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35.再会と災難はワンセット【前篇】
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日が落ちてから森の奥にある湖のそばで玲音は招竜石を取りだした。あたりを照らすのは月明かりと、コンラットが手にしたランタンだけだ。
「封印を解くのってどうすればいいんですか?」
「ああ、それなら」
ファースが石に手をかざすと複雑な模様が浮かび上がる。
それと同時に玲音の耳に甲高い弦楽器の音のようなものが響いてくる。他の人にはどうやら聞こえていないようだけれど、これが竜の声なんだろうか。
「……あ、来ましたよ」
「え? どこに?」
ラルスとコンラットは空をじっと見つめていた。すぐに大きな羽ばたきの音がして、目の前にドラゴンが舞い降りてきた。漆黒の鱗は闇夜に半ば溶けたように馴染んでいる。
「約束通り石をもらってきたよ」
玲音がそう言って石を差し出すと、ドラゴンは頭を擦り付けてきた。
「角に結わえ付ければいいの?」
確かにドラゴンは服のポケットもないんだからこの石を持ち運ぶのは難しそうだ。前肢で握って行くのも不安がある。玲音は慎重に布で包んでから紐でドラゴンの角に石を結わえ付けた。
ドラゴンは満足げに頷くと自分の身体から一枚の鱗を引き抜いて玲音に差し出してきた。鱗と言っても玲音の両手に余るほどの大きさだ。
前に水族館で見たピラルクという巨大魚の鱗が靴べらになるサイズだと聞いていた。これはもっと大きくてお盆にでもなりそうだ。
「……え? もらっていいの?」
問いかけると肯定するように頭を縦に振る。
『お礼。特別だよ?』
「そうなの……?」
黒光りするつややかな美しい鱗。貴重なものにちがいない。招竜石はオルテガの宝物だったことを考えると、そのお礼なんだろう。
『そう。君のことを仲間に言ったら、お礼に鱗あげていいって。僕のこと撫でてくれて、痛いの消してくれたから。そんなことしてくれる人間いないから嬉しかった』
ということは、この鱗は石のお礼じゃないんだ。
ブラックドラゴンを足蹴にしてしまったときに、玲音は彼の頭を撫でたりした。コンラットの話ではその時治癒魔法を意識せずに使ってしまっていたらしい。
「そうなんだ……あれ?」
不意にその鱗が玲音の手の上で溶けるように消えた。そして右手の甲に繊細な文様が現れる。幾何学的にも芸術的にも見える不思議なそれは現れた時と同様にふわりと消え失せた。
「え? もしかして僕の中に溶け込んだの?」
『害はないから心配しないで。鱗は友誼の証だよ。生きたドラゴンから鱗を与えられた者はドラゴンを呼び寄せることができるんだって。だからまたいつでも遊べるよ。また撫でてくれる?』
「そのくらいならいつでも大丈夫だよ」
玲音はそう答えてドラゴンの顔を撫でた。
『また遊んでね。いつでも呼んでね』
ドラゴンはそう言いながら目を細める。
仕草を見ているとどこか幼い感じがする。もしかしたらこのドラゴンは十分巨大に見えるけれど若い個体なのかもしれない。
その分好奇心が強いからあのドラゴン討伐の時も一番に現れたんだろう。人間を遊び相手だと認識して。
「ありがとう。またね。気をつけて帰ってね」
玲音がそう声をかけるとブラックドラゴンは再び翼を拡げて飛び立った。
少し離れたところでそれを見守っていた三人はぽつりと声を揃えた。
「「「またね?」」」
「……え? もう会っちゃいけなかったですか?」
「いや……普通そんなに何度もブラックドラゴンと会いたいとは思わないだろ……」
ラルスがぽつりと言った。
「それにドラゴンが鱗を渡すなんて……しかもアレ、契約じゃん……」
ファースが呆れたように呟いている。
え? 何かまずいことしちゃっただろうか。でもお礼だとしか言わなかったから、そんなに重大なことだとは思わなかった。
「え? でも、友誼って言ってたからお友達という意味じゃないんですか?」
軽く眉を寄せたコンラットが玲音に歩み寄ってきて肩に手を置いた。
「ドラゴンが自ら鱗を渡すのは相手に忠誠を誓う意味だと聞いたんだが……つまりは最上位の従属契約だ。言っておくけど、ブラックドラゴンとお友達になった人間もいないんだ」
コンラットの言葉にファースたちも頷いている。
「地上最強種とお友達とか……レネは世界征服でもやらかすつもりなの?」
「いやー、ブラックドラゴンの魔力紋がついた人間なんて、そこらの魔物は怯えて逃げちゃうね。味方でよかったよ」
「え?」
嫌な予感がして、玲音は慌てて自分のスキルを鑑定した。
確かにあのドラゴンをいつでも呼べるということは、自分が生きた招竜石になったようなもので……はっきり言って危険人物なのでは……。
最終行に【ドラゴンティマー】というとんでもない一言がちゃっかり追加されているのを見て、もう神様いい加減にして、と頭を抱えたくなった。
