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番外編 元嫌われ令息の企みと結婚式
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セシルは久しぶりに訪ねた実家で、兄を必死で慰める羽目になっていた。
「……すみません。でも僕も突然だったので……。兄上のことを忘れていたわけじゃないんです……」
「酷いじゃないか、セシル。内緒で結婚式やっちゃうなんて。この僕に花嫁衣装を見せてくれないなんて。というか結婚式はモルセラで挙げてくれるんじゃなかったのかい? ジョザイア様にもお願いしてたのに」
セシルの兄フランシスは現在モルセラ公としてモルセラ公国を治める立場にある。若く美貌の持ち主を首長としたこの国は現在経済的にも急速な発展を遂げている。
その優秀で完璧な人物がセシルを前にすると完全に過干渉の過保護ブラコンと化してしまう。元々その気はあったのだけど、半年前セシルが呪いをかけられて王宮から追放される騒ぎがあってから更に悪化したような気がする。
現在セシルはカトライア公国で暮らしている。伴侶のアンドレアスが正式に旧ファーデンの遺跡を領地として与えられたので、一応カトライア公国の貴族という扱いになっている。村二つ分だけの領民というこじんまりした所領ではあるけれど。
いや、あれは式っていうか、まねごとっていうか。でもあの神様の使いだというミントが立ち会いだったんだから……正式なのか?
そもそもセシルがアンドレアスと恋人だと知ったフランシスは、モルセラ公国の神殿では同性婚を認めるように新司祭長のジョザイアに働きかけていた。それが通ったと知らせてくれたときに、うっかりアンドレアスが式ならこっちですませたと漏らしてしまった。
そのことでフランシスががっくりと落ち込んでしまい、セシルは何とか機嫌を取ろうと頑張っているところだった。
っていうか、情報をリークした当の本人どこに行ったんだよ……。
セシルがフランシスを慰めている間、一緒に来ていたはずのアンドレアスはミントを連れてどこかに行ってしまった。
「……ジョザイア様には僕からも謝って来ますから……」
セシルがそう言うと、フランシスはがばりと顔を上げた。何やらその目にはおかしなスイッチが入ってしまったような、不穏な輝きがある。
「そうだ。神は御心深く我らを見守っているのだ。喜ばしいことが幾度あろうと構わないはず。こっちでもう一度結婚式を挙げてもいいじゃないか。今すぐ会場を押さえて……」
「え?」
「やはり同性婚を神殿が認めたということを広めるためにも大々的な結婚式をやるべきだと思うんだよ」
……いや、あの神様だったら確かに面白がりそうだけど。兄上が企画する結婚式って何だかとんでもないことになりそうな……。
「でも、あの……一応相談してみないと……」
そう言っていると、ふわりとセシルの隣にアンドレアスが現れた。
「やればいいんじゃないか? 今そのことを義父上に相談してきたところだ。仕立屋の手配や招待状の手配も大丈夫だそうだ」
「おお。アンドレアス殿。ではお話を進めて良いのですか?」
フランシスが喜色満面でアンドレアスに顔を向ける。かつてシャノン王国で王宮を騒がせた美男子の笑顔でもアンドレアスは全く動じない。
「もちろんだ」
そう断言するとフランシスは早速と言わんばかりに飛び出して行った。
残されたセシルはアンドレアスに問いかけた。
「……随分乗り気なんですね。賑やかなことは嫌いなはずなのに珍しい」
アンドレアスは面倒事と騒がしいことが嫌いなので、フランシスの前に現れたのも結婚式などもうやりたくないという意思表示かとセシルは思っていた。
「いや、これはシルヴィたちに頼まれたんだ」
シルヴィというのはフランシスが迎えた二人の養子の実母だ。フランシスより三歳年上で明るく逞しくそして真面目な人だ。
フランシスは女性を愛せないからと、遠縁でしかも困窮していた未亡人シルヴィを子供ごとこの家に引き取った。彼女の立場は表向き子供たちの世話係だが、女主人不在のこの家を何かと支えてくれているできる人だとか。
ただ、彼女がセシルたちの結婚式に言及する理由がわからない。
「……どういうことです?」
「シルヴィと子供たちはフランシスとジョザイアを何とかしたいらしい」
「何とか?」
アンドレアスは首のクラヴァットを緩めてから、ふっと紺色の瞳を細める。
「要するにあの二人が傍目で見てもバレバレなくらいお互い好き合っているのにモダモダと気持ちを伝えずにデビュタントのお姫さまみたいにもじもじしながら慎ましく頬を染めて語り合っているのは見ていてじれったいから、尻を蹴っ飛ばしてでもさっさとなんとかしろと……散々愚痴を聞かされた」
「……いや、だから、言い方……話は大体わかりましたけど……」
アンドレアスにそこまで言い切れるシルヴィはすごい人だなと思いながら、セシルは納得した。
フランシスはシャノン王国の大神殿の大司祭だったジョザイアに片思いをこじらせている。あの方に会えるというご褒美があるんだからとログボを貯めるように毎週礼拝に通い詰めていた執念は、付き合わされたセシルは身を以て知っている。
一時は何もかも放り出して神官になっていたこともある。
その間ずっとジョザイア様の補佐をしていたんだから、兄にとっては幸せな日々だったはずだ。
もちろんジョザイア様だって兄ほどの美貌の少年に純真に慕われれば悪い気持ちにはならないだろう。
そもそもあのコミュ力の塊みたいな兄上がずっとお側で補佐してくれたら大概の相手は落ちるだろうって気がする。しかも兄上は好意を隠しているつもりだけどダダ漏れだったし。
フランシスが最近同性婚を神殿に認めさせようと熱心に動いていた。それをきっかけにジョザイアがフランシスのことを意識しているとセシルは気づいた。
きっと今まであの二人はお互いの思いを確かめないままずっと側にいたから、それで満足してしまっていたんじゃないだろうか。
結ばれるはずもないけれど、神殿にいる間は側にいられる。仕事だから一緒にいても許される。そんな建前を積み上げて。
ただ問題は二人とも恋愛スキルが著しく視野狭窄というか、お互いしか見てないからそれ以上進まない。とてもじれったい。
フランシスが女性を愛せないことを知っているシルヴィや父は「いい加減さっさとくっつけ」という気持ちになっているらしい。
「今、シャノン王国の司祭相当の高位神官が数人この国に移住したいと言ってきているらしい。ジョザイアの負担は減るだろう。将来ジョザイアを還俗させても問題ないし、今聖職者の婚姻についても認める方向で調整中……ということだ。これは義父上からの情報だが。だからあとはあの二人を蹴っ飛ばすだけだ」
アンドレアスはセシルの父やシルヴィとそんな相談をしていたらしい。
「……大丈夫なんですか、周りがそんなこと決めちゃって」
「というより、この国の神殿の言ってる神と、お前やミントの言ってる神っぽい神様の印象が違いすぎて……そんなにクソ真面目に考えなくても良くないか? もう単純にあいつらくっつければいいじゃないかって思うんだが」
セシルはそれを聞いてどういう反応をしていいのか迷った。
神殿の教義では聖職者は独身であることが求められる。神に全てを捧げたのだから俗世に家族は必要ないと。
かつて異世界にいたセシルをこの世界に転生させた神は、わりとゆるゆるで厳格な感じはしなかった。別に聖職者が恋をしても怒らないような気がする。
けれどそんなことをフランシスやジョザイアに言おうものなら、罰当たりだと叱られそうだ。その方が神様より怖い。
「……具体的にはどのような……?」
「まずはジョザイアだな。フランシスは義父上とシルヴィに煽ってもらう」
「……なんか嫌な予感しかしないんですけど」
「ミント命名、『イチャイチャ見せつけちゃおう大作戦』だそうだ」
……また頭の悪そうな作戦名を。
けれどセシルとしても長年片思いをこじらせてぐるぐる回り続けているフランシスに幸せになってほしいのは正直なところだったので、それに文句はなかった。
* * *
ジョザイアが初めてフランシスを見たのは十五年ほど前のことになる。
神殿では昔からアッシャー家の兄弟は有名だった。
元々アッシャー家は神殿に多額の寄進をしている家柄で、彼ら兄弟は祭事のたびに父とともに神殿を訪ねてきた。
一番上のフランシスはしっかり者で周囲への気配りもできる愛嬌のある子供だった。その笑みで神殿に来ていた女性たちの目線を一身に集めていた。つややかな黒髪と鮮やかな青い瞳。
将来どれほどの美男子に育つのかと周りが噂していたが、確かにそうだとこっそり頷いた記憶がある。
フランシスは出迎えた神官たちに好奇心いっぱいのあどけない目を向けて、それでいて騒ぎ立てたりせずにきちんと行儀良く振る舞っていた。
その目がジョザイアに向けられたと思ったら予想もしなかったことを告げられた。
「あなたは初めてお見かけしますね。……そうだよね? セシル」
隣にいたセシルも頷いた。彼はフランシスとは雰囲気が違うがまた愛らしい容姿をしている。しかも落ち着いていて利発そうに見えた。
「……今まで一度もお会いしてません。初めましてです」
驚いた。この子たちは神殿で出迎えに出てきた神官たちを全て覚えているのか。
確かにジョザイアは今まで地方神殿の神官を務めていて、大神殿に来て間もなかった。
「私は先日こちらに来たばかりでございます。ジョザイアと申します」
「あなたの髪色はこの聖典の表紙みたいで、その瞳は文字の金箔のようですね。とても素敵です」
フランシスはそう言って大事そうに手にしていた聖典を見せてくれた。濃い灰色の表紙に金箔の流麗な文字が書かれている。そんなことを言われたことがなくて、思わず頬が熱くなってお礼を返すのが精一杯だった。
あとで同僚からわずか十歳の子供に口説かれるなんてとからかわれたけれど、確かにそのときジョザイアの心は大きく弾んだのだ。
その後も彼ら兄弟を神殿でよく見かけた。
会うたびにジョザイアの目はフランシスに釘付けになった。
清廉な美貌のみならず彼は神殿の教義にも通じていて、勉強会があれば必ず熱心に質問してくるほどだった。
……これほどの子ならば聖職者にふさわしい。自分のような不器用で融通がきかない者よりもはるかに多くの人々に教義を広めることができるだろう。
もし、彼が神殿に入ってくれるなら、自分のささやかな知識の全てを教えて、彼を……。
そんなささやかな妄想を抱いてしまって、慌てて否定する。
彼は公爵家の次期後継者。そんなことが起きるはずはない。
親子ほど歳が違う自分が彼とのたわいない会話で子供のようにはしゃいでいるなどと気づかれないようにしなくては、そう思いながら、ジョザイアは彼の成長をただ見守ってきたのだった。
「……突然で申し訳ありません。礼拝をさせていただけますか」
五年ほど前のことだった。
フランシスが供も連れず一人で神殿にやってきた。いつも明るい笑みを見せていた彼がどこか思い詰めたような顔をしていたのが気になった。
ジョザイアは心配になって礼拝を終えて出てきたフランシスを呼び止めた。
「フランシス様。よろしければお茶でもいかがですか?」
思えばジョザイアから彼に声をかけたのはこれが初めてだった。
そうしなければならないと思うほど、フランシスは顔色が悪かった。
応接室に通して用意させたお茶を勧めても、彼は沈んだ表情でなかなか手を付けようとしなかった。
「……司祭長様はどうして聖職者を目指されたのですか?」
「私の家は男爵家とは名ばかりの貧しい家でしたから。それに私は三兄弟の末っ子で。ですから早く家から独立しなくてはなりませんでした」
南部の貧しい下級貴族。満足な教育も受けられない自分に知識を与えてくれたのは地方神殿の神官様だった。自分が神殿に行けばそのご恩返しもできるし、実家の食い扶持を減らせるだろうと思ったのがきっかけだ。
「……崇高な理由ではないから、幻滅しましたか?」
そんな現実的な理由を聞いて、フランシスは驚いたようにジョザイアを見つめてきた。
「いいえ。むしろ安心しました。……内密に願いたいのですが、実は僕に縁談の打診が来ています。相手はブリジット王女殿下です」
ジョザイアはそれを聞いて胸の奥が苦しくなった。
フランシスは二十歳になるところだった。むしろ今までフランシスが婚約者を持たず、縁談を断り続けていたことの方が不思議なくらいだ。
「本来なら喜んでお受けするところでしょう。けれど、王太子殿下がセシルを手に入れようと企んでいると知って……」
彼の話はジョザイアには信じがたい内容だった。彼の溺愛している弟セシルを王太子が自分の愛妾にしようと狙っているというのだ。セシルは兄の縁談に影響が出ることを恐れてかそれを表沙汰にせず逃げ回っていたら、強引に寝室に連れ込まれそうになったという。
いくら王太子だからといって、相手の意思もお構いなしに寝室に連れ込むとはあまりに乱暴ではないか。未遂で済んだとはいえ、セシルの心はどれほど傷つけられただろう。
そしてフランシスもそのことに苦しんだのだ。そんな王太子の妹と結婚することはセシルを更に傷つけるかもしれないと。
「そのような無体は許されることではないでしょう。父君に相談なさってはいかがですか?」
フランシスの表情は強ばったままだった。
「たとえ王女殿下との縁談が消えたとしても、セシルの身の安全には繋がりません。それに僕にはまた別の縁談が来るでしょう。父に話せていませんが、僕は女性を好きになれないのです。生涯子供を持つことはないでしょう。だからできることなら僕の次はセシルに家督を継がせたいのです。けれど理解してもらえる気がしなくて……」
ジョザイアはそれを聞いて胸を突かれたような気がした。
……女性を愛せない? なら彼は男性なら愛せるのか?
