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国王と王妃
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「待ちくたびれたぞ!」
子ども達と話し終え、ようやくこの王城の主のもとへ来た。
皆と別れ、エリックとレナンとそして二コラが後ろに控えている。
エリックの父と母である、アドガルム国の国王と王妃。
エリックと同じ金髪翠眼の男性アルフレッドと、金髪碧眼の女性アナスタシア。
「会いたくて会いたくて、そちらに突入しようと思ったところだぞ」
「それはダメですよ。邪魔をしては、娘と孫に嫌われてしまいますわ」
王妃のアナスタシアはレナンを大事にしており、娘と呼んでいる。
「父上、母上。戻って来るのが遅くなり、申し訳ありませんでした。そしてレナンや子ども達を助け、支えてくれて感謝しております。おかげでこうしてまた、ここに立つことが出来ました」
エリックが歩みを進め、二人の前に立つ。
「ただいま、父上。母上」
アルフレッドが涙を流す。
「馬鹿者! 妻と子を悲しませて……それでも一家の長か! どれだけ待ったと思うんだ!」
「それについては返す言葉もありませんね」
エリックは苦笑いをする、お叱りはご尤もだ。
アナスタシアもほろほろと涙を流した。
「訃報を聞いた時は心臓が止まるかと思ったわ。でもレナンを庇ってと聞いて、最後まで立派な息子だと……こうして戻ってきてくれて何よりです。もうレナンから離れてはいけませんよ」
子供になった息子を二人は抱きしめる。
「苦しいです、父上」
年を重ねたとはいえ、大柄な体格のアルフレッドの力は、今のエリックには強すぎる。
慌ててレナンが止めに入った。
「お義父様、落ち着いてください!」
「娘に言われては仕方ないな」
アルフレッドは素直に離れる。
その隙にアナスタシアがエリックの肌に触れていた。
「すべすべね、子供の頃のあなたと同じだわ。まぁこの頃のあなたは触らせてなんてくれなかったけど」
「お義母様もダメです!」
もう、と怒りながらエリックを二人から引きはがす。
「やっと帰ってきてくれたんですから、優しくしてくださいな!」
レナンに怒られ、二人は嬉しそうだ。
「おお、レナンが怒ってくれたぞ」
「久しぶりにこのような大声を聞いたわ、やはりエリックがいないと駄目ね」
レナンは口を押え恥ずかしそうにする、エリックはレナンと父母を交互に見る。
「エリックがいなくなってから、ずっとふさぎ込んでしまって。こんな風に感情を出すことなんて、ほとんどなかったのよ」
「笑顔ではあったが、こんな風に明るい笑顔は久しぶりだ。本当に良かった……」
自分がいない十年、どんなに寂しい思いをさせてしまったか、想像をしなかったわけではないが、言葉に出して言われるとやはり重みが違う。
「これからは大丈夫、俺がいるから」
皆の前で宣言する、もうあんなことにはなりたくない。
「父上。レナンが守ってくれた王太子の地位に、俺はどうやって返り咲いたらいい?」
ずっと悩んでいた現実問題を国王に突きつけた。
近しい者は子どもの姿になったエリックを、エリックだと認めてくれている。
しかし、エリックは死んだという話も知れ渡っており、襲撃から生き残ったアドガルム兵が何人もその遺体を見ていた。
今城内を歩いた感じでも訝し気な視線ばかりだし、民はもっと困惑するだろう。
長年リオンが代理をしてくれていて、リオンの方が信頼が厚いのもある。
久方ぶりに表舞台に立ったエリックを信頼してくれるものだろうか。
ましてや子どもの姿だ、実は生きていて長期の病気療養をしていたという名目にしても、不自然すぎる。
「アイオスを立太子し、そちらの補佐をしますか?」
エリックの提案にアルフレッドは渋面になる。
「いや、それだと俺が引退できないから嫌だ。エリックに今すぐでも王位を譲り、余生は孫たちとまったりと過ごす予定なんだからな」
