隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

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第48話 帝国の第一皇子と第二皇子②

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「どうやって、そんな映像を?」
シェルダムの言葉にエリックは薄く笑む。

「明かすと思いますか?」
その口調にアシュバンは顔を歪める。

「出鱈目ですね。我らを嵌めるつもりでしょう」
アシュバンの言葉にもエリックは表情を崩さない。

「なるほど、出鱈目と疑われますか。ではこちらを帝国の周辺の国にばらまいても問題はないですね」
アシュバンもシェルダムも悔しげな顔をする。

「ですが、商人達の身柄を無事に返してくれるならば、この魔石は渡します。もちろん周囲に言いふらしもしませんよ、お互い何もなければ」
エリックは魔石を手に持ち、アシュバンの前に立つ。

「……今回は見逃してあげます」
どこまでも帝国の方が優位だという発言だが、エリックは口答えせずに渡す。

「今後も何もない事を祈りますよ」
エリックの言葉を受け、シェルダムが下卑た笑いをした。

「澄ましたその表情、いつまで保てるかな?」

「何がでしょう?」
シェルダムは何とかしてこちらの思惑を崩したいようだ。

「随分な愛妻家だとは聞いたが、そんなに妻が大事なのにこんなに離れていていいのか?」
里帰りと言った言葉に対する反応か?

(こんなに離れて? もしシェルダムがレナンがパルスに行った日や理由を知っているとしたら)
ヴァルファル帝国からアドガルムに来るにはパルス国の領土を通らねばならない。

キュアやオスカーにはけして目立たず、かち合わないように気をつけろと言ったが、この男がどこかで情報を仕入れた、あるいはすれ違っていたのか。

「優秀な護衛がついていますので大丈夫ですよ」
内心の疑問と苛立ちは隠し、エリックはにこやかに話す。

昨夜キュアから気になる通信が来ているし、この会談の後は直ぐ様パルスに向かう。

もしかしてこの間にパルスに手を出しているのか?

お付きの騎士の姿も少ないようにも思えるし、破綻した問い詰めもおかしい。

エリックは止まらない懐疑に気持ちが逸る。

余計な話はもうしたくない、とっとと帰ってほしい。

だが、話は続いた。

「今からでも構わない。アドガルム国よ、わがヴァルファル帝国の傘下に下らないか?」
アシュバンの誘いにアルフレッドは即座に拒否をする。

「お断りします。昔バルトロス殿に誘いを受けた時も同じころを答えたのですが、我がアドガルムはここの土地にて充分幸せだし、庇護も受けない。自国の民と王族で力を合わせ生きていくから帝国の下につくつもりはないと」
アシュバンとシェルダムの形相が変わる。

控えていた騎士団長のシグルドとティタンの手が剣に伸びる。

アルフレッドはそれを制し、つづけた。

「ただし手を組むのはやぶさかではない。支配や配下ではなく、共に手を組むというのなら話は別だと伝えてくれ」

「は? 宗主国となった癖に何を今更そんな事を」
他国を支配下に置いたものが何を言うのかと。

「一時的な宗主国です。三国とも、戦で疲弊した国力や国土が戻ればいずれは同盟国となるつもりで考えております。落ち着いた時に約定を出すことで話を進ませています」
まだ属国にも話はしていないが、宰相や重鎮とは話している事だ。

「それまで属国を庇護し、成長を見届ける。それが上に立つものの責任です」
アドガルムの考えは滅茶苦茶だ、普通そのような考えには至らない。

折角増した国力や国土、それを育て自ら手放すことを考えるなど、損でしかない。

「そんな綺麗ごとや甘ったれた考えをしているから、戦を起こされたのではないか?」
力を示し、舐められないようにしていれば少なくとも攻め入られることはなかったのではないかと呆れられてしまう。

「ならばわかってもらえるまで説得するだけです。力は示すが蹂躙する為ではない、話の場を設けるためのものでした。帝国は、どうでしょうか。息子たちの話や力を見ても引く気はないだろうか?」
彼らの活躍は帝国にも伝わっているはずだ。

「うちの息子たちは親に全く似なくてね。恐らくはあなた達が引きつれてきた騎士団も一人で倒せる実力があると思いますよ」
アルフレッドの言葉に、エリック達からあふれ出す殺気と魔力。

その場からは動かないものの、恐ろしい圧が部屋を占める。

「貴様ら、これは宣戦布告か?」
びりびりと肌を駆けるものに、鳥肌を立てつつもアシュバンは退かない。

「いいえ、ですがご覚悟をお持ちいただくといい。アドガルムは攻めてくるものに容赦はしない」
攻め入ることはしないが、襲ってくるものには容赦はしない。

守るべき者の為に存分に力を蓄えてきていた。

「その余裕がいつまで持つかな」
へっとシェルダムが吐き捨てた。

「せいぜい抗え、楽しませろ」
歪んだ光と決別の言葉だ。

「アルフレッド殿」
アシュバンは真っ向からアドガルムの王を見据えた。

「我らはアドガルムを危険国と認定する。虚偽の言と脅迫の念を持つ蛮族だとな」
元より服従せねばこういう展開になっていたのだろう。

誰一人嘆きも縋りつきもしなかった。

国王アルフレッドだけが深いため息をついた。

「皇帝バルトロス殿に伝えてくれ。非常に残念だと。遠き日の話を忘れてしまったのかとな」
アルフレッドの言葉にシェルダムは鼻で笑う。

「覚えていたらな」
去っていく帝国の一団を皆で見送る。

ここで人質として捕らえればいいのかもしれないが、彼らは皇子だ。

迂闊に手を出せばより戦が早まる。

重い空気の中、エリックが口を開いた。

「すまないが、後は任せた。レナンを迎えに行ってくる」
エリックは窮屈な襟元を緩め、ニコラとすぐに、出立に向かう。

着替えすら惜しいからこのまま行く気だ。

「パルスの商人達だが、直ぐ様影に救出に向かわせた方がいい。もしかしたら既に殺されてる可能性も否めないが」
あんな魔石はくれてやってもいい。

どのみち交渉するには弱いものだし、複製品はある。

あの皇子たちは最初から喧嘩を売るのが目的だという態度だったので、すでに手遅れだろう。

ただの一般人を助けるためには国は動かせない。

「パルス国の異変はもしかしたらあいつらか?」
今回の訪問は疑問だらけであった。

何故使者が皇子達という帝国にとって重大な人物だったのか。

そして宣戦布告する為だけにあの厳しい山を越えてきたのか。

(皇子たちでなければいけない理由……)
宰相や大臣といった重臣ではなく、王族が来た。

だから自分は残らざるを得なかったのだが、嫌な予感は膨れ上がっていく。

二人で一頭のグリフォンに乗り、二コラが認識阻害の魔法を掛けた。

空へと浮かび見下ろすと、眼下には帝国の一団がアドガルム城を出立するところが見える。

アシュバンとシェルダムがこちらを見て笑っているようにも思えた。

「急ぐぞ」
エリックは手綱を握りしめ、その背に二コラがしっかりと掴まる。

魔石を用い魔力を増幅させ、二コラは風魔法にてグリフォンの速度を上げる。

凄まじい速さでパルスを目指し、空を駆けていった。

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