三人からドラゴンと遊びたくなったらちゃんと事前に報告すること、勝手に呼んだりお呼ばれしたりしないように、と念を押された玲音はほんのりと魔力の痕跡が残る右手の甲を見ながら、大変なことになってしまったと息を吐いた。
何か僕、天使じゃなくラスボスになってないだろうか……。
「封印を解くのってどうすればいいんですか?」
「ああ、それなら」
ファースが石に手をかざすと複雑な模様が浮かび上がる。
それと同時に玲音の耳に甲高い弦楽器の音のようなものが響いてくる。他の人にはどうやら聞こえていないようだけれど、これが竜の声なんだろうか。
「……あ、来ましたよ」
「え? どこに?」
ラルスとコンラットは空をじっと見つめていた。すぐに大きな羽ばたきの音がして、目の前にドラゴンが舞い降りてきた。漆黒の鱗は闇夜に半ば溶けたように馴染んでいる。
「約束通り石をもらってきたよ」
玲音がそう言って石を差し出すと、ドラゴンは頭を擦り付けてきた。
「角に結わえ付ければいいの?」
確かにドラゴンは服のポケットもないんだからこの石を持ち運ぶのは難しそうだ。前肢で握って行くのも不安がある。玲音は慎重に布で包んでから紐でドラゴンの角に石を結わえ付けた。
ドラゴンは満足げに頷くと自分の身体から一枚の鱗を引き抜いて玲音に差し出してきた。鱗と言っても玲音の両手に余るほどの大きさだ。
前に水族館で見たピラルクという巨大魚の鱗が靴べらになるサイズだと聞いていた。これはもっと大きくてお盆にでもなりそうだ。
「……え? もらっていいの?」
問いかけると肯定するように頭を縦に振る。
『お礼。特別だよ?』
「そうなの……?」
黒光りするつややかな美しい鱗。貴重なものにちがいない。招竜石はオルテガの宝物だったことを考えると、そのお礼なんだろう。
『そう。君のことを仲間に言ったら、お礼に鱗あげていいって。僕のこと撫でてくれて、痛いの消してくれたから。そんなことしてくれる人間いないから嬉しかった』
ということは、この鱗は石のお礼じゃないんだ。
ブラックドラゴンを足蹴にしてしまったときに、玲音は彼の頭を撫でたりした。コンラットの話ではその時治癒魔法を意識せずに使ってしまっていたらしい。
「そうなんだ……あれ?」
不意にその鱗が玲音の手の上で溶けるように消えた。そして右手の甲に繊細な文様が現れる。幾何学的にも芸術的にも見える不思議なそれは現れた時と同様にふわりと消え失せた。
「え? もしかして僕の中に溶け込んだの?」
『害はないから心配しないで。鱗は友誼の証だよ。生きたドラゴンから鱗を与えられた者はドラゴンを呼び寄せることができるんだって。だからまたいつでも遊べるよ。また撫でてくれる?』
「そのくらいならいつでも大丈夫だよ」
玲音はそう答えてドラゴンの顔を撫でた。
『また遊んでね。いつでも呼んでね』
ドラゴンはそう言いながら目を細める。
仕草を見ているとどこか幼い感じがする。もしかしたらこのドラゴンは十分巨大に見えるけれど若い個体なのかもしれない。
その分好奇心が強いからあのドラゴン討伐の時も一番に現れたんだろう。人間を遊び相手だと認識して。
「ありがとう。またね。気をつけて帰ってね」
玲音がそう声をかけるとブラックドラゴンは再び翼を拡げて飛び立った。
少し離れたところでそれを見守っていた三人はぽつりと声を揃えた。
「「「またね?」」」
「……え? もう会っちゃいけなかったですか?」
「いや……普通そんなに何度もブラックドラゴンと会いたいとは思わないだろ……」
ラルスがぽつりと言った。
「それにドラゴンが鱗を渡すなんて……しかもアレ、契約じゃん……」
ファースが呆れたように呟いている。
え? 何かまずいことしちゃっただろうか。でもお礼だとしか言わなかったから、そんなに重大なことだとは思わなかった。
「え? でも、友誼って言ってたからお友達という意味じゃないんですか?」
軽く眉を寄せたコンラットが玲音に歩み寄ってきて肩に手を置いた。
「ドラゴンが自ら鱗を渡すのは相手に忠誠を誓う意味だと聞いたんだが……つまりは最上位の従属契約だ。言っておくけど、ブラックドラゴンとお友達になった人間もいないんだ」
コンラットの言葉にファースたちも頷いている。
「地上最強種とお友達とか……レネは世界征服でもやらかすつもりなの?」
「いやー、ブラックドラゴンの魔力紋がついた人間なんて、そこらの魔物は怯えて逃げちゃうね。味方でよかったよ」
「え?」
嫌な予感がして、玲音は慌てて自分のスキルを鑑定した。
確かにあのドラゴンをいつでも呼べるということは、自分が生きた招竜石になったようなもので……はっきり言って危険人物なのでは……。
最終行に【ドラゴンティマー】というとんでもない一言がちゃっかり追加されているのを見て、もう神様いい加減にして、と頭を抱えたくなった。
三人からドラゴンと遊びたくなったらちゃんと事前に報告すること、勝手に呼んだりお呼ばれしたりしないように、と念を押された玲音はほんのりと魔力の痕跡が残る右手の甲を見ながら、大変なことになってしまったと息を吐いた。
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