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第54話 パルス国からの逃走
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「よくもあたしの髪を!」
帝国に戻ってきたルビアは鏡で不揃いになった髪を見て、ぶるぶると震えている。
「そんなに敵を近づけちゃったの? いつもの肉壁はどうしたのさ」
ダミアンはクスクスと馬鹿にするように笑う。
「うるさい! 情報が間違ってたのよ。あのダメ王女、魔力がないなんてもんじゃないわ。厄介な力を持っていた」
「そうなの?」
興味深そうにイシスも身を乗り出す。
「あたしの死霊を浄化したのよ。あんなにいっぱいあった死霊を全て」
また補充しなきゃとルビアはボヤく。
「光魔法では出来ないことよね」
イシスは不思議そうだ。
キュアの情報は事前に聞いており、普通の術師ならば、魔力を増幅させたルビアには敵わないと踏んでいた。
事実脅威には成り得なかったし、簡単に操る事も出来た。
街の者も部下達に恐怖心を煽らせ、操りやすくさせ、容易に従わせる事が出来た。
だから逃げられても余裕を持って城で待っていたのだ。
ただ、予定より早くエリックが来てしまう。
皇子たちが足止めをしてくれてたのにやけに早く来たのは驚いた、グリフォンの速度を計算しても間に合うはずだったのに。
「もう少し足止めしてくれれば良かったのに」
ルビアは全てを皇子たちのせいにする。
「その王女が力を使っていたならば、どのみち無理だったろう」
ギルナスは淡々と指摘する。
「うるさいわね、術師でもないでくの坊が」
ギルナスは呆れたようにため息をついた。
「何を言おうがお前は失敗したわけだ。自分の口から陛下に報告するんだぞ」
「そんなのわかってるわよ!」
金切り声で叫びつつ、ルビアは部屋を出ていく。
「相性最悪だったね。次あったら僕が行くかな。第一王子は相当強いっていうし」
ダミアンは剣を振るいたくてうずうずしているようだ。
「お前はすぐに出向くからいいだろ。殿下たちの宣言とパルス国の件で今度もきっと王子は出てくるだろう。何なら代わるか?」
ギルナスは出来れば任務を代わりたかったが、ダミアンも譲らない。
「嫌だね。第三王子よりも第二王子の方が絶対楽しそうだもん」
剣の腕前の評価が高いティタンの方が、絶対に斬り合いをして楽しいと、ダミアンはギルナスの言葉を拒否する。
「それに嫁いだセラフィムの王女って、とっても珍しい瞳を持ってるんだってね。殺す前にぜひ見てみたいよ」
うっとりと狂気に満ちた顔になる。
「悪趣味なものだ」
ギルナスはちらりとイシスを見る。
目は見えないが、考えていることはわかる。
軽蔑を抱いている。
(まぁ俺達皆おかしいもの達ばかりだからな)
皇帝直属の部下だが、わりと自由に動いている。
指令が簡潔なのもあり、自分達でその達成までを考えてるが、露骨に甚振る計画を立てていた。
「私たちが受けたのは王女達を誘拐する事、そしてアドガルムの戦力を削ぐことだわ」
イシスは声は侮蔑混じりであった。
戦の要であった王子たちを崩す必要があるので、その為に弱みである王女をとらえ、連れて来いという命令だ。
「殺せではなく連れて来いなんて、陛下も何を考えてるんだろう。案外僕たちよりも残酷な事かもよ? 人質王女をさらにまた人質にするっていうんだからさ」
ダミアンは笑っているが、その目は嬉しそうだ。
人質として生きてつれてこればいいのだから、死なない程度には好きにしていいはず。
帝国に連れてくる前に遊んでやろうと思っていた。
「シェスタの王女に関しては人質の価値もなさそうだが、第三王子は猫かわいがりしているらしい」
シェスタにとっては無価値な彼女だ。
本来であれば、レナンのように王女の母国とアドガルムにダメージを与えたかったが、シェスタはマオに愛着がない。
マオもまた同じだから、どちらが危機になっても助けようともしないだろう。
なので別な計画を練らなくては。
「その辺りは君たちの担当だから、面白い案を考えなよ。触れば転移術で連れてこられるし、イシスが触れれば一発だろ」
