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19.アップデートが来ました【後篇】

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 ラルスはセブリアン王子と同じ剣術師範の元で学んだ兄弟子に当たるそうだ。セブリアン王子は実の兄よりラルスを信用している。だからラルスは問題を起こしたりしないようにお目付役として彼に同行する依頼を頻繁に受けるのだとか。
 ヘーラルト王子がブラックドラゴン討伐を行うと聞いて、セブリアン王子がそのような勇猛な王子ならばこれは手合わせしたいとばかりに盛り上がっていた。それを知ったオルテガ国王は憂慮していた。万一他国の王子に怪我でもさせたらたいへんだと、ラルスに依頼してきたわけだ。
 しかもセブリアン王子はオルテガ王宮の秘宝庫からとんでもない秘密兵器まで持ちだしていた。
 招竜石。死んだドラゴンの心臓が結晶化した宝石で、これに魔法をかけて活性化させたらその同族を呼び寄せる代物だ。本来はドラゴンを人里から引き離すために使われるものだが、それを彼が持ち出したと聞かされてラルスは頭を抱えた。
 王宮に保管されていたくらいだから、最上位クラスのドラゴンの石だというのは想像に難くない。
 セブリアンは自分の力を試すためには何をしでかすかわからない。万一発動させて手に負えないほどの高位のドラゴンを呼び出されたら王都がパニックになる。しかも他国の王都だ。外交的にも大問題だ。
 なので、ヤバくなったらコンラットの協力が必要になるから、それまで王都に居て欲しいというのがラルスの要請だった。
 いやもう、どこからツッコミをいれるべきかわからない。他国に出かけるのに相手国の王子と剣の試合をしたいのはまだしも、ドラゴンを呼び寄せる魔法アイテムを持ち込むとか……断られたらそれで脅すつもりだけならいいけど、使われたら大変なことになるのでは……。
 そんな訳で剣術大会が終わるまで、玲音とコンラットは王都を離れることができなくなってしまったのだ。

「結果から言うと、殿下の目的を知ったこちらの国王陛下はやんわりと剣術大会への出場を打診してきた。問題は優勝者への報償だ。叶えうる願いなら何でも、と言っても、あの方が欲しいのは剣で名をあげることだからな。宝物も美女も断るだろう。その場でヘーラルト王子との御前試合を申し込むんだろうなー。今から頭痛え……」
 ラルスはそう言って額を手のひらで押さえる仕草をする。どうやらラルスはセブリアン王子の優勝を疑っていないらしい。それだけの力量がある人なんだろう。
 国王陛下からすれば、剣術大会で王子が敗退すればうやむやにできると思ったんだろうけど……。それとも小細工をして負けさせるつもりだろうか。
「……それで? 当日はどうするんだ?」
「二人分の席は用意してもらっているから、とりあえず剣術大会の会場にいてほしい。何かあったら魔法で援護してくれ。ブラックドラゴンとか呼ばれたらさすがに俺らだけじゃ止められないからな」
 ラルスはそう言いながら手際よく料理を注文している。こういう店には慣れているようだった。鍛えているせいか姿勢もいいし物腰も無駄がないけれど、気さくで親しみやすい人なんだな、と玲音は思った。
 コンラットは小さく息を吐くと頷いた。
「……わかった。まあ、できることは手伝うさ」
「んで、お前さんはこの後オルテガに向かうんだろう? 帰りは一緒に行こうぜ。俺たちの仕事は剣術大会が終わるまでだから、ここで殿下のお守りはお終いだ」
 ラルスはそう言いながら時々玲音に目を向けてきた。邪魔に思っているとかいうものではなく、何か言いたげに見える。
 そこへ今まで一度も口を開かなかったファースが玲音に問いかけた。
「その服、ラルスが縫ったやつでしょ? 感想くらい聞かせてあげたら?」
 どこか棘のある口調と真逆の柔らかなアルトの声。それを聞いて玲音はやっと納得した。
「……あの、服を沢山ありがとうございました。すごく綺麗な刺繍で手が込んでて、僕なんかが着てもいいのかと思ってしまうくらいです」
 ラルスはぱっと表情を明るくした。
「そうか。気にしないでいいんだよ。よく似合っているよ……って男の子に言っちゃいけないかな?」
「いいえ。嬉しいです。ありがとうございます」
 玲音が答えると、ラルスはますます目尻を下げて嬉しそうに笑った。
「いい子だねえ。というか、こんな育ちの良さそうな子、どこで拾ってきたの?」
 問われたコンラットはしれっとした顔で答えた。
「天から舞い降りてきたんだ。この子は私の天使だからね」
 ラルスとファースが顔を見合わせる。小声で何か言い合っているけれどいくらか聞こえてきた。というか聞こえるように言っているんだろう。
「何か真顔で気障っちいこと言ってるけど、マジか?」
「色々こじらせてポエムまで口にするようになったらお終いじゃないか」
「まさか二人はそういう関係ってこと? あんな子に手を出すとか犯罪じゃん」
「ないわー……。そんな変態野郎だったなんて。いっそこれ以上罪を重ねないようにアレ、切っとく?」
「待って待って。ファース、それはちょっと……」
 ……バッチリ聞こえてますよ……。っていうか、僕の場合天から舞い降りたんじゃなく急転直下で落っこちたって感じだから、確かに紛らわしい表現だとは思う。
 それに手を出すとかないし。今まで変なことされたことはない。手とかにキスはされたけど……そのくらいだ。やたら距離感は近いけど、それ以上はない。
 僕なんてコンラットさんのようなイケメンからしたらそこらへんの凡人だ。頭撫でたりひょいひょい抱え上げられたりと子供扱いされているし。彼にとって有益なスキル持ちだと知って同行してくれているだけで、それ以上の関係はない。
 ……って言ったほうがいいのかな。何か怖い話になってるけど。
 玲音が戸惑っていたらコンラットが咳払いした。
「私は別に嘘はついてないよ。そうだろう?」
 余裕の表情で玲音に目を向けてくる。いや、いくらなんでも自分が天使だとかいうのは肯定しかねる、と玲音は首を横に振った。
「いえいえ。僕は天使じゃありませんから。単に高いところから落ちただけです」
 ラルスたちが納得したように頷いた。
「あー……なるほど。そういう比喩なのか。それで、レネ? だっけ。君もオルテガに行くんだね?」
「はい。冒険者になるように誘われています」
「え?」
 ラルスがぽかんとした顔で玲音を見つめた。その顔には「無理」とでかでかと書いてあるように見えた。
 ……そうでしょうね。僕だってわかってきた。この人みたいなマッチョとかコンラットさんみたいな強い魔法使いがやるような仕事なんだと。何だか不安が多いけど……。

