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0.最凶最悪の魔法使い、復活する。
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昔々、ファーデンという国に恐ろしい魔法使いアンドレアスが住んでいました。
気まぐれに王宮に現れては無理難題を押しつけ、叶わなければ大暴れしてあちこちを破壊し、民を恐れさせました。
けれどある日、勇気ある王様がアンドレアスを退治しようと立ちあがりました。
そして苦労の末アンドレアスを追い詰めたのですが、彼は最後の力を振り絞って大いなる呪いをファーデンにかけました。
そして、魔法使いを倒すことに成功したにもかかわらずファーデン国は一夜にして滅びたのです。
「……まあ、今となっては全部廃墟だけどなあ……あれ?」
セシル・ウイットフォードは背伸びをするとペンを走らせていた手を止めた。
ふと、何かの気配を感じた気がしたのだ。
自分より気配に敏感な愛犬も、傍らで頭を擡げて周囲を窺っている。
けれど何かが現れる気配はない。
静まり帰った森の中、セシルの伸びっぱなしを適当に束ねた深緑色の髪をただ風が撫でていく。
「気のせいかな」
見渡す限り人の住んでいない廃墟。石造りの街があったが今は崩れた建物の上に草木が生い茂り、見る影もない。
ここは三百年前滅びたファーデン国の王都の跡だ。セシルがいる辺りは王宮のあった場所らしい。崩れた石柱に残るレリーフくらいしかその面影はないが。
魔法が盛んだったらしく、それによって国を外敵から守っていたと伝えられている。
時々文献や当時の生活用品が発掘されるらしい。そのため野盗が金になるものがないかと荒らしにくることもあって、今の領主はここに番人を置いている。
遺跡調査と警備をかねた番人、それが今のセシルの仕事だ。まだこの仕事に就いたばかりで、地味にこうして引き継ぎの資料片手に図面を辿っている有様だ。
「見回りに行こうか、ミント」
セシルは愛犬の白い背中を撫でて立ちあがった。
ファーデン国は一人の魔法使いに滅ぼされた。
そう伝えられてはいるけれど、一人の人間に国を滅ぼすなんてできるんだろうかとセシルは思う。魔法使いなんて今はいないし、魔法なんておとぎ話の中だけだ。
歩いているうちに、斜面が崩れて大きく抉れた場所に出た。
セシルがこの地に来た直後、しばらく荒天がつづいていた。その影響だろうか。崩れた地面の中から建物の一部、鉄格子のはまった窓が見えた。
「……地下室……牢屋かな?」
そっと歩み寄ると足元が急に光り始めた。
複雑な文字が描かれた六芒星などの文様が配置された正円。
「何だ? ……これって魔法もののアニメとかでよく見る魔法陣?」
呟いたとたんに地面が大きく揺らいだ。
「若者よ。出迎え大義であるぞ。我が名はアンドレアス、高名にして偉大なる天才魔法使いである」
「……へ?」
セシルは尻餅をついて目の前の光る魔法陣を見つめた。そこから一人の男が地面から浮かび上がるようにして現れる。くるぶしに届きそうなつややかな長い黒髪、白磁のような肌。がっしりとした逞しい体つきの長身。
そして、全裸。なぜ、全裸。
何も隠すつもりがないらしく腕組みをしてふんぞり返っているので、股間のアレまで偉そうにふんぞり返っているように見える。
これはとにかくヤバい。何で地面から生えてくる? 何で裸? 裸族なの? ただの露出狂? 何だかわからないけどヤバい。わいせつ物陳列罪というか歩くわいせつ物だ。
「そこの若造。聞こえているのか?」
男は尊大な口調で問いかけてくるが、セシルは慌てて駆け出した。
「逃げるぞ、ミント」
訳のわからないものには近づかない。とにかく逃げるに限る。セシルは森の麓の番人小屋まで愛犬とともに一目散に走った。
あれ? そういえばあの男……アンドレアスって……? まさか最凶最悪と言われた魔法使いアンドレアス? あれ実在の人物なの?
