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第11話 ほわほわ王女
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ついに今日はエリックがレナンを迎えに来る日だ。
レナンは朝から忙しく、アドガルムに行っても恥ずかしくないよう出来る限り着飾る。
「レナン様がこのように嫁がれる日が来るなんて」
思わず目元に涙を浮かべるのはレナンの専属侍女、ラフィアだ。
何とも言えない寂しげな表情をしながら、いつも以上に気合を入れてメイクを施す。
人質になる為とは言えこれは輿入れだ、手を抜くわけにはいかない。
「このような結婚でレナン様は幸せになれるのでしょうか……心配でなりません。あのような冷たい目をした人がお優しいレナン様と一緒になるなんて」
ラフィアたち侍女はあの時のやり取りを見てはいない。
遠巻きに見たエリックは、確かに笑みもなくただ冷たい目をした男でしかなかっただろう。
「そうかしら。わたくしは優しい人だと思えたわ」
実際に話し、庇ってもらえたレナンからでは見え方はまるで違う。
「それはレナン様がお人好しなだけです」
ラフィアはすぐに人を信じてしまい、悪しくいう事もないレナンが心配でしょうがない。
レナンの母親もそういう類の人だが、この母娘は人が良すぎる。
レナンの母は側室の一人で、とてもそっくりだ。
常にぽわぽわしていた。
「私もお供します、絶対にレナン様につらい思いはさせません」
味方のいないアドガルムに行ってもレナンに不自由をさせないよう、ラフィアはぐっと決心した。
「迎えに来ましたよ」
エリックとその従者たちはレナンに微笑みかけた。
対照的にパルスの国王ヴィルヘルムと王妃アリーシャは硬い表情をしている。
側室達も参列しレナンを見守るが、レナンの母トゥーラは目に涙を湛えつつ、笑顔だ。
政略とはいえ、娘の晴れ姿をこうして見れたのは嬉しかったのだろう。
書類上の婚姻で、復興が終わるまでは式など望めない今この場が披露目の場となる。
「先日お会いした時も綺麗だとは思ったけれど、本日もまた一段と麗しい。幸せにしますよ」
愛の言葉をこの場で語るのはレナンの母を慮ってくれたのか、とうとう母が泣き出してしまったのがレナンの目の端に映る。
差し出されたエリックの手を取ろうとした時、
「お待ちください」
ヘルガの声がその場に響いた。
レナンの輿入れを前にヘルガが立ちはだかる。
付き従う侍女の数も、用意された宝石類も、レナンの比ではなかった。
美しく着飾るドレスも格段に上でヘルガはこの場で誰よりも美しく、煌めいていた。
「私も共にアドガルムへ行きます。数日一緒に過ごせばきっと私の良さを知ってもらえます」
レナンは、ただ驚いた。
姉の提案が良くないことだとはレナンですらわかる。
国王も驚きの表情をしていたが、その隣の王妃は全く動じていない。
「エリック様。ヘルガは我がパルス国でも類を見ない美しさと頭脳を持っています。宗主国の王妃に相応しい度胸も持っています、そこのレナンよりも」
王妃の声と蔑んだ目。
昔から王妃はこの目を自分と母に向けていたのを思い出した。
「ご遠慮願います」
きっぱりとエリックは拒否をした。
「この前俺は宣言したはずですよ、レナン王女との婚姻は覆らないと。お忘れですか? ヘルガ王女」
先程の笑顔など欠片もない。
従者たちも表情を消して、主に追従する。
「話す時間も接する時間も短かったからですわ。一緒に過ごせば私の有能さがわかるはずです。母の身分も持参金も私の方が上ですし、血筋も相応しいですもの。レナンを側室として許してもよろしいですわ」
確かに正妃は身分の高い者が選ばれ、側室には低い者がなる事が多い。
「人質としてならば二人がそちらに嫁いでも問題はないでしょう? ねぇお父様」
ヴィルヘルムは迷う。
確かにアドガルムを内部から突き崩すならパルスの者が多く入り込むのは有効だ。
