塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~

蕾白

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第二部

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 ダイモス連合王国北州カーネル領。熊の亜人が住民の多くを占める穏やかな地方都市カーネルを中心としたそこは、代々王太子領とされてきた。現在の国王エドガーはまだ王太子指名をしていないため第一王子サミュエルが領主に任じられていた。
 
 転送魔法を使ってサミュエル王子一行の馬車がカーネルに入ったのは塔を後にした日の夕方だった。
 馬車を見た人々は手を振ってきたり笑顔を向けてきた。
 サミュエル王子、ことアレクは時折にこやかに人々に手を振っていた。こうして見ると普通に王子殿下という印象を受ける。
 力のない王子だと自嘲していたけれど、領民からは愛されているのではないかとカミーユは思った。

 領都カーネルの北にこじんまりした邸宅があった。領主邸と領政府を兼ねたものだという。石造りで綺麗に整えられた花壇に囲まれている。
 馬車から降りて使用人たちの出迎えを受けると、カミーユは一体自分はどういう扱いになっているのか急に不安になった。
「あの……サミュエル殿下……」
 思わずアレクの服の袖を掴むと、彼は小さく頷いた。
「僕のことは今までどおりアレクでいいからね。領民たちもそう呼んでいる」
「……え? アレクは冒険者の名前ではないの?」
 カミーユは驚いた。この町の人たちはアレクが冒険者をやっていることを知っているのか。
「領民は小綺麗な格好をしているときは『殿下』、それ以外は『アレク』と呼んでいるんだ。だって、さすがに領主で王子がほとんど出歩いてるとか言われたくないから」
 つまり、この町の人々は冒険者アレクが町中を出歩いていても王子様扱いしないという暗黙の了解を共有しているということなんだろうか。
 カミーユはあまりに自分の考える王族というものとかけ離れた彼の行動に改めて自分は何も知らないのだなと感じていた。
「一休みしたら今後のことを話そう。君の部屋に案内するから。もちろん一番いい部屋を用意させたからね」
「そんな……わたしは……」
「君は父上の命令で婚約することになった隣国の姫君だ。妃教育より前に交流を深めたいから連れてきたと言ってある。窮屈かもしれないけどしばらく我慢してね」
 おそらくカミーユを王女として扱うことを申し訳ないと思っているのだろう。
 ……わたしはまだアレクの事情に詳しくないから彼に従うつもりだ。どうせドレスなんて着慣れているから今さら苦にはならない。気にしなくていいのに。
 何よりアレクはこの国で複雑な立ち位置にいる。自分の存在が足を引っぱらないかが一番心配だった。
 馬車の中で聞かされた話を思い出しながらカミーユはしとやかな足取りでアレクについていった。

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