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08 俺の覚悟
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隣国、リーゼッヒ王国。王太子アレンの婚約者であるヴィオラ・ライラック公爵令嬢が、毒を煽り自死を試みた。
その知らせが届いたのは、俺が『巻き戻った』日から、およそ半年後の事だった。
「どういう事だ」
「ご報告の通りです。ライラック嬢が、毒を煽り自死を試みました」
自身の影から告げられた報告は、信じ難いものだった。
……いや、『信じたくないものだった』、が正しいか。
彼女を喪って、気が付くと俺はあの日から『2年前』へと遡っていた。
何故かは分からない。俺以外の者に、そのような記憶は存在しなかった。
正直、とても混乱した。俺の頭がおかしくなったのかとも思った。
けれど──……
…………最初に頭に浮かんだのは、1度も笑顔をみたことのない、『名前だけの嫁』の姿だった。
もしかしたら、これはチャンスなのかもしれない。
そう、思った。
「……そう思ったなら、直ぐに行動しろって話だよなぁ」
は、と自分に対しての嘲笑がこぼれる。
──結局、俺はまた判断を誤った。
2年前に巻き戻り、俺がまずしたのは影の手配と彼女を調べること。
前は、彼女について、何も知らなかった。
調べれば調べるほどに、前の彼女の悪評が信ぴょう性を失っていく。
成績優秀で、品行方正。
婚約者やその両親とも仲が良く、誰に対しても温和で優しい性格。
使用人や領地の民にも平等に優しく、誰からも好かれるご令嬢。
俺が調べた彼女は、『前の噂』で聞き及んでいた彼女とは、似ても似つかぬものだった。
──やっぱり、ヴィオラは嵌められたのか……
そう判明すると、少しスッキリした。
と、同時に彼女を貶めた連中に対する憤りも湧き上がって来たが……俺も人のことは言えないしな。何も言えないし、出来る立場でもない。
だから、彼女がもし、また嫁いで来たら。
その時は、今度は全部話を聞いて、ゆっくり休める環境を整えて……そして、どうしたいか聞こうと。そう、思っていた。
嫁いで来なかったらそれはそれ。『前』のように嵌められることなく、アレン王太子と仲良く過ごせるならそれでいい。
──彼女が、ヴィオラが幸せなら、それでいい。
俺が1度も幸せに出来なかった、1人で旅立たせてしまったひと。
どんな形であれ、誰の隣であれ、幸せでいてくれるならと。そう、思っていた。
そもそもリーゼッヒ王国と正式に同盟が結ばれるのは半年後だ。それまでは敵国の人間である俺に干渉出来ることは限られている。
だから、これが最善だと。
俺に出来ることだと、そう思っていた。
「……とんだ甘ったれだな」
──幸せにしたいなら、俺が動くべきだった。
他人なんかに、任せずに。
1度目を閉じ、深く息を吐く。
「…………よし」
再び瞼を開けた、その橙の眼に、もう迷いはなかった。
その知らせが届いたのは、俺が『巻き戻った』日から、およそ半年後の事だった。
「どういう事だ」
「ご報告の通りです。ライラック嬢が、毒を煽り自死を試みました」
自身の影から告げられた報告は、信じ難いものだった。
……いや、『信じたくないものだった』、が正しいか。
彼女を喪って、気が付くと俺はあの日から『2年前』へと遡っていた。
何故かは分からない。俺以外の者に、そのような記憶は存在しなかった。
正直、とても混乱した。俺の頭がおかしくなったのかとも思った。
けれど──……
…………最初に頭に浮かんだのは、1度も笑顔をみたことのない、『名前だけの嫁』の姿だった。
もしかしたら、これはチャンスなのかもしれない。
そう、思った。
「……そう思ったなら、直ぐに行動しろって話だよなぁ」
は、と自分に対しての嘲笑がこぼれる。
──結局、俺はまた判断を誤った。
2年前に巻き戻り、俺がまずしたのは影の手配と彼女を調べること。
前は、彼女について、何も知らなかった。
調べれば調べるほどに、前の彼女の悪評が信ぴょう性を失っていく。
成績優秀で、品行方正。
婚約者やその両親とも仲が良く、誰に対しても温和で優しい性格。
使用人や領地の民にも平等に優しく、誰からも好かれるご令嬢。
俺が調べた彼女は、『前の噂』で聞き及んでいた彼女とは、似ても似つかぬものだった。
──やっぱり、ヴィオラは嵌められたのか……
そう判明すると、少しスッキリした。
と、同時に彼女を貶めた連中に対する憤りも湧き上がって来たが……俺も人のことは言えないしな。何も言えないし、出来る立場でもない。
だから、彼女がもし、また嫁いで来たら。
その時は、今度は全部話を聞いて、ゆっくり休める環境を整えて……そして、どうしたいか聞こうと。そう、思っていた。
嫁いで来なかったらそれはそれ。『前』のように嵌められることなく、アレン王太子と仲良く過ごせるならそれでいい。
──彼女が、ヴィオラが幸せなら、それでいい。
俺が1度も幸せに出来なかった、1人で旅立たせてしまったひと。
どんな形であれ、誰の隣であれ、幸せでいてくれるならと。そう、思っていた。
そもそもリーゼッヒ王国と正式に同盟が結ばれるのは半年後だ。それまでは敵国の人間である俺に干渉出来ることは限られている。
だから、これが最善だと。
俺に出来ることだと、そう思っていた。
「……とんだ甘ったれだな」
──幸せにしたいなら、俺が動くべきだった。
他人なんかに、任せずに。
1度目を閉じ、深く息を吐く。
「…………よし」
再び瞼を開けた、その橙の眼に、もう迷いはなかった。
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