だが、即答など出来ない。
恐ろしい冷気が部屋中を占めているからだ。
レナンは朝から忙しく、アドガルムに行っても恥ずかしくないよう出来る限り着飾る。
「レナン様がこのように嫁がれる日が来るなんて」
思わず目元に涙を浮かべるのはレナンの専属侍女、ラフィアだ。
何とも言えない寂しげな表情をしながら、いつも以上に気合を入れてメイクを施す。
人質になる為とは言えこれは輿入れだ、手を抜くわけにはいかない。
「このような結婚でレナン様は幸せになれるのでしょうか……心配でなりません。あのような冷たい目をした人がお優しいレナン様と一緒になるなんて」
ラフィアたち侍女はあの時のやり取りを見てはいない。
遠巻きに見たエリックは、確かに笑みもなくただ冷たい目をした男でしかなかっただろう。
「そうかしら。わたくしは優しい人だと思えたわ」
実際に話し、庇ってもらえたレナンからでは見え方はまるで違う。
「それはレナン様がお人好しなだけです」
ラフィアはすぐに人を信じてしまい、悪しくいう事もないレナンが心配でしょうがない。
レナンの母親もそういう類の人だが、この母娘は人が良すぎる。
レナンの母は側室の一人で、とてもそっくりだ。
常にぽわぽわしていた。
「私もお供します、絶対にレナン様につらい思いはさせません」
味方のいないアドガルムに行ってもレナンに不自由をさせないよう、ラフィアはぐっと決心した。
「迎えに来ましたよ」
エリックとその従者たちはレナンに微笑みかけた。
対照的にパルスの国王ヴィルヘルムと王妃アリーシャは硬い表情をしている。
側室達も参列しレナンを見守るが、レナンの母トゥーラは目に涙を湛えつつ、笑顔だ。
政略とはいえ、娘の晴れ姿をこうして見れたのは嬉しかったのだろう。
書類上の婚姻で、復興が終わるまでは式など望めない今この場が披露目の場となる。
「先日お会いした時も綺麗だとは思ったけれど、本日もまた一段と麗しい。幸せにしますよ」
愛の言葉をこの場で語るのはレナンの母を慮ってくれたのか、とうとう母が泣き出してしまったのがレナンの目の端に映る。
差し出されたエリックの手を取ろうとした時、
「お待ちください」
ヘルガの声がその場に響いた。
レナンの輿入れを前にヘルガが立ちはだかる。
付き従う侍女の数も、用意された宝石類も、レナンの比ではなかった。
美しく着飾るドレスも格段に上でヘルガはこの場で誰よりも美しく、煌めいていた。
「私も共にアドガルムへ行きます。数日一緒に過ごせばきっと私の良さを知ってもらえます」
レナンは、ただ驚いた。
姉の提案が良くないことだとはレナンですらわかる。
国王も驚きの表情をしていたが、その隣の王妃は全く動じていない。
「エリック様。ヘルガは我がパルス国でも類を見ない美しさと頭脳を持っています。宗主国の王妃に相応しい度胸も持っています、そこのレナンよりも」
王妃の声と蔑んだ目。
昔から王妃はこの目を自分と母に向けていたのを思い出した。
「ご遠慮願います」
きっぱりとエリックは拒否をした。
「この前俺は宣言したはずですよ、レナン王女との婚姻は覆らないと。お忘れですか? ヘルガ王女」
先程の笑顔など欠片もない。
従者たちも表情を消して、主に追従する。
「話す時間も接する時間も短かったからですわ。一緒に過ごせば私の有能さがわかるはずです。母の身分も持参金も私の方が上ですし、血筋も相応しいですもの。レナンを側室として許してもよろしいですわ」
確かに正妃は身分の高い者が選ばれ、側室には低い者がなる事が多い。
「人質としてならば二人がそちらに嫁いでも問題はないでしょう? ねぇお父様」
ヴィルヘルムは迷う。
確かにアドガルムを内部から突き崩すならパルスの者が多く入り込むのは有効だ。
だが、即答など出来ない。
恐ろしい冷気が部屋中を占めているからだ。
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