一瞬頭の中をフランシスが見知らぬ青年と身を寄せている姿がよぎった。そして、それを嫌悪してしまった自分がいることにも気づかされた。
彼が他の男と愛し合うなど……見たくもない。
それとももう、すでに誰かと心を通じ合わせているのだろうか。
そんな思いに駆られて、やっと我に帰った。
……何を考えている? 彼に劣情を抱いているのか、私は。
彼は私を信頼して、悩みを打ち明けてくれているというのに。
「……それは……確かに父君には話し辛いことですね」
神殿は同性愛を否定はしない。けれど同性間の結婚式は神殿では行えない。それを認めれば後継者問題などの俗事に巻き込まれるからだ。
正式な結婚ができない限り、彼は政略結婚を断る口実がない。
「私にできることがあれば、なんなりとお力に……」
そう言いかけたジョザイアにフランシスはぱっと顔を上げた。
「……それなら、ジョザイア様が保証人になってください」
「……保証人?」
「決めました。僕は神殿に入ります。この身を神に捧げて生きていこうと思います。僕がいなくなれば縁談はなかったことになりますし、セシルが公爵家の跡取りになる。流石に後継者には王太子殿下でも手出しはできません。どうせいずれセシルに家督を譲るつもりだったんだから、順番が早まっただけです」
ちょっと待ってくれ。
ジョザイアは戸惑った。確かに彼が神官になってくれればと妄想したことはあるが、こんなにあっさりとその妄想が現実になるとは思わなかった。
彼の悩みとセシルの災難の上で自分の願望が叶うのは複雑な気持ちだった。
「つまり……私に師父になれと」
神殿の神官になるには基本的な教義の知識が必要になる。そのためには司祭以上の教えを受けることになる。身元保証人と指導役を兼ねた存在だ。
親の反対を押し切って神官になる者はいるが、平民ならともかく貴族の場合その親とのゴタゴタを嫌って保証人のなり手が見つからないことはありがちだ。
まして代々熱心な信者であるアッシャー家の息子だ。騒動の火種は避けたいと思うだろう。
「僕のことを一番よくご存じな方はジョザイア様です。だからお願いしたいのです」
フランシスは鮮やかな青い瞳をジョザイアに向けてくる。熱がこもった真っ直ぐな目線にジョザイアは思わず息を呑む。
彼が神官になれば名実ともに自分の手元に置くことができる。そして、彼が他の男と結ばれることはない。
そう思うと答えは一つしかなかった。
「……本気でお考えでしたら、引き受けましょう。神に身を捧げる覚悟ができましたら、いつでもご連絡を」
ジョザイアがそう答えると、フランシスはふわりと微笑んだ。
「では、馬車に荷物を積んできましたので、持って来ます」
え? これから?
ジョザイアが唖然としている間にフランシスは一礼して立ち去って、そしてすぐに引き返してきた。
どうやらフランシスは迷っていたのではなく、すでに準備万端整えて決意した上でジョザイアの前に現れたのだと気づいても、すでに手遅れだった。
その日、神殿がフランシスの出家で大騒ぎになったのは言うまでもない。
縁談を断りたいから、そして弟を王太子に渡したくないから、それで今までの生活を何もかも捨てて神官になる。フランシスの決意は固かった。
華やかさとは無縁の神官の職務をフランシスは黙々とこなして、すぐに回りから認められるようになった。
一度だけフランシスに、恋人にはこのことを相談したのかと訊いたことがあったが、好きな人はいるけれど恋人にはなれないんです、とだけ答えた。
その様子を見ていたジョザイアはふと思った。
フランシスの想い人はセシルなのではないかと。幼い頃から手元から離さないほど溺愛している利発で可愛らしい彼の弟。
もしそうなら、たとえ同性婚が認められても結ばれるはずがない。
それに、彼を王太子から守るために神官になろうとした献身も理解できる。
……それでもジョザイアはフランシスが自分の手元にいてくれる日々を幸せに思っていた。誰かを犠牲にした幸せを喜ぶことに罪の意識も抱えながら。
後でわかったのはフランシスの想い人はセシルではなかった。
フランシスはセシルに同性の恋人ができたと知り、何とかして正式な結婚をさせたいとジョザイアに相談してきたのだ。
そうして、やっとモルセラの神殿で同性婚が認められることが決まった時になって事件は起きた。
セシルがカトライアにある遺跡で二人きりで結婚式を挙げたことをフランシスが知ったことがきっかけだった。
二人にとって出会いの場所だったかららしい。
意地でもセシルの結婚式が見たいフランシスはここモルセラで彼らの結婚式をもう一度行うことにしたらしい。
「……申し訳ありません。ジョザイア様にもご協力をお願いできますか」
モルセラ公国の正神殿をセシルが訪ねてきて、その経緯を聞かされたジョザイアは、フランシスの執念に驚かされた。もしかしたら自分が想い人と結ばれることはないと思っているからセシルの結婚式に執着するのだろうか。
「もちろんです。立派な式にいたしましょう」
それでもせっかくの慶事なのだから協力は惜しまない。ジョザイアが即答すると、セシルは迷う様子で俯いてから顔を上げた。
「……実はもう一つお願いがあるのです。僕の夫には身よりがまったくいないので、彼の親族代理をジョザイア様にやっていただけないかと」
彼の伴侶は魔法使いだと聞いていた。今でも魔法を生業にしている者がいるとは思わなかったジョザイアは驚いたものだ。
彼は魔法具師としての腕は確かで、魔結晶生産装置が壊れた騒ぎのあと注目されている天然魔石を使った道具を開発しているそうだ。魔法というのはなかなか信じがたいが、優秀な人物であるらしい。
「しかし、それでは司祭役が……」
できることなら結婚式を取り仕切る役目をしたいと思っていたジョザイアは戸惑った。
「このたび新しい司祭様が何人かいらっしゃったとお聞きしています。その方にお願いできないでしょうか。信頼できる方でお願いできるのはジョザイア様だけなんです」
歳の割に幼く見えるセシルのお願いに弱いのは彼の身内だけではないだろう。
ジョザイアはセシルのことも子供の頃から知っているだけに、身内のような感覚がどこかにあったから余計に断れなかった。
衣装などは全て用意してくれると言われて、ジョザイアは初めて結婚式で列席する側に回ることになった。
「ところで……カトライアでの生活は不自由はありませんか?」
カトライア公国は広大な領地を持つが辺境の地とされている。公爵家の令息として育った彼がどのような暮らしをしているのかジョザイアはふと気になった。
「はい。毎日楽しく過ごしています」
「夫君は……」
そう尋ねようとしたら、セシルの隣にふわりと長身の男が現れた。ジョザイアは何が起こったのか一瞬戸惑ってから、ああ、これが魔法というものなのか、と無理矢理納得した。
「ジョザイア様。此度はオレのことでお手間をおかけする」
セシルの伴侶アンドレアス。長い黒髪と宵闇のような紺色の瞳。彫像のように整った顔とどこか不遜な表情をした男だ。
けれどセシルに向ける目はあからさまに甘く穏やかだ。
「衣装のことであれこれ聞いてくるから逃げてきた」
そう言いながらセシルの肩に手を回すと頬にキスを落とす。チラリとこちらを見ているのは、警戒されているのだろうか。
それとも彼はセシルが他の男と話しているだけで面白くないと邪魔をしに来たのだろうか。髪にふれたり手を握ったりして熱烈ぶりを見せつけているようだ。
「もう、ジョザイア様の前だから少しは自重してください」
「いいんですよ。お二人が幸せそうで私も嬉しいですから」
ジョザイアは二人の仲睦まじい様子を微笑ましく思った。
セシルがふと思い出したかのように話題を変えてきた。
「ところで、近くこの国の神殿では神官の妻帯を認めるそうですけど、そうなったらジョザイア様も将来は伴侶を迎える日が来るかもしれないですね」
そのことは同性婚と同時にフランシスが提案してきた。けれどそれはまだ細則を話合っている段階で決定ではない。あと一月くらいは調整が必要だろう。
ただ、それを認めるのはジョザイアには抵抗があった。欲というのは認めれば際限がない。だからこそ聖職者には厳しい戒律があるのだ。
……現に今の自分もフランシスに対してあらぬ願望を抱いてしまったことがある。それは神に仕える身として正しいと言えるのか。
「私は生涯神にお仕えすると決めていますから……そうなったところで変わりはありません」
それを聞いてアンドレアスは大きく頷いた。
