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第47話 帝国の第一皇子と第二皇子①
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「お待ちしていました」
国王夫妻と王子たちが帝国の皇子を出迎える。
王太子妃、王子妃は同席させなかった、どのような話し合いになるかわからなかったからだ。
ヴァルファル帝国はこの大陸の半分を治めている。
古来より続く大きな国で、現在はバルトロス皇帝の下で治世がなされ、様々な国や民族が付き従っている。
その傘下に入らないアドガルム国やパルス国、他多数の独立国は不可侵の条約を取り決め、幾許かの献上金にて戦いを回避していた。
アドガルムに来るためには周辺国もあるし、パルス国と帝国の境には強大な山脈もある。
その為侵攻は現実的なものではないが、より強固な安心を得るためにきちんとした約定を結び、安寧を得ているのだ。
その帝国の者が険しい山を越える、ましてや皇子達が来るとは普通ならあり得ない。
警戒するのも当然だ。
攻め入りに来たのかと警戒したが、一個師団の騎士団しか従えておらず、攻め入るほどの戦力はないように思える。
「おや、王太子妃方はいらっしゃらないのですか?」
第一皇子のアシュバンの問いに、エリックが答える。
「妻たちは里帰りですよ、たまには羽をのばさせないと」
レナンに限っては本当だが、ミューズとマオには部屋に籠ってもらっているが。
招かれざる客に大事な妻と会わせる気など毛頭ない。
「そのまま戻ってこないんじゃないか? 他国より無理矢理連れてきたと聞いたが、本心では嫌われてるんだろう。公の場に妻がいないなど、怪しいものだ」
第二皇子シェルダムが嘲笑うかのように言い放つ。
政略結婚であることは間違いないが、誰も顔色すら変えない。
「ご心配悼み入ります。しかし恋愛結婚なのでどうぞご安心ください」
さらりと躱すエリックの余裕のある言葉に、シェルダムはつまらなさそうだ。
「恋愛ねぇ、本当かどうか疑わしい。特にそこの第二王子」
ティタンは名指しされ、眉を顰める。
「俺が何か?」
「明らかに他の兄弟と差があるよなぁ、特に顔」
ハッキリと言われ、ティタンは不愉快になる。
「兄や弟と違う事は自覚していますよ」
不機嫌そうに言うティタンにシェルダムは嬉しくなる。
エリックのようにするりと流すことのないこの王子なら、からかうのは楽しそうだ。
「じゃあ妻として連れてきた王女も兄だか弟に靡くんじゃないか? そんな不器量な容姿じゃ怖がられても仕方ないもんな。力で押さえつけ無理矢理手籠めにしたか、どちらにしろお姫さんは可哀そうだな」
ティタンはシェルダムをぎろりと睨みつけ、怒気をまき散らす。
だが、それも一瞬だ。
「そう周囲に思われぬよう精進致します。シェルダム殿、ご忠告痛み入ります」
礼まではしないものの、ティタンはそれで言葉を閉じた。
「ティタン兄様にはティタン兄様の良さがあります」
リオンが代わりを引き継ぐ。
「見た目で決めつけるとは、帝国のシェルダム殿下は思ったよりも狭量なのですね」
「あぁ?」
年下のリオンに嘲られ、シェルダムは怒りを露わにした。
二人の間に目に見えて火花が散る。
「シェルダム止めろ」 「リオン非礼は詫びるんだ」
互いの兄がそれぞれの弟を窘める。
二人は軽く頭だけ下げ、無言のままにらみ合っていた。
場の空気は悪くなってしまったが、アルフレッドは咳払いをして気を持ち直す。
「それでアシュバン殿下、シェルダム殿下、此度はどのような訪問で?」
全く理由を聞いていないアルフレッドは本題を突きつける。
何を考えてこのように参ったのか。
いつもの人懐こい表情を消し、重く静かに響く声を出す。
「戦の勝利により宗主国となったと聞きました。三国が属国となり、アドガルムに下ったと」
アシュバンは言う。
「そうです。戦は無事に平定しましたが、今後の状況を鑑み、属国となってもらいました。この件は帝国の方にも報告しているはずですが?」
宗主国となるという事は国土も国民も増える事だ。
止む無しの事情だったが、これを機に帝国より大きくなるつもりや逆らうつもりはないという意思を示すために、先に使者と書簡を送っている。
その点で難癖をつけるという事なのか?
