら逃げたようだ。

「ミューズ」
声を掛けるが、目の前の惨劇にミューズは顔を伏せ、震えている。

失態だ。

このような場を見せてしまったのは己のミスだと苦い顔になる。

自分の傷よりもミューズの方が心配だ。

「手をすぐに見せてください!」
セシルがティタンの手を広げる。

「こんな無理はしないでください」
握って出血を押さえていたが、開いたことでまた血が流れる。

「これ、骨も見えてます。何で平気なんですか」
セシルの言葉にミューズは顔を上げた。

「平気ではないが、あいつを倒す為なら何でもする。仕留め損なってしまったがな」
重傷は負わせることが出来た。

消えたり現れたりと不可解な戦法だったが、戦い方も学んだし、次回はもう少しうまく立ち回れるだろう。

「ミューズすまない、配慮が足りず、不快なものを見せてしまって」
謝罪の言葉にぶんぶんとミューズは首を横に振る。

「いえ、私の方こそ邪魔をしてしまい申し訳ございません。あの、傷口を見せてください」
痛々しい傷跡にミューズはそっと手を重ねた。

「ごめんなさい、こんな風になるまで戦ってくれたのに」
邪魔をしてしまい本当に申し訳ない、ミューズ達を守るために頑張ってくれたのに。

「私がいるせいでこんな事になってしまって本当にごめんなさい」
ぽろぽろとミューズは涙を流す。

あの男はミューズが目的だと言っていた。

ならば自分がいなければこのような事にはならなかったはずだ。

「泣かないでくれ、ミューズは何も悪くない」
唐突な涙にティタンは慌てだす。

戦いが終わり、いつものように感情を露わにしだした主に、ようやくライカとセシルは息を吐いた。

戦いとなると、この主は感情が抜け落ちて鬼気迫る迫力を醸し出す。

それが解けたのだから、とりあえず終わったのだろう。

「そういえばルドは?」
セシルはきょろきょろとあたりを見た。

戦いを見守るのと防御壁の維持で気づかなかったが、いつの間にかいなくなっていたのだ。

フロイドもいない。

「セーラ様を助けに行ってました」
フロイドに手を引かれ泣きじゃくるセーラがいた。

「セーラ! 無事でよかったわ」
ミューズは妹に駆け寄り一緒にわんわんと泣き出した。

「すまんが誰か教えてくれ。こちらで何があった?」
セーラが人質になっていたことなど知らないティタンには、よくわかっていなかった。






ティタンはフロイドとヘンデルを正座させている。

「俺達を謀り、ミューズを危険に晒したことは許しがたい事だ」
けして怒鳴る事はないが、その声音は低い。

今度こそ殺されてしまうかもとヘンデルは顔を青くする。

「だが、人質を取られていたとなれば話は違う」
ティタンは片膝をついて屈む。

「よく戦った、そして責任を果たした。家族すら見捨てるようでは民にも親身になどなれない」
ティタンはすっとフロイドに魔石を渡す。

「これは通信石だ。これに魔力を込めればすぐにアドガルムへと繋がる。今後危機を感じたら連絡しろ、必ず助けに来る。俺を信じろ」
フロイドはそれをぎゅっと握りしめ、震えた。

ティタンを騙し、部下もそして自身も傷ついたのに、何故そんな事が言えるのか。

「どうして助けにだなんて」

「家族を大事にしたい気持ちは分かる。俺も人質を取られたらどうするかわからないからな」
もしもミューズが攫われていたら、ティタンもどうしていたかわからない。

兄とも対峙して、殺し合いになっていた可能性だって否定できないのだ。

「いつからあの男に脅されていたのですか?」

「あの男、ダミアンはギリム山脈で俺が怪我をした時に助けてくれたんだ。冒険者でたまたま迷い込んだって。王家の管轄地に入り込んだ罪はあれど、命の恩人に変わりはない。それでセラフィム国に招いたんだけど、ミューズの事やティタン様について話を聞かれて」
当たり障りのない事だけを話したのだが、段々と話がきな臭いものになる。

「ミューズに会いたいとしつこく言われた。だが、妹とはいえ他国に嫁いだ身だ。余程の事でない限り、呼べないと」
そうしたらセーラを監禁し、あまつさえフロイドの腕を折った。

魔獣に受けた傷はセラフィム国の治癒師が治してくれたのだが、そこを容赦なくダミアンは傷つける。

あの狂気に満ちた男は力で蹂躙し始めた。

「あの傷を負わせたのは魔獣ではなかったのですね。何という事を」
ミューズは信じられないという表情だ。

真っ青になるミューズをティタンは引き寄せ、肩を抱く。

「とどめを刺すべきだった。あの転移術は厄介だな」
いつどこで現れるかわからない。

色々なごたごたで、セシルが調べようとした時にはダミアンの魔力は既に霧散していた。

「今後は帝国の刺客の事も考慮し、より厳重な警備をしていきたいと思います」
ヘンデルとフロイドが揃って頭を下げる。

「国に結界を張れればいいのですが、やはりそれだけの手練れは少なく、困難です。王城だけは常に張るようにしたいのですが」

「そうだな……」
国王といた応接室や、フロイドの部屋に張ってあった結界は見事だった。

しかし維持するとなるととても労力がいるだろう。

「今後の事を考え、何とかせねばならぬな」
魔法について、ましてや聞きなれない転移術についてなど、ティタンでは対策なんて思いつくわけもない。

アドガルムに持ち帰って考えるしかないだろう。


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