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二人の行く末
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カレンは幽閉された。
王国の中身を深く知ってしまっては、他国に出させるわけにはいかない。
謀反の可能性もあるし、再び誰かに担ぎ上げられてしまうかもしれない。
ジュリアの大罪も考慮して斬首も考えられたのだが、ミューズが止めた。
ジュリアの罪は重すぎるが、カレンはそこまで関わったわけではないと。
そのため幽閉となったが、そう遠くない内に病死という名目で、ミューズには秘密で毒杯を授けられるだろう。
ジュリアに使用された毒と同じものかはわからないが。
「例えばだが、リオンはそのままカレンと共になり、リンドールを治めようとは思わなかったのか?」
ティタンは興味本位で聞いた。
リオン程の知力なら、あそこからの立て直しも図れただろう。
ティタンの言葉にリオンは首を横に振る。
「兄様達に楯突く気はないですよ。それにカレン様は僕の好みではないです」
きっぱりとリオンは言った。
ティタン達がアドガルムへ帰った後、ミューズはそのままリンドールに留まった。
国王の体調はいまだ全快には至らないし、かと言って全てをクラナッハに任せてばかりもいられない。
国王の看病や官僚たちの再編成など、ミューズも携わっていく。
今はとても忙しいだろう。
国王派の者達も懸命に元のリンドールに戻そうと尽力している。
アドガルムからも落ち着くまではと人を派遣し、力を貸していた。
ディエスによりティタンとミューズの婚約は認められたが、リンドール国王の承認が戦の後であったため、世間からは政略的なものだと見られていた。
リンドールの姫は人質としてアドガルムに嫁ぐのだと。
ティタンは気にしなかった。
親しいものだけが本当の事を知っていれば充分だから。
アドガルムから思いを馳せる。
「ミューズ様は大丈夫ですかね?」
「落ち着くまで忙しいだろうな」
ティタンとマオはリンドールの方角を見やる。
本当はミューズのもとへ一緒に行きたかったが、様々な準備も必要だし、ティタンでは立て直しの邪魔にしかならないと、アドガルムで待つこととした。
アドガルムも婚姻に向けて、経済力や権力を示すための準備が必要だ。
宗主国として、リンドールからも周りからも認めてもらうよう、弱さを見せるわけにはいかない。
リンドールも盛大にティタンを迎えなくてはならず、その準備と資金繰りが必要だった。
属国として、ティタンに失礼がないようにと。
双方とも念入りな準備のために時間が必要だった。
あれから一年。
ティタンはリンドールの国王が座る玉座の間に入った。
今日のティタンは、黒い服に金の刺繍が施された衣装を身に纏っている。
帯剣をし魔獣の毛皮が使われたマントも羽織っていた。
マオは男装した姿で、ルドやライカも騎士の鎧を纏って、ティタンに付き従う。
「リンドール国王ディエス=スフォリア殿。約束を果たしに来ました」
ティタンはアドガルムからの親書を手渡した。
「アドガルム国王より承ったそれにサインを。そして彼女を俺のものとしたい」
正式な婚姻を承諾するもの。
混乱の最中交わされた婚約がこの度実を結ぶのだ。
「アドガルム国ティタン=ウィズフォード殿。娘を、お願いいたします」
ディエスがしっかりとした筆跡で、色々な思いを噛み締めるようにしてサインをしていく。
国を、娘を守ってくれた男性だ。
婚姻を交わすという事は人質の意味合いがあるが、娘はとても嬉しそうな顔をしている。
一年一緒に暮らしたが、本音としては娘が遠くに行くのはやはり寂しい。
ディエスは少し泣きそうになっていた。
「必ずや幸せにしてみせる」
ティタンはそう宣言し、ディエスから受け取った書類をマオに渡す。
マオがしっかりと確認し頷くと、書類を大事に仕舞い込んだ。
ティタンの目線は、そのままディエスの隣にいるミューズに移る。
金の髪はあの頃より長くなり、きれいに整えられている。
