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第二部
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通された部屋は落ち着いた色調に統一されていた。柔らかい日差しが差し込んでいて、大きな窓からは街が一望できる。広々としてゆったりとお茶を楽しめそうなテーブルと椅子が配置されていて、花も飾られている。
奥は寝室に繋がっているという。カミーユはこんな広い部屋で暮らしたことはなかった。
「……素敵なお部屋ですね」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。バルバラは隣の侍女部屋を使ってくれていいから」
バルバラはカミーユの専属侍女としてそのまま傍においてもらえることになった。
この国の出身なら実家と連絡を取らなくていいのか尋ねたら、もう代替わりしているから誰も覚えていないだろうとあっさり断られた。
「お茶の支度ができたら、ちょっとだけ話そうか」
アレクがそう言ってカミーユに椅子を勧めた。
きっと馬車の中では教えてくれなかった話の続きだろう。そう思ってカミーユは頷いた。
「実は僕、命の危機が迫っているんだよね」
さらりとそう言われてカミーユはせっかく淹れてもらったお茶を危うく吹くところだった。
「……命の?」
「近いうちに、僕は兄弟たちと決闘することになっている。王位をかけてね」
「……王位?」
アレクは諦観したような笑みを浮かべている。
「ダイモスの王位継承は決闘によって決まるんだ」
「……決闘?」
近くに控えていたバルバラも頷いた。
「この国では代替わりの前に王位継承者決定の儀式があるのです。王族総当たりの決闘です」
「決闘に勝たないと王になれないってこと?」
そんな無茶苦茶な。王になる才覚は力だけではないはずなのに。
アレクは苦笑しながら、総当たりは大げさだよ。と告げた。
「国王の第一子が成人した年に王位継承権を持つ者が集められ、王が指名した王太子に不平があれば名乗り出て決闘する。決闘で勝ち残れば次の王になる。決闘で負けたら王位継承権を剥奪されて臣下に降される。もちろん王の御前での決闘だから本物の武器を使った真剣勝負だ。過去には命を落とした者も出ている」
「どうしてそんな……身内同士で……」
「この国は強い王でないと治められないからだよ」
ダイモス連合王国はその名が示すとおりいくつかの亜人の部族が集まって造られた。強い王が立たなければ多くの部族をまとめることはできない。そのためダイモス王家では王位継承者を決闘で選ぶ、という。つまり兄弟同士で殺し合いをさせるのだ。強い王であることを内外に示すために。
今年、十八歳を迎えたアレクはその儀式に臨まなくてはならないのだ。
「だからこそ代々の王は強い種族との婚姻を結び、次代にふさわしい子を得ようとするのです。エドガー王が鳥の民を第一妃にしたときは相当な反対があったはずです」
バルバラの言葉にアレクは苦笑いを浮かべた。
「そりゃすごかったらしいよ。仕方なく熊の一族から第二妃を迎えることで許されたらしいけど。その結果生まれたのが史上最弱の王太子候補だ。儀式は盛り上がるだろう。我こそはという者が名乗り出てくるだろうからね。いやあ、モテる男はつらいよね」
いや、決闘の相手としてモテるなんていうのは、喜んでいいところではないのでは?
カミーユはそう思いながらこの国のしきたりに戸惑っていた。
「……指名を辞退できないの?」
カミーユは自分の声が震えているのに気づいた。決闘や試合は決められた場所で行うから間合いが近い。詠唱などの手順を要する魔法では不利だとアレクが言っていたのを思い出した。
彼の体躯では熊の亜人の力に耐えられるとは思えない。最悪……ああ、だから命の危機かもしれないと言ったのか。
アレクは静かに首を横に振る。
「できないんだ。最初の王太子の指名は第一妃の子と決まっている。僕が辞退したら同腹の弟が指名される。弟はまだ五歳だ」
アレクはその決闘から逃げることができないのだと知って、カミーユは呆然とした。
奥は寝室に繋がっているという。カミーユはこんな広い部屋で暮らしたことはなかった。
「……素敵なお部屋ですね」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。バルバラは隣の侍女部屋を使ってくれていいから」
バルバラはカミーユの専属侍女としてそのまま傍においてもらえることになった。
この国の出身なら実家と連絡を取らなくていいのか尋ねたら、もう代替わりしているから誰も覚えていないだろうとあっさり断られた。
「お茶の支度ができたら、ちょっとだけ話そうか」
アレクがそう言ってカミーユに椅子を勧めた。
きっと馬車の中では教えてくれなかった話の続きだろう。そう思ってカミーユは頷いた。
「実は僕、命の危機が迫っているんだよね」
さらりとそう言われてカミーユはせっかく淹れてもらったお茶を危うく吹くところだった。
「……命の?」
「近いうちに、僕は兄弟たちと決闘することになっている。王位をかけてね」
「……王位?」
アレクは諦観したような笑みを浮かべている。
「ダイモスの王位継承は決闘によって決まるんだ」
「……決闘?」
近くに控えていたバルバラも頷いた。
「この国では代替わりの前に王位継承者決定の儀式があるのです。王族総当たりの決闘です」
「決闘に勝たないと王になれないってこと?」
そんな無茶苦茶な。王になる才覚は力だけではないはずなのに。
アレクは苦笑しながら、総当たりは大げさだよ。と告げた。
「国王の第一子が成人した年に王位継承権を持つ者が集められ、王が指名した王太子に不平があれば名乗り出て決闘する。決闘で勝ち残れば次の王になる。決闘で負けたら王位継承権を剥奪されて臣下に降される。もちろん王の御前での決闘だから本物の武器を使った真剣勝負だ。過去には命を落とした者も出ている」
「どうしてそんな……身内同士で……」
「この国は強い王でないと治められないからだよ」
ダイモス連合王国はその名が示すとおりいくつかの亜人の部族が集まって造られた。強い王が立たなければ多くの部族をまとめることはできない。そのためダイモス王家では王位継承者を決闘で選ぶ、という。つまり兄弟同士で殺し合いをさせるのだ。強い王であることを内外に示すために。
今年、十八歳を迎えたアレクはその儀式に臨まなくてはならないのだ。
「だからこそ代々の王は強い種族との婚姻を結び、次代にふさわしい子を得ようとするのです。エドガー王が鳥の民を第一妃にしたときは相当な反対があったはずです」
バルバラの言葉にアレクは苦笑いを浮かべた。
「そりゃすごかったらしいよ。仕方なく熊の一族から第二妃を迎えることで許されたらしいけど。その結果生まれたのが史上最弱の王太子候補だ。儀式は盛り上がるだろう。我こそはという者が名乗り出てくるだろうからね。いやあ、モテる男はつらいよね」
いや、決闘の相手としてモテるなんていうのは、喜んでいいところではないのでは?
カミーユはそう思いながらこの国のしきたりに戸惑っていた。
「……指名を辞退できないの?」
カミーユは自分の声が震えているのに気づいた。決闘や試合は決められた場所で行うから間合いが近い。詠唱などの手順を要する魔法では不利だとアレクが言っていたのを思い出した。
彼の体躯では熊の亜人の力に耐えられるとは思えない。最悪……ああ、だから命の危機かもしれないと言ったのか。
アレクは静かに首を横に振る。
「できないんだ。最初の王太子の指名は第一妃の子と決まっている。僕が辞退したら同腹の弟が指名される。弟はまだ五歳だ」
アレクはその決闘から逃げることができないのだと知って、カミーユは呆然とした。
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