ものぐさ降魔士奇譚

玖凪 由

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おまけ

お題140字小説まとめ②

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【16】お題:『なびく』『林檎』
 登場人物:如月きさらぎゆら幸徳井こうとくい玲子れいこ

 一瞬、何をされたのかわからなかった。「あの、これが頭についてて」響の手元には花びらが一枚。「会長さん?」訝しげな声にはたと我に返った玲子が首を振る。「いえ、ありがとう」そこで、いたずらに吹いた風に煽られて髪がなびく。露わになった耳が林檎のように赤くなっていたことは、誰も知らない。


【17】お題:『知らない』『名前』
 登場人物:吾妻あがつま愛生あき平良たいら和希かずきルカ

 あ、ラブ&ピースだ、という声が聞こえ、そちらに向けて愛生が軽く手を振る。「や~アタシらもすっかり有名になっちまったなぁ」自分で思うのもなんだが、もう校内で知らない生徒はいないのではないだろうか。隣で歩いていたルカが微笑んだ。「そうだね。名前負けしないよう、がんばらないと」「だな」


【18】お題:『林檎』『シャツ』
 登場人物:如月響、三船みふね梨々花りりか

 口内にふわりと甘酸っぱい風味が広がる。このパンのソースに使われた林檎の味だろう。「これ美味しい!……って、やば!」危うく溢れたソースがシャツの上に垂れそうになり、慌ててパクつく。そんな梨々花を呆れたように見ていた響も同じものを口に含む。まぁたしかに、なかなか美味しいかもしれない。


【19】お題:『画面』『嫉妬』
 登場人物:たかむら竜之介りゅうのすけ

 自分は今、あの転科生に後れを取っている。その事実がどうしようもなく竜之介の身を焦がす。これは断じて嫉妬ではない。ふと気づけば手元のスマホがスリープしていた。その真っ黒い画面に映っていたのは、燃える己の瞳。「負けてたまるか」そのうち、絶対に追い抜かしてみせる。でなければ、俺は──。


【20】お題:『机』『はい』
 登場人物:幸徳井玲子、鵜飼うかい兼人けんと

 はい、と机に置かれたペットボトルを見て玲子は目を丸くした。「あまり根を詰めすぎないようにな」鵜飼にそう労われ、礼を述べて深々と頭を下げる。この教師は色々と気にかけてくれる。そういった姿勢を尊敬しているし、自分もまたそういう人間でありたいと強く思いつつ、玲子は差し入れに口をつけた。


【21】お題:『声』『ペン』
 登場人物:不破ふわ要一よういち名倉なくら満瑠みつる、平良和希ルカ

 ペンを走らせる音だけが響いている。「やっほ~」静寂に支配されていた空間に、声が入り込んできた。「名倉うるさい」「え~ひどいなぁ」「ごめんヨーイチ、邪魔したかな?」眉を下げるルカに、休憩するから大丈夫だと言う。「そーそー少しは休まなきゃ」「名倉うるさい」「もー要ちゃんてば冷た~い」


【22】お題:『投げる』『赤』
 登場人物:幸徳井玲子、古河こがかえで、吾妻愛生

 廊下を歩いていると、憧憬の視線が向けられる。手ぐらい振りゃいいのにと言葉を投げる愛生だが、すぐにまぁ会長はそーやってるほうがウケいいかと赤のフレームを軽く押し上げた。楓がちらと横目で窺う。依然凛々しく歩くその瞳に陰を見出すも、玲子の心情をおもんぱかった上で友は気づかぬふりをするのだった。


【23】お題:『楽しみ』『先生』
 登場人物:如月響、土御門つちみかど深晴みはる

「……あの」「んー?」「いつまでこうしてれば?」問いかけに返ってきたのは微笑みだけ。響は頬を撫でられている。その手がふいにするりと下り、うなじに触れた。先生、と抗議の声とともに手を振り払うと、深晴はなぜか笑みを深くする。「あら残念。私の楽しみなのに」この人の嗜好しこうは一生わからない。


【24】お題:『吐息』『しかし』
 登場人物:如月響、三船梨々花、篁竜之介

「竜、一緒にお昼食べよ~」「食うわけねぇだろ」すげなく返され、梨々花が呼び止めるも間もなく竜之介は行ってしまう。吐息がこぼれる。そのぐらいしてくれてもいいのに。「また断られちゃった。あたしたちだけで食べよっか」自分の参加は確定事項なのか。しかし文句を言う間もなく、響は連行された。


【25】お題:『指』『どこ』
 登場人物:如月響、古河楓

「響」「うわっ」突然目の前にどこからともなく降ってきた楓に驚き、響は思わず足を止める。「そこ、段差じゃぞ」楓が指さした先には、確かに段差がある。ぼーっとしていたため、このまま進んでいたらあやうくつまづくところだった。素直に礼を言うと、楓は笑って跳んで去っていった。本当に身軽な先輩だ。


【26】お題:『消化』『視線』
 登場人物:如月響、篁竜之介

 ふと視線を感じ、竜之介は首を巡らせた。その先で響がこちらをじっと見ている。「なんだよ」「…別に」妙な間を空けてそう答えてから去っていった。消化不良な思いを抱くも、気にしないことにする。──彼が頭に葉がついていることに気づいたのは、その少し後のことだった。「あのやろう、言えよ…!」


【27】お題:『吐息』『スカート』
 登場人物:幸徳井玲子

 はっと我に返った玲子は時計を見た。やってしまった、もうこんな時間だ。「……また怒られてしまうわね」親友のしかめっ面を思い浮かべ、吐息をこぼす。一度集中するとついつい時間を忘れてしまう。悪癖だと自覚はしているのだが。首を振った玲子は立ち上がってスカートを正すと、生徒会室を後にした。


【28】お題:『本』『ネクタイ』
 登場人物:篁竜之介、三船梨々花

 ネクタイを緩め、いざと竜之介が手元に目を落としたところで、ふいに声をかけられた。目を向けた先に梨々花がいる。「何してんの?」「見りゃわかんだろ」広げた本を仕草で示すと、部屋で読めばいいのにと首を傾げられた。彼はそれに無言で返す。続きが気になって仕方なかったから、とは言えなかった。


【29】お題:『髪』『空』
 登場人物:如月響

 開けた窓からぼんやりと夜空を眺める。一面の星がチカチカと瞬き、ほのかに地上を照らしていた。そよそよと吹く風が前髪を揺らし、顔にかかる。それを鬱陶しそうに払いのけ、息を吐いた響は窓を閉めた。そうして離れゆく背を月光が追いかける。微かに温かみのある光は、まるで門出を祝うかのようだった。


【30】お題:『机』『退屈』
 登場人物:如月響、氷輪

 響が机に向かって黙々と筆を動かしていた。傍らにいる氷輪は退屈そうに寝そべり、くゆりと尾を揺らしている。しばらくして、ふいに響が筆を置き、ん~っと腕を上にあげて伸びをした。「できた~…」「1枚だけではないか」「今日はもう無理」そう言ってさっさと席を立つ主に、氷輪は呆れた息をついた。


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