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09 隣国との交渉

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家督を継いだとはいえ、まだ親父は現役だ。
少なくとも、引き継ぎのゴタゴタが片付くまでは、表向き俺は王太子として政務にあたる。
そして、時が来たら正式に親父の退位と俺の戴冠式が発表される運びになっている。

つまり、今の俺はアホほどに忙しい。 

王太子としての政務に加え、国王の引き継ぎ業務。
リーゼッヒ王国との同盟の話を進めるのも俺の仕事だ。
加えて、腹違いの弟であるライ──イライアスを国王にと担ぎあげる輩もまだ存在している。そっちの処理もしなきゃ行けない。

幸いにもライは例え自分が正妻の子であるとしても、頭脳派ではないと自覚をしている(美形な)筋肉ゴリラだ。「脳筋が国を動かせるわけが無い」と面と向かって言われた時は呆気に取られたもんだが……俺を兄と慕い補佐として働いてくれると公言している。
軍事的な方面はあの脳筋に任せとけば問題ないのが救いか。

……まあ、こんな事情、彼女を苦しませた言い訳にもならないけど、な。

──コンコンコン

つらつらと考え事をしていれば、親父の執務室へと到着する。
軽いノックの後、返事を待たずに入室すれば、呆れ顔の親父が頬杖をついて書類と睨めっこをしていた。  

「お前、ノックするなら返事くらい待てよ」
「今更だろ。……頼みがって来ました」
「………へえ?」

にや、と笑った顔は俺にもライにも似ていない。
俺もライも、お袋似だ。

……くそじじいめ。

舌打ちをしたいのをぐっと堪えて、俺は口を開いた。

「嫁にしたい人がいます」


※※※


親父に話をつけてから1週間後。
俺はリーゼッヒ王国の王城へと来ていた。

「レオ王子、イライアス王子。ようこそおいでくださいました」
「御託は結構。……彼女は、ヴィオラはどこにいる」

ヴィオラを嫁にしたいと親父に話した件は、すんなりとOKが出た。元々惚れた女なら誰でも嫁に、という家系だ。現に側室である俺のお袋も庶民出身だしなぁ……。

が、問題はそこからだった。
リーゼッヒ王国側だ。

リーゼッヒ王国と、我がハイル帝国の規模は明らかに違う。
ハイル帝国の方が規模も戦力も大いに秀でている。
代わりに、リーゼッヒ王国は観光資源に富んだ国だ。
お互いがお互いの得意分野が違うが故に、目立った諍いもなく、かといって同盟を結ぶこともない冷戦状態が続いていたのだ。
それが近代になって、平和思想が普及したことにより、同盟の話が持ち上がった。

『前』は同盟の証にヴィオラを嫁に、と言い出したのはリーゼッヒ王国からだった。
だから、俺から申し出ても問題なく通るだろう、と思っていたんだが──……

「ですが、ライラック令嬢はマーガレット令嬢への暴行等の嫌疑がかかったままでして……」
「なら、なおのこと俺が貰い受ける事で『国外追放』という体が保てるだろう。何か問題が?」
「いえ、……何故、王子があのような娘を気にかけるかいささか疑問に思いまして」
「……………」

書面でのやり取りは今のようなのらりくらりとした言い訳ばかりで、ちっとも進みはしない。
その上最終的には『ヴィオラは死んだ』とまで言われる始末だった。
ならば葬儀に出ると言い切り、彼女がまだ生きてる事が判明。虚偽の申告をしたことを逆手に今回の訪問を漕ぎ着けたのだが──……

ライと、ちらりと目を合わせる。
ライは、肉体的に優れた(美形な)脳筋ゴリラだ。直感力にも冴えている。
そんなライが、眉を寄せ、怪訝な顔をしている。
それだけで、俺の疑問を形にするには十分過ぎた。

案内をする宰相の顔には、明らかな侮蔑の色が滲んでいる。
『暴行等の嫌疑』と口では言いつつも、ヴィオラがやったと信じて疑っていないのが目に見えて分かる。

──この宰相、こんなに感情を出す人間だったか……?

以前公務で謁見した時は、もっと己の感情を見せない優秀な宰相だったはずだ。 
それに、この王城──いや、この国自体が、うまく言えないんだが……『変な』感じがした。

──この国で、何が起こっている?
──ヴィオラは、何に巻き込まれたんだ?

背中を冷たい舌で舐めあげれるような、嫌悪感。
『巻き戻っている』事に気づいた時も、こんな感覚はしなかった。

早く、ヴィオラの元に行かないと。
そんな焦燥感が掻き立てられた、その時──



「あら、お客様ですか?」



鈴を転がすような、甘ったるい女の声が、聞こえた。

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