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14.魔法使いの弱点
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セシルはふと思いつきを口にした。
「魔法は図式って言ってましたよね? あなたが魔法を使うとき、何かの図式を頭に思い浮かべているんですか? それを形にして見せてもらえれば覚えられるかも」
アンドレアスは首を傾げた。
「……確かにそうだが、一度ロルフにこういうのを頭に思い浮かべていると書いて見せたら『普通の人なら呪文を覚えた方がマシだと言いますよ』と呆れられた」
アンドレアスは頭の中で組み立てた魔法を一応記録には残しているらしい。けれど、そんな野生の勘で作ったような魔法の図は、他人にとっては理解しがたいものだったんだろう。
記録があるのなら、それを覚えれば……。
「記憶力には自信があるんです。だから長ったらしい呪文でもややこしい図でも覚えられますよ」
セシルは微笑んだ。
転生してから得たスキルの一つらしくて、幼い頃から目で見た図形などを覚えるのは得意だった。学院でも記憶の多い教科で苦労したことはない。
あの謎な声の主は神様っぽい存在なのだろう。セシルがアンドレアスと出会うことを知っていたのかはわからないけれど、今になってこのスキルが役立つとは。
アンドレアスは部屋の書棚にあった紙の束を差し出した。
前世のフィクションで見た魔法陣と似てはいるけれど図形や文字を組み合わせたかなり複雑な絵が描かれている。こんなものを魔法を使う一瞬に頭の中で描いているとは、彼の脳内はどういう作りになっているのかと、セシルは少し呆然としてしまった。
……これは呪文より覚えにくいと思われそうな……。すでに文字としてではなく絵とか画像に近い。
「オレが作った魔法の発動図だ。構成式とも呼んでいる。これを頭の中で思い浮かべるだけなんだが……どうやら他の魔法使いたちは呪文でないと使えないらしい」
「……でしょうね……。一つ試してみてもいいですか?」
「一番簡単そうなのはこれだな。灯りが欲しいときに使える」
差し出された謎の図式はシンプルではあるけれど複雑な形をしていた。
セシルはそれをしばらく観察する。
「灯りの場所を手で示してから、魔力をこの図の形に。正しく記憶していれば……」
セシルはアンドレアスの言葉通りに手のひらを上にして覚えたその図式を頭の中に再現する。その中に自分の魔力を流し込むのは絵の具で塗りつぶすイメージを重ねてみた。
灯り……が欲しい時……? 何が起きるんだ?
そう思っていたセシルの手のひらの上に小さな光の球が現れた。
アンドレアスが一瞬ぽかんとして、それからセシルに目を向ける。
「……お前、もしかして思ったより頭がいいのか?」
「頭じゃなくて記憶力がいいだけです」
それを聞いて、アンドレアスはさらに書架から紙の束を次々に出してきた。
「じゃあ、まずはこれを全部覚えろ。覚えるだけだ。絶対に魔力を流し込むなよ? 中にはヤバい魔法もあるから。練習はオレがいる時だけにしろ」
「……全部?」
さすがにこの量はすぐには無理だ。
「魔力の質にもよるから全部の魔法がお前に使える保証はないが、やってみる価値はある」
アンドレアスはそう言うと鼻歌まじりにその紙の束の中から一枚を取り出した。
「……これがお前にかけられた呪いの図だ。オレはこれからお前でも使える解除の構成式を作っておくから、それまでお前はこの魔法全部覚えるように。宿題だな。……オレもなかなか師匠らしくなってきたぞ」
いや、いくらこっちに記憶力があるからって使えるかどうかわからないものを片っ端から覚えろって、丸投げにもほどがある。
けど、そろそろ戻ってミントのご飯も用意しなくては。突然アンドレアスにここに連れてこられたからきっと心配しているはずだ。
そう思い出したセシルは何やら楽しげなアンドレアスを残して、そのまま番人小屋に戻ることにした。
