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13.魔法使いの難問※

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「嫌だろうがほんの少しだけ我慢してくれ」

 アンドレアスのもう片方の手がセシルの下肢に伸びて、誰にも暴かれたことのない最奥に触れる。何かで濡れた指がするりと潜り込んでくる。

 ……何だ、これ。

 理屈では知っていた。その部分で交わることがあるのだと。とはいえ、本来の用途ではないのだから、気持ちいいはずがないと思っていた。

「痛いか?」

「いえ……」

 むず痒いような感覚とともに、熱に浮かされたような身体は指を易々と受け入れる。

 嫌じゃない。それどころかもっと奥を突いて欲しい。

「大丈夫なようだな。なら続けるぞ」

 嘘……気持ちいい……のか? 

 張り詰めていた中心に添えられていた手がまた愛撫を始める。前後に同時に与えられる刺激で、じっとしていられなくなって腰が蠢いてしまう。

「ん……ああ……僕……こんな……腰が勝手に……」

「ああ。気持ちいいのだろう? 健康的な証拠だ」

 アンドレアスは感情のこもらない冷静な口調で告げてくる。

 自分だけが乱されているのがいたたまれなくて、セシルは目をきつく閉じた。

 僕はこんな淫らな身体だったのか? 会ってさほど経っていない相手にこんなことをされて気持ちいいと思ってしまうなんて。

 本当に魔力の影響なんだろうか。自分は本当は淫乱なんだろうか。

 これは治療なのに。こんなに浅ましく感じて、いいんだろうか。

 身体の中を探っていた指が奥の一点を突いた。強烈な刺激で身体が大きく震えた。

「ああ。ここだな」

 アンドレアスはセシルの反応にそう呟いた。

 そこはダメだ。触られたらダメになる。

 前世で聞いたことがある。身体の中に前立腺というところがあって、そこを刺激されると強烈な快感を得られるのだとか。

 頭の中が快楽に支配されていく。身体の中で暴れ回っていた熱が下腹に集まって重苦しい。解放されたいと叫んでいる。

 恥ずかしいのに漏れる吐息も声も言葉にならない。

 快楽だと認めれば楽になるのに、心はそれを拒んでいる。

 ……自分じゃない。こんなの、自分じゃない。

「あ……ああっ。こんなの……変っ……」

「ああ。変なのは魔力酔いのせいだ。お前のせいではない。お前は嫌なんだろう?」

 アンドレアスはそう言いながら、セシルの身体を組み敷いて快楽に喘ぐ様を見つめている。

 なんでこういうときは小馬鹿にしたりしないんだ。偉そうなコトばかり言っていたくせに。せめて少しは感情を見せればいいのに。

 成り行きでこんなことをさせられるのは迷惑だとか、文句を言われた方がましだ。

「やっ……指……抜いて……も……出る……出ちゃうから……っ」

 自分は今どんな顔をしているのか。後孔と中心を弄られてあられも無い姿をさらしている。この上精を放つ所まで見られてしまうのだろうか。

「出すのが目的なんだ。淫らになっているのも、全て魔力酔いのせいだ。だから我慢しなくていい」

 容赦なく与えられる愛撫に目頭に熱が集まる。

「嫌なら……想い人の顔でも思い浮かべていろ」

「そんなの……いない……っ。もう……無理……」

 セシルの中では羞恥と魔力酔いの苦痛が混じり合っている。なのに、それはすべて強烈な快感に書き換えられようとしている。いや、そうなるように追い詰められている。

「ああぁっ」

 やがて訪れた抗いがたい衝撃とともにセシルの中心は相手の手の中であっさりと精を放った。



 アンドレアスは一回だけでは手を緩めてくれず、結局三回目を放ったところでセシルを解放した。セシルは疲労困憊で起きることもできなかった。

 アンドレアスは水魔法でセシルの身体を綺麗にしてくれた。

 それを見てセシルはずっと牢にいたはずのアンドレアスが薄汚れていない理由を理解した。

 そうか……魔法ってお風呂の代わりにもなるのか。その魔法は教わりたいかも。



 たしかに治療としての効果はあった。さっきまでの苦痛が和らいで思考が戻ってくる。セシルはぼんやりと傍らで背中を向けて座っているアンドレアスを見上げる。

「すみません……お手数をかけました。誠にお見苦しいものを……」

「治療だと言っただろう。そもそも相性を確かめもせずに魔力をお前に流し込んだオレが悪い」

 アンドレアスは無愛想な口調で答えた。こちらに振り返りもしない。

 ……傲慢な自称最凶最悪の魔法使いが非を認めてるんだけど。

 セシルはぽかんとして、思わず吹き出してしまった。

 アンドレアスにとってセシルは貴重な通訳で案内係かもしれないが、所詮行きずりの他人だ。