「聖職者の鑑だな。義兄上が尊敬しているだけはある。ただ、結局それも人が決めたことだろう。神はおそらく懐の広いお方だろうから、些末なことはお気になさらないのではないかという気がする」
ジョザイアはそれを聞いて、セシルの伴侶は外国出身なので異教の影響も受けているのかもしれないと言われたのを思い出した。
けれど彼の語る宗教観は至極真っ当なものに思えた。確かに教義というのは神殿が作ったもので神が直接命じたものではない。神に向き合うにふさわしくあろうと考えたから生まれたものなのだろう。
ならば神は聖職者が誰かと添い遂げたいと願うことを不快には思われないのだろうか。
……私のこの願いは罪ではないのだろうか。
「立ち入ったことをお聞きして申し訳ありません。どちらにしてもジョザイア様がお幸せになってくだされば僕はそれが一番嬉しいです。子供の頃からお世話になってますし」
セシルはそう言って微笑んでくれた。
たしかに、未来への選択肢を増やされただけのことだ。それを選ぶかどうかは自分次第なのだろう。
* * *
「……なかなかに無茶ではないのか」
セシルの父、前シャノン王国アッシャー公爵ナイジェルはアンドレアスとセシル、そしてシルヴィの作戦内容を聞いてそう答えた。
「ここ数日フランシスにジョザイアに想い人がいるらしい説を吹き込んだのだが、なかなか動揺を見せない。義父上にもお願いしたはずだが」
「ああ、ジョザイア様の従妹という女性が何度か恋文を寄越していたという話だったな……。フランシスはとっくに調査済みで、あれは女性の思い込みだとバッサリ断言していた」
シルヴィは帳簿のチェックをしながら溜め息をついている。
セシルの前世風に言うならできるキャリア志向女性、という印象のシルヴィはあの二人のモダモダを解決したくてしかたないらしい。
「ジョザイア様の身辺を徹底的に調べているくせに、自分のお気持ちを伝えないなんてヘタレ以外の何者でもありませんわね」
聞いていてセシルは頭を抱えたくなった。フランシスはどうやらジョザイアと個人的な交流がある人間は調査済みらしい。下手したら前世でよくいたストーカーと間違えられそうなくらいだ。
唯一の救いはジョザイアが真面目過ぎて個人的に誰かと深く関わることがほとんどなかった点だろう。
セシルの父とシルヴィはここ数日フランシスにジョザイアには好きな人がいる、という話をあれこれ耳に入れさせたのに、全く動じなかったのはその完璧なリサーチに自信があるからだろう。
……それでも自分に脈がないって思うって……どういうことなのか。
そもそもシャノン王国で大神殿のトップにいた人が、フランシスの誘いだけであっさり新興国の神殿に鞍替えしてくるなんて普通じゃないって思わなかったんだろうか。
ジョザイアは感情を隠すのに長けているけれど、幼い頃から知っているので神官の結婚の話をしたとき動揺したのがセシルには見て取れた。
あちらはきっと、立場とか年齢のことが枷になってるんだろうけど……。
「とにかく決行は結婚式の朝。仕掛けはオレが全て終わらせるので、外堀は皆に任せた」
アンドレアスはそう言って全員の顔を見回した。
どういうわけか、今回アンドレアスはやる気になっている。それがちょっと怪しい気がしてセシルは問いただすことにした。
「新しい魔法具の実験がしたかったんでちょうどいいと思ってな」
話し合いを終えてからセシルがその理由を聞くと、最凶最悪の魔法使いはしれっとそう答えた。
「やっぱり……」
労働にはその対価をと主張するアンドレアスがどうしてフランシスたちのことに首を突っ込むのかと思ったら、それだったのか。
『フランシスってモテモテなのに、自分の魅力がわかってないよねえ……。見かけだけで騒がれてるって思ってるのかなあ。そもそも見かけだけで大概の人落とせるんだけど』
部屋の隅で話を聞いていたミントが顔を上げた。
「兄上は皆が外見のことばかり褒めそやすから、逆に自分はそれだけなのかって思ったのかもしれない。兄上は勉強熱心だし、剣術だって人並み以上だし、何より社交界であれだけモテていても誰かに反感を買うことがなかったのは人格だと思う」
フランシスは人の顔を覚えるのが得意で、婚約者や恋人がいるご令嬢にはまずそのパートナーに話しかける。そうすることで無用の誤解を防ぐことになるし、パートナーがフランシスから褒められたらご令嬢たちも蔑ろにはできない。
ああいう気遣いはなかなかできることじゃない。
「ジョザイア様は兄上を子供の頃からご存じだから、努力を継続できるのは素晴らしいとよく褒めてくださった。兄上はそれが嬉しかったのかも」
「……チョロい男なんだな。モテ男で社交慣れしているというからもっと手練手管が必要なのかと思ったら」
「いや、意外と腹黒いことも平気なんですけど、恋愛の面ではそうじゃなかったというか……」
公爵家の後継者として育てられたのだから、表沙汰にできないことも学んでいるはずだ。セシルはその一部だけ教わった段階で後継者から外されたけれど。
基本的にフランシスは優しく公正な人だ。家を継いで、さらにモルセラ公国の主となった彼を側で支えてくれる人がいてほしいと思う。
……できることなら今よりもっと踏み込んだ仲になって欲しいと思うのは、ちょっとお節介だろうか。
シルヴィやアンドレアスみたいに思い切るにはセシルはちょっとまだ、遠慮が先立ってしまう。
逆に彼らが暴走しないようにしないと……そう思ってしまう。
作戦の決行は表向きセシルとアンドレアスの結婚式ならびに披露パーティーの日。
セシルはジョザイアのいる控え室に顔を出していた。
「本日はありがとうございます」
ジョザイアの今日の衣装は貴族の礼服で、抑えめの色合いの上着に青の刺繍や飾りでアクセントをつけたものだ。アンドレアスの親族が一人もいないので、彼は親族代表の代理として出席することになっている。
「今日の主役がまだ着替えなくていいのですか?」
セシルの服装を見て、ジョザイアが不思議そうに問いかけてきた。
「略式の衣装なのでそんなに手間かかりませんし、魔法で着付けするので一瞬ですよ」
「そうなのですか」
「ジョザイア様からしたら魔法なんてうさんくさいかもしれませんけど、アンドレアスの魔法は頼りになるんですよ」
「そうですね……。三百年前にいたという最強の魔法使いと同じお名前だから、さぞかし強いのでしょうね」
ジョザイアは柔らかい笑みを浮かべた。
そういえば、ジョザイアにはさすがにアンドレアスがファーデン王国を滅ぼした最凶最悪の魔法使い本人だとは打ち明けていなかった。
流石に信じてもらえないだろうと思ったんだけど、もし今回の作戦が上手くいったらきっとアンドレアスの魔法のことも信じてもらえるかもしれない。
……とはいえ、今回もろくでもないって言えばろくでもないんだけど……。
セシルは笑みを返しながら頷いた。
「ええ。強いですよ。……それでですね、アンドレアスがジョザイア様にこれをお渡ししてほしいと……」
セシルが封が施された書状を手渡す。それを拡げてジョザイアの表情が変わった瞬間、彼の姿はその場から消え失せていた。
* * *
『ここは本当のことを言わなければ、出ることができない部屋です。聖職者と元聖職者であるお二人が嘘なんてつくはずありませんよね?』
子供の落書きのような文字で壁にそう書かれているだけの真っ白い壁に四方を囲まれた部屋。
ジョザイアは気づいたらその部屋にいた。そして目の前には結婚式に出席するための礼服を纏ったフランシスも。
「……ジョザイア様……?」
「これは一体どういうことですか? 私はさっきまで……」
セシルと話していたはずだ。
「私も父たちと会場に向かっていたところで……。まさかと思うのですが、これはアンドレアス殿の魔法では……?」
「魔法……? けれど彼らの結婚式だというのに、私たちをここに閉じこめてどうするのですか?」
そう言いながらジョザイアは壁に書かれた文字に目を向けた。
すると今まで真っ白だった壁に新たな文字が浮かんできた。
『質問① あなたの目の前にいる人をどう思っていますか? 好きか嫌いで答えてください。それ以外の回答は認めません』
「え?」
フランシスが戸惑ったようにこちらに目を向ける。
「もしかして、質問に正直に答えないと出られないということですか?」
ジョザイアはそのようなことがあるのだろうかと思いながら、ドアも窓もない壁に触れてみた。ちゃんと質感はあるから幻を見せられているわけではないらしい。
正直に……?
