上 下
5 / 20

戦場

しおりを挟む
何個目かの魔石が割れただろうか。


ミューズからもらった守りの魔石がキラキラと砕け散っていく。

「念の為と思って持ってきたが、凄い効果だ」
お守り代わりと思っていたが砕けてしまうのはとても切ない。

せっかく愛する人からプレゼントされた物なのに。

しかし、もしもここで命を落とす事になれば二度と会えないと気持ちを切り替える。

命を奪い合うのが戦場だ。
死ぬ気はないが、どうなるかなどわからない。

屋敷に置いておくより身につけてミューズの事を想っていたかった。



戦況は良くはない。

魔法大国と呼ばれるあちらの攻撃は強力だ。

範囲の広い多体相手の攻撃魔法が多いのだ。

こちらも魔術師はいるが、防御壁を張るのが精一杯で、攻撃に転ずることは出来ない。

ティタン達騎士団が攻め入るも一進一退の攻防だ、寧ろ僅かに押されてもいる。

同盟国シェスタも騎士と聖女と呼ばれる攻守一体の戦法を用いて戦っている。

守りや回復に特化したものが多いので、ムシュリウのような広範囲の攻撃魔法に両国共苦戦を強いられているのだ。

(魔法にて頂点に立ちたいという国だったが、こんな早く仕掛けてくるとは)

不穏な噂は聞いていたが、戦争を仕掛けるとは思っていなかった。

不意にあちらの騎士団が逃げるように後ろに下がった。

「何だ?」

揺動か罠であろうと思うが、追いかけるか否か一瞬迷った。

魔術師団が並んでいるのが目に映る。



「はっ?」
眼前に突如現れた炎はティタン達を飲み込むことなく、見えない壁に遮られた。

熱さを感じることも、傷を負うこともない。

ティタンの持つ魔石も欠けることなく自分の懐にある。

「ティタン様!」
何もない空から声がした。

ティタンが見上げると認識阻害の魔術が剥がれ、上空にはグリフォンに乗ったミューズが両手を突き出してこちらを見ていた。

防御壁を張っているのは明らかだ。

急に現れたグリフォンに部隊から困惑の声が上がる。

「あれは俺の術師だ!攻撃するな!」
大声で叫ぶと、ミューズの真下まで走る。

ミューズは防御壁を解かぬよう注意を払い、ゆっくりとティタンの元へ下降する。

「何故ここへ来た!ここは戦場だ!」
怒りに満ちた声、ミューズは予想していたとは言え、本気の怒りに怯んでしまう。

「申し訳ございません、遅くなりました」
「そうではない、命を落とすかもしれないのだぞ。なぜあの森で待っていてくれなかったのだ」

ティタンは表情を歪ませ、自分の不甲斐なさに両の手を握りしめた。

戦いなどに参加させたくないのに。

「助けてくれたことは感謝する、しかし術師殿はここから早く去ってくれ。国や民をを守るのは俺たちの仕事だ」

「嫌です」

決意を込め、ミューズはフードを外し、真っ直ぐにティタンを見つめる。

長い金髪は邪魔にならないよう結い上げられ、金と青のオッドアイはティタンを見つめている。

白い肌に整った顔立ち。
どよめきが走るのをティタンは苦々しく思った。

「私の事はミューズとお呼びください、そしてあなたの配下に加えてください。攻撃も防御も回復も行えます。ご命令があれば何でも致します、ですのでどうかお側に仕えさせてください」

恭しく礼をすると、ミューズの手から金色の粉と放たれる。

騎士たちの怪我は回復し、体が軽くなった。

「あなたが望めばあの炎よりも強いものをあちらに返せます。私は剣にも盾にもなれます。どうかご命令を」

あちらの攻撃が収まり、防御壁も解かれた。

次なる決断を急がねばならない。

「すぐにここを立ち去ってくれ」
思う気持ちは変わらない。

「嫌ですってば。命を落とすかもしれないこの地であなたと離れたくありません。私は貴方と共に生きたいと思いここまで来たのですから。無理ならば私は単独で行きますよ」
「待て!」

すぐにでもグリフォンと飛び立ちそうなミューズを抑える。

「敵を倒すのは俺たちの役目だ。だから俺たちに防御壁を張ってほしい。君は俺の側で常にサポートしてくれ。けして離れるな」

帰らないというならば側に置くしかない。
そして彼女に人を殺めさせるわけにはいかない。

「ついてこい、遅れるなよ」
「はい!」

防御壁と言われたが、身体強化の術もかけ、ブーストしておく。
特にティタンには念入りに防御壁をかけた。

「敵を殲滅する、皆遅れをとるな!」

大剣を手にし、ティタンは駆け出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...