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戦場②

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「全く、なんて無茶をするんだ!」

敵を退け、野営のテントにてミューズは説教を受けていた。

「だってあなたが心配で…」
「俺は騎士だ、命をかけて国の為に動くのは当たり前だ。しかし君は違う。あの森を守るためにいるのだろう?」

ティタンは溜息をつき、俯いた。

「…あなたが何も言わずに戦争へ出てしまったから、私はここまで来たのですよ」
ぽつりと拗ねるような小さい声で呟いた。

「あんなにいっぱいプロポーズされたのに、私はあなたの事を詳しく知らないの。次来たらいっぱい話そうってようやく決意しました。なのに」

二度と会えなくなるかもしれないと戦場へ来てしまった。

「私のために、騎士を辞めるとまで言ってくれたのに」
涙が滲むのが抑えきれない。



ティタンは困惑した。

こんなにも感情豊かに話してくれるとは思っていなかった。

森で会う彼女は嫋やかで常にニコニコとしており大人の余裕を感じられていた。

それなのに今は怒ったり泣いたり、子供みたいに頬を膨らませている。

初めて見る可愛らしさに思わず頭を撫でてしまった。

「大人しく待つことはできなかったか」
自分に会いたくて来てくれたという思いをティタンもやっと受け入れられた。

コクリと頷くのを見て、嬉しく思う。

「それは俺のプロポーズを受けてくれたということだな?」
「ふぇ?」
ミューズの気の抜けた声と顔。

途端カァーっと顔が赤くなる。

「そ、そこまでじゃなくて、ただあなたと話したいって思っただけです!」

「それだけで命をかけてここに来たのか?俺を愛してくれているってことじゃないのか?」

ティタンは顔がニヤけるのを抑えられない。
無意識ながらもきっとミューズは自分を愛してくれている。

「この戦争が終わったら婚約しよう。騎士は辞めてしまうから仕事も探さねばな、一緒に森の魔物討伐に繰り出すか」

前衛として絶対役に立つと自負している。

「それが、森の術師はあと2年で交代なのです」
「そうなのか?」
「えぇ、ある程度したら次の者が引き継ぎますわ。本当の森の術師である先生はとても忙しく、弟子である私達が交代で森の術師をしているのです」

「ではあと二年待てば、俺の屋敷に来てくれるか?」
「…それにはまずお互いを知りましょう。私もあなたも」

ジュエルから聞いた話を全てではないが、本人に確認してみる。

「身分については偽ったわけではないが、怖がらせないよう敢えて言わなかったのはあるな」
第二王子ではあるが、王族ということで森に入れてもらえなくなるかもと考えていた。

「俺は公務で前に出ることも少ないから名前くらいでは気づくものも少ないと思ったんだ。ただ君のために騎士を辞める気持ちは本物だ。兄上をどう説得するかが問題だがな」

見た目の美麗さと違ってエリックは蛇のようにしつこい性格だそうだ。

「現王太子妃であるレナン嬢を迎える際もだいぶ揉めたそうだが、兄上が他の候補者をつぶして進めた。婚約者候補の実家の痛いところ突くなどして、穏便に引いてもらったらしい」

目的の為なら手段は選ばない。

「兄上の側近のニコラも人を殺めることすら厭わない者だし。君が呪い返しした相手も呪いの力だけでは飽き足らず、手を下しに行ってるからな」
「えっと…」

呪い返しについては言わなかった気がするが。

あの時は複数の者に呪い返しをしたことで珍しく疲れてしまったのを覚えている。

「貴族の中にレナン嬢と同じ症状が急に出たら流石に気づくさ。しかも何食わぬ顔でレナン嬢の呪いを解いた術師を教えてくれなんて言いに来たんだぞ。厚顔無恥にも程がある」

だがらエリックは報復を命じた。

レナンが苦しんだ何倍もの痛みを関わった者達全てに返せと。

「こわっ…!」

ミューズが呪い返しをしたのだが、更に痛めつける事を考えるなんて身震いしてしまう。

「兄上はレナン嬢を愛してるから許せなかったんだ、普段はとても優しい人だよ」

嫌われまいと慌てた様子でフォローに入った。

印象を悪くしたいわけではない。

「情の厚い人なんだ、身内にはとても優しい。俺も兄上にだいぶ助けられたから騎士として支えていこうと日々鍛錬を重ねていた」

だから護衛騎士として付き従ってる。

後継者争いなどしたくもない。

「そこまで大切に思うなら、私のために騎士を辞めるなんて言葉出ないと思うんだけど…」

「君のほうが大事だからだよ」
優しい瞳が向けられる。

「そのオッドアイを見た時から確信している。君は八年前に病死したとされるスフォリア公爵令嬢、ミューズ=スフォリアだろ?」
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