「アンドレアス殿、どういうおつもりか知らないですが、後でちゃんと答えてもらいますよ。……ジョザイア様のことは『好き』に決まっているでしょう。幼い頃から尊敬申し上げています。嫌う理由はありません」
フランシスが壁に向かって言い放った。少し不機嫌そうなのはせっかくお膳立てした彼らの結婚式当日にこんな悪戯をされるとは思わなかったからだろう。
「……私も『好き』です。熱心に私の話を聞いてくれて、慕ってくれるのはありがたいことです」
ジョザイアはそう口にしてから頬が熱くなった。好きと言葉にしたことはなかった。
……フランシスのことをずっと意識していたのに、言葉に出すと気恥ずかしい。
ふと顔を向けると、フランシスも少し顔が赤かった。
いい大人がお互いのことを好きだと口にしているなんて、照れくさくもなるだろう。
そう思っていると新たな文字が壁に浮かび上がる。
『質問② 目の前の相手に隠し事がありますか? あればその中で一番言いたくない内容を正直に答えてください』
「……アンドレアス殿。悪ふざけが過ぎますよ。いい加減にしてください。大人には人には言えないことだってありますよ」
フランシスがそう言うと、壁に新たな文字が浮かび上がってきた。
『さっさと答えないとセシルが、兄上は僕の結婚式に出たくないから逃げ出したんだって泣いてるぞ? 泣かしていいのか?』
「卑怯な。セシルを泣かすようなことを僕がするはずがないでしょう」
フランシスは壁に向かって言い返しているが、言いたいことは言ったとばかりに、壁に変化はない。
ジョザイアはそれを見て、この部屋はアンドレアスが作ったものでしかも何が起こっているのか彼は関知しているらしい、と理解した。けれど、セシルが悲しむような真似をするのは関心しない。
そんなことを聞いたらフランシスだって悲しいだろうから。
これはきっとアンドレアスが独断で仕掛けてきたのではないだろう。そもそもジョザイアはアンドレアスとほとんど面識がなかったのだ。その上でフランシスとの関係を問うてくるというのなら……。
今まで正面から自分の気持ちに向き合わなかった自分への挑戦かもしれない。
「……隠し事はありますよ」
「ジョザイア様?」
フランシスが驚いた顔でこちらに振り返る。彼が一時はジョザイアの補佐をしていたことから私的なこともほとんど話している。けれど、それでも彼に言えないことはある。
「私はフランシスが神官になりたいと言ってきたとき、それが彼の悩みの先にあった結論だったと知っていたのに、喜んでしまいました。個人的な願望が叶うと」
「……え?」
「あまりに熱心に教義を学んでくれて、私のことも慕ってくれる彼が可愛くて、できることなら彼が私と同じ聖職者の道を選んでくれれば、一緒にいられるだろうと思っていました。あまりに浅ましい感情なので、聖典の筆写をひたすらして消し去ろうとしましたが、忘れることはできませんでした」
ただの信徒の一人、そう思うには彼の存在は大きくなっていた。けれど特別扱いをすることはできないから、気持ちを押し隠しているうちに心が重くなった。
「ジョザイア……様?」
フランシスが信じられないものを見るかのように目を瞠る。
「私は自分がこういう感情を持てるとは思ってもみませんでした。けれど、あなたのためを思えば決して抱いてはいけない感情です。戯れ言と思ってこの部屋を出たら忘れてください」
こう告げたら彼は失望するだろうか。幼い頃から慕っていた神官がこんな感情を抱いていたなんて知りたくはなかっただろう。
「……忘れませんよ」
フランシスはジョザイアに真っ直ぐに告げると、壁に目を向ける。
「……アンドレアス殿。僕もジョザイア様に隠し事があります。一つや二つじゃありません。その中で一番言いたくないことは、家督も何もかも捨ててジョザイア様の下で働けた日々が僕にとって一番幸せだったことでした。その間セシルが苦労して酷い目に遭っていたのに、神殿の外に目も向けなかった。僕は愚かにも他のことが目に入らなくなっていたんです。……身勝手にも自分の恋心を優先してしまった。きっとこんな気持ちはジョザイア様には迷惑でしょう。聖典の筆写、僕もあとでやります」
ジョザイアに振り返って悪戯がバレた子供のような悪びれない笑みを浮かべる。
「言える訳ないでしょう……。僕はあなたに一目ぼれして、下心満載で神殿に通い詰めていたんです。付き合わされたセシルには可哀想なことをしましたけど」
フランシスの言葉にジョザイアは思わず問い返した。
「一目ぼれ? あなたと初めて会った時、十歳くらいでしたよね?」
あどけない綺麗な少年が熱のこもった瞳を向けてきたのは覚えている。それを見て自分の心が揺らいだのも。
……一目ぼれ? あの時に?
「そうです。この人しかいない、って思ってしまったんです。その後どれほど大勢のご令嬢と語らってもあなた以上に僕の心を惹きつける人はいなかった」
「フランシス……」
「同性婚も聖職者の婚姻も、建前は並べましたが、全部自分のためです。ジョザイア様とそうなれる可能性があるだけで、僕は幸せでしたから。もう、いっそ気持ち悪いとか言って下さっても大丈夫ですよ? 十五年も初恋こじらせてるんです。もう一生このままだと思います。……後はこの国を豊かにして、立派な神殿を寄進してジョザイア様にはずっとそこにいてもらいたいと思ってます」
可能性。
『どちらにしてもジョザイア様がお幸せになってくだされば僕はそれが一番嬉しいです。子供の頃からお世話になってますし』
セシルの言葉を思い出して、ジョザイアは頬が熱くなった。
ジョザイアの未来への選択肢が増やされたのはフランシスの望みであり、そして無理強いされなかったのは彼の優しさだったのだろう。
……私は自分の立場を盾にして、彼への感情を隠すことしか考えられなかったのに。
「可能性が与えられたことはうれしく思っています。それがフランシスの私への気持ちだというのなら……とても、ありがたいことだと……。けれど、私はむしろフランシスの父君に近いような年齢で……今さら婚姻などは……」
思いを告げてもらえたのは嬉しいし、自分のこの気持ちは今はもう罪ではないのだとわかっている。
このまま少しずつ距離を近づけながら、この地でフランシスとともに生きていけるのなら……それ以上は望まない。
フランシスの鮮やかな青い瞳がじっとこちらを見据えている。手が伸びてきてふわりと抱きしめられた。
……ああ、あの時の幼い少年が、私を腕の中に納めてしまうほど大きくなっていたのだな。
「ジョザイア様……ずっと一緒にいてくださるのなら、僕はそれ以上望みません。あなたを愛していますから」
ジョザイアはその腕にそっと手を添えて頷いた。
そこへ、壁に新たな文字が浮かび上がってきた。
『質問③ おめでとうございます。本日の結婚式はモルセラ公フランシス閣下と司祭長ジョザイア様のものと変更になりました。今すぐ結婚式を挙げますか?』
「ちょっと待った、急ぎ過ぎだろう。アンドレアス殿」
フランシスがジョザイアを抱き込んだまま壁に向かって叫んだ。
それを聞いてジョザイアも少し冷静になった。
そうだった、この部屋の状況はアンドレアスに見られているのに。うっかりと抱き合ってしまった。
『十五年も付き合っていたんだから、もう結婚式でいいんじゃないか? 二人の名前で招待状を送ったし、客も来ているんだぞ。それとも嫌なのか? せっかく準備してきたセシルが泣くぞ?』
「ちょっと、いちいちセシルを引き合いに出すのやめてくださいませんか? いくらなんでも今すぐなんて……ジョザイア様だってお嫌ですよね?」
慌てているフランシスを見て、久しぶりに年相応な様子を見たなとジョザイアは笑みが浮かんだ。
「嫌ではありませんよ。ちょうど……昨日聖職者の婚姻が正式に認められたので、法令的にも問題ありませんから」
どうやら、一ヶ月前セシルが相談に来たときにはもう計画は始まっていたのだろう。
ジョザイアはそう悟って、これはもう逃げられない所まで追い込まれたのだと気づいた。
……もしかしたら、私たちの気持ちは他の人たちにはバレていたのでしょうか。
そう思うと照れくさくもあるけれど、もう隠すものなどなくなったことだし、恥ずかしがっても仕方ないと気持ちを切り替えた。
フランシスもどうやら陰謀に気づいたようで壁をにらみつけていた。
「……もしかして……図られたんですか?」
『今頃気づいたのか? 嫌じゃないんだな? じゃあすぐに始めるぞ?』
一瞬で景色が切り替わって、二人は大聖堂の真ん中、祭壇の前に並んで立っていた。そしてその間に二人の衣服も結婚式の男性衣装に変わっていた。
……魔法で一瞬で着替えられるとセシルが言っていたが……こういうことか。
周囲からわっと拍手が上がった。参列者の中に神殿に入ってから一度も会っていなかった兄たちがいるのを見て、これはもう完全にやられたとジョザイアは思った。
「……ちょっとくらい恋人期間があったっていいじゃないですか……」
フランシスはまっ赤に染まった頬をちょっと膨らませて呟いた。
「それはこれからゆっくりと考えましょう。あんなに嬉しそうにされたら、怒るに怒れないでしょう?」
ジョザイアが示した方向に、親族の席で幸せそうに笑っているセシルやフランシスの養子たちがいるのを見て、フランシスも諦めたように頷いた。
* * *
「僕たちの結婚式を勝手に兄上たちのものと変えちゃったのはともかく、失敗したらどうするつもりだったんですか」
セシルは打ち合わせも何もなくいきなり結婚式本番を迎えたフランシスとジョザイアをいくらかハラハラした気持ちで見つめていた。
「失敗するはずがないだろう? そもそもあの二人お互い離れる気は毛頭ないんだし」
アンドレアスとシルヴィの立てた計画はかなり無茶苦茶だった。
まずフランシスの望み通り一ヶ月後の大聖堂で結婚式を行う。ただし招待状はフランシスたちの名前で送る。フランシスたちにだけは魔法でセシルたちの名前に見えるよう細工して。
その間に聖職者の婚姻について認められるように手続きを進める。
アンドレアスの親族代理をジョザイアに依頼して、彼に結婚式に直接関わらせないようにする。
当日二人を一室に閉じこめて、正直に答えないと出られないと脅した上で、気持ちを告げさせる。上手くいったらそのまま大聖堂に移動させて、またうだうだ悩む前に結婚式を挙げさせる。
あとは二人が結婚休暇を取れるように父とシルヴィ、そして新たに来た司祭たちが職務の代行体制を整えてある。もう至れり尽くせりだ。
ちなみに「嘘をついたら出られない部屋」というのは僕の前世で妹のフジョシ友達が持っていた同人誌からヒントを得たものらしい。「○○しないと出られない」というアレだ。
さすがにあのネタそのまま持って来たら、怒られるどころでは済まないだろう。
そしてアンドレアスが今回開発した魔法具は、書いた文字だけを相手のところに送る道具。つまりファクシミリと同じようなものだろうか。うまくいったら商品化すると言っていた。
「ちなみに、式が済んだらすぐに逃げるぞ」
アンドレアスはそう言ってセシルの腰に手を回してきた。
「まあ、兄上は怒るでしょうね」
温厚で滅多に怒らないけれど、怒るとお説教が長いタイプだ。
今回の件、父上やシルヴィ、そしてフランシスの子供たちも大喜びしているのだけど、いきなり大勢の前に引っぱり出されて結婚式を挙げさせられた二人は文句の一つも言いたくなるんじゃないだろうか。
「オレが怒られたくないのは、ジョザイアの方だ。あんな善人すぎるやつの方が怖い」
アンドレアスは口を引き結んでそう答えた。
善人すぎる……。アンドレアスの師匠ロルフは私財を投じて戦災孤児たちを養っていた。そのことを思い出したんだろうか。
「オレは最凶最悪の魔法使いだからな、そもそも聖職者なんかとは気が合わないんだ」
そう言うとこっそりセシルの頬にキスをした。腰に回った手が下に移動してきたので、セシルは慌てて制止した。まだ厳かな結婚式の真っ最中なのだ。
「こういうことは、帰ってからですよ?」
アンドレアスの顔を見上げてそう囁く。
「まあいい。他人の幸せを眺めているのも悪くないからな。お前が嬉しそうだから」
悪びれなくそう答えて、アンドレアスは物慣れない様子で誓いの言葉を口にしている二人に目を向けた。
最凶最悪の魔法使いの口元に満足げな笑みが浮かんでいるのを見て、セシルはそっと近づいて身を寄せた。
きっと魔法具の試運転も口実だったんだろうな。
……まあ、それを知ってるのは僕一人でいいんだけど。
最凶最悪とか自分で言っちゃうくせに、アンドレアスは結構僕に甘いんだから。
「……すみません。でも僕も突然だったので……。兄上のことを忘れていたわけじゃないんです……」
「酷いじゃないか、セシル。内緒で結婚式やっちゃうなんて。この僕に花嫁衣装を見せてくれないなんて。というか結婚式はモルセラで挙げてくれるんじゃなかったのかい? ジョザイア様にもお願いしてたのに」
セシルの兄フランシスは現在モルセラ公としてモルセラ公国を治める立場にある。若く美貌の持ち主を首長としたこの国は現在経済的にも急速な発展を遂げている。
その優秀で完璧な人物がセシルを前にすると完全に過干渉の過保護ブラコンと化してしまう。元々その気はあったのだけど、半年前セシルが呪いをかけられて王宮から追放される騒ぎがあってから更に悪化したような気がする。
現在セシルはカトライア公国で暮らしている。伴侶のアンドレアスが正式に旧ファーデンの遺跡を領地として与えられたので、一応カトライア公国の貴族という扱いになっている。村二つ分だけの領民というこじんまりした所領ではあるけれど。
いや、あれは式っていうか、まねごとっていうか。でもあの神様の使いだというミントが立ち会いだったんだから……正式なのか?