化粧も施され、薄紫のドレスを着用していた。
頬を僅かに桃色に染め、潤んだ瞳はずっとティタンを見つめていた。
「ティタン様……お待ちしておりました」
優雅な礼をして、ミューズはティタンを受け入れる。
一年経ち、ようやくティタンと、再び会うことが出来た。
手紙でのやり取りはしていたが、こうして会えることはやはり感動が違う。
ミューズは喜びと嬉しさで、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
ミューズはティタンに会うためマナーも学び直し、見た目の美しさと、内面にも気を配って己に磨きをかけた。
自信を持って、彼と対面出来るようにと努力をした。
「久しいな、ミューズ王女。息災だったか?」
ティタンは厳かにそう告げる。
久しぶりに会えた彼は、あの頃より幾分か落ち着いた雰囲気となっていた。
たった一年なのに、長い一年だった。
「あなた様の慈悲のおかげで、こうしてここに立つことが出来ております。ジュリア様を退けるため此度戦が行なわれましたが、ティタン様の手腕により、想定していたより早く終わらせる事が出来ました。おかげで一年という短い期間でもここまで国を立て直す事が出来ました」
悪政を潰す為、リンドール国の貴族たちも少なからず手助けをしてくれたのも大きい。
リンドールに攻め入ったティタンだが、戦う意志なきものには降伏するよう迫った。
身の丈程ある大剣を振るい、鬼神の如き強さを見せつけたティタンだが、剣を捨てるものを追いはしないと約束した。
捕虜とし、拘束する事はあったが、降伏したものをそれ以上いたぶることもなかった。
「リンドール国の善なる者たちの功績だ。俺はただ、暴れまわっただけだ」
その言葉に、ミューズはくすりと笑う。
「謙遜を。将として、とても凛々しかったですよ」
ミューズを伴い、リンドール王城を制圧する際の気迫は今でも覚えている。
戦いとなれば躊躇うことをしなかった。
圧倒的強さはリンドール兵士達の士気を奪い、アドガルムの兵士達は逆に士気を高揚させた。
ただ暴れるだけの男に、あそこまで人はついてこない。
「全ては君の為に必死だった」
並べば体格差が際立つ。
華奢なミューズと、大柄なティタン。
政略結婚と言われている二人。
だが、見つめ合う二人にそんな雰囲気はなかった。
ようやく会えた恋人同士の表情だ。
ティタンが出した手の上にミューズも自身の手を重ねる。
「また触れられて嬉しいな。あの頃はずっと一緒だった、これ程離れるとは思っていなかった」
「私もです。あの頃の私は、あなたからの愛情を素直に受け止められなかった。こんなに離れてしまうならば、もっと正直になるべきでした」
エリックの言葉が懐かしく思い出される。
日常は、あっという間に壊れてしまうのだと。
不変のものはない。
少しの事で、戻れないこともある。
微笑み、見つめ合う。
暖かな眼差しと重ねた手の体温が、心地良い。
「妻のためなら何でもする、夫とはそういうものだ」
「懐かしい言葉です…」
手を繋いだ二人は、新たな歩みを始める。
今度はずっと一緒だ。
リンドール王城を去った後、二人はシグルドが治める辺境伯へと身を寄せる。
ゆくゆくはそこを継ぐために。
ティタンはシグルドと共に魔獣と戦ったり、ミューズは自然豊かな土地で薬草を育てたりしていた。
時折エリック達やロキ達が訪ねてきたりがあるが、どちらから来るとしても程良い距離であった。
ディエスの後は何かあれば、今後は王弟であるクラナッハが施政を行うと書面で残す。
リリュシーヌが亡くなり、哀しみでまともな判断が出来なかった時に、ジュリアに隙を突かれたのだ。
同じような過ちを繰り返すわけにはいかない。
「もう毒杯など、君には差し出されない。俺がその杯ごと叩き潰すからな」
ティタンの力強い言葉だ。
ミューズは握る手に力を込める。
「私ももう、大人しく飲んだりしませんわ」
隣には共に人生を歩む人がいるのだ。
死をただ受け入れるような事はもうしない。