ダミアンやイシス、ルビアは転移術を使える。
ギルナスはそこまで魔力が高くないので使えない、その為大体イシスと一緒に任務に就くことが多い。
「抵抗されたら困るわ。私は攻撃魔法が得意ではないから」
だからギルナスに頼み、抵抗が出来なくなってから連れてくる予定だ。
イシスは補助的な役割を行なうようにしている。
「本当はサボりたいんじゃなくて?」
イシスの腕前をダミアンは知っている。
「黙れダミアン。お嬢様にそのような事を言うとは許さんぞ」
ギルナスはメイスを手に立ち上がる。
「おや、ここでそれを持つのかい?」
ダミアンも何処からか剣を出す。
ピリピリとした空気にイシスも立ち上がった。
「やめなさいダミアン。それにそろそろ時間よ」
イシスはダミアンにセラフィム国への移動を伝える。
「次は上手くやるのよ。弱みは知ってるでしょ?」
「言われなくても覚えてるよ。さて、コレクションを増やしてくるか」
剣を収め、ダミアンの姿がかき消えた。
静かになった会議室でイシスがため息をつく。
「問題児ばかりだわ。どうしてあんなのばかりお父様は、いいえ、陛下は集めたのかしら」
「力は強いが切り捨てやすいからでしょう。俺も含めてですが」
優遇はされているが、大事にされているわけではない。
戦場に行って戻らずとも誰からも心配されない存在。
「それをいうならば、私も含めてだわ」
イシスは自虐的に笑う。
根暗で後継にもなれない皇女だ、死なせたくないならばこんな戦いの前線に送るなどしないだろう。
ギルナスのお陰で生き延びては来たが。
「お嬢様は特別ですよ。素晴らしい力をお持ちですし、俺も何度命を救われたか」
ギルナスは深々と頭を下げた。
「兄様たちの方が強いわ……」
見え透いたお世辞にまたため息をつく。
「アシュバン様たちはまた別格ですから」
ギルナスもそこは濁すことが出来ずに答える。
「では、私達も英気を養いましょう。ダミアンが失敗するとは思えない、首尾よく行けば第三王子の時はもっとガードが固くなっちゃうもの。何とかしなきゃね」
「はい」
二人でマオをさらう算段を画策していく。
帝国に戻ってきたルビアは鏡で不揃いになった髪を見て、ぶるぶると震えている。
「そんなに敵を近づけちゃったの? いつもの肉壁はどうしたのさ」
ダミアンはクスクスと馬鹿にするように笑う。
「うるさい! 情報が間違ってたのよ。あのダメ王女、魔力がないなんてもんじゃないわ。厄介な力を持っていた」
「そうなの?」
興味深そうにイシスも身を乗り出す。
「あたしの死霊を浄化したのよ。あんなにいっぱいあった死霊を全て」
また補充しなきゃとルビアはボヤく。
「光魔法では出来ないことよね」
イシスは不思議そうだ。
キュアの情報は事前に聞いており、普通の術師ならば、魔力を増幅させたルビアには敵わないと踏んでいた。
事実脅威には成り得なかったし、簡単に操る事も出来た。
街の者も部下達に恐怖心を煽らせ、操りやすくさせ、容易に従わせる事が出来た。
だから逃げられても余裕を持って城で待っていたのだ。
ただ、予定より早くエリックが来てしまう。
皇子たちが足止めをしてくれてたのにやけに早く来たのは驚いた、グリフォンの速度を計算しても間に合うはずだったのに。
「もう少し足止めしてくれれば良かったのに」
ルビアは全てを皇子たちのせいにする。
「その王女が力を使っていたならば、どのみち無理だったろう」
ギルナスは淡々と指摘する。
「うるさいわね、術師でもないでくの坊が」
ギルナスは呆れたようにため息をついた。
「何を言おうがお前は失敗したわけだ。自分の口から陛下に報告するんだぞ」
「そんなのわかってるわよ!」
金切り声で叫びつつ、ルビアは部屋を出ていく。
「相性最悪だったね。次あったら僕が行くかな。第一王子は相当強いっていうし」
ダミアンは剣を振るいたくてうずうずしているようだ。
「お前はすぐに出向くからいいだろ。殿下たちの宣言とパルス国の件で今度もきっと王子は出てくるだろう。何なら代わるか?」
ギルナスは出来れば任務を代わりたかったが、ダミアンも譲らない。
