18 / 27
18 彼女の秘密
しおりを挟む
ああ、ああ!なんて素敵なんだろう!!
私は、大好きだった小説のヒロインに生まれ変わったんだ!!
それに気づいたのは、3歳くらいの時だった。
国の名前と、私の名前。容姿までそのものなんだもの。分からないはずがないわ。
私が大好きだったこの小説。
体の弱いヒロインが、王子様と身分違いの恋に落ち、結ばれる。
在り来りって言えば在り来りな内容だけど、私が大好きだったのはヒロインの愛されっぷりだ。
登場人物も、モブも全員ヒロインを愛して大事にしている。
学園でもマドンナで、先生達もヒロインを褒め称える。
国王夫妻だってあっという間にヒロインのことを認めてくれて、気持ちがいいくらいに『ヒロイン第一主義』なお話なんだもの。
最近の流行りは苦労があったり、いじめがあったり……そんなのいらない。
スッキリする快感が得たくて物語を求めてるのに、なんで苦労しなきゃいけないのよ。意味わかんない。
だって、ヒロインよ?
この物語の、世界の主役!
──ヒロインは、何をしても許される存在でなきゃ!
だから、ヒロインのリリィに生まれ変わってるって知った時は、とても嬉しかった。
なのに──……
『可哀想なリリィ。このままだと、お前の命は残り僅か……』
私は、10歳にも満たないうちに、死にかけていた。
リリィが病弱ってのは聞いてたけど、ここまでなんて思ってもなかった。
『物語』の『ヒロイン』が死ぬわけないけど、それでも苦しいものは苦しいし、怖いものは怖い。
そうして泣いていたら、お祖母様がおまじないを教えてくれたの。
『これは、我がマーガレット家に代々伝わら秘術だよ。決して、他の者に喋っては行けないよ』
そう言って、地下室に運ばれて、少し待っていたら、お祖母様は小汚い子供を連れてきた。
その子と顔を合わせ、お祖母様はおまじないを唱え始めた。
そうしたら、お祖母様のつけていたピンクの綺麗なネックレスが、強く光って──……
お祖母様は、その子供を殺しちゃった。
すっごい汚い悲鳴で気持ち悪かったけど、その子供が動かなくなった瞬間、私の体が嘘みたいに軽くなったの。
凄いでしょ!
──それが、始まり。
***
「アレン様、何を、してらっしゃるの?」
王城の図書館。
最近、『かかり』の甘くなっちゃったアレン様を追いかけて来たんだけど……来てよかった。
アレン様ったら、余計なことに気づきそうになってるんだもの。
──おかしいなぁ、アレン様の時は犬猫じゃなくて、ちゃんと『人間』を使ったのに。
思わず小首を傾げれば、綺麗なピンクの髪がサラリと揺れる。
とても可愛い私なのに、アレン様ってばなんでそんな顔をしてるんだろう?
「……リリィ」
「はい、どうされました?」
ニコリと笑って、アレン様に近づく。
今のうちなら、有耶無耶にしちゃえるでしょ。
そう思って、アレン様の腕を、いつものように抱こうとして……
──ぱしん!
とても乾いた音をたてて、その手は振り払われた。
「……………は?」
「……ごめん。けど、質問に答えてくれ。それまでは、触らないで欲しいんだ」
何、してんの?こいつ。
なんで『ヒロイン』を否定するわけ?
どす黒い感情が、久しぶりに溢れかえって心を満たす。
「──君は、何者なんだ?」
──その質問に、私の中で何かが切れた。
「………あー、もう、いいや」
「リリィ……?」
「あの女みたく、あんたも、いらない」
私の言葉に、アレン様……もう様付けなんてしなくていいや。アレンはひゅっと喉を鳴らして、青ざめる。
そういや、婚約者だったんだっけ?知らないけど。
「気に入らなかったのよ。あの女。ヒロインでも無いくせに、みんなにチヤホヤされちゃってさ」
──この世界は、私のためのものなのに。
そう、ヴィオラだっけ?あの女は邪魔だった。
やっと『原作』が始まる歳になって、学園に編入したのに。
『私』がいるべき場所に、『あの女』はのうのうと笑って座っていた。
なんであんたが愛されてるの?
アレン王子の隣は私の、『ヒロイン』のもの!
例え『ヒロイン』が来るまでの代役だったとしても、そんなものいらない。
愛されるのは、私だけでいい。
だから、お祖母様から譲り受けたネックレスと『おまじない』を使った。
そしたらみんな嘘みたいに私をチヤホヤするんだもん!
気持ちいいったらなかったわ!
生贄には孤児院の子供をいつも通り使ったり、貧民を騙して使ったり。
どうでもいいモブの時は野良猫や野良犬を使ったりもした。
だって、私はヒロインだもの。
『私』が愛されるためなんだもの。仕方ないわよね?
ああ、あの時の女の顔、何度思い出しても笑える。
……けど。
「アレン、もうあなたはいらない。……王子様を生贄にしたら、もっと強い『おまじない』が出来るって思わない?」
「なに、を──」
あの女を迎えに来た、王子様。
隣国の王太子って言ってたわ。
原作に出てこなかったけど、あんな綺麗な人がいたなんて!!
──あの人こそ、私を『愛するのに』相応しい!!
だから。
「だから、アレン。私のために、死んでね?」
──どん!!
後ずさるアレンの背後には、開け放たれた窓。
私は、その窓に向かって、勢いよくアレンを突き飛ばした。
私は、大好きだった小説のヒロインに生まれ変わったんだ!!