頭の中を一瞬そんなことが掠めたが、逃げるのが先だとセシルは遺跡の中を駆け抜けた。
気まぐれに王宮に現れては無理難題を押しつけ、叶わなければ大暴れしてあちこちを破壊し、民を恐れさせました。
けれどある日、勇気ある王様がアンドレアスを退治しようと立ちあがりました。
そして苦労の末アンドレアスを追い詰めたのですが、彼は最後の力を振り絞って大いなる呪いをファーデンにかけました。
そして、魔法使いを倒すことに成功したにもかかわらずファーデン国は一夜にして滅びたのです。
「……まあ、今となっては全部廃墟だけどなあ……あれ?」
セシル・ウイットフォードは背伸びをするとペンを走らせていた手を止めた。
ふと、何かの気配を感じた気がしたのだ。
自分より気配に敏感な愛犬も、傍らで頭を擡げて周囲を窺っている。
けれど何かが現れる気配はない。
静まり帰った森の中、セシルの伸びっぱなしを適当に束ねた深緑色の髪をただ風が撫でていく。
「気のせいかな」
見渡す限り人の住んでいない廃墟。石造りの街があったが今は崩れた建物の上に草木が生い茂り、見る影もない。
ここは三百年前滅びたファーデン国の王都の跡だ。セシルがいる辺りは王宮のあった場所らしい。崩れた石柱に残るレリーフくらいしかその面影はないが。
魔法が盛んだったらしく、それによって国を外敵から守っていたと伝えられている。
時々文献や当時の生活用品が発掘されるらしい。そのため野盗が金になるものがないかと荒らしにくることもあって、今の領主はここに番人を置いている。
遺跡調査と警備をかねた番人、それが今のセシルの仕事だ。まだこの仕事に就いたばかりで、地味にこうして引き継ぎの資料片手に図面を辿っている有様だ。
「見回りに行こうか、ミント」
セシルは愛犬の白い背中を撫でて立ちあがった。
ファーデン国は一人の魔法使いに滅ぼされた。
そう伝えられてはいるけれど、一人の人間に国を滅ぼすなんてできるんだろうかとセシルは思う。魔法使いなんて今はいないし、魔法なんておとぎ話の中だけだ。
歩いているうちに、斜面が崩れて大きく抉れた場所に出た。
セシルがこの地に来た直後、しばらく荒天がつづいていた。その影響だろうか。崩れた地面の中から建物の一部、鉄格子のはまった窓が見えた。
「……地下室……牢屋かな?」
そっと歩み寄ると足元が急に光り始めた。
複雑な文字が描かれた六芒星などの文様が配置された正円。
「何だ? ……これって魔法もののアニメとかでよく見る魔法陣?」
呟いたとたんに地面が大きく揺らいだ。
「若者よ。出迎え大義であるぞ。我が名はアンドレアス、高名にして偉大なる天才魔法使いである」
「……へ?」
セシルは尻餅をついて目の前の光る魔法陣を見つめた。そこから一人の男が地面から浮かび上がるようにして現れる。くるぶしに届きそうなつややかな長い黒髪、白磁のような肌。がっしりとした逞しい体つきの長身。
そして、全裸。なぜ、全裸。
何も隠すつもりがないらしく腕組みをしてふんぞり返っているので、股間のアレまで偉そうにふんぞり返っているように見える。
これはとにかくヤバい。何で地面から生えてくる? 何で裸? 裸族なの? ただの露出狂? 何だかわからないけどヤバい。わいせつ物陳列罪というか歩くわいせつ物だ。
「そこの若造。聞こえているのか?」
男は尊大な口調で問いかけてくるが、セシルは慌てて駆け出した。
「逃げるぞ、ミント」
訳のわからないものには近づかない。とにかく逃げるに限る。セシルは森の麓の番人小屋まで愛犬とともに一目散に走った。
あれ? そういえばあの男……アンドレアスって……? まさか最凶最悪と言われた魔法使いアンドレアス? あれ実在の人物なの?
頭の中を一瞬そんなことが掠めたが、逃げるのが先だとセシルは遺跡の中を駆け抜けた。
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