本当はとうの昔に王位を渡していたはずなんだと言われる。
「急に成長は出来ませんので、もう少し頑張ってください。せめて背が伸びるまでは」
そうしたらまだなんとかなりそうだ。
年を取っていない皺のない顔では不自然だから、二コラのように仮面をかぶったり、化粧をして誤魔化そう。
「声変わりが終われば、以前のような声になるかとは思いますが」
「そう言えば、今の姿って若い頃のエリックなのよね。何だか不思議…」
会った時は既に声変わりも終わっていて、背もレナンより高かった。
そう考えるとこの若かりし姿は、貴重なのではないだろうか。
「この頃のエリックは本当に笑わなくて、家族以外受け付けなかったのよ。使用人からも何を考えているかわからないって言われて、怖がられていたわ」
「そうなんですね」
アナスタシアが思い出話を聞かせてくれる。
「それなのに顔はいいから、縁談の話は舞い込んでくるし。エリックが全く受ける気がなかったから断るのも大変だったのよ」
「確かにこの顔ならモテそう」
成長途中の中性的な美貌、白い肌は汚れを知らないきめ細やかさ。
「やめよう、この話題は」
エリックはこの顔のせいで数日前に男色家に襲われかけたのだ
それを思い出したくない。
「王太子の件は落ち着いてから、また考えよう。エリックの部屋も二コラの部屋もそのままにしてあるから、そこで過ごしてくれ。今夜はゆっくりするがよい」
後ろに控える二コラにもアルフレッドは視線を移す。
「二コラも長旅で疲れただろう、十年も寄り付かないとは思わなかったな。マオから元気だとは聞いていたが、連絡くらい寄こして欲しかったぞ」
「すみません。一刻も早くエリック様を見つけねばと思い、失念しておりました。落ち着きましたら海の向こうの異国の話をお聞かせしますので、それでお許し頂ければと思います」
二コラの言葉にエリックも気になってしまう。
「それは興味深いな、俺にも後で教えてくれ」
まだまだ話したい事聞きたいことはあり、話題が尽きることはない。
長年の積もりに積もった事柄は、とても今日一日で話し終わるものではなかった。
子ども達と話し終え、ようやくこの王城の主のもとへ来た。
皆と別れ、エリックとレナンとそして二コラが後ろに控えている。
エリックの父と母である、アドガルム国の国王と王妃。
エリックと同じ金髪翠眼の男性アルフレッドと、金髪碧眼の女性アナスタシア。
「会いたくて会いたくて、そちらに突入しようと思ったところだぞ」
「それはダメですよ。邪魔をしては、娘と孫に嫌われてしまいますわ」
王妃のアナスタシアはレナンを大事にしており、娘と呼んでいる。
「父上、母上。戻って来るのが遅くなり、申し訳ありませんでした。そしてレナンや子ども達を助け、支えてくれて感謝しております。おかげでこうしてまた、ここに立つことが出来ました」
エリックが歩みを進め、二人の前に立つ。
「ただいま、父上。母上」
アルフレッドが涙を流す。
「馬鹿者! 妻と子を悲しませて……それでも一家の長か! どれだけ待ったと思うんだ!」
「それについては返す言葉もありませんね」
エリックは苦笑いをする、お叱りはご尤もだ。
アナスタシアもほろほろと涙を流した。
「訃報を聞いた時は心臓が止まるかと思ったわ。でもレナンを庇ってと聞いて、最後まで立派な息子だと……こうして戻ってきてくれて何よりです。もうレナンから離れてはいけませんよ」
子供になった息子を二人は抱きしめる。
「苦しいです、父上」
年を重ねたとはいえ、大柄な体格のアルフレッドの力は、今のエリックには強すぎる。
慌ててレナンが止めに入った。
「お義父様、落ち着いてください!」
「娘に言われては仕方ないな」
アルフレッドは素直に離れる。
その隙にアナスタシアがエリックの肌に触れていた。
「すべすべね、子供の頃のあなたと同じだわ。まぁこの頃のあなたは触らせてなんてくれなかったけど」
「お義母様もダメです!」
もう、と怒りながらエリックを二人から引きはがす。
「やっと帰ってきてくれたんですから、優しくしてくださいな!」