それに気づいたのは、3歳くらいの時だった。
国の名前と、私の名前。容姿までそのものなんだもの。分からないはずがないわ。
私が大好きだったこの小説。
体の弱いヒロインが、王子様と身分違いの恋に落ち、結ばれる。
在り来りって言えば在り来りな内容だけど、私が大好きだったのはヒロインの愛されっぷりだ。
登場人物も、モブも全員ヒロインを愛して大事にしている。
学園でもマドンナで、先生達もヒロインを褒め称える。
国王夫妻だってあっという間にヒロインのことを認めてくれて、気持ちがいいくらいに『ヒロイン第一主義』なお話なんだもの。
最近の流行りは苦労があったり、いじめがあったり……そんなのいらない。
スッキリする快感が得たくて物語を求めてるのに、なんで苦労しなきゃいけないのよ。意味わかんない。
だって、ヒロインよ?
この物語の、世界の主役!
──ヒロインは、何をしても許される存在でなきゃ!
だから、ヒロインのリリィに生まれ変わってるって知った時は、とても嬉しかった。
なのに──……
『可哀想なリリィ。このままだと、お前の命は残り僅か……』
私は、10歳にも満たないうちに、死にかけていた。
リリィが病弱ってのは聞いてたけど、ここまでなんて思ってもなかった。
『物語』の『ヒロイン』が死ぬわけないけど、それでも苦しいものは苦しいし、怖いものは怖い。
そうして泣いていたら、お祖母様がおまじないを教えてくれたの。
『これは、我がマーガレット家に代々伝わら秘術だよ。決して、他の者に喋っては行けないよ』
そう言って、地下室に運ばれて、少し待っていたら、お祖母様は小汚い子供を連れてきた。
その子と顔を合わせ、お祖母様はおまじないを唱え始めた。
そうしたら、お祖母様のつけていたピンクの綺麗なネックレスが、強く光って──……
お祖母様は、その子供を殺しちゃった。
すっごい汚い悲鳴で気持ち悪かったけど、その子供が動かなくなった瞬間、私の体が嘘みたいに軽くなったの。
凄いでしょ!
──それが、始まり。
***
「アレン様、何を、してらっしゃるの?」
王城の図書館。
最近、『かかり』の甘くなっちゃったアレン様を追いかけて来たんだけど……来てよかった。
アレン様ったら、余計なことに気づきそうになってるんだもの。
──おかしいなぁ、アレン様の時は犬猫じゃなくて、ちゃんと『人間』を使ったのに。
思わず小首を傾げれば、綺麗なピンクの髪がサラリと揺れる。
とても可愛い私なのに、アレン様ってばなんでそんな顔をしてるんだろう?
「……リリィ」
「はい、どうされました?」
ニコリと笑って、アレン様に近づく。
今のうちなら、有耶無耶にしちゃえるでしょ。
そう思って、アレン様の腕を、いつものように抱こうとして……
──ぱしん!
とても乾いた音をたてて、その手は振り払われた。
「……………は?」
「……ごめん。けど、質問に答えてくれ。それまでは、触らないで欲しいんだ」
何、してんの?こいつ。
なんで『ヒロイン』を否定するわけ?
どす黒い感情が、久しぶりに溢れかえって心を満たす。
「──君は、何者なんだ?」
──その質問に、私の中で何かが切れた。
「………あー、もう、いいや」
「リリィ……?」
「あの女みたく、あんたも、いらない」
私の言葉に、アレン様……もう様付けなんてしなくていいや。アレンはひゅっと喉を鳴らして、青ざめる。
そういや、婚約者だったんだっけ?知らないけど。
「気に入らなかったのよ。あの女。ヒロインでも無いくせに、みんなにチヤホヤされちゃってさ」
──この世界は、私のためのものなのに。
そう、ヴィオラだっけ?あの女は邪魔だった。
やっと『原作』が始まる歳になって、学園に編入したのに。
『私』がいるべき場所に、『あの女』はのうのうと笑って座っていた。
なんであんたが愛されてるの?
アレン王子の隣は私の、『ヒロイン』のもの!
例え『ヒロイン』が来るまでの代役だったとしても、そんなものいらない。
愛されるのは、私だけでいい。
だから、お祖母様から譲り受けたネックレスと『おまじない』を使った。
そしたらみんな嘘みたいに私をチヤホヤするんだもん!
気持ちいいったらなかったわ!
生贄には孤児院の子供をいつも通り使ったり、貧民を騙して使ったり。
どうでもいいモブの時は野良猫や野良犬を使ったりもした。
だって、私はヒロインだもの。
『私』が愛されるためなんだもの。仕方ないわよね?
ああ、あの時の女の顔、何度思い出しても笑える。
……けど。
「アレン、もうあなたはいらない。……王子様を生贄にしたら、もっと強い『おまじない』が出来るって思わない?」
「なに、を──」
あの女を迎えに来た、王子様。
隣国の王太子って言ってたわ。
原作に出てこなかったけど、あんな綺麗な人がいたなんて!!
──あの人こそ、私を『愛するのに』相応しい!!
だから。
「だから、アレン。私のために、死んでね?」
──どん!!
後ずさるアレンの背後には、開け放たれた窓。
私は、その窓に向かって、勢いよくアレンを突き飛ばした。
60
お気に入りに追加
3,023
あなたにおすすめの小説

見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい
水空 葵
恋愛
一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。
それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。
リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。
そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。
でも、次に目を覚ました時。
どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。
二度目の人生。
今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。
一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。
そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか?
※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。
7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m

本日より他人として生きさせていただきます
ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。
真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。
一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。
侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。
二度目の人生。
リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。
「次は、私がエスターを幸せにする」
自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~
水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。
それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。
しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。
王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。
でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。
※他サイト様でも連載中です。
◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。
◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。
本当にありがとうございます!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました
ネコ
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる