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5.僕のステータス、高すぎ?【前篇】
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「ドラゴンの側に子供がいると思ったら、えらく落ち着いているな」
黒いフード付きのローブを纏った背の高い男性がそこにいた。
いつの間に? 気配を感じなかった。
フードを後ろに払うと、二十歳代半ばくらいの整った白い顔と、銀とも金ともつかない綺麗な長い髪が露わになった。
その人は、玲音に歩み寄ると顔を覗き込んできた。
モデルさんとか俳優さんとかでないと見たことも無いイケメンさんだ。そんな顔が目の前にあることに玲音は怯んでしまう。
姉さんの仕事仲間にこういう綺麗な人いたけど……僕は会ったことなかったし……。
「……君は何者だ? 見間違いでなければ、ドラゴンを一撃で倒したようだったが」
いきなりそう問われて慌てて否定した。そんなすごいことをやった覚えはなかった。
「いえいえいえいえ。全然倒してませんから。ドラゴンは気絶してただけです。すぐに元気になったでしょう? ほら」
玲音が指差した方角で、ドラゴンはまだ逃げまどう勇者っぽい人の乗った輿を追い回していた。しばらくすると飽きたのか、逃げていく輿と兵士たちを行儀良く座って見送っている。
それを見ていた男はわずかに口角を持ち上げた。
「確かに。まあ、助かった。あの馬鹿王子が撤退してくれないと大変なことになるところだった」
「え? あの人って王子様だったんですか? 勇者じゃないんですか?」
ゲームのラスボス戦みたいだと思っていた玲音は目の前のイケメンの辛辣な言葉に驚いた。
「あんな奴に様を付ける必要はない。あいつがブラックドラゴンを征伐したいとわがままを言って、大勢の人間が巻き込まれたんだ」
男は眉根を寄せて不遜に言い捨てる。
詳しく話を聞いてみるとあの派手な男はこの国の第一王子で、勇者になりたいからと軍隊を引き連れてブラックドラゴンを討伐しに来た。この黒い服の人もその一員らしい。
この国での勇者の条件はドラゴン討伐を成功させること、なんだとか。
けどその王子様、ブラックドラゴンはとても強いので、まず軍隊の人たちに攻撃させて自分はトドメを刺すだけのお膳立てをしてもらう予定だった……って卑怯じゃない?
そして、ついにドラゴンが現れたところで、空気を読まず闖入者がその頭上に落下してきたというわけだ。
「……あー色々とグダグダにしてしまって……申し訳ありませんでした」
「かまわないさ。とても面白かったし」
笑みの残った表情で彼はそう言うと大げさに肩をすくめた。
「これであの王子も当分ドラゴンなんて見たくもないだろうから、いい気味だと思うよ。……お、帰るらしいな」
見ればドラゴンがくるりと方向を変えて歩き出していた。派手な輿を先頭に軍隊はどんどん離れていく。それを追う気にはならなかったらしい。
その巨体が歩くたびに地面が揺れるようだった。そして、ドラゴンがこちらに気づいて目を向けてきたので、玲音は思わず手を振った。
よかった。怪我はしてないみたいだ。
それで納得したのかドラゴンは羽を広げて飛び上がった。そのまま岩山の方角へ去って行く。
「……すごいなあ……あんな大きな生きもの初めて見た」
玲音は陽光にキラキラと光る黒い巨体が遠ざかる様子に感動して目が離せなかった。いきなりドラゴンに会えるなんて、もしかしたらラッキーだったのかもしれない。
「それで、君は何者なんだ?」
黒い服の男性がまだ笑いを堪えているような表情でこちらを見ていた。
そういえばその質問には答えていなかった。
「僕は……玲音です。あなたは?」
「ああ。失礼。私はコンラット。フェルセン魔法伯とも呼ばれている」
「……魔法?」
魔法、あるんだ? 魔法使えるんだろうか、この人。
玲音がその顔を見上げると、彼は玲音の手を取って流れるような動作でその甲にキスをする。こちらを伺う瞳の色はヒヤシンスの花を思わせる青紫色。
「空から降りてきた君は、もしかしたら天使なのかな?」
そう言って正面から見つめられると、頬がかっと熱くなった。
いやいやいやいや、天使とかとちゃいます。人間ですねん。
思わず胡乱な関西弁もどきになりかけて、玲音は首をせっせと横に振った。
「降りてきたというより、落っこちたんです」
「……どこから?」
コンラットが不思議そうに空を見上げる。
それは青く晴れ渡っていて、雲一つない。どこから落ちたと聞かれても答えようがない。
「というか、そもそも高い場所から身一つで落ちて、ドラゴンにぶつかって全く無傷ってのはおかしくないかい?」
……たしかに……その通りです。この世界でもやっぱり非常識なことなんですね……。
正論で追い詰められると困ってしまう。けれど、そう問いかける彼の眼は少しずつ柔らかく親しみがあるものになってきた。
「というか、見れば見るほど普通の人間だから、私も判断に困っているところだよ」
「……ご迷惑をおかけします」
ごもっともです。でも、僕のせいじゃありません。
玲音だってもう自分は転生直後即死ジ・エンドだと思ったくらいだ。
パラシュートもなく垂直降下してあの高さで生き残れるなんて、どこの最強宇宙人だよ、って気がする。
「……それはですね……」
もうこうなったらヤケだ。魔法伯というからには貴族だろう。そんな人に怪しまれたらこの世界で楽に生きていけそうな気がしない。
でも、逆に信用してもらえたら、助けてもらえるかもしれない。
