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潜入

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「そうと決まれば早く戦争を終わらせねばな」

ミューズをベッドへと降ろすと大剣と外套を手にし、テントの外へ向かう。

「ゆっくりと休んでくれ。申し訳ないが明日もまたミューズの魔法に頼ってしまうと思う。だからしっかりと寝て少しでも魔力を回復させて欲しい」
「待ってください、ティタン様はどちらへ行くのですか?」

ここは隊長であるティタンの為のテントだ。

急に来た自分が使うところではない。

「いや外で寝ようと思ってな。さすがにミューズと一緒には眠れないだろ」
「では、私が外で寝ますのでティタン様はこちらで」
「女性を外で寝させるわけないだろ、俺は慣れてるから使ってくれ」
「ダメです、私が外に行きます。グリフォンと一緒だから大丈夫です」
外に出ようとするミューズを引き止めた。

「ここには男しかいないんだ、何かあってからでは遅い。そうでなくても君はこんなにキレイなんだ、他の男に見られたくない」

フードを外した時の皆の視線を思い出し、眉間に皺が刻まれる。

「ここで休んでもらえれば誰も入らないし安心だ。入口は俺が見張る」
「ですが、あなたが外で寝るなんて示しがつきません」
「…俺だって男だ。一緒にいて間違いが起きては困る」

なんとか説得したい。

「初めては式を挙げてからにしたい」
二人は同時に顔を赤くしてしまった。



結局ミューズもティタンも頑として譲らず、間にグリフォンを挟んで二人でテントの床に寝ることにした。
狭いけれど、折衷案としてそうなってしまった。



「副隊長のキールにここの部隊は任せる、ぜひここで持ち堪えてくれ。俺とミューズでムシュリウの王族を討ってこようと思う」

皆を集め、今朝早くに話し合ったことを伝えた。

ムシュリウの本隊は今シェスタ国へ攻め入っているところだ。

シェスタ国も辛うじて粘りを見せており陥落はしていないが時間の問題だ。

昨日のように別働隊を倒したりはしているが、シェスタ国への兵が全て倒せたわけではない。

「兄上達がシェスタの援護に回って下さっているから、俺たちはムシュリウ付近の兵士たちをここで食い止めている。これ以上あちらに兵を増やさせないようにしているが、昨日のミューズの活躍によってまた減らせた。しかし、ムシュリウの地にまだどれだけの兵がいるかはわからない」

ティタン達がシェスタに加勢しに行くとアドガルムに兵が向くかもしれず、中間地点であるここからあまり大きくは動けないそうだ。

「ミューズの魔力はだいぶ多いようだから、俺と君とグリフォンに認識阻害の魔法をかければ内部に食い込めるんじゃないかと思ってな」

空を翔けるグリフォンなら馬で行くより早い。
将を討てば戦も終決しやすいと考えた。

「昨日俺が使用していた魔石の残りとミューズが持ってきた魔石を用いれば防御壁になる。これがあればだいぶ凌げるはずだ」
ミューズはありったけの魔石を収納袋から出した。
「こちらを持っていれば防御壁になりますが、一度使うと壊れてしまいます。残数に気をつけて戦ってください。皆さんけして無理はなさらぬように」

今まで森で倒した魔物の魔石を加工したものや、餞別として先生から貰ってきたものだ。

ティタンには別で魔石を加工したバングルを渡している。
強力な魔法でも数度は防げる代物だ。

「この国を守るのに命を懸けて戦うつもりだ、しかし無駄死にする気はない」

皆が見ている前で隣にいるミューズの肩に手を掛け、優しく引き寄せた。

周りから軽く嬌声が上がる。
「必ず生きて帰るぞ」



グリフォンの背中に乗り、凄まじい速さでムシュリウへと向かう。

ミューズが前に乗り、その背に覆いかぶさるようにティタンが乗っていた。
イグリッドが付けていた銜や鞍を付けさせ、ティタンが手綱を握っている。

ティタンはしょっちゅう馬に乗るためスピードになれているがミューズは落ちてしまうんじゃないかと心配だ。

(こんなにスピードが出るものなの?!)
声を出せば舌を噛みそうだ。

後ろでティタンが身体を押さえてくれているから何とか乗って魔法を維持出来ているが、早く着いてもらわないとミューズが保たない。

グリフォンの背に顔を押しあてなるべく風を避けているが、スピードに慣れることが出来ず体が震えてしまう。

「見えてきたぞ」
ティタンの声がし、少しだけ顔を上げてみた。

高い壁とその中に街がある。
その先にまた城壁があり、王宮が見えた。

高い建物がたくさん連なり、王宮の形を成していた。

グリフォンのスピードを緩めさせ、上空から見下ろす。

数時間飛ばしていたとは思えない程グリフォンとティタンは余裕だ。

「ミューズ、魔力は大丈夫か?」
「魔力は大丈夫です…ちょっと気持ち悪いですが」

荷物から気付け薬を出した。
念の為魔力補充の魔石も使用する。

「ムシュリウ国を覆うように結界が張ってあります。穏便に通るのは難しいですね」

どこかに穴がないか、ミューズは目を凝らす。
「結界を破り強引に入るか、城門をこじ開けるか…」

グリフォンを置いて行くと王宮へ着くのが遅くなってしまう。

皆で行くのにはどうしたらいいものか。

「それならこれを使おう」
ティタンが出したのは金貨が入った袋だ。
「認識阻害でグリフォンは馬に見えるようにしてくれ。俺たちの格好も旅する夫婦のものにな。戦で逃げてきた夫婦を演じて門番を買収したらいい」

金貨の袋にパラパラと何かの粉をまぶす。

「少し感覚が鈍くなる薬を使えば騙しやすいだろう。魔法と違い感知されづらい」

ムシュリウは魔法で大成した国だ。

薬草などを輸入するより、魔石の補充に力を入れている。
効果の遅い薬草よりも即効性のある魔法のほうが重きを置かれているのだ。
故に薬草への耐性がある者の方が少ない。

「門番ごときなら気づかないだろう。ダメならば強硬突破するぞ」



二人は門番にお金を渡して無事に通ることが出来たので、適当な宿屋で夜を明かした。

部屋は同じにしてもらったが、ベッドはわけてもらうことができたので、しっかりと明日に備えることが出来た。

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