 食事を終えてコンラットの隠れ家に戻ると、早速問いかけられた。
「さっき、何か言い淀んでいたけど、何かあったのかい?」
「その……スキルのアップデートが来ていて……」
「? 何だいそれ?」
「追加とか更新とか……」
 おそらくスキルって取得したらランクアップすることや追加されるんだろうから、と思ったらコンラットは怪訝そうに首を傾げた。
 言うより見た方が早いかも。
 そう思った玲音は自分に鑑定魔法をかけた。ステータス画面のように目の前に文字が浮かんでくる。

早島玲音(レネ・ハウスマン)
魔法属性、光、水。
【漢検二級】【英検準二級】【会計簿記三級】
【神々の庇護】【鉄壁の聖者】
【絶対防御】【鑑定】【治癒】【魔法・毒・呪い無効】【物理攻撃無効】【浄化・解呪】
【攻撃全反射(十倍返し)】
悪意ある攻撃はボーナスとしてさらに二倍返し。
【翻訳】【肉体強化】
【範囲防御】【防御付与】【封印】←new!!

「ここ、何か増えている? 前と表現が違う」
 あいかわらず異世界語対応にはなっていなかった。けれどコンラットは最終行の辺りを指差した。読めない文字でも増えているのはわかったらしい。
 記憶力の良さに感心しながらレネは答えた。
「範囲防御や防御付与とかが増えてますね……」
 コンラットは攻撃魔法に特化している代わりに防御スキルが全くない。だからこそ防御系のスキルを持つ玲音を盾役にしたいと言っていた。
 もし、彼に防御付与できるのなら、もっと動きやすくなるんじゃないだろうか。
「範囲防御と防御付与?」
「今まで単独行動しか想定してなかったから、コンラットさんと同行しているのを見て追加してくれたのかも。ホントに大サービスですね……」
 それを聞いたコンラットは眉を寄せて複雑そうな顔をした。
「一つ言っておくけど……スキルはそんなにほいほい増えるものじゃないよ。努力して得られるものもあるし、努力しても得られないものもある。それにしても、勝手にスキルが追加されるとか、君はよほど神様に愛されているね」
 神様に愛されてるとか、そういう大げさな話ではないはず、と玲音は思った。
「いえ、これはアフターサービスというか……損害賠償的な?」
 玲音は異世界からこちらに飛ばされてきたということはざっくりと話してあった。あちらには祖父母以外の身よりがないことも。ただ、その原因はまだ話していなかった。
「僕、ここに来る前に事故に巻き込まれたんですけど、その時神様の部下の人の手違いで死んだことにされちゃったんで……。それで責任感じているのかもしれません」
 何かすごくバタバタしてたからなあ……。電車が運休になったときの駅の中みたいに大騒ぎしていたんだよね。神様とその部下さんたち。魂の数が合わないのって結構大事なんだな……。
 玲音がしみじみと思い出しながらそう答えると、コンラットはどんな顔をしていいのか迷っているように頭に手をやって唸っていた。
「……手違いで死んだって……」
「本当は僕の家族の事故が手違いだったほうが嬉しかったんですけど、そこまでは望めませんよね」
 玲音がそう呟くと、いきなりコンラットは玲音を引き寄せた。
   
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