「報告は受けています。つまり今後は属国が行なった罪は最終的には宗主国、アドガルムが責任をとるようになりますね?」
まだ問いたい事が続いていたようだ。
しかもきな臭い言葉を言われる。
「それが何か?」
アシュバンが何を聞きたいのか、アルフレッドはまだわからないが、確実にいい話ではない。
「属国の者が我らの領域へ侵入したことを確認しました。これは条約違反となりますね」
領域の不可侵は取り決めで行われているが、属国となった三国も同様であったはずだ。
「パルスの商人が領域を超え、あまつさえ禁止物を持っていた。証拠もあるし、犯人も捕らえています」
やはり難癖か。
パルス国を通り越し、こちらに話しを持ちだすとは、とんでもない話だ。
エリックはため息をついた。
急いでレナンの元へ行きたいのに、こんなくだらない話につきあわされるとは。
キュアからの報告でも気になる事がある、今すぐにでもこいつらを追い払いたい。
「へぇ。それは正規の商人でしょうか?」
アルフレッドが信じられないといった声で言う。
「そうです。所属する商工会の身分証も持っていましたし、パルスやアドガルムの通行証も持っていました。明らかな悪意をもって帝国に潜り込んできたことは、断じて許せない事です」
こんな話をまっとうに認め、謝罪する気はないが、このひと悶着が何を意味するかはアルフレッドもわかる。
帝国が攻め入るに相応しい口実が欲しいのだ。
「作り話はいけませんよ、アシュバン様」
エリックはどす黒い気持ちを押し込め、にこやかに応じる。
「音信不通になってるのはこちらの商人ではないですか? 彼らが領域を冒したなどとはまさかいいますまい。すでに国の方で探していますし、帝国にも情報提供を呼びかけています、あなた方の手配より早くこちらは捜索依頼を出していました」
ニコラがすぐさま魔石に取った映像を写す。
「こちら誘拐された映像なのですよ、その彼等が帝国の領域に侵入し、違法物を売りに行ったとは。それとも誘拐された振りをして帝国に入り込んだとでも? 誰が見るかもわからないのに、手間をかけてまでそんな事をするでしょうか?」
アシュバンもシェルダムもエリックの情報の速さに驚いた。
エリックは金に物を言わせ、小さな魔石を皆に配っている。
それは見たものを映像として記憶する魔石だ。
お金と引き換えに映像を集めさせ、自国に有利な情報を持ってきたものは、さらに報酬を上乗せするとして配っている。
貧民層の者に声かけ渡しているので、生活の為にとしっかりと働いてくれるものが多い。
ログという市井の情報屋に管理を任せ、必要な情報を精査してもらい、重要そうなものは貴重な魔道具・転送装置を使わせて送るよう命令している。
帝国がこちらに乗り込んでくるなどという話を聞いてから、直ぐ様エリックは情報収集に奔走した。
ここ最近の動向、特に帝国と距離の近いパルスや小さな小競り合いも情報をまとめていた。
今まで以上に慎重になり、おかげでここ数日は眠ることも出来ずにいたが、必要な事だったので仕方ない。
国王夫妻と王子たちが帝国の皇子を出迎える。
王太子妃、王子妃は同席させなかった、どのような話し合いになるかわからなかったからだ。
ヴァルファル帝国はこの大陸の半分を治めている。
古来より続く大きな国で、現在はバルトロス皇帝の下で治世がなされ、様々な国や民族が付き従っている。
その傘下に入らないアドガルム国やパルス国、他多数の独立国は不可侵の条約を取り決め、幾許かの献上金にて戦いを回避していた。
アドガルムに来るためには周辺国もあるし、パルス国と帝国の境には強大な山脈もある。
その為侵攻は現実的なものではないが、より強固な安心を得るためにきちんとした約定を結び、安寧を得ているのだ。
その帝国の者が険しい山を越える、ましてや皇子達が来るとは普通ならあり得ない。
警戒するのも当然だ。
攻め入りに来たのかと警戒したが、一個師団の騎士団しか従えておらず、攻め入るほどの戦力はないように思える。
「おや、王太子妃方はいらっしゃらないのですか?」
第一皇子のアシュバンの問いに、エリックが答える。
「妻たちは里帰りですよ、たまには羽をのばさせないと」
レナンに限っては本当だが、ミューズとマオには部屋に籠ってもらっているが。
招かれざる客に大事な妻と会わせる気など毛頭ない。
「そのまま戻ってこないんじゃないか? 他国より無理矢理連れてきたと聞いたが、本心では嫌われてるんだろう。公の場に妻がいないなど、怪しいものだ」
第二皇子シェルダムが嘲笑うかのように言い放つ。
政略結婚であることは間違いないが、誰も顔色すら変えない。
「ご心配悼み入ります。しかし恋愛結婚なのでどうぞご安心ください」
さらりと躱すエリックの余裕のある言葉に、シェルダムはつまらなさそうだ。
「恋愛ねぇ、本当かどうか疑わしい。特にそこの第二王子」
ティタンは名指しされ、眉を顰める。
「俺が何か?」
「明らかに他の兄弟と差があるよなぁ、特に顔」
ハッキリと言われ、ティタンは不愉快になる。
「兄や弟と違う事は自覚していますよ」