そもそもセシルがアンドレアスと恋人だと知ったフランシスは、モルセラ公国の神殿では同性婚を認めるように新司祭長のジョザイアに働きかけていた。それが通ったと知らせてくれたときに、うっかりアンドレアスが式ならこっちですませたと漏らしてしまった。
そのことでフランシスががっくりと落ち込んでしまい、セシルは何とか機嫌を取ろうと頑張っているところだった。
っていうか、情報をリークした当の本人どこに行ったんだよ……。
セシルがフランシスを慰めている間、一緒に来ていたはずのアンドレアスはミントを連れてどこかに行ってしまった。
「……ジョザイア様には僕からも謝って来ますから……」
セシルがそう言うと、フランシスはがばりと顔を上げた。何やらその目にはおかしなスイッチが入ってしまったような、不穏な輝きがある。
「そうだ。神は御心深く我らを見守っているのだ。喜ばしいことが幾度あろうと構わないはず。こっちでもう一度結婚式を挙げてもいいじゃないか。今すぐ会場を押さえて……」
「え?」
「やはり同性婚を神殿が認めたということを広めるためにも大々的な結婚式をやるべきだと思うんだよ」
……いや、あの神様だったら確かに面白がりそうだけど。兄上が企画する結婚式って何だかとんでもないことになりそうな……。
「でも、あの……一応相談してみないと……」
そう言っていると、ふわりとセシルの隣にアンドレアスが現れた。
「やればいいんじゃないか? 今そのことを義父上に相談してきたところだ。仕立屋の手配や招待状の手配も大丈夫だそうだ」
「おお。アンドレアス殿。ではお話を進めて良いのですか?」
フランシスが喜色満面でアンドレアスに顔を向ける。かつてシャノン王国で王宮を騒がせた美男子の笑顔でもアンドレアスは全く動じない。
「もちろんだ」
そう断言するとフランシスは早速と言わんばかりに飛び出して行った。
残されたセシルはアンドレアスに問いかけた。
「……随分乗り気なんですね。賑やかなことは嫌いなはずなのに珍しい」
アンドレアスは面倒事と騒がしいことが嫌いなので、フランシスの前に現れたのも結婚式などもうやりたくないという意思表示かとセシルは思っていた。
「いや、これはシルヴィたちに頼まれたんだ」
シルヴィというのはフランシスが迎えた二人の養子の実母だ。フランシスより三歳年上で明るく逞しくそして真面目な人だ。
フランシスは女性を愛せないからと、遠縁でしかも困窮していた未亡人シルヴィを子供ごとこの家に引き取った。彼女の立場は表向き子供たちの世話係だが、女主人不在のこの家を何かと支えてくれているできる人だとか。
ただ、彼女がセシルたちの結婚式に言及する理由がわからない。
「……どういうことです?」
「シルヴィと子供たちはフランシスとジョザイアを何とかしたいらしい」
「何とか?」
アンドレアスは首のクラヴァットを緩めてから、ふっと紺色の瞳を細める。
「要するにあの二人が傍目で見てもバレバレなくらいお互い好き合っているのにモダモダと気持ちを伝えずにデビュタントのお姫さまみたいにもじもじしながら慎ましく頬を染めて語り合っているのは見ていてじれったいから、尻を蹴っ飛ばしてでもさっさとなんとかしろと……散々愚痴を聞かされた」
「……いや、だから、言い方……話は大体わかりましたけど……」
アンドレアスにそこまで言い切れるシルヴィはすごい人だなと思いながら、セシルは納得した。
フランシスはシャノン王国の大神殿の大司祭だったジョザイアに片思いをこじらせている。あの方に会えるというご褒美があるんだからとログボを貯めるように毎週礼拝に通い詰めていた執念は、付き合わされたセシルは身を以て知っている。
一時は何もかも放り出して神官になっていたこともある。
その間ずっとジョザイア様の補佐をしていたんだから、兄にとっては幸せな日々だったはずだ。
もちろんジョザイア様だって兄ほどの美貌の少年に純真に慕われれば悪い気持ちにはならないだろう。
そもそもあのコミュ力の塊みたいな兄上がずっとお側で補佐してくれたら大概の相手は落ちるだろうって気がする。しかも兄上は好意を隠しているつもりだけどダダ漏れだったし。
フランシスが最近同性婚を神殿に認めさせようと熱心に動いていた。それをきっかけにジョザイアがフランシスのことを意識しているとセシルは気づいた。
きっと今まであの二人はお互いの思いを確かめないままずっと側にいたから、それで満足してしまっていたんじゃないだろうか。
結ばれるはずもないけれど、神殿にいる間は側にいられる。仕事だから一緒にいても許される。そんな建前を積み上げて。
ただ問題は二人とも恋愛スキルが著しく視野狭窄というか、お互いしか見てないからそれ以上進まない。とてもじれったい。
フランシスが女性を愛せないことを知っているシルヴィや父は「いい加減さっさとくっつけ」という気持ちになっているらしい。
「今、シャノン王国の司祭相当の高位神官が数人この国に移住したいと言ってきているらしい。ジョザイアの負担は減るだろう。将来ジョザイアを還俗させても問題ないし、今聖職者の婚姻についても認める方向で調整中……ということだ。これは義父上からの情報だが。だからあとはあの二人を蹴っ飛ばすだけだ」
アンドレアスはセシルの父やシルヴィとそんな相談をしていたらしい。
「……大丈夫なんですか、周りがそんなこと決めちゃって」
「というより、この国の神殿の言ってる神と、お前やミントの言ってる神っぽい神様の印象が違いすぎて……そんなにクソ真面目に考えなくても良くないか? もう単純にあいつらくっつければいいじゃないかって思うんだが」
セシルはそれを聞いてどういう反応をしていいのか迷った。
神殿の教義では聖職者は独身であることが求められる。神に全てを捧げたのだから俗世に家族は必要ないと。
かつて異世界にいたセシルをこの世界に転生させた神は、わりとゆるゆるで厳格な感じはしなかった。別に聖職者が恋をしても怒らないような気がする。
けれどそんなことをフランシスやジョザイアに言おうものなら、罰当たりだと叱られそうだ。その方が神様より怖い。
「……具体的にはどのような……?」
「まずはジョザイアだな。フランシスは義父上とシルヴィに煽ってもらう」
「……なんか嫌な予感しかしないんですけど」
「ミント命名、『イチャイチャ見せつけちゃおう大作戦』だそうだ」
……また頭の悪そうな作戦名を。
けれどセシルとしても長年片思いをこじらせてぐるぐる回り続けているフランシスに幸せになってほしいのは正直なところだったので、それに文句はなかった。
* * *
ジョザイアが初めてフランシスを見たのは十五年ほど前のことになる。
神殿では昔からアッシャー家の兄弟は有名だった。
元々アッシャー家は神殿に多額の寄進をしている家柄で、彼ら兄弟は祭事のたびに父とともに神殿を訪ねてきた。
一番上のフランシスはしっかり者で周囲への気配りもできる愛嬌のある子供だった。その笑みで神殿に来ていた女性たちの目線を一身に集めていた。つややかな黒髪と鮮やかな青い瞳。
将来どれほどの美男子に育つのかと周りが噂していたが、確かにそうだとこっそり頷いた記憶がある。
フランシスは出迎えた神官たちに好奇心いっぱいのあどけない目を向けて、それでいて騒ぎ立てたりせずにきちんと行儀良く振る舞っていた。
その目がジョザイアに向けられたと思ったら予想もしなかったことを告げられた。
「あなたは初めてお見かけしますね。……そうだよね? セシル」
隣にいたセシルも頷いた。彼はフランシスとは雰囲気が違うがまた愛らしい容姿をしている。しかも落ち着いていて利発そうに見えた。
「……今まで一度もお会いしてません。初めましてです」
驚いた。この子たちは神殿で出迎えに出てきた神官たちを全て覚えているのか。
確かにジョザイアは今まで地方神殿の神官を務めていて、大神殿に来て間もなかった。
「私は先日こちらに来たばかりでございます。ジョザイアと申します」
「あなたの髪色はこの聖典の表紙みたいで、その瞳は文字の金箔のようですね。とても素敵です」
フランシスはそう言って大事そうに手にしていた聖典を見せてくれた。濃い灰色の表紙に金箔の流麗な文字が書かれている。そんなことを言われたことがなくて、思わず頬が熱くなってお礼を返すのが精一杯だった。
あとで同僚からわずか十歳の子供に口説かれるなんてとからかわれたけれど、確かにそのときジョザイアの心は大きく弾んだのだ。
その後も彼ら兄弟を神殿でよく見かけた。
会うたびにジョザイアの目はフランシスに釘付けになった。
清廉な美貌のみならず彼は神殿の教義にも通じていて、勉強会があれば必ず熱心に質問してくるほどだった。
……これほどの子ならば聖職者にふさわしい。自分のような不器用で融通がきかない者よりもはるかに多くの人々に教義を広めることができるだろう。
もし、彼が神殿に入ってくれるなら、自分のささやかな知識の全てを教えて、彼を……。
そんなささやかな妄想を抱いてしまって、慌てて否定する。
彼は公爵家の次期後継者。そんなことが起きるはずはない。
親子ほど歳が違う自分が彼とのたわいない会話で子供のようにはしゃいでいるなどと気づかれないようにしなくては、そう思いながら、ジョザイアは彼の成長をただ見守ってきたのだった。
「……突然で申し訳ありません。礼拝をさせていただけますか」
五年ほど前のことだった。
フランシスが供も連れず一人で神殿にやってきた。いつも明るい笑みを見せていた彼がどこか思い詰めたような顔をしていたのが気になった。
ジョザイアは心配になって礼拝を終えて出てきたフランシスを呼び止めた。
「フランシス様。よろしければお茶でもいかがですか?」
思えばジョザイアから彼に声をかけたのはこれが初めてだった。
そうしなければならないと思うほど、フランシスは顔色が悪かった。
応接室に通して用意させたお茶を勧めても、彼は沈んだ表情でなかなか手を付けようとしなかった。
「……司祭長様はどうして聖職者を目指されたのですか?」
「私の家は男爵家とは名ばかりの貧しい家でしたから。それに私は三兄弟の末っ子で。ですから早く家から独立しなくてはなりませんでした」
南部の貧しい下級貴族。満足な教育も受けられない自分に知識を与えてくれたのは地方神殿の神官様だった。自分が神殿に行けばそのご恩返しもできるし、実家の食い扶持を減らせるだろうと思ったのがきっかけだ。
「……崇高な理由ではないから、幻滅しましたか?」
そんな現実的な理由を聞いて、フランシスは驚いたようにジョザイアを見つめてきた。
「いいえ。むしろ安心しました。……内密に願いたいのですが、実は僕に縁談の打診が来ています。相手はブリジット王女殿下です」
ジョザイアはそれを聞いて胸の奥が苦しくなった。
フランシスは二十歳になるところだった。むしろ今までフランシスが婚約者を持たず、縁談を断り続けていたことの方が不思議なくらいだ。
「本来なら喜んでお受けするところでしょう。けれど、王太子殿下がセシルを手に入れようと企んでいると知って……」
彼の話はジョザイアには信じがたい内容だった。彼の溺愛している弟セシルを王太子が自分の愛妾にしようと狙っているというのだ。セシルは兄の縁談に影響が出ることを恐れてかそれを表沙汰にせず逃げ回っていたら、強引に寝室に連れ込まれそうになったという。
いくら王太子だからといって、相手の意思もお構いなしに寝室に連れ込むとはあまりに乱暴ではないか。未遂で済んだとはいえ、セシルの心はどれほど傷つけられただろう。
そしてフランシスもそのことに苦しんだのだ。そんな王太子の妹と結婚することはセシルを更に傷つけるかもしれないと。
「そのような無体は許されることではないでしょう。父君に相談なさってはいかがですか?」
フランシスの表情は強ばったままだった。
「たとえ王女殿下との縁談が消えたとしても、セシルの身の安全には繋がりません。それに僕にはまた別の縁談が来るでしょう。父に話せていませんが、僕は女性を好きになれないのです。生涯子供を持つことはないでしょう。だからできることなら僕の次はセシルに家督を継がせたいのです。けれど理解してもらえる気がしなくて……」
ジョザイアはそれを聞いて胸を突かれたような気がした。
……女性を愛せない? なら彼は男性なら愛せるのか?