レナンに怒られ、二人は嬉しそうだ。
「おお、レナンが怒ってくれたぞ」
「久しぶりにこのような大声を聞いたわ、やはりエリックがいないと駄目ね」
レナンは口を押え恥ずかしそうにする、エリックはレナンと父母を交互に見る。
「エリックがいなくなってから、ずっとふさぎ込んでしまって。こんな風に感情を出すことなんて、ほとんどなかったのよ」
「笑顔ではあったが、こんな風に明るい笑顔は久しぶりだ。本当に良かった……」
自分がいない十年、どんなに寂しい思いをさせてしまったか、想像をしなかったわけではないが、言葉に出して言われるとやはり重みが違う。
「これからは大丈夫、俺がいるから」
皆の前で宣言する、もうあんなことにはなりたくない。
「父上。レナンが守ってくれた王太子の地位に、俺はどうやって返り咲いたらいい?」
ずっと悩んでいた現実問題を国王に突きつけた。
近しい者は子どもの姿になったエリックを、エリックだと認めてくれている。
しかし、エリックは死んだという話も知れ渡っており、襲撃から生き残ったアドガルム兵が何人もその遺体を見ていた。
今城内を歩いた感じでも訝し気な視線ばかりだし、民はもっと困惑するだろう。
長年リオンが代理をしてくれていて、リオンの方が信頼が厚いのもある。
久方ぶりに表舞台に立ったエリックを信頼してくれるものだろうか。
ましてや子どもの姿だ、実は生きていて長期の病気療養をしていたという名目にしても、不自然すぎる。
「アイオスを立太子し、そちらの補佐をしますか?」
エリックの提案にアルフレッドは渋面になる。
「いや、それだと俺が引退できないから嫌だ。エリックに今すぐでも王位を譲り、余生は孫たちとまったりと過ごす予定なんだからな」
本当はとうの昔に王位を渡していたはずなんだと言われる。
「急に成長は出来ませんので、もう少し頑張ってください。せめて背が伸びるまでは」
そうしたらまだなんとかなりそうだ。
年を取っていない皺のない顔では不自然だから、二コラのように仮面をかぶったり、化粧をして誤魔化そう。
「声変わりが終われば、以前のような声になるかとは思いますが」
「そう言えば、今の姿って若い頃のエリックなのよね。何だか不思議…」
会った時は既に声変わりも終わっていて、背もレナンより高かった。
そう考えるとこの若かりし姿は、貴重なのではないだろうか。
「この頃のエリックは本当に笑わなくて、家族以外受け付けなかったのよ。使用人からも何を考えているかわからないって言われて、怖がられていたわ」
「そうなんですね」
アナスタシアが思い出話を聞かせてくれる。
「それなのに顔はいいから、縁談の話は舞い込んでくるし。エリックが全く受ける気がなかったから断るのも大変だったのよ」
「確かにこの顔ならモテそう」
成長途中の中性的な美貌、白い肌は汚れを知らないきめ細やかさ。
「やめよう、この話題は」
エリックはこの顔のせいで数日前に男色家に襲われかけたのだ
それを思い出したくない。
「王太子の件は落ち着いてから、また考えよう。エリックの部屋も二コラの部屋もそのままにしてあるから、そこで過ごしてくれ。今夜はゆっくりするがよい」
後ろに控える二コラにもアルフレッドは視線を移す。
「二コラも長旅で疲れただろう、十年も寄り付かないとは思わなかったな。マオから元気だとは聞いていたが、連絡くらい寄こして欲しかったぞ」
「すみません。一刻も早くエリック様を見つけねばと思い、失念しておりました。落ち着きましたら海の向こうの異国の話をお聞かせしますので、それでお許し頂ければと思います」
二コラの言葉にエリックも気になってしまう。
「それは興味深いな、俺にも後で教えてくれ」
まだまだ話したい事聞きたいことはあり、話題が尽きることはない。
長年の積もりに積もった事柄は、とても今日一日で話し終わるものではなかった。
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