不機嫌そうに言うティタンにシェルダムは嬉しくなる。
エリックのようにするりと流すことのないこの王子なら、からかうのは楽しそうだ。
「じゃあ妻として連れてきた王女も兄だか弟に靡くんじゃないか? そんな不器量な容姿じゃ怖がられても仕方ないもんな。力で押さえつけ無理矢理手籠めにしたか、どちらにしろお姫さんは可哀そうだな」
ティタンはシェルダムをぎろりと睨みつけ、怒気をまき散らす。
だが、それも一瞬だ。
「そう周囲に思われぬよう精進致します。シェルダム殿、ご忠告痛み入ります」
礼まではしないものの、ティタンはそれで言葉を閉じた。
「ティタン兄様にはティタン兄様の良さがあります」
リオンが代わりを引き継ぐ。
「見た目で決めつけるとは、帝国のシェルダム殿下は思ったよりも狭量なのですね」
「あぁ?」
年下のリオンに嘲られ、シェルダムは怒りを露わにした。
二人の間に目に見えて火花が散る。
「シェルダム止めろ」 「リオン非礼は詫びるんだ」
互いの兄がそれぞれの弟を窘める。
二人は軽く頭だけ下げ、無言のままにらみ合っていた。
場の空気は悪くなってしまったが、アルフレッドは咳払いをして気を持ち直す。
「それでアシュバン殿下、シェルダム殿下、此度はどのような訪問で?」
全く理由を聞いていないアルフレッドは本題を突きつける。
何を考えてこのように参ったのか。
いつもの人懐こい表情を消し、重く静かに響く声を出す。
「戦の勝利により宗主国となったと聞きました。三国が属国となり、アドガルムに下ったと」
アシュバンは言う。
「そうです。戦は無事に平定しましたが、今後の状況を鑑み、属国となってもらいました。この件は帝国の方にも報告しているはずですが?」
宗主国となるという事は国土も国民も増える事だ。
止む無しの事情だったが、これを機に帝国より大きくなるつもりや逆らうつもりはないという意思を示すために、先に使者と書簡を送っている。
その点で難癖をつけるという事なのか?
「報告は受けています。つまり今後は属国が行なった罪は最終的には宗主国、アドガルムが責任をとるようになりますね?」
まだ問いたい事が続いていたようだ。
しかもきな臭い言葉を言われる。
「それが何か?」
アシュバンが何を聞きたいのか、アルフレッドはまだわからないが、確実にいい話ではない。
「属国の者が我らの領域へ侵入したことを確認しました。これは条約違反となりますね」
領域の不可侵は取り決めで行われているが、属国となった三国も同様であったはずだ。
「パルスの商人が領域を超え、あまつさえ禁止物を持っていた。証拠もあるし、犯人も捕らえています」
やはり難癖か。
パルス国を通り越し、こちらに話しを持ちだすとは、とんでもない話だ。
エリックはため息をついた。
急いでレナンの元へ行きたいのに、こんなくだらない話につきあわされるとは。
キュアからの報告でも気になる事がある、今すぐにでもこいつらを追い払いたい。
「へぇ。それは正規の商人でしょうか?」
アルフレッドが信じられないといった声で言う。
「そうです。所属する商工会の身分証も持っていましたし、パルスやアドガルムの通行証も持っていました。明らかな悪意をもって帝国に潜り込んできたことは、断じて許せない事です」
こんな話をまっとうに認め、謝罪する気はないが、このひと悶着が何を意味するかはアルフレッドもわかる。
帝国が攻め入るに相応しい口実が欲しいのだ。
「作り話はいけませんよ、アシュバン様」
エリックはどす黒い気持ちを押し込め、にこやかに応じる。
「音信不通になってるのはこちらの商人ではないですか? 彼らが領域を冒したなどとはまさかいいますまい。すでに国の方で探していますし、帝国にも情報提供を呼びかけています、あなた方の手配より早くこちらは捜索依頼を出していました」
ニコラがすぐさま魔石に取った映像を写す。
「こちら誘拐された映像なのですよ、その彼等が帝国の領域に侵入し、違法物を売りに行ったとは。それとも誘拐された振りをして帝国に入り込んだとでも? 誰が見るかもわからないのに、手間をかけてまでそんな事をするでしょうか?」
アシュバンもシェルダムもエリックの情報の速さに驚いた。
エリックは金に物を言わせ、小さな魔石を皆に配っている。
それは見たものを映像として記憶する魔石だ。
お金と引き換えに映像を集めさせ、自国に有利な情報を持ってきたものは、さらに報酬を上乗せするとして配っている。
貧民層の者に声かけ渡しているので、生活の為にとしっかりと働いてくれるものが多い。
ログという市井の情報屋に管理を任せ、必要な情報を精査してもらい、重要そうなものは貴重な魔道具・転送装置を使わせて送るよう命令している。
帝国がこちらに乗り込んでくるなどという話を聞いてから、直ぐ様エリックは情報収集に奔走した。
ここ最近の動向、特に帝国と距離の近いパルスや小さな小競り合いも情報をまとめていた。
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