一瞬頭の中をフランシスが見知らぬ青年と身を寄せている姿がよぎった。そして、それを嫌悪してしまった自分がいることにも気づかされた。
彼が他の男と愛し合うなど……見たくもない。
それとももう、すでに誰かと心を通じ合わせているのだろうか。
そんな思いに駆られて、やっと我に帰った。
……何を考えている? 彼に劣情を抱いているのか、私は。
彼は私を信頼して、悩みを打ち明けてくれているというのに。
「……それは……確かに父君には話し辛いことですね」
神殿は同性愛を否定はしない。けれど同性間の結婚式は神殿では行えない。それを認めれば後継者問題などの俗事に巻き込まれるからだ。
正式な結婚ができない限り、彼は政略結婚を断る口実がない。
「私にできることがあれば、なんなりとお力に……」
そう言いかけたジョザイアにフランシスはぱっと顔を上げた。
「……それなら、ジョザイア様が保証人になってください」
「……保証人?」
「決めました。僕は神殿に入ります。この身を神に捧げて生きていこうと思います。僕がいなくなれば縁談はなかったことになりますし、セシルが公爵家の跡取りになる。流石に後継者には王太子殿下でも手出しはできません。どうせいずれセシルに家督を譲るつもりだったんだから、順番が早まっただけです」
ちょっと待ってくれ。
ジョザイアは戸惑った。確かに彼が神官になってくれればと妄想したことはあるが、こんなにあっさりとその妄想が現実になるとは思わなかった。
彼の悩みとセシルの災難の上で自分の願望が叶うのは複雑な気持ちだった。
「つまり……私に師父になれと」
神殿の神官になるには基本的な教義の知識が必要になる。そのためには司祭以上の教えを受けることになる。身元保証人と指導役を兼ねた存在だ。
親の反対を押し切って神官になる者はいるが、平民ならともかく貴族の場合その親とのゴタゴタを嫌って保証人のなり手が見つからないことはありがちだ。
まして代々熱心な信者であるアッシャー家の息子だ。騒動の火種は避けたいと思うだろう。
「僕のことを一番よくご存じな方はジョザイア様です。だからお願いしたいのです」
フランシスは鮮やかな青い瞳をジョザイアに向けてくる。熱がこもった真っ直ぐな目線にジョザイアは思わず息を呑む。
彼が神官になれば名実ともに自分の手元に置くことができる。そして、彼が他の男と結ばれることはない。
そう思うと答えは一つしかなかった。
「……本気でお考えでしたら、引き受けましょう。神に身を捧げる覚悟ができましたら、いつでもご連絡を」
ジョザイアがそう答えると、フランシスはふわりと微笑んだ。
「では、馬車に荷物を積んできましたので、持って来ます」
え? これから?
ジョザイアが唖然としている間にフランシスは一礼して立ち去って、そしてすぐに引き返してきた。
どうやらフランシスは迷っていたのではなく、すでに準備万端整えて決意した上でジョザイアの前に現れたのだと気づいても、すでに手遅れだった。
その日、神殿がフランシスの出家で大騒ぎになったのは言うまでもない。
縁談を断りたいから、そして弟を王太子に渡したくないから、それで今までの生活を何もかも捨てて神官になる。フランシスの決意は固かった。
華やかさとは無縁の神官の職務をフランシスは黙々とこなして、すぐに回りから認められるようになった。
一度だけフランシスに、恋人にはこのことを相談したのかと訊いたことがあったが、好きな人はいるけれど恋人にはなれないんです、とだけ答えた。
その様子を見ていたジョザイアはふと思った。
フランシスの想い人はセシルなのではないかと。幼い頃から手元から離さないほど溺愛している利発で可愛らしい彼の弟。
もしそうなら、たとえ同性婚が認められても結ばれるはずがない。
それに、彼を王太子から守るために神官になろうとした献身も理解できる。
……それでもジョザイアはフランシスが自分の手元にいてくれる日々を幸せに思っていた。誰かを犠牲にした幸せを喜ぶことに罪の意識も抱えながら。
後でわかったのはフランシスの想い人はセシルではなかった。
フランシスはセシルに同性の恋人ができたと知り、何とかして正式な結婚をさせたいとジョザイアに相談してきたのだ。
そうして、やっとモルセラの神殿で同性婚が認められることが決まった時になって事件は起きた。
セシルがカトライアにある遺跡で二人きりで結婚式を挙げたことをフランシスが知ったことがきっかけだった。
二人にとって出会いの場所だったかららしい。
意地でもセシルの結婚式が見たいフランシスはここモルセラで彼らの結婚式をもう一度行うことにしたらしい。
「……申し訳ありません。ジョザイア様にもご協力をお願いできますか」
モルセラ公国の正神殿をセシルが訪ねてきて、その経緯を聞かされたジョザイアは、フランシスの執念に驚かされた。もしかしたら自分が想い人と結ばれることはないと思っているからセシルの結婚式に執着するのだろうか。
「もちろんです。立派な式にいたしましょう」
それでもせっかくの慶事なのだから協力は惜しまない。ジョザイアが即答すると、セシルは迷う様子で俯いてから顔を上げた。
「……実はもう一つお願いがあるのです。僕の夫には身よりがまったくいないので、彼の親族代理をジョザイア様にやっていただけないかと」
彼の伴侶は魔法使いだと聞いていた。今でも魔法を生業にしている者がいるとは思わなかったジョザイアは驚いたものだ。
彼は魔法具師としての腕は確かで、魔結晶生産装置が壊れた騒ぎのあと注目されている天然魔石を使った道具を開発しているそうだ。魔法というのはなかなか信じがたいが、優秀な人物であるらしい。
「しかし、それでは司祭役が……」
できることなら結婚式を取り仕切る役目をしたいと思っていたジョザイアは戸惑った。
「このたび新しい司祭様が何人かいらっしゃったとお聞きしています。その方にお願いできないでしょうか。信頼できる方でお願いできるのはジョザイア様だけなんです」
歳の割に幼く見えるセシルのお願いに弱いのは彼の身内だけではないだろう。
ジョザイアはセシルのことも子供の頃から知っているだけに、身内のような感覚がどこかにあったから余計に断れなかった。
衣装などは全て用意してくれると言われて、ジョザイアは初めて結婚式で列席する側に回ることになった。
「ところで……カトライアでの生活は不自由はありませんか?」
カトライア公国は広大な領地を持つが辺境の地とされている。公爵家の令息として育った彼がどのような暮らしをしているのかジョザイアはふと気になった。
「はい。毎日楽しく過ごしています」
「夫君は……」
そう尋ねようとしたら、セシルの隣にふわりと長身の男が現れた。ジョザイアは何が起こったのか一瞬戸惑ってから、ああ、これが魔法というものなのか、と無理矢理納得した。
「ジョザイア様。此度はオレのことでお手間をおかけする」
セシルの伴侶アンドレアス。長い黒髪と宵闇のような紺色の瞳。彫像のように整った顔とどこか不遜な表情をした男だ。
けれどセシルに向ける目はあからさまに甘く穏やかだ。
「衣装のことであれこれ聞いてくるから逃げてきた」
そう言いながらセシルの肩に手を回すと頬にキスを落とす。チラリとこちらを見ているのは、警戒されているのだろうか。
それとも彼はセシルが他の男と話しているだけで面白くないと邪魔をしに来たのだろうか。髪にふれたり手を握ったりして熱烈ぶりを見せつけているようだ。
「もう、ジョザイア様の前だから少しは自重してください」
「いいんですよ。お二人が幸せそうで私も嬉しいですから」
ジョザイアは二人の仲睦まじい様子を微笑ましく思った。
セシルがふと思い出したかのように話題を変えてきた。
「ところで、近くこの国の神殿では神官の妻帯を認めるそうですけど、そうなったらジョザイア様も将来は伴侶を迎える日が来るかもしれないですね」
そのことは同性婚と同時にフランシスが提案してきた。けれどそれはまだ細則を話合っている段階で決定ではない。あと一月くらいは調整が必要だろう。
ただ、それを認めるのはジョザイアには抵抗があった。欲というのは認めれば際限がない。だからこそ聖職者には厳しい戒律があるのだ。
……現に今の自分もフランシスに対してあらぬ願望を抱いてしまったことがある。それは神に仕える身として正しいと言えるのか。
「私は生涯神にお仕えすると決めていますから……そうなったところで変わりはありません」
それを聞いてアンドレアスは大きく頷いた。
「聖職者の鑑だな。義兄上が尊敬しているだけはある。ただ、結局それも人が決めたことだろう。神はおそらく懐の広いお方だろうから、些末なことはお気になさらないのではないかという気がする」
ジョザイアはそれを聞いて、セシルの伴侶は外国出身なので異教の影響も受けているのかもしれないと言われたのを思い出した。
けれど彼の語る宗教観は至極真っ当なものに思えた。確かに教義というのは神殿が作ったもので神が直接命じたものではない。神に向き合うにふさわしくあろうと考えたから生まれたものなのだろう。
ならば神は聖職者が誰かと添い遂げたいと願うことを不快には思われないのだろうか。
……私のこの願いは罪ではないのだろうか。
「立ち入ったことをお聞きして申し訳ありません。どちらにしてもジョザイア様がお幸せになってくだされば僕はそれが一番嬉しいです。子供の頃からお世話になってますし」
セシルはそう言って微笑んでくれた。
たしかに、未来への選択肢を増やされただけのことだ。それを選ぶかどうかは自分次第なのだろう。
* * *
「……なかなかに無茶ではないのか」
セシルの父、前シャノン王国アッシャー公爵ナイジェルはアンドレアスとセシル、そしてシルヴィの作戦内容を聞いてそう答えた。
「ここ数日フランシスにジョザイアに想い人がいるらしい説を吹き込んだのだが、なかなか動揺を見せない。義父上にもお願いしたはずだが」
「ああ、ジョザイア様の従妹という女性が何度か恋文を寄越していたという話だったな……。フランシスはとっくに調査済みで、あれは女性の思い込みだとバッサリ断言していた」
シルヴィは帳簿のチェックをしながら溜め息をついている。
セシルの前世風に言うならできるキャリア志向女性、という印象のシルヴィはあの二人のモダモダを解決したくてしかたないらしい。
「ジョザイア様の身辺を徹底的に調べているくせに、自分のお気持ちを伝えないなんてヘタレ以外の何者でもありませんわね」
聞いていてセシルは頭を抱えたくなった。フランシスはどうやらジョザイアと個人的な交流がある人間は調査済みらしい。下手したら前世でよくいたストーカーと間違えられそうなくらいだ。
唯一の救いはジョザイアが真面目過ぎて個人的に誰かと深く関わることがほとんどなかった点だろう。