「嫌だね。第三王子よりも第二王子の方が絶対楽しそうだもん」
剣の腕前の評価が高いティタンの方が、絶対に斬り合いをして楽しいと、ダミアンはギルナスの言葉を拒否する。
「それに嫁いだセラフィムの王女って、とっても珍しい瞳を持ってるんだってね。殺す前にぜひ見てみたいよ」
うっとりと狂気に満ちた顔になる。
「悪趣味なものだ」
ギルナスはちらりとイシスを見る。
目は見えないが、考えていることはわかる。
軽蔑を抱いている。
(まぁ俺達皆おかしいもの達ばかりだからな)
皇帝直属の部下だが、わりと自由に動いている。
指令が簡潔なのもあり、自分達でその達成までを考えてるが、露骨に甚振る計画を立てていた。
「私たちが受けたのは王女達を誘拐する事、そしてアドガルムの戦力を削ぐことだわ」
イシスは声は侮蔑混じりであった。
戦の要であった王子たちを崩す必要があるので、その為に弱みである王女をとらえ、連れて来いという命令だ。
「殺せではなく連れて来いなんて、陛下も何を考えてるんだろう。案外僕たちよりも残酷な事かもよ? 人質王女をさらにまた人質にするっていうんだからさ」
ダミアンは笑っているが、その目は嬉しそうだ。
人質として生きてつれてこればいいのだから、死なない程度には好きにしていいはず。
帝国に連れてくる前に遊んでやろうと思っていた。
「シェスタの王女に関しては人質の価値もなさそうだが、第三王子は猫かわいがりしているらしい」
シェスタにとっては無価値な彼女だ。
本来であれば、レナンのように王女の母国とアドガルムにダメージを与えたかったが、シェスタはマオに愛着がない。
マオもまた同じだから、どちらが危機になっても助けようともしないだろう。
なので別な計画を練らなくては。
「その辺りは君たちの担当だから、面白い案を考えなよ。触れば転移術で連れてこられるし、イシスが触れれば一発だろ」
ダミアンやイシス、ルビアは転移術を使える。
ギルナスはそこまで魔力が高くないので使えない、その為大体イシスと一緒に任務に就くことが多い。
「抵抗されたら困るわ。私は攻撃魔法が得意ではないから」
だからギルナスに頼み、抵抗が出来なくなってから連れてくる予定だ。
イシスは補助的な役割を行なうようにしている。
「本当はサボりたいんじゃなくて?」
イシスの腕前をダミアンは知っている。
「黙れダミアン。お嬢様にそのような事を言うとは許さんぞ」
ギルナスはメイスを手に立ち上がる。
「おや、ここでそれを持つのかい?」
ダミアンも何処からか剣を出す。
ピリピリとした空気にイシスも立ち上がった。
「やめなさいダミアン。それにそろそろ時間よ」
イシスはダミアンにセラフィム国への移動を伝える。
「次は上手くやるのよ。弱みは知ってるでしょ?」
「言われなくても覚えてるよ。さて、コレクションを増やしてくるか」
剣を収め、ダミアンの姿がかき消えた。
静かになった会議室でイシスがため息をつく。
「問題児ばかりだわ。どうしてあんなのばかりお父様は、いいえ、陛下は集めたのかしら」
「力は強いが切り捨てやすいからでしょう。俺も含めてですが」
優遇はされているが、大事にされているわけではない。
戦場に行って戻らずとも誰からも心配されない存在。
「それをいうならば、私も含めてだわ」
イシスは自虐的に笑う。
根暗で後継にもなれない皇女だ、死なせたくないならばこんな戦いの前線に送るなどしないだろう。
ギルナスのお陰で生き延びては来たが。
「お嬢様は特別ですよ。素晴らしい力をお持ちですし、俺も何度命を救われたか」
ギルナスは深々と頭を下げた。
「兄様たちの方が強いわ……」
見え透いたお世辞にまたため息をつく。
「アシュバン様たちはまた別格ですから」
ギルナスもそこは濁すことが出来ずに答える。
「では、私達も英気を養いましょう。ダミアンが失敗するとは思えない、首尾よく行けば第三王子の時はもっとガードが固くなっちゃうもの。何とかしなきゃね」
「はい」
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