というか、色々ありすぎてもう抗議する気力も残っていなかったのが正直な所だった。
アンドレアスが作った扉から小屋に戻るとミントが外でまだ吠えているのに気づいた。
突然目の前からセシルが連れて行かれてからかなり時間が経っているのに。
セシルが呼びかけるとすぐにこちらに走ってきた。
白い背中を撫でながらセシルはミントを宥めた。
「ごめん。ミント。何か魔力が混ざったかなんかでややこしいことになっちゃって」
そう説明するとミントはじっとセシルを見上げてきた。
セシルの説明をちゃんと理解しているかのように。
何だかミントを見ていると、時々そうした奇妙な感覚に襲われる。
「スキルでもさすがに動物と会話はできないからなあ……」
セシルの持つスキルは人の言葉なら頭の中で自動的に翻訳されて意味が浮かんでくる。けれど動物相手にはさすがに無理らしい。
セシルはミントの食事を用意してから、狭いベッドに横になってアンドレアスが渡してきた紙の束を一枚ずつめくる。
「……畑のアブラムシを追い払う魔法……モグラを撃退する魔法……作物の病気を防ぐ魔法……魔法使いはホームセンターなのか?」
扱っている内容がホームセンターの園芸コーナーのようだ。セシルはそう思いながらふと気づいた。
……もしかして、覚え書きとしてこのややこしい図を書くくらいなら、長ったらしい呪文のほうがよっぽど後世に残すのが楽じゃないのか? そう思うと無詠唱魔法っていいことばかりじゃないかも。いや、それとも残さないためにこうしていたんだろうか。
「人参を生えなくする魔法? 人参の味が変わる魔法……何だこれ」
見ているうちに途中からやたらに人参に対する恨みがあるんじゃないかと思えるような魔法が続き始めた。
最凶最悪の魔法使いがこんな魔法を使っていたとは。
文字もどこか拙いし、おそらくアンドレアスが子供の頃に思いついた魔法なのだろう。
「もしかして、あの男、人参が嫌いなのか」
意外な弱点を見つけたような気分で、セシルは吹き出してしまった。
あんな大きななりをして、今でも人参が嫌いなんだろうか。
そこまで思い出してから、今日一日の出来事が頭の中で鮮やかに再生される。
うう。治療だって言ってたけど、実質裸にされて何度も……。割り切って忘れたいのに。自分の記憶力が憎い。
というか、アレ、ホントに魔力のせいなんだよな。自分が元々人に触られただけであんなに淫らになっちゃう体質なんだとか……。
前世で妹の友人にフジョシだとか言ってた子たちがいて、前立腺とか後ろを使うとかいう知識は家に来て声高に語り合う彼女たちの会話で覚えてしまった。後ろでも気持ち良くなれるのは人にもよるらしくて……つまり自分は素質があるってことなのか。
……またあんなことになったらどうしよう。
アンドレアスは自分のせいだと思ってたから僕に処置してくれたんだろうし。そうでなかったら僕なんかにキスしたり触ったりなんてしたくもないだろうし……。
いやいやいやいや、そこでまた思い出すな。エンドレス再生しなくていいんだ。
……記憶スキルってこういうとき厄介すぎる……。
急にベッドの上で頭を抱えてしまった飼い主に驚いたのか、ミントがこちらに顔を向けている。
そうだった。夜会のために戻ることにしたのだから、ロイにも返事をしなくてはならないし、こんな個人的なことで悩んでいる暇はない。セシルはそう思い直した。
「なあ、ミント。誰が僕みたいな地味な奴を呪ったりするのかな」
王都に戻ればおそらくまだ呪いの影響は残っていて、嫌われ令息に逆戻りだ。
アンドレアスは誰が呪いをかけているかわからないと解呪はできないと言っていた。
アンガス王太子は側室になれと言っていたのに、家督を継ぐことになって王女と婚約したセシルを恨んでいるだろうか。怪しげな術士を金で雇うくらいはできそうなものだが、彼はセシルが嫌われ始めた頃から全く近づいて来なくなった。ここ数年は大きな行事でもないと顔を見ることもない。
ブリジット王女は美男子で優秀だったセシルの兄フランシスと婚約が内定していたのに、次男のセシルと婚約が決まってしまって面白くなかっただろう。けれど、彼女は怒りや嫌悪を口や態度に出していた。陰でこそこそ恨んだりする性格ではない気がする。
