隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。

文字の大きさ
上 下
12 / 202

第12話 氷の第一王子

しおりを挟む
「誰が首謀者だ」
敬語すら使わず、エリックは静かに言い放った。

その声が怒りに満ちているのは誰しもがわかったはずだ、一部を除いて。

「ヴィルヘルム殿、まさかあなたか?」
射抜くような鋭い瞳は心臓を鷲掴みにするような凍えたものである。

「いや、私はこのような事は、知らなかった」
正直に言うとエリックの視線が移り、呪縛が解ける。

視線は真っすぐにヘルガに向く。

最初はやっと自分を見てくれたと喜んだが、恐ろしい程冷たいその目に言葉が出なくなる。

「自惚れと戯言は大概にしろ。死にたいのか」
エリックを中心に氷の華が咲き乱れ、瞬く間に絶対零度の世界が広がっていく。

戦慄した。

レナンを除き、皆が氷に阻まれる。

「この国は少し頭を冷やした方がいい。いくら有能だと言っても喧嘩を売る相手を間違えればこうなるんだぞ」
エリックの魔力はじわじわとパルス王城に広がっていく。

「このまま攻め落としてもいい。それだけの力が俺にはある」
圧倒的に強い魔力にパルス国は手も足も出なかった。

いくら魔術師が対抗しても騎士が応戦しても氷は減らず、エリックに近づくことも手を出す事も出来ない。

周囲の従者達がそれを許さないのもある。

「エリック様、お止めください!」
恐怖と驚きで動けなかったレナンがようやく声を振り絞った。

「このような事はいけません、争いで何でも解決しようとしては反発を生みます」
滑りそうな床に注意し、レナンはエリックに近づく。

従者に止められるかと思ったが、誰も手出ししなかった。

「ではあなたならどうやって止める? この惨状は圧倒的力で生み出された。言葉で何が出来る?」
レナンは怯んだ、魔力はあるものの自分は魔法が使えない。

いくら習っても生活魔法以外使えなかったのだ。

(どうしよう、どうやって止めればいいの?)
王宮術師も王宮騎士も歯が立たない。

戦って勝てるとは思わなかった。

手を伸ばせば触れられるくらい近いが、エリックに何かすれば周囲の護衛の者に殺されるだけだ。

頭の中でぐるぐると思考が回る。

こうしてる間も氷は広がっていた。

「や、やめてくれないとエリック様を許しません!」
ぴくんとエリックの表情が動く。

「許さないとは、具体的にどのような?」

「輿入れしません! ここの氷を溶かすまでは、アドガルムになんて……」
いかない、と叫ぼうとしたのだが見る間に氷が引いていく。

氷漬けになっていた者も自由になっていった。

冷たい空気はそのままだが、あれだけあった氷は跡形もなく消え、濡れた形跡もない。

「輿入れが無くなるのは困るな。今更他の女性にしたくない」
エリックの手がレナンの手をしっかりと握った。

とっさに外そうとしたが、外れない。

「行こうか俺の妻よ。これ以上ここにいたら、また余計な魔力を使ってしまいそうだ」
氷がパキッと割れる音がした。

翠の双眸は呆気にとられたヴィルヘルムを映し出す。

「これ以降、その王女を俺とレナンに近づけるな。顔を見たらうっかり殺してしまいそうだからな」
エリックは昏い光をその目に灯し、レナンの手を引いて、その場を離れる。

慌てたラフィアもついていき、エリック達はパルスを後にした。





しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)

しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。 良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。 人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ? 時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。 ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。 気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。 一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。 他作品で出ているサブキャラのお話。 こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。 このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)? 完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

知らなかったら…

水姫
恋愛
こんな話もありなはず……。 「…えっ?」 思い付きで書き始めたので、見るに耐えなくなったら引き返してください。裏を読まなければそんなにヤンデレにはならない予定です。

猛獣のお世話係

しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」 父は頷き、王家からの手紙を寄越す。 国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。 条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。 猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。 猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など 「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」 「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」 婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み! いつまでもモフっていたい。 動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。 もふもふはいいなぁ。 イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。 完全自己満、ハピエン、ご都合主義です! 甘々です。 同名キャラで色んな作品を書いています。 一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。 他サイトさんでも投稿してます。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

処理中です...