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第6話 第二王子とセラフィム国

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セラフィム国に来たティタンは、王城に入る前から落ち着かなかった。

「王女達と何を話したらいい?」
既に緊張でガチガチだ。

アドガルムにとって良い人を、という言葉を受けてからプレッシャーが半端ない。

「ティタン様の直感でいいのですよ。妻として隣に居てほしいと思う方を選べばいいと思います」
従者兼護衛のルドは宥めるように話す。

「変な事をするような王女であれば、俺達が何とかします。ティタン様はあまり気になさらずに」
同じく護衛のライカが答えた。

彼らはシェスタ国出身の赤髪の双子騎士だ。

雰囲気が全く違うので似ていると言われたことがない。

「大丈夫ですよ、案外何とかなるものです。僕の記憶では皆大人しい性格の王女様方ばかりかと。五年前と変わりなければですが」
フードで顔を隠したセラフィム出身の薬師、セシルがそう慰める。

諸事情でルドもライカもセシルもそれぞれ母国を離れてティタンに仕えている。

交渉事が苦手で尻込みするティタンを何とか後押しし、ようやくセラフィム王城へと入ることが出来た。






「はじめましてティタン殿。お会いできて光栄です」
セラフィム国の王、ヘンデルが挨拶をする。

「俺もお会いできて良かったです。戦場ではなかなか忙しくて」

「……」
戦の話を持ち出すティタンに、従者達は冷や汗をかく。

敗戦国に言うセリフではない。

「先の戦でのアドガルムは凄かった……セラフィムは完敗でしたよ。早速ですが、本日は和平の証として、ぜひ娘を嫁がせて欲しい」
三人の王女が入室し、皆物静かに挨拶をしてくれる。

小柄な王女達に比べるとティタンはとても大きく、親子程にも見えた。

大柄な体躯はなかなかの威圧感を醸し出していて、思わず身を縮こませてしまう王女達だが、ティタンはその中の一人に興味を惹かれる。

一人物怖じもせず、真っ向から見つめ返す女性。

長くふわりと広がる金髪とオッドアイ、瞳からは意志の強さが見て取れる。

「皆が怖がっているが、君は俺が怖くはないか?」

「えぇ。遠路はるばるいらしてくれたお客様方ですもの。歓迎いたしております」
なかなか肝の据わった王女だ。

「それにしてもセラフィムは戦を好まない国と聞いていたので、先の戦で対峙したときは驚いた。とても強い国な事もな」
ティタンの言葉にヘンデルは眉を顰める。

「何をおっしゃる。ティタン殿は圧倒的な強さだったとお聞きしています。一番の武功を立てたとも。それに比べたらうちの軍はとてもとても……」

「そうは思わない。命を賭けた戦いに赴くだけでも凄い事なのだ。戦場で散った兵士はどの武人も強く、誇り高かった。油断すればこちらがやられていただろう」
戦場に出た兵士は誇りと、命を懸けて挑んだはずだ。

簡易的な祈りを捧げ、ティタンは王女達を見据える。

皆小柄で可愛らしい女性ばかりで、戦とは縁遠い生活をしていただろうと想像出来た。

このような後始末に巻き込まれるとはと、王女達に同情する。

普通の日常が続いていたならば、こんな男の元に嫁ぐなんてこともなかったはずだ。

「どの御仁も英雄に相応しい者ばかりだった。王女様方は戦についてどう思われた?」
ティタンの問いに、皆顔を見合わせている。

「する必要はなかったと思います」
ミューズははっきりと言った。

「多くの人が死に、多くの悲しみが生まれました。土地も荒れ田畑も焼け、元の生活に戻るのに何十年もかかるでしょう……」

「そうだな。するべきではなかった」
ティタンはミューズの言葉に納得する。

「驚きました。あなたの口からそんな言葉が出るなんて」
一番人を殺したのは、この王子だと聞いている。

それなのにそんな事を言うとは、嬉々として戦に出たのではないのか?

「戦など俺だってしたくなかった。だが、俺はアドガルムを守る責務がある。王族として生まれ、そして死ぬ為に。向かってくるものは騎士として剣を交えさせてもらったが、そうでないものは捕虜としてアドガルムにいる。婚姻が果たされれば皆返そう」

「えっ?」
その言葉にセラフィムの者は驚いた。

「セラフィムの者が、生きているのですか?」

「投降したものや無抵抗な者を切り殺すなどはしない。兵士にも家族は居るだろう? 無益な殺しはしたくない」
皆がその情報を聞いて表情を明るくする。

「奪った命については、仕方なかったと諦めてくれ。俺も死にたくはなかったからな」

「戦でしたもの、それは覚悟しています」
そうは言いつつ、行方知らずだった者たちの生存情報は、民の希望となる。

ヘンデルも安堵した。

「ティタン殿、そのような気遣いをありがとうございます」

「お礼はまだ早いです、俺は約束を果たしてない」
ティタンはまだ、新たな人質となる婚姻の相手を決めてなかった。

「そうでした。誰にしますか?」
ヘンデルに促され、ティタンは悩んでしまった。

自分から言ったはいいものの、躊躇いが生まれている。

(皆小柄で、抱き締めれば折れてしまいそうだ)
ちらりと従者達を見れば、ティタンの好きなように、と視線を送られるばかりだ。

ティタンが口を開こうとすると、ミューズから声を掛けられる。

「ティタン様、私では駄目でしょうか?」

「君を?」
自ら志願するミューズに驚いた。

「妹たちはまだ小さく、ティタン様と年齢も離れています。それにこれは敗戦国からの人質となるための婚姻。ならば長女である私が相応しいのではないかと」

「ほぅ」
ティタンは顎を摩る。

もとより選ぼうと思っていた相手だから、悪くない。

戦を仕掛けた国王の前でも物怖じせずに、戦に反対だと公言したミューズは、真面目で正義感に溢れた女性だと感じていた。

今も長女として、などの発言があるくらい人一倍責任感も強そうだし、好感が持てる。

決意を秘めた目でミューズはティタンを見つめていた。

「では、ミューズ王女。俺と来てもらおうか」
そう言うとティタンはミューズの手を取り、ブレスレットをつける。

それには薄紫色の宝石がついていた。

「婚姻の誓いとして受け取ってくれ。生涯大事にすると約束する」
およそ政略結婚らしからぬ台詞と共に、ティタンは少年のように明るく笑った。



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