セシルの父とシルヴィはここ数日フランシスにジョザイアには好きな人がいる、という話をあれこれ耳に入れさせたのに、全く動じなかったのはその完璧なリサーチに自信があるからだろう。
……それでも自分に脈がないって思うって……どういうことなのか。
そもそもシャノン王国で大神殿のトップにいた人が、フランシスの誘いだけであっさり新興国の神殿に鞍替えしてくるなんて普通じゃないって思わなかったんだろうか。
ジョザイアは感情を隠すのに長けているけれど、幼い頃から知っているので神官の結婚の話をしたとき動揺したのがセシルには見て取れた。
あちらはきっと、立場とか年齢のことが枷になってるんだろうけど……。
「とにかく決行は結婚式の朝。仕掛けはオレが全て終わらせるので、外堀は皆に任せた」
アンドレアスはそう言って全員の顔を見回した。
どういうわけか、今回アンドレアスはやる気になっている。それがちょっと怪しい気がしてセシルは問いただすことにした。
「新しい魔法具の実験がしたかったんでちょうどいいと思ってな」
話し合いを終えてからセシルがその理由を聞くと、最凶最悪の魔法使いはしれっとそう答えた。
「やっぱり……」
労働にはその対価をと主張するアンドレアスがどうしてフランシスたちのことに首を突っ込むのかと思ったら、それだったのか。
『フランシスってモテモテなのに、自分の魅力がわかってないよねえ……。見かけだけで騒がれてるって思ってるのかなあ。そもそも見かけだけで大概の人落とせるんだけど』
部屋の隅で話を聞いていたミントが顔を上げた。
「兄上は皆が外見のことばかり褒めそやすから、逆に自分はそれだけなのかって思ったのかもしれない。兄上は勉強熱心だし、剣術だって人並み以上だし、何より社交界であれだけモテていても誰かに反感を買うことがなかったのは人格だと思う」
フランシスは人の顔を覚えるのが得意で、婚約者や恋人がいるご令嬢にはまずそのパートナーに話しかける。そうすることで無用の誤解を防ぐことになるし、パートナーがフランシスから褒められたらご令嬢たちも蔑ろにはできない。
ああいう気遣いはなかなかできることじゃない。
「ジョザイア様は兄上を子供の頃からご存じだから、努力を継続できるのは素晴らしいとよく褒めてくださった。兄上はそれが嬉しかったのかも」
「……チョロい男なんだな。モテ男で社交慣れしているというからもっと手練手管が必要なのかと思ったら」
「いや、意外と腹黒いことも平気なんですけど、恋愛の面ではそうじゃなかったというか……」
公爵家の後継者として育てられたのだから、表沙汰にできないことも学んでいるはずだ。セシルはその一部だけ教わった段階で後継者から外されたけれど。
基本的にフランシスは優しく公正な人だ。家を継いで、さらにモルセラ公国の主となった彼を側で支えてくれる人がいてほしいと思う。
……できることなら今よりもっと踏み込んだ仲になって欲しいと思うのは、ちょっとお節介だろうか。
シルヴィやアンドレアスみたいに思い切るにはセシルはちょっとまだ、遠慮が先立ってしまう。
逆に彼らが暴走しないようにしないと……そう思ってしまう。
作戦の決行は表向きセシルとアンドレアスの結婚式ならびに披露パーティーの日。
セシルはジョザイアのいる控え室に顔を出していた。
「本日はありがとうございます」
ジョザイアの今日の衣装は貴族の礼服で、抑えめの色合いの上着に青の刺繍や飾りでアクセントをつけたものだ。アンドレアスの親族が一人もいないので、彼は親族代表の代理として出席することになっている。
「今日の主役がまだ着替えなくていいのですか?」
セシルの服装を見て、ジョザイアが不思議そうに問いかけてきた。
「略式の衣装なのでそんなに手間かかりませんし、魔法で着付けするので一瞬ですよ」
「そうなのですか」
「ジョザイア様からしたら魔法なんてうさんくさいかもしれませんけど、アンドレアスの魔法は頼りになるんですよ」
「そうですね……。三百年前にいたという最強の魔法使いと同じお名前だから、さぞかし強いのでしょうね」
ジョザイアは柔らかい笑みを浮かべた。
そういえば、ジョザイアにはさすがにアンドレアスがファーデン王国を滅ぼした最凶最悪の魔法使い本人だとは打ち明けていなかった。
流石に信じてもらえないだろうと思ったんだけど、もし今回の作戦が上手くいったらきっとアンドレアスの魔法のことも信じてもらえるかもしれない。
……とはいえ、今回もろくでもないって言えばろくでもないんだけど……。
セシルは笑みを返しながら頷いた。
「ええ。強いですよ。……それでですね、アンドレアスがジョザイア様にこれをお渡ししてほしいと……」
セシルが封が施された書状を手渡す。それを拡げてジョザイアの表情が変わった瞬間、彼の姿はその場から消え失せていた。
* * *
『ここは本当のことを言わなければ、出ることができない部屋です。聖職者と元聖職者であるお二人が嘘なんてつくはずありませんよね?』
子供の落書きのような文字で壁にそう書かれているだけの真っ白い壁に四方を囲まれた部屋。
ジョザイアは気づいたらその部屋にいた。そして目の前には結婚式に出席するための礼服を纏ったフランシスも。
「……ジョザイア様……?」
「これは一体どういうことですか? 私はさっきまで……」
セシルと話していたはずだ。
「私も父たちと会場に向かっていたところで……。まさかと思うのですが、これはアンドレアス殿の魔法では……?」
「魔法……? けれど彼らの結婚式だというのに、私たちをここに閉じこめてどうするのですか?」
そう言いながらジョザイアは壁に書かれた文字に目を向けた。
すると今まで真っ白だった壁に新たな文字が浮かんできた。
『質問① あなたの目の前にいる人をどう思っていますか? 好きか嫌いで答えてください。それ以外の回答は認めません』
「え?」
フランシスが戸惑ったようにこちらに目を向ける。
「もしかして、質問に正直に答えないと出られないということですか?」
ジョザイアはそのようなことがあるのだろうかと思いながら、ドアも窓もない壁に触れてみた。ちゃんと質感はあるから幻を見せられているわけではないらしい。
正直に……?
「アンドレアス殿、どういうおつもりか知らないですが、後でちゃんと答えてもらいますよ。……ジョザイア様のことは『好き』に決まっているでしょう。幼い頃から尊敬申し上げています。嫌う理由はありません」
フランシスが壁に向かって言い放った。少し不機嫌そうなのはせっかくお膳立てした彼らの結婚式当日にこんな悪戯をされるとは思わなかったからだろう。
「……私も『好き』です。熱心に私の話を聞いてくれて、慕ってくれるのはありがたいことです」
ジョザイアはそう口にしてから頬が熱くなった。好きと言葉にしたことはなかった。
……フランシスのことをずっと意識していたのに、言葉に出すと気恥ずかしい。
ふと顔を向けると、フランシスも少し顔が赤かった。
いい大人がお互いのことを好きだと口にしているなんて、照れくさくもなるだろう。
そう思っていると新たな文字が壁に浮かび上がる。
『質問② 目の前の相手に隠し事がありますか? あればその中で一番言いたくない内容を正直に答えてください』
「……アンドレアス殿。悪ふざけが過ぎますよ。いい加減にしてください。大人には人には言えないことだってありますよ」
フランシスがそう言うと、壁に新たな文字が浮かび上がってきた。
『さっさと答えないとセシルが、兄上は僕の結婚式に出たくないから逃げ出したんだって泣いてるぞ? 泣かしていいのか?』
「卑怯な。セシルを泣かすようなことを僕がするはずがないでしょう」
フランシスは壁に向かって言い返しているが、言いたいことは言ったとばかりに、壁に変化はない。
ジョザイアはそれを見て、この部屋はアンドレアスが作ったものでしかも何が起こっているのか彼は関知しているらしい、と理解した。けれど、セシルが悲しむような真似をするのは関心しない。
そんなことを聞いたらフランシスだって悲しいだろうから。
これはきっとアンドレアスが独断で仕掛けてきたのではないだろう。そもそもジョザイアはアンドレアスとほとんど面識がなかったのだ。その上でフランシスとの関係を問うてくるというのなら……。
今まで正面から自分の気持ちに向き合わなかった自分への挑戦かもしれない。
「……隠し事はありますよ」
「ジョザイア様?」
フランシスが驚いた顔でこちらに振り返る。彼が一時はジョザイアの補佐をしていたことから私的なこともほとんど話している。けれど、それでも彼に言えないことはある。
「私はフランシスが神官になりたいと言ってきたとき、それが彼の悩みの先にあった結論だったと知っていたのに、喜んでしまいました。個人的な願望が叶うと」
「……え?」
「あまりに熱心に教義を学んでくれて、私のことも慕ってくれる彼が可愛くて、できることなら彼が私と同じ聖職者の道を選んでくれれば、一緒にいられるだろうと思っていました。あまりに浅ましい感情なので、聖典の筆写をひたすらして消し去ろうとしましたが、忘れることはできませんでした」
ただの信徒の一人、そう思うには彼の存在は大きくなっていた。けれど特別扱いをすることはできないから、気持ちを押し隠しているうちに心が重くなった。
「ジョザイア……様?」
フランシスが信じられないものを見るかのように目を瞠る。
「私は自分がこういう感情を持てるとは思ってもみませんでした。けれど、あなたのためを思えば決して抱いてはいけない感情です。戯れ言と思ってこの部屋を出たら忘れてください」
こう告げたら彼は失望するだろうか。幼い頃から慕っていた神官がこんな感情を抱いていたなんて知りたくはなかっただろう。
「……忘れませんよ」
フランシスはジョザイアに真っ直ぐに告げると、壁に目を向ける。
「……アンドレアス殿。僕もジョザイア様に隠し事があります。一つや二つじゃありません。その中で一番言いたくないことは、家督も何もかも捨ててジョザイア様の下で働けた日々が僕にとって一番幸せだったことでした。その間セシルが苦労して酷い目に遭っていたのに、神殿の外に目も向けなかった。僕は愚かにも他のことが目に入らなくなっていたんです。……身勝手にも自分の恋心を優先してしまった。きっとこんな気持ちはジョザイア様には迷惑でしょう。聖典の筆写、僕もあとでやります」
ジョザイアに振り返って悪戯がバレた子供のような悪びれない笑みを浮かべる。
「言える訳ないでしょう……。僕はあなたに一目ぼれして、下心満載で神殿に通い詰めていたんです。付き合わされたセシルには可哀想なことをしましたけど」
フランシスの言葉にジョザイアは思わず問い返した。
「一目ぼれ? あなたと初めて会った時、十歳くらいでしたよね?」
あどけない綺麗な少年が熱のこもった瞳を向けてきたのは覚えている。それを見て自分の心が揺らいだのも。
……一目ぼれ? あの時に?