そして、学生時代から何かと嫌がらせをしてきたピーターも次男から跡取りになったセシルを妬んでいたらしい。けれど、彼はあのアンドレアスの呪いの魔法を使いこなせるだろうか。彼の家は魔結晶の技術を代々受け継いでいるらしいが、ピーターの代でそれも危ういのではと言われているくらいだ。
他には、セシルの弟ブライアン。彼はセシルの兄が家督を放り出してきたときに、自分が家督を継げると思ったらしい。ピーターと交流があって、セシルのことを長兄よりも地味で取り柄のない人間だと思っているようだった。セシルはまあそれは事実だしとスルーしていたが、今思えばあまりいい関係ではない。
おそらくきっかけはセシルが家督を継ぐことや王女との婚約が決まったこと。
貴族なんて表面は笑っていても陰で何を考えているかわからないのだから、誰が自分を妬んでいても不思議ではない。
……でも、王女との婚約破棄と実家からの勘当、王宮での官職を剥奪、それだけされても恨みがまだ残ってるから、呼び戻そうとしているんだよな。
感傷に沈みそうになったところで、突然セシルの頭上から呼びかけてくる声がした。
「おい、晩飯はまだか」
アンドレアスがいつの間にかセシルの顔を覗き込んでいた。長い黒髪がセシルの顔に触れている。
セシルは窓から差し込む日差しがすっかり傾いているのに気づいて慌てて起き上がった。
「簡単なものでいいですか? 確か昨日村でお裾分けしてもらった人参が……」
「……」
途端に顔を顰めたアンドレアスを見て、セシルは内心でやっぱりか……と思った。
最凶最悪の魔法使いは人参に弱いらしい。
「魔法は図式って言ってましたよね? あなたが魔法を使うとき、何かの図式を頭に思い浮かべているんですか? それを形にして見せてもらえれば覚えられるかも」
アンドレアスは首を傾げた。
「……確かにそうだが、一度ロルフにこういうのを頭に思い浮かべていると書いて見せたら『普通の人なら呪文を覚えた方がマシだと言いますよ』と呆れられた」
アンドレアスは頭の中で組み立てた魔法を一応記録には残しているらしい。けれど、そんな野生の勘で作ったような魔法の図は、他人にとっては理解しがたいものだったんだろう。
記録があるのなら、それを覚えれば……。
「記憶力には自信があるんです。だから長ったらしい呪文でもややこしい図でも覚えられますよ」
セシルは微笑んだ。
転生してから得たスキルの一つらしくて、幼い頃から目で見た図形などを覚えるのは得意だった。学院でも記憶の多い教科で苦労したことはない。
あの謎な声の主は神様っぽい存在なのだろう。セシルがアンドレアスと出会うことを知っていたのかはわからないけれど、今になってこのスキルが役立つとは。
アンドレアスは部屋の書棚にあった紙の束を差し出した。
前世のフィクションで見た魔法陣と似てはいるけれど図形や文字を組み合わせたかなり複雑な絵が描かれている。こんなものを魔法を使う一瞬に頭の中で描いているとは、彼の脳内はどういう作りになっているのかと、セシルは少し呆然としてしまった。
……これは呪文より覚えにくいと思われそうな……。すでに文字としてではなく絵とか画像に近い。
「オレが作った魔法の発動図だ。構成式とも呼んでいる。これを頭の中で思い浮かべるだけなんだが……どうやら他の魔法使いたちは呪文でないと使えないらしい」
「……でしょうね……。一つ試してみてもいいですか?」
「一番簡単そうなのはこれだな。灯りが欲しいときに使える」
差し出された謎の図式はシンプルではあるけれど複雑な形をしていた。
セシルはそれをしばらく観察する。
「灯りの場所を手で示してから、魔力をこの図の形に。正しく記憶していれば……」
セシルはアンドレアスの言葉通りに手のひらを上にして覚えたその図式を頭の中に再現する。その中に自分の魔力を流し込むのは絵の具で塗りつぶすイメージを重ねてみた。
灯り……が欲しい時……? 何が起きるんだ?
