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番外編 とある伯爵令息の婚活(Sideジョセフ)③
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「え? そう? 向いてないかな」
ジョセフが婚活の話を初めてしたとき、パーシヴァルに似たようなことを言われた。
『婿入り希望なら普段からあまり手当たり次第に女性に声をかけない方がいい。気が多い男は婿には向かない』
そうは言われても、家督を継がない三男坊ではこちらが圧倒的に立場が弱いのだから、とにかく数多く出会いを求めるしかない。その時はそう思ったのだけれど。
「お相手次第でしょうけど。もし僕に娘がいて婿を迎えるのなら、真面目で堅実そうな人を好ましいと思うでしょう。あなたは頭が良くて如才なく弁が立つ人だと思います。それに人当たりが良くて、社交に長けている。それが見方を変えると遊び慣れているような印象に繋がります。だから親御さんが娘の相手には避けるような気がします」
「……そうか。そういう意味だったのか」
ジョセフはその目線で考えたことがなかった。
確かに自分にもし娘がいて、その娘に婿を取ることになったら、おしゃべりで軽薄そうな印象の男より真面目で娘に尽くしてくれそうな男を選ぶだろう。
今まで見合い相手の女性に嫌な顔をされたことはないけれど、後から家を通して断りを入れてこられることが続いていた。
自分は口が立つから交渉事を得意にしていた。それが軽薄そうな印象を与えることもわかっていたけれど、それが婚活の障害になっていたとは。
「……そうだったのか。だけど、今さら閣下みたいな堅物になれるわけもないし。堅物が二人もいたら部下が可哀想じゃないか……」
「奥方を迎えようとはお考えにはならないのですか?」
苦笑混じりにそう言われてからふと気づく。
どうして自分は婿入りにこだわっていたのだろう。別に家族が欲しかっただけなら普通に妻を娶って自分で家庭を築けばいいだけのことなのに。確かに資産のある家に婿入りすれば生活は安泰だけれど。
婿入りがしたいから相手を選んで来た。それは相手に対しても不実な気がしてくる。まあ貴族の結婚なんて条件で選ぶようなものだけれど。
「あー……もしかして、僕は甘やかされたかったのかなあ……」
ぽつりと口から本音が飛び出してしまった。
三男坊で下には一人娘の妹。そうなると親の目は一人娘に向きがちだ。何かと忘れられる立場だった。冷たくあしらわれたわけではなく、単に興味を持たれなかった。おしゃべりで目立ちたがりになったのもそんな環境のせいだろう。
婿入りを望んだのも、婿が必要な家ならばそれなりに大事にしてもらえるのではないかと思ったから……かもしれない。
ジャスティンは真剣な眼差しでジョセフを見ていた。笑い飛ばしてくれればいいのに、と思いながらジョセフは自嘲した。
「三十三にもなって、情けない。大事にしてもらいたかったんだよ。恥ずかしいなあ。いまだに子供の頃のことを引きずってるんだな」
ジャスティンは力強い口調でジョセフに大きく頷いた。
「気持ちはわかります。新しいものやいいものは上の兄たちが持って行って、下には残りかお下がりくらいしか回ってきませんから、特別扱いされたい気持ちはありますよね」
「そうそう。僕なんて下に一人娘の妹がいるからホントに空気扱いだからね。騒いで存在を主張しないと親にも忘れられるからね」
「わかります。うちはその上稼ぎがあることが必須なので、一番下じゃ商売始めるのだって一番後ですし、出遅れてるのに容赦なしですよ。そういうときだけ平等に扱ってくれるんですから」
ジャスティンの言葉にジョセフは驚いた。
それは厳しい。兄同様に稼いで来いと言われても年齢の差は大きいだろう。
僕なんか兄と比べられたくなくて軍に入ったのに、彼は真っ向勝負をしていたんだ。
すごいなあ……若いのにそれだけ苦労してたら堂々としているはずだ。
「じゃあ、今もお兄さんたちと勝負してるわけだ。格好いいなあ」
ジョセフは相手が一回り以上年下だとわかっていたけれど、思いがけず会話が弾んで楽しくなった。
ジャスティンはジョセフの賛辞に一瞬目を瞠ると、ふわりと微笑んだ。
「あなたもとても魅力的な人ですよ。婚活の成功、お祈りします」
さっきまでの営業用ではなく年相応の生き生きとした表情にジョセフは一瞬どきりとした。