「そうです。この人しかいない、って思ってしまったんです。その後どれほど大勢のご令嬢と語らってもあなた以上に僕の心を惹きつける人はいなかった」
「フランシス……」
「同性婚も聖職者の婚姻も、建前は並べましたが、全部自分のためです。ジョザイア様とそうなれる可能性があるだけで、僕は幸せでしたから。もう、いっそ気持ち悪いとか言って下さっても大丈夫ですよ? 十五年も初恋こじらせてるんです。もう一生このままだと思います。……後はこの国を豊かにして、立派な神殿を寄進してジョザイア様にはずっとそこにいてもらいたいと思ってます」
可能性。
『どちらにしてもジョザイア様がお幸せになってくだされば僕はそれが一番嬉しいです。子供の頃からお世話になってますし』
セシルの言葉を思い出して、ジョザイアは頬が熱くなった。
ジョザイアの未来への選択肢が増やされたのはフランシスの望みであり、そして無理強いされなかったのは彼の優しさだったのだろう。
……私は自分の立場を盾にして、彼への感情を隠すことしか考えられなかったのに。
「可能性が与えられたことはうれしく思っています。それがフランシスの私への気持ちだというのなら……とても、ありがたいことだと……。けれど、私はむしろフランシスの父君に近いような年齢で……今さら婚姻などは……」
思いを告げてもらえたのは嬉しいし、自分のこの気持ちは今はもう罪ではないのだとわかっている。
このまま少しずつ距離を近づけながら、この地でフランシスとともに生きていけるのなら……それ以上は望まない。
フランシスの鮮やかな青い瞳がじっとこちらを見据えている。手が伸びてきてふわりと抱きしめられた。
……ああ、あの時の幼い少年が、私を腕の中に納めてしまうほど大きくなっていたのだな。
「ジョザイア様……ずっと一緒にいてくださるのなら、僕はそれ以上望みません。あなたを愛していますから」
ジョザイアはその腕にそっと手を添えて頷いた。
そこへ、壁に新たな文字が浮かび上がってきた。
『質問③ おめでとうございます。本日の結婚式はモルセラ公フランシス閣下と司祭長ジョザイア様のものと変更になりました。今すぐ結婚式を挙げますか?』
「ちょっと待った、急ぎ過ぎだろう。アンドレアス殿」
フランシスがジョザイアを抱き込んだまま壁に向かって叫んだ。
それを聞いてジョザイアも少し冷静になった。
そうだった、この部屋の状況はアンドレアスに見られているのに。うっかりと抱き合ってしまった。
『十五年も付き合っていたんだから、もう結婚式でいいんじゃないか? 二人の名前で招待状を送ったし、客も来ているんだぞ。それとも嫌なのか? せっかく準備してきたセシルが泣くぞ?』
「ちょっと、いちいちセシルを引き合いに出すのやめてくださいませんか? いくらなんでも今すぐなんて……ジョザイア様だってお嫌ですよね?」
慌てているフランシスを見て、久しぶりに年相応な様子を見たなとジョザイアは笑みが浮かんだ。
「嫌ではありませんよ。ちょうど……昨日聖職者の婚姻が正式に認められたので、法令的にも問題ありませんから」
どうやら、一ヶ月前セシルが相談に来たときにはもう計画は始まっていたのだろう。
ジョザイアはそう悟って、これはもう逃げられない所まで追い込まれたのだと気づいた。
……もしかしたら、私たちの気持ちは他の人たちにはバレていたのでしょうか。
そう思うと照れくさくもあるけれど、もう隠すものなどなくなったことだし、恥ずかしがっても仕方ないと気持ちを切り替えた。
フランシスもどうやら陰謀に気づいたようで壁をにらみつけていた。
「……もしかして……図られたんですか?」
『今頃気づいたのか? 嫌じゃないんだな? じゃあすぐに始めるぞ?』
一瞬で景色が切り替わって、二人は大聖堂の真ん中、祭壇の前に並んで立っていた。そしてその間に二人の衣服も結婚式の男性衣装に変わっていた。
……魔法で一瞬で着替えられるとセシルが言っていたが……こういうことか。
周囲からわっと拍手が上がった。参列者の中に神殿に入ってから一度も会っていなかった兄たちがいるのを見て、これはもう完全にやられたとジョザイアは思った。
「……ちょっとくらい恋人期間があったっていいじゃないですか……」
フランシスはまっ赤に染まった頬をちょっと膨らませて呟いた。
「それはこれからゆっくりと考えましょう。あんなに嬉しそうにされたら、怒るに怒れないでしょう?」
ジョザイアが示した方向に、親族の席で幸せそうに笑っているセシルやフランシスの養子たちがいるのを見て、フランシスも諦めたように頷いた。
* * *
「僕たちの結婚式を勝手に兄上たちのものと変えちゃったのはともかく、失敗したらどうするつもりだったんですか」
セシルは打ち合わせも何もなくいきなり結婚式本番を迎えたフランシスとジョザイアをいくらかハラハラした気持ちで見つめていた。
「失敗するはずがないだろう? そもそもあの二人お互い離れる気は毛頭ないんだし」
アンドレアスとシルヴィの立てた計画はかなり無茶苦茶だった。
まずフランシスの望み通り一ヶ月後の大聖堂で結婚式を行う。ただし招待状はフランシスたちの名前で送る。フランシスたちにだけは魔法でセシルたちの名前に見えるよう細工して。
その間に聖職者の婚姻について認められるように手続きを進める。
アンドレアスの親族代理をジョザイアに依頼して、彼に結婚式に直接関わらせないようにする。
当日二人を一室に閉じこめて、正直に答えないと出られないと脅した上で、気持ちを告げさせる。上手くいったらそのまま大聖堂に移動させて、またうだうだ悩む前に結婚式を挙げさせる。
あとは二人が結婚休暇を取れるように父とシルヴィ、そして新たに来た司祭たちが職務の代行体制を整えてある。もう至れり尽くせりだ。
ちなみに「嘘をついたら出られない部屋」というのは僕の前世で妹のフジョシ友達が持っていた同人誌からヒントを得たものらしい。「○○しないと出られない」というアレだ。
さすがにあのネタそのまま持って来たら、怒られるどころでは済まないだろう。
そしてアンドレアスが今回開発した魔法具は、書いた文字だけを相手のところに送る道具。つまりファクシミリと同じようなものだろうか。うまくいったら商品化すると言っていた。
「ちなみに、式が済んだらすぐに逃げるぞ」
アンドレアスはそう言ってセシルの腰に手を回してきた。
「まあ、兄上は怒るでしょうね」
温厚で滅多に怒らないけれど、怒るとお説教が長いタイプだ。
今回の件、父上やシルヴィ、そしてフランシスの子供たちも大喜びしているのだけど、いきなり大勢の前に引っぱり出されて結婚式を挙げさせられた二人は文句の一つも言いたくなるんじゃないだろうか。
「オレが怒られたくないのは、ジョザイアの方だ。あんな善人すぎるやつの方が怖い」
アンドレアスは口を引き結んでそう答えた。
善人すぎる……。アンドレアスの師匠ロルフは私財を投じて戦災孤児たちを養っていた。そのことを思い出したんだろうか。
「オレは最凶最悪の魔法使いだからな、そもそも聖職者なんかとは気が合わないんだ」
そう言うとこっそりセシルの頬にキスをした。腰に回った手が下に移動してきたので、セシルは慌てて制止した。まだ厳かな結婚式の真っ最中なのだ。
「こういうことは、帰ってからですよ?」
アンドレアスの顔を見上げてそう囁く。
「まあいい。他人の幸せを眺めているのも悪くないからな。お前が嬉しそうだから」
悪びれなくそう答えて、アンドレアスは物慣れない様子で誓いの言葉を口にしている二人に目を向けた。
最凶最悪の魔法使いの口元に満足げな笑みが浮かんでいるのを見て、セシルはそっと近づいて身を寄せた。
きっと魔法具の試運転も口実だったんだろうな。
……まあ、それを知ってるのは僕一人でいいんだけど。
最凶最悪とか自分で言っちゃうくせに、アンドレアスは結構僕に甘いんだから。
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読み終わってから他作品を見るので、あ~もぐらちゃんと翡翠の人の作者だったのか~…どうりで面白い訳だわ!と思った次第です(笑)
言葉の選び方や差し込むタイミングなど、くすりと笑えるのが良き!
また結構な仕打ちなのに悲壮感が無いのも更に良き!!
ギャグだのとタグの付いた笑わせようと必死で1mmも面白くない作品が多い中、蕾白様の作品は軽快で展開も良く大変面白かったです。
楽しい時間をありがとうございました!
楽しんでいただけて嬉しいです。自分があんまり重々しいことが苦手なのでこんな作風で通しています。
他の作品も読んで下さっていたのですね、併せてお礼申し上げます。
この先の展開にワクワクが隠せません。
続きが気になりすぎてムーンに飛んでしまいました。
文体もものすごく読みやすく、情景等が伝わってきます。
これから闇薔薇読んできまーす。
感想をありがとうございます。
よろしければ今後ともよろしくお願いします。