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第二部

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「まずは弁解させてくれる? 僕は父がカミーユに政略結婚を持ちかけていたなんて知らなかった。僕は半年近く王都を離れていたからね。領地運営のためという名目で冒険者活動していたんだ。塔に迷い込んだのも偶然だから」
 馬車は順調に進み、やがて森に入った頃合いでアレクは口を開いた。
 気まぐれで鳥の姿で国境越えられないか試してみようとしたのは事実らしい。国境を守る砦には魔法障壁がかかっているから、魔法で国境を越えることはできないとは気づいていたらしい。
 そして鴉に追い回されてカミーユのいた塔の部屋に逃げ込んだのだ。
 カミーユの隣に座っていたバルバラが眉をよせて険しい顔で口を開いた。
「……エドガー王の第一妃が鳥の民だとは聞いていましたが……」
「その通りだよ。亜人は別種族と結婚したら子供にはどちらか強い資質が顕れるのが普通なんだけど、僕はこの通り瞳の色以外は父とは全く似ていない。父は僕が非力な鳥の民の特徴しか持たないことを気にしていた。魔法の才能があったことは喜んでくれたけれど、この国では魔法は武力より下に見られがちだ」
 非力。カミーユはアレクが自分の事をそう表現するのを以前にも聞いた。
 石塔の外壁に穴を開けるほどの魔法を使う彼が、非力なはずがないのに。ダイモスでは目に見える強さが重要視されるんだろうか。
「まあ、僕は力じゃ兄弟の誰にも勝てないことは自覚していた。何かにつけ馬鹿にされていたし。だから王都にいたくなかったんだよね」
「……それで家出を?」
「そう。カミーユに会ったのは偶然だったけれど、一目でわかった。君が僕の唯一だと。鳥の民は生涯一度だけ本当の恋に落ちるんだ。でも、僕は無理だと諦めようと思ったんだ。君を守れるほどの力は僕にはないから。……でも無理だった。君に縁談が来ているという噂を聞いたらじっとしていられなかった」
 カミーユは表向き王女として育てられた。だからこそ王女としての縁談には応じられない。もしそんなことになったらカミーユは自死を選ぶのではないか。アレクはそう思ってカミーユを訪ねたのだ。 
「カミーユの縁談の相手が自分と知ってびっくりした。……今回の縁談は父の独断だ。隣国の王女を妃にすることで僕の立場を少しでも良くしようと思ったのかも。僕は最も非力な王子だから、この国には僕に娘を嫁がせようなんて酔狂な貴族はいないだろうし。だからって本人に何の許可もなく……って思ったんだけど、そういや僕はしばらく王都を離れていたんだったと気づいて」
 国王は半年前の大使襲撃事件で和解の条件の一つとしてカミーユと第一王子の縁談を持ち出してきた。その当時アレクは王都にいなかったのだ。
 ……許可も何も本人不在で話が進んでしまったのか。 
「それで戻ってみたら父から『すでに結婚許可の書類にサインをもらっているからさっさと花嫁を迎えに行け』という書状が届いていた。そこまで話が進んでいるのなら、と思ってすぐに馬車を仕立てて正面から君を攫いに行くことにした」
 アレクが少ない供だけを連れて砦に行っても、砦の司令官は塔の入り口は塗り固められていて、国王陛下の使者が来るまでどうにもできないとのらりくらりと答えたらしい。
 アレクが亜人にしては細身で非力そうに見えたから甘く見ていたのかもしれないが、そこで魔法で塔の外壁に穴を開けて見せた。元々魔法でカミーユたちを連れ出すために塔周辺の魔法障壁を解除していたから、それはもう派手に攻撃魔法が成功したのだ。
 アレクはドミニク三世がカミーユの結婚を許可した書状をつき出して、砦の司令官を黙らせてカミーユたちを堂々と連れ出した……ということらしい。
「まあ、書類には『カミーユが貴婦人としての品位を保っていれば』という但し書きがついていたんだけど、カミーユは立派な貴婦人だと知っていたから問題ないし」
「……それは……否定できない」
 カミーユが答えるとバルバラが大きく頷いた。
 好きで貴婦人やってるわけじゃないんだけど。
 アレクは楽しそうに笑って、それからカミーユの手を取った。
「王子とバレるのもマズいんだろうから、表向きはカミーユは王女ということで通すから。そのヴェールは人前に出るときは被っていて。ドレス姿をじろじろ見られるの嫌だよね?」
「……大丈夫なんですか?」
 王子の妃が顔を一切見せないなど、非礼に思われないのだろうか。カミーユが疑問に思うと、アレクは首を横に振った。
「既婚者は被ってる人多いよ。亜人は種族にもよるけど伴侶に対する執着が強いから。特に僕は鳥の民だから、周りが察してくれるよ」
 そう言ってアレクはカミーユの手の甲にキスをした。ふっと真顔になって正面からカミーユを見据えてきた。
「それから、もう一つ話しておかないといけないことがある。隠し事はしたくないからちゃんと話すつもりだ。でも、今話して嫌われたくないから、着いてからでいいかな?」
 カミーユは頷いた。アレクのことをもっと知りたいとは思うけれど、いっぺんに聞かされても戸惑うだけだ。

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