そう思っていたセシルの手のひらの上に小さな光の球が現れた。
アンドレアスが一瞬ぽかんとして、それからセシルに目を向ける。
「……お前、もしかして思ったより頭がいいのか?」
「頭じゃなくて記憶力がいいだけです」
それを聞いて、アンドレアスはさらに書架から紙の束を次々に出してきた。
「じゃあ、まずはこれを全部覚えろ。覚えるだけだ。絶対に魔力を流し込むなよ? 中にはヤバい魔法もあるから。練習はオレがいる時だけにしろ」
「……全部?」
さすがにこの量はすぐには無理だ。
「魔力の質にもよるから全部の魔法がお前に使える保証はないが、やってみる価値はある」
アンドレアスはそう言うと鼻歌まじりにその紙の束の中から一枚を取り出した。
「……これがお前にかけられた呪いの図だ。オレはこれからお前でも使える解除の構成式を作っておくから、それまでお前はこの魔法全部覚えるように。宿題だな。……オレもなかなか師匠らしくなってきたぞ」
いや、いくらこっちに記憶力があるからって使えるかどうかわからないものを片っ端から覚えろって、丸投げにもほどがある。
けど、そろそろ戻ってミントのご飯も用意しなくては。突然アンドレアスにここに連れてこられたからきっと心配しているはずだ。
そう思い出したセシルは何やら楽しげなアンドレアスを残して、そのまま番人小屋に戻ることにした。
というか、色々ありすぎてもう抗議する気力も残っていなかったのが正直な所だった。
アンドレアスが作った扉から小屋に戻るとミントが外でまだ吠えているのに気づいた。
突然目の前からセシルが連れて行かれてからかなり時間が経っているのに。
セシルが呼びかけるとすぐにこちらに走ってきた。
白い背中を撫でながらセシルはミントを宥めた。
「ごめん。ミント。何か魔力が混ざったかなんかでややこしいことになっちゃって」
そう説明するとミントはじっとセシルを見上げてきた。
セシルの説明をちゃんと理解しているかのように。
何だかミントを見ていると、時々そうした奇妙な感覚に襲われる。
「スキルでもさすがに動物と会話はできないからなあ……」
セシルの持つスキルは人の言葉なら頭の中で自動的に翻訳されて意味が浮かんでくる。けれど動物相手にはさすがに無理らしい。
セシルはミントの食事を用意してから、狭いベッドに横になってアンドレアスが渡してきた紙の束を一枚ずつめくる。
「……畑のアブラムシを追い払う魔法……モグラを撃退する魔法……作物の病気を防ぐ魔法……魔法使いはホームセンターなのか?」
扱っている内容がホームセンターの園芸コーナーのようだ。セシルはそう思いながらふと気づいた。
……もしかして、覚え書きとしてこのややこしい図を書くくらいなら、長ったらしい呪文のほうがよっぽど後世に残すのが楽じゃないのか? そう思うと無詠唱魔法っていいことばかりじゃないかも。いや、それとも残さないためにこうしていたんだろうか。
「人参を生えなくする魔法? 人参の味が変わる魔法……何だこれ」
見ているうちに途中からやたらに人参に対する恨みがあるんじゃないかと思えるような魔法が続き始めた。
最凶最悪の魔法使いがこんな魔法を使っていたとは。
文字もどこか拙いし、おそらくアンドレアスが子供の頃に思いついた魔法なのだろう。
「もしかして、あの男、人参が嫌いなのか」
意外な弱点を見つけたような気分で、セシルは吹き出してしまった。
あんな大きななりをして、今でも人参が嫌いなんだろうか。
そこまで思い出してから、今日一日の出来事が頭の中で鮮やかに再生される。
うう。治療だって言ってたけど、実質裸にされて何度も……。割り切って忘れたいのに。自分の記憶力が憎い。
