目覚めたら死んでから１０年経っていた、まずは国に帰ろう

安寧の日

日が経つにつれ、エリックの体は元の年齢に近づいていく。

それに合わせ体力も増えたので、十年の空白を埋めるために余暇時間や睡眠時間を削り、アドガルムで起きたことや周辺諸国との関係性を頭に叩き込んでいく。

「エリック兄様、あまり無理なさらずに」
リオンが心配し声をかけるが、エリックは意に介さない。

「無理もするさ、今までお前たちにさせてきたのだから。少しでも追いつかねばなるまい」
二コラも同様に勉強をし直していく。

情勢の把握には務めていたが、アドガルムの内情については城を離れるとわからないものだ。

エリックをまた補佐するためには、情報が足りない。

「オスカー、キュア。今までの情報を教えてもらえたらありがたい。エリック様の手助けをするには俺には足りないものばかりだ」
二コラを知らない者にとっては、仕事に首を突っ込む知らないもの、ということで面白くない表情をされた。

だが、今まで王太子妃を支えていた護衛騎士と護衛術師を付き従えているため、二コラに表立って苦言を言うものはいない。

エリックについても訝し気な顔をするものがおり、陰で悪く言うものも出ている。

王太子に容姿が似てる別人が城に入り込んだとして噂されるようになった。

勿論噂の否定は行なっているが、何らかの形で力で示さねば納得はしないだろう。

「口だけでいうのは外野が納得してくれないから、折角だから周辺諸国の力を借りようじゃないか。ルアネドとグウィエンに証言してもらおう」

いくら国王のアルフレッドや王太子代理のリオンが言っても仕方ないのならば、友人達にエリックが本物だということの証言を頼めばいい。

他国の者も認めるならば、信憑性はぐんと高くなるはずだ。

何より二人にまた会いたいのもあるし、国交も以前のように活気あるものにしたい。

「そうですね。ぜひお越しいただきましょう」
リオンも賛同してくれた。

「十年の空白の時間はどう説明しますか？」
ティタンは疑問を投げかけた。

「子どもになる呪いにかかっていたとでもしたらいいさ。この国では呪いについての知識が浅い、呪いが解けて今ようやく顔を出せるようになったと言えばいい」
今やエリックは立派な青年だ、あと少しで亡くなった年になる。

そろそろレナンに触れても怒られないだろうか。

「少しだけレナンに会ってもいいだろうか？」
話題に出したからか根詰め過ぎたからか、無性に会いたくなった。

最近知識と情報の詰め込み作業をしていて、なかなか会う時間が取れなくなっていたから、余計に会いたい。

「いいと思いますよ、義姉様も喜びます」
リオンの後押しもあって、エリックは少しだけとレナンの執務室へと向かう。

皆は微笑ましく思いながら、その後ろ姿を見送った。









「いない？」
レナンの執務室へと向かうと、いたのは部屋を管理する侍女だけで、部屋の持ち主はいなかった。

「少し気分転換に中庭でお茶をとキュア様と一緒に出ていかれました」
キュアも一緒ならいいかと、場所を聞いてエリックも向かう。

ずっと部屋にこもるよりはいい事だ。

だが、そこにいたのはレナンとキュアだけではなかった。

「あの男は、誰だ」
エリックは冷たい声でそう言った。