 放っておくこともできたのに、触りたくもないだろう他人の身体を……もしかしてこの人……。

「何がおかしい」

「いや、だって……」

 存外いい人なんだと言いかけて、セシルは言葉を切った。

 きっとそう言ったらアンドレアスは嫌な顔をするだろう。彼は嫌われ者の孤高の存在であることを好んでいるようだし。

「えーと……高額な治療費とか要求されても払えないなって……」

 セシルが愛想笑いで誤魔化そうとすると、アンドレアスはやっとこちらに顔を向けた。

「阿呆か。そもそも治療は完全に終わっていない。念のためにもう一回魔力を抜いたほうがいいんだが」

「え?」

 またあんなことを? いやもうほとんど身体の中をぐるぐるしていたものは消えたような気がするのに。

 思考が戻ってきた今は恥ずかしくて消え入りたいほどなのに。

「混じっていた魔力が完全に抜けたわけではないからな。また何かの拍子に再発するかもしれない」

「……再発」

「元々お前の力は何かに封じられていたようにも見える。呪いではなく、何か生まれつきというべきか。オレの魔力が刺激になって覚醒して暴れ出したのかもしれない」

 セシルはそう言われて思い出していた。



 それって、自分が異世界からの転生者だから?

 転生したときの記憶は薄ぼんやりしている。前世は平凡な学生だった。小柄で童顔寄りの地味顔。勉強は文系だけは得意だった。

 五年前に前世の記憶が戻り始めてから、いくら辿っても何が理由で死んだのかもわからなかった。ただ、生まれる前に誰かの声を聞いたのだ。

『君かあ。久しぶりだねえ。やっと綺麗にくっついたねえ。いやー、長かった』

『くっついた?』

『君の魂は欠損が酷くてそのままでは消滅しそうだった。だから同じように弱っていた別の魂に移植して、何度か転生させて治癒させることにしたんだ。やっと元の世界に戻してあげられそうだから、君の生まれ変わり先は元の世界じゃないんだよ。こちらの都合で振り回して申し訳ないから、君には次の生で特別なスキルをあげようかな。幸せになれるといいね』

 あの言葉通りなら、自分の魂は元々欠けていて、治療のために誰かの魂の欠片を埋め込まれたということだろうか。

 その時に何か、魔力を封じられるような影響があったとか?



「まあ、お前の体力がなさ過ぎるから、今日はこれ以上やったら逆効果かもしれない。とりあえず魔力の訓練をしながら様子見だな」

 魔力か……。セシルはアンドレアスの裸の背中に目を向けた。その身体を包んでいる魔力の流れをぼんやりと見つめる。今ならアンドレアスが規格外の魔法使いだというのが理解できる。彼の内からあふれ出る魔力の強さがわかる。

 ……そして自分の身の内にも魔力が巡っているのがわかる。アンドレアスの魔力が強固な鉄板なら、自分の力は薄い紙のようなものだけれど。

「魔力は何となくわかるようになったんですが……」

 セシルは横たわったまま自分の手のひらをじっと見つめた。

「そうだろうな」

 どこか不機嫌そうにアンドレアスは立ちあがった。

「ほら。そろそろ戻らないとあの犬がうるさいぞ」

 ベッドの周りに散らばっていたセシルの衣服を拾い集めて投げてきた。

 衣服はボタンが全く外れていないし、靴の紐も解けていない。どういう脱がせ方をすればこうなるのか。

 セシルは首を傾げながら服を身に纏う。

「なんでこうなるんですか?」

「簡単だ。物を引き寄せる魔法を使って、お前の本体だけわずかに移動させた」

「うわー。雑……」

 つまり短いテレポートのような術でセシルの身体だけ衣服から抜き出したのだ。

 だから一瞬で全裸にされたんだ。

 そんなことができるなら縄抜けも密室からの脱出もやりたい放題だ。イリュージョンも真っ青だろう。

「結構使い勝手はいいんだぞ。この魔法は。果物の皮むきにも使える」

 皮むきと人の服を脱がせる……魔法の無駄使いにもほどがある。

「そういえば、魔法。今なら僕でも使えるんですか?」

「そうだな。……問題は教え方だ」

 アンドレアスは眉を寄せた。

 それな。

 セシルは脱力した。

 本来は魔法使いは長い呪文を唱えて魔法を発動させるものらしい。

 なのにアンドレアスは天才過ぎてその呪文なしでも魔法が使えてしまう。おかげで基本となる呪文さえ覚えていない。そんなアバウトな感覚でやっていることを人に教えるのは難しい。

 ……今まで弟子とってなかったんだろうな。そうしていればもっと早く気づいていたはずだし。そして今は魔法なんておとぎ話と言われるくらい廃れてしまっている。



 巡り巡って最初の難問に戻ってしまった。

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