「これからはずっと一緒だ」
「えぇ、約束します」
何があろうと、離れることはない。
王国の中身を深く知ってしまっては、他国に出させるわけにはいかない。
謀反の可能性もあるし、再び誰かに担ぎ上げられてしまうかもしれない。
ジュリアの大罪も考慮して斬首も考えられたのだが、ミューズが止めた。
ジュリアの罪は重すぎるが、カレンはそこまで関わったわけではないと。
そのため幽閉となったが、そう遠くない内に病死という名目で、ミューズには秘密で毒杯を授けられるだろう。
ジュリアに使用された毒と同じものかはわからないが。
「例えばだが、リオンはそのままカレンと共になり、リンドールを治めようとは思わなかったのか?」
ティタンは興味本位で聞いた。
リオン程の知力なら、あそこからの立て直しも図れただろう。
ティタンの言葉にリオンは首を横に振る。
「兄様達に楯突く気はないですよ。それにカレン様は僕の好みではないです」
きっぱりとリオンは言った。
ティタン達がアドガルムへ帰った後、ミューズはそのままリンドールに留まった。
国王の体調はいまだ全快には至らないし、かと言って全てをクラナッハに任せてばかりもいられない。
国王の看病や官僚たちの再編成など、ミューズも携わっていく。
今はとても忙しいだろう。
国王派の者達も懸命に元のリンドールに戻そうと尽力している。
アドガルムからも落ち着くまではと人を派遣し、力を貸していた。
ディエスによりティタンとミューズの婚約は認められたが、リンドール国王の承認が戦の後であったため、世間からは政略的なものだと見られていた。
リンドールの姫は人質としてアドガルムに嫁ぐのだと。
ティタンは気にしなかった。
親しいものだけが本当の事を知っていれば充分だから。
アドガルムから思いを馳せる。
「ミューズ様は大丈夫ですかね?」
「落ち着くまで忙しいだろうな」
ティタンとマオはリンドールの方角を見やる。
本当はミューズのもとへ一緒に行きたかったが、様々な準備も必要だし、ティタンでは立て直しの邪魔にしかならないと、アドガルムで待つこととした。
アドガルムも婚姻に向けて、経済力や権力を示すための準備が必要だ。
宗主国として、リンドールからも周りからも認めてもらうよう、弱さを見せるわけにはいかない。
リンドールも盛大にティタンを迎えなくてはならず、その準備と資金繰りが必要だった。
属国として、ティタンに失礼がないようにと。
双方とも念入りな準備のために時間が必要だった。
あれから一年。
ティタンはリンドールの国王が座る玉座の間に入った。
今日のティタンは、黒い服に金の刺繍が施された衣装を身に纏っている。
帯剣をし魔獣の毛皮が使われたマントも羽織っていた。
マオは男装した姿で、ルドやライカも騎士の鎧を纏って、ティタンに付き従う。
「リンドール国王ディエス=スフォリア殿。約束を果たしに来ました」
ティタンはアドガルムからの親書を手渡した。
「アドガルム国王より承ったそれにサインを。そして彼女を俺のものとしたい」
正式な婚姻を承諾するもの。
混乱の最中交わされた婚約がこの度実を結ぶのだ。
「アドガルム国ティタン=ウィズフォード殿。娘を、お願いいたします」
ディエスがしっかりとした筆跡で、色々な思いを噛み締めるようにしてサインをしていく。
国を、娘を守ってくれた男性だ。
婚姻を交わすという事は人質の意味合いがあるが、娘はとても嬉しそうな顔をしている。
一年一緒に暮らしたが、本音としては娘が遠くに行くのはやはり寂しい。
ディエスは少し泣きそうになっていた。
「必ずや幸せにしてみせる」
ティタンはそう宣言し、ディエスから受け取った書類をマオに渡す。
マオがしっかりと確認し頷くと、書類を大事に仕舞い込んだ。
ティタンの目線は、そのままディエスの隣にいるミューズに移る。
金の髪はあの頃より長くなり、きれいに整えられている。
化粧も施され、薄紫のドレスを着用していた。
頬を僅かに桃色に染め、潤んだ瞳はずっとティタンを見つめていた。
「ティタン様……お待ちしておりました」