いや、ホントにいい男だよねえ……。ハルちゃんの周り、デキる人間多すぎないかな。
ジョセフが婚活の話を初めてしたとき、パーシヴァルに似たようなことを言われた。
『婿入り希望なら普段からあまり手当たり次第に女性に声をかけない方がいい。気が多い男は婿には向かない』
そうは言われても、家督を継がない三男坊ではこちらが圧倒的に立場が弱いのだから、とにかく数多く出会いを求めるしかない。その時はそう思ったのだけれど。
「お相手次第でしょうけど。もし僕に娘がいて婿を迎えるのなら、真面目で堅実そうな人を好ましいと思うでしょう。あなたは頭が良くて如才なく弁が立つ人だと思います。それに人当たりが良くて、社交に長けている。それが見方を変えると遊び慣れているような印象に繋がります。だから親御さんが娘の相手には避けるような気がします」
「……そうか。そういう意味だったのか」
ジョセフはその目線で考えたことがなかった。
確かに自分にもし娘がいて、その娘に婿を取ることになったら、おしゃべりで軽薄そうな印象の男より真面目で娘に尽くしてくれそうな男を選ぶだろう。
今まで見合い相手の女性に嫌な顔をされたことはないけれど、後から家を通して断りを入れてこられることが続いていた。
自分は口が立つから交渉事を得意にしていた。それが軽薄そうな印象を与えることもわかっていたけれど、それが婚活の障害になっていたとは。
「……そうだったのか。だけど、今さら閣下みたいな堅物になれるわけもないし。堅物が二人もいたら部下が可哀想じゃないか……」
「奥方を迎えようとはお考えにはならないのですか?」
苦笑混じりにそう言われてからふと気づく。
どうして自分は婿入りにこだわっていたのだろう。別に家族が欲しかっただけなら普通に妻を娶って自分で家庭を築けばいいだけのことなのに。確かに資産のある家に婿入りすれば生活は安泰だけれど。
婿入りがしたいから相手を選んで来た。それは相手に対しても不実な気がしてくる。まあ貴族の結婚なんて条件で選ぶようなものだけれど。
「あー……もしかして、僕は甘やかされたかったのかなあ……」
ぽつりと口から本音が飛び出してしまった。
三男坊で下には一人娘の妹。そうなると親の目は一人娘に向きがちだ。何かと忘れられる立場だった。冷たくあしらわれたわけではなく、単に興味を持たれなかった。おしゃべりで目立ちたがりになったのもそんな環境のせいだろう。
婿入りを望んだのも、婿が必要な家ならばそれなりに大事にしてもらえるのではないかと思ったから……かもしれない。
ジャスティンは真剣な眼差しでジョセフを見ていた。笑い飛ばしてくれればいいのに、と思いながらジョセフは自嘲した。
「三十三にもなって、情けない。大事にしてもらいたかったんだよ。恥ずかしいなあ。いまだに子供の頃のことを引きずってるんだな」
ジャスティンは力強い口調でジョセフに大きく頷いた。
「気持ちはわかります。新しいものやいいものは上の兄たちが持って行って、下には残りかお下がりくらいしか回ってきませんから、特別扱いされたい気持ちはありますよね」
「そうそう。僕なんて下に一人娘の妹がいるからホントに空気扱いだからね。騒いで存在を主張しないと親にも忘れられるからね」
「わかります。うちはその上稼ぎがあることが必須なので、一番下じゃ商売始めるのだって一番後ですし、出遅れてるのに容赦なしですよ。そういうときだけ平等に扱ってくれるんですから」
ジャスティンの言葉にジョセフは驚いた。
それは厳しい。兄同様に稼いで来いと言われても年齢の差は大きいだろう。
僕なんか兄と比べられたくなくて軍に入ったのに、彼は真っ向勝負をしていたんだ。
すごいなあ……若いのにそれだけ苦労してたら堂々としているはずだ。
「じゃあ、今もお兄さんたちと勝負してるわけだ。格好いいなあ」
ジョセフは相手が一回り以上年下だとわかっていたけれど、思いがけず会話が弾んで楽しくなった。
ジャスティンはジョセフの賛辞に一瞬目を瞠ると、ふわりと微笑んだ。
「あなたもとても魅力的な人ですよ。婚活の成功、お祈りします」
さっきまでの営業用ではなく年相応の生き生きとした表情にジョセフは一瞬どきりとした。
いや、ホントにいい男だよねえ……。ハルちゃんの周り、デキる人間多すぎないかな。
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