最初に会った第一国民(?)すら納得させられないなら、この先前途多難だ。
だからなるべくオブラートでぐるぐる巻きにして事情を説明した。
黒いフード付きのローブを纏った背の高い男性がそこにいた。
いつの間に? 気配を感じなかった。
フードを後ろに払うと、二十歳代半ばくらいの整った白い顔と、銀とも金ともつかない綺麗な長い髪が露わになった。
その人は、玲音に歩み寄ると顔を覗き込んできた。
モデルさんとか俳優さんとかでないと見たことも無いイケメンさんだ。そんな顔が目の前にあることに玲音は怯んでしまう。
姉さんの仕事仲間にこういう綺麗な人いたけど……僕は会ったことなかったし……。
「……君は何者だ? 見間違いでなければ、ドラゴンを一撃で倒したようだったが」
いきなりそう問われて慌てて否定した。そんなすごいことをやった覚えはなかった。
「いえいえいえいえ。全然倒してませんから。ドラゴンは気絶してただけです。すぐに元気になったでしょう? ほら」
玲音が指差した方角で、ドラゴンはまだ逃げまどう勇者っぽい人の乗った輿を追い回していた。しばらくすると飽きたのか、逃げていく輿と兵士たちを行儀良く座って見送っている。
それを見ていた男はわずかに口角を持ち上げた。
「確かに。まあ、助かった。あの馬鹿王子が撤退してくれないと大変なことになるところだった」
「え? あの人って王子様だったんですか? 勇者じゃないんですか?」
ゲームのラスボス戦みたいだと思っていた玲音は目の前のイケメンの辛辣な言葉に驚いた。
「あんな奴に様を付ける必要はない。あいつがブラックドラゴンを征伐したいとわがままを言って、大勢の人間が巻き込まれたんだ」
男は眉根を寄せて不遜に言い捨てる。
詳しく話を聞いてみるとあの派手な男はこの国の第一王子で、勇者になりたいからと軍隊を引き連れてブラックドラゴンを討伐しに来た。この黒い服の人もその一員らしい。
この国での勇者の条件はドラゴン討伐を成功させること、なんだとか。
けどその王子様、ブラックドラゴンはとても強いので、まず軍隊の人たちに攻撃させて自分はトドメを刺すだけのお膳立てをしてもらう予定だった……って卑怯じゃない?
そして、ついにドラゴンが現れたところで、空気を読まず闖入者がその頭上に落下してきたというわけだ。
「……あー色々とグダグダにしてしまって……申し訳ありませんでした」
「かまわないさ。とても面白かったし」
笑みの残った表情で彼はそう言うと大げさに肩をすくめた。
「これであの王子も当分ドラゴンなんて見たくもないだろうから、いい気味だと思うよ。……お、帰るらしいな」
見ればドラゴンがくるりと方向を変えて歩き出していた。派手な輿を先頭に軍隊はどんどん離れていく。それを追う気にはならなかったらしい。
その巨体が歩くたびに地面が揺れるようだった。そして、ドラゴンがこちらに気づいて目を向けてきたので、玲音は思わず手を振った。
よかった。怪我はしてないみたいだ。
それで納得したのかドラゴンは羽を広げて飛び上がった。そのまま岩山の方角へ去って行く。
「……すごいなあ……あんな大きな生きもの初めて見た」
玲音は陽光にキラキラと光る黒い巨体が遠ざかる様子に感動して目が離せなかった。いきなりドラゴンに会えるなんて、もしかしたらラッキーだったのかもしれない。
「それで、君は何者なんだ?」
黒い服の男性がまだ笑いを堪えているような表情でこちらを見ていた。
そういえばその質問には答えていなかった。
「僕は……玲音です。あなたは?」
「ああ。失礼。私はコンラット。フェルセン魔法伯とも呼ばれている」
「……魔法?」
魔法、あるんだ? 魔法使えるんだろうか、この人。
玲音がその顔を見上げると、彼は玲音の手を取って流れるような動作でその甲にキスをする。こちらを伺う瞳の色はヒヤシンスの花を思わせる青紫色。
「空から降りてきた君は、もしかしたら天使なのかな?」
そう言って正面から見つめられると、頬がかっと熱くなった。
いやいやいやいや、天使とかとちゃいます。人間ですねん。
思わず胡乱な関西弁もどきになりかけて、玲音は首をせっせと横に振った。
「降りてきたというより、落っこちたんです」
「……どこから?」
コンラットが不思議そうに空を見上げる。
それは青く晴れ渡っていて、雲一つない。どこから落ちたと聞かれても答えようがない。
「というか、そもそも高い場所から身一つで落ちて、ドラゴンにぶつかって全く無傷ってのはおかしくないかい?」
……たしかに……その通りです。この世界でもやっぱり非常識なことなんですね……。
正論で追い詰められると困ってしまう。けれど、そう問いかける彼の眼は少しずつ柔らかく親しみがあるものになってきた。
「というか、見れば見るほど普通の人間だから、私も判断に困っているところだよ」
「……ご迷惑をおかけします」
ごもっともです。でも、僕のせいじゃありません。
玲音だってもう自分は転生直後即死ジ・エンドだと思ったくらいだ。
パラシュートもなく垂直降下してあの高さで生き残れるなんて、どこの最強宇宙人だよ、って気がする。
「……それはですね……」
もうこうなったらヤケだ。魔法伯というからには貴族だろう。そんな人に怪しまれたらこの世界で楽に生きていけそうな気がしない。
でも、逆に信用してもらえたら、助けてもらえるかもしれない。
最初に会った第一国民(?)すら納得させられないなら、この先前途多難だ。
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