優雅な礼をして、ミューズはティタンを受け入れる。
一年経ち、ようやくティタンと、再び会うことが出来た。
手紙でのやり取りはしていたが、こうして会えることはやはり感動が違う。
ミューズは喜びと嬉しさで、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
ミューズはティタンに会うためマナーも学び直し、見た目の美しさと、内面にも気を配って己に磨きをかけた。
自信を持って、彼と対面出来るようにと努力をした。
「久しいな、ミューズ王女。息災だったか?」
ティタンは厳かにそう告げる。
久しぶりに会えた彼は、あの頃より幾分か落ち着いた雰囲気となっていた。
たった一年なのに、長い一年だった。
「あなた様の慈悲のおかげで、こうしてここに立つことが出来ております。ジュリア様を退けるため此度戦が行なわれましたが、ティタン様の手腕により、想定していたより早く終わらせる事が出来ました。おかげで一年という短い期間でもここまで国を立て直す事が出来ました」
悪政を潰す為、リンドール国の貴族たちも少なからず手助けをしてくれたのも大きい。
リンドールに攻め入ったティタンだが、戦う意志なきものには降伏するよう迫った。
身の丈程ある大剣を振るい、鬼神の如き強さを見せつけたティタンだが、剣を捨てるものを追いはしないと約束した。
捕虜とし、拘束する事はあったが、降伏したものをそれ以上いたぶることもなかった。
「リンドール国の善なる者たちの功績だ。俺はただ、暴れまわっただけだ」
その言葉に、ミューズはくすりと笑う。
「謙遜を。将として、とても凛々しかったですよ」
ミューズを伴い、リンドール王城を制圧する際の気迫は今でも覚えている。
戦いとなれば躊躇うことをしなかった。
圧倒的強さはリンドール兵士達の士気を奪い、アドガルムの兵士達は逆に士気を高揚させた。
ただ暴れるだけの男に、あそこまで人はついてこない。
「全ては君の為に必死だった」
並べば体格差が際立つ。
華奢なミューズと、大柄なティタン。
政略結婚と言われている二人。
だが、見つめ合う二人にそんな雰囲気はなかった。
ようやく会えた恋人同士の表情だ。
ティタンが出した手の上にミューズも自身の手を重ねる。
「また触れられて嬉しいな。あの頃はずっと一緒だった、これ程離れるとは思っていなかった」
「私もです。あの頃の私は、あなたからの愛情を素直に受け止められなかった。こんなに離れてしまうならば、もっと正直になるべきでした」
エリックの言葉が懐かしく思い出される。
日常は、あっという間に壊れてしまうのだと。
不変のものはない。
少しの事で、戻れないこともある。
微笑み、見つめ合う。
暖かな眼差しと重ねた手の体温が、心地良い。
「妻のためなら何でもする、夫とはそういうものだ」
「懐かしい言葉です…」
手を繋いだ二人は、新たな歩みを始める。
今度はずっと一緒だ。
リンドール王城を去った後、二人はシグルドが治める辺境伯へと身を寄せる。
ゆくゆくはそこを継ぐために。
ティタンはシグルドと共に魔獣と戦ったり、ミューズは自然豊かな土地で薬草を育てたりしていた。
時折エリック達やロキ達が訪ねてきたりがあるが、どちらから来るとしても程良い距離であった。
ディエスの後は何かあれば、今後は王弟であるクラナッハが施政を行うと書面で残す。
リリュシーヌが亡くなり、哀しみでまともな判断が出来なかった時に、ジュリアに隙を突かれたのだ。
同じような過ちを繰り返すわけにはいかない。
「もう毒杯など、君には差し出されない。俺がその杯ごと叩き潰すからな」
ティタンの力強い言葉だ。
ミューズは握る手に力を込める。
「私ももう、大人しく飲んだりしませんわ」
隣には共に人生を歩む人がいるのだ。
死をただ受け入れるような事はもうしない。
「これからはずっと一緒だ」
「えぇ、約束します」
何があろうと、離れることはない。
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