隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

文字の大きさ
上 下
53 / 202

第53話 新たなる後継者

しおりを挟む
ルビアが消え、操られていた者も元に戻った。

無理に動かされ、怪我した者達を治癒師が大急ぎで治していく。

街も王城も凍りついていたので、エリックに解除を頼むが断られた。

「レナンが目を覚ますまで離れたくない」
初めて力を使ったからか、魔力切れのような症状で気を失ってしまった。

そんなレナンから離れるなど嫌だと拒んでいるのだが、エリック以外にこれ程の広範囲の魔法を解けるものはいない。

何より本人の魔法は本人が解くのが一番早いし、危なくない。

「僕が責任を持って守りますし、目覚めたらすぐに知らせますので、どうかお願いします。貴方様じゃないと、こんなにたくさんの氷は解除できません」
ニコラの懇願に渋々エリックが動く。

「任せる、だが、触れるのは許さん」
片腕であるニコラへの信頼は厚いが、それでも牽制は怠らない。

ラフィアがレナンを支え、その側に二コラが立つ。

エリックはグリフォンと共に上空へ飛び立つと、自身の放った魔法を解除しにかかる。

エリックの魔力が浸透すると大量の氷がさざ波のように引いていき、あとには抉られた地面や瓦礫だけが残る。

さすがに被害が全くないとはならなかった。

エリックは急ぎ解除を終わらせ、直ぐ様レナンの元へと戻ってくる。

いまだ意識が戻らないレナンを抱え、王城内へと許可なく入った。

「ラフィア、レナンを休ませたい。部屋に案内してくれ」

「は、はい!」
ラフィアが先導し、今まで泊まっていた部屋へ案内をする。

「オスカー、キュア。今日はもう休め。俺とニコラがいるから、レナンの心配はいらない。だから少しでも早く調子を取り戻すのだぞ」
ついてくる従者達に対して労いの言葉を掛ける。

「ご苦労であった」
短い一言だが、キュアとオスカーは胸がいっぱいになる。

レナンは三日ほど目が覚めなかったので、エリックは片時も離れることなく一緒の部屋で過ごした。

ラフィアに教わりつつも、甲斐甲斐しく世話をする。

仕事や今後についての話などがあれば、二コラどころかヴィルヘルムをも走らせ、部屋から出ることはなかった。




 

今回の件で帝国の者を引き入れたとし、ヘルガは糾弾された。

パルス国を混乱に陥れたとし、酷く責められたが、これを収めたのはルアネドだ。

「ヘルガは確かに帝国の者を不用意に招き入れ、国を混乱に陥らせた。しかし大元の原因はヴァルファル帝国だ。明らかなる侵略行為を行ない、王族も民達も操り、甚大な被害を齎した。これはけして看過できるものではない。宗主国アドガルムがいち早く異変を察知し、こうして抑えてくれたお陰で被害はとても少なく済んだ。感謝してもしたりない」
この言葉により、宗主国であるアドガルムを認めなかったものも、徐々に受け入れる気持ちを持ってくれた。

属国となったパルスにもこうして手を差し伸べ、助けてくれたのだから、これ以上の非礼を行うわけにはいかない。

「第一王女ヘルガの犯した罪は許しがたいものだが、卑劣な帝国の手のものが彼女を操り嵌めたのだ。帳消しにはならないがその事を加味し、償いをさせていく。それで手打ちにしてもらいたい」
些か軽い罰のようにも思えるが、実行犯のルビアが大半の事をしでかした。

付け入られ、王城に招いただけの彼女の咎を追及するには弱い。

「パルス国の復興の為の奉仕活動に従事することを命じる、その後は魔力を剝奪し、修道院にて祈りを捧げ、己の愚かな行為を顧みよ。反省が見られるならば。もう一度罰を見直す」
ヘルガは受け渡された罰を甘んじて受け入れた。

己の嫉妬心と虚栄がパルス国の民を傷つけ、アドガルムの王太子妃の命も脅かした。

今更見苦しく弁解などしない、全ては自分の醜さが引き起こしたことだと。

ヴィルヘルムもヘルガを諫めることを出来なかった事、そしてトゥーラの命を失いかけたことで、家族の在り方を鑑みていた。

そして改めて戦というものは必要だったのかと、己に問い直していく。

自分がしてきたことを見つめ直し、今後はルアネドに王位を譲りたいとした。

あの戦を生き残り、宗主国の王太子エリックと密な関係を築いたルアネドは、信頼も厚くなっていた。

エリックもダメ押しとばかりにルアネドが後継になる事に賛成だと明言し、落ち着いたら立太子する運びとなった。

「お姉様……」
目を覚まし、様々な事を聞いたレナンの胸中は複雑だ。

特に近しい姉の件はレナンの心に重くのしかかる。

確かにヘルガは道を誤った。

いつから違えてしまったのだろう、昔の姉は民の為、国のためにと自分の身を顧みることなく勉学や奉仕活動に勤しんでいた。

だからレナンも尊敬をし、酷い事をされてもどこか憎み切れないでいたのだ。

「人の心は移ろいやすい。きっかけは何であったか、他人の俺達にはわからないさ」
エリックはそんな些末な事やヘルガの行く末よりも、レナンの体が心配だ。

ルビアの呪縛を解き放ったあの力は何なのか。

キュアと同じ光魔法かと思ったが、似て非なるものらしい。

ルビアの魔法も得体が知れないが、それを退けたレナンの力も謎だ。

体への負担も少ないといいのだがと、優しく抱き寄せる。

「ありがとうございます、わたくしは大丈夫ですよ」
慰めてくれたと思ったレナンは甘えるようにエリックに身を任せる。

心配なのはもちろんだが、今回のヴァルファル帝国の侵略にて大幅な予定の変更があり、エリックは非常に残念であった。

仕方ない事なのだが、やるせない。

「そう言えばトゥーラ様もすっかり元気になって良かった。レナンより早く動き始めていたな」
ルビアの魔法により衰弱していたようで、解けた後は見る間に回復し、あっという間に歩けるようになった。

失った筋力は完全には取り戻せていないものの、一人で動くのに支障はない。

「えぇ本当に。今日は夕食を共にしたいですわ」
憂いも晴れ、にこやかな笑顔だ。

「本当に良かった。これで国に帰れるな」
エリックはレナンの唇に指を這わす。
久しぶりにエリックに触れられ、レナンの顔が赤くなった。

トゥーラにもレナンの力について聞いたが、分からないらしい。

アドガルムに戻ったら今後の為にも詳しく調べなくては。

「帰ったら、一緒に休もう。さすがに疲れた」
仕事の忙しさもだが、レナンのいない寝所は酷く冷たく寒いものだった。

その温もりを感じないと眠りにつけず、やや不眠だ。

しっかりと腕の中に抱きしめる。

「怖い思いもさせてしまったし、しばらくは側を離れないで欲しい」

「は、はい」
ほんの数日離れただけなのに、エリックには耐えがたいものであった。

もう離したくないと更に体を密着させ、レナンは恥ずかしさで真っ赤になってしまった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)

しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。 良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。 人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ? 時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。 ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。 気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。 一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。 他作品で出ているサブキャラのお話。 こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。 このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)? 完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

猛獣のお世話係

しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」 父は頷き、王家からの手紙を寄越す。 国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。 条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。 猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。 猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など 「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」 「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」 婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み! いつまでもモフっていたい。 動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。 もふもふはいいなぁ。 イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。 完全自己満、ハピエン、ご都合主義です! 甘々です。 同名キャラで色んな作品を書いています。 一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。 他サイトさんでも投稿してます。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...