というか、アレ、ホントに魔力のせいなんだよな。自分が元々人に触られただけであんなに淫らになっちゃう体質なんだとか……。
前世で妹の友人にフジョシだとか言ってた子たちがいて、前立腺とか後ろを使うとかいう知識は家に来て声高に語り合う彼女たちの会話で覚えてしまった。後ろでも気持ち良くなれるのは人にもよるらしくて……つまり自分は素質があるってことなのか。
……またあんなことになったらどうしよう。
アンドレアスは自分のせいだと思ってたから僕に処置してくれたんだろうし。そうでなかったら僕なんかにキスしたり触ったりなんてしたくもないだろうし……。
いやいやいやいや、そこでまた思い出すな。エンドレス再生しなくていいんだ。
……記憶スキルってこういうとき厄介すぎる……。
急にベッドの上で頭を抱えてしまった飼い主に驚いたのか、ミントがこちらに顔を向けている。
そうだった。夜会のために戻ることにしたのだから、ロイにも返事をしなくてはならないし、こんな個人的なことで悩んでいる暇はない。セシルはそう思い直した。
「なあ、ミント。誰が僕みたいな地味な奴を呪ったりするのかな」
王都に戻ればおそらくまだ呪いの影響は残っていて、嫌われ令息に逆戻りだ。
アンドレアスは誰が呪いをかけているかわからないと解呪はできないと言っていた。
アンガス王太子は側室になれと言っていたのに、家督を継ぐことになって王女と婚約したセシルを恨んでいるだろうか。怪しげな術士を金で雇うくらいはできそうなものだが、彼はセシルが嫌われ始めた頃から全く近づいて来なくなった。ここ数年は大きな行事でもないと顔を見ることもない。
ブリジット王女は美男子で優秀だったセシルの兄フランシスと婚約が内定していたのに、次男のセシルと婚約が決まってしまって面白くなかっただろう。けれど、彼女は怒りや嫌悪を口や態度に出していた。陰でこそこそ恨んだりする性格ではない気がする。
そして、学生時代から何かと嫌がらせをしてきたピーターも次男から跡取りになったセシルを妬んでいたらしい。けれど、彼はあのアンドレアスの呪いの魔法を使いこなせるだろうか。彼の家は魔結晶の技術を代々受け継いでいるらしいが、ピーターの代でそれも危ういのではと言われているくらいだ。
他には、セシルの弟ブライアン。彼はセシルの兄が家督を放り出してきたときに、自分が家督を継げると思ったらしい。ピーターと交流があって、セシルのことを長兄よりも地味で取り柄のない人間だと思っているようだった。セシルはまあそれは事実だしとスルーしていたが、今思えばあまりいい関係ではない。
おそらくきっかけはセシルが家督を継ぐことや王女との婚約が決まったこと。
貴族なんて表面は笑っていても陰で何を考えているかわからないのだから、誰が自分を妬んでいても不思議ではない。
……でも、王女との婚約破棄と実家からの勘当、王宮での官職を剥奪、それだけされても恨みがまだ残ってるから、呼び戻そうとしているんだよな。
感傷に沈みそうになったところで、突然セシルの頭上から呼びかけてくる声がした。
「おい、晩飯はまだか」
アンドレアスがいつの間にかセシルの顔を覗き込んでいた。長い黒髪がセシルの顔に触れている。
セシルは窓から差し込む日差しがすっかり傾いているのに気づいて慌てて起き上がった。
「簡単なものでいいですか? 確か昨日村でお裾分けしてもらった人参が……」
「……」
途端に顔を顰めたアンドレアスを見て、セシルは内心でやっぱりか……と思った。
最凶最悪の魔法使いは人参に弱いらしい。
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