上 下
6 / 10
2章 レベ上げとパーティ結成

06

しおりを挟む
 さて、育成、もといレベ上げを始めるに当たって色々と用意が必要だ。
 主に私が作るポーションとか薬とかの準備なんだけど。
 
「こっちは『完全回復ポーション』の材料、こっちは『魔力回復薬』。『体力回復薬』『傷薬』『止血剤』……。ギルドにでも卸すのか?」
「いえ、それはうちで使うんですよ」
 
 材料、集めてきて貰えますか?
 とライルへ頼めば、小首を傾げて不思議がられる。その度に頭上のフサフサがふりふりとして何とも魅惑的だ。なるほどこれはかわいいがすぎるな。
 許しはしないし許容もしないが、奴隷として売買されるのは少し分かる。それほどに、希少種が持つ魅力というものは凄まじまいのだ。
 
 ちなみに、本人のプライバシーに関するので、他人に言うつもりはないが……勇者パーティのラウラも元『奴隷』だ。
 妖精の森で運悪く捕まり、奴隷商に捕まっていた所を勇者に助けられた。そのときから勇者にベタ惚れで、私の次の古株メンバーとなる。
 
 作ったポーションを、てっきり売って旅の資金にするのかと思った、というライルに「後で分かるから」と追い出し、とっとと材料を集めて貰う。
 なるべく早く君を育て上げて、他のメンバーを探したいんだ。頑張って貰わないと困る。
 それに、何人か誘いたい人ももういたりする。元気にしてるかな、あの人達。
 
「さて、と。今ある分のは作っちゃうか」
 
 ライルの帰りを待ちつつ、私はポーション作りへと思考を切り替えた。
 
 
 ***
 
 
 翌日、早朝。
 私とライルは、森の奥深くへと足を運んでいた。
 いつも薬草や魔物を狩っているような場所とは違う。木が鬱蒼と生い茂り、重厚感が満ちたその場所。ここは、ライルにも普段は立ち入らないようにと告げている場所だ。
 初めて来るライルは、しきりに耳をピクピクと動かし、辺りを警戒しているようだった。
 
 ──うん、勘はいいね。いい事だ。
 
「……なあ、本当に俺を『勇者』にするつもりか?」
「ええ、もちろん。……ライルが嫌なら、止めますが」
「やなわけない。強くなれるなら、それが1番いい。……けど、よ」
 
 そう軽く俯くライルの左手は、右手の手首をさすっている。そこは、今はない『奴隷』が付けられる、魔力封じの手枷が嵌められていた場所だ。
 ……多分、本人は無意識なんだろうなぁ。
 
 ライルの考えも、仕方ないと思う。ヒトというものは、周りからの評価に同調してしまうものだ。
 学校や会社……家とかで考えるとわかりやすいかな。
 周りからずっと「お前はダメなやつだ」「あんたってホント不細工よね」と言われ続けてたら、自然と「自分はそうなんだ」と思い込んでしまうものでしょう? 本当はそんなことないのに、「○○って面白いやつだよな~」と言われ続けてたら、おちゃらけキャラを演じ続けることになっちゃってたり。
 人はそれをレッテル貼りとも言う。実にくだらないけど、その話はひとまず置いておこう。
 
 つまりはまあ、長年『奴隷』として扱われてきたライルの自己肯定感は低いんだ。
 ……『勇者』として崇めたてられてた勇者が、天狗になっちゃったのも同じ仕組みだね。
 
 どれだけ根っこが真面目でも、いい子でも。周りの『レッテル』や『思い込み』から逃げるのは難しい。
 特に、若ければ若いほど。
 ……失うものが大きければ、大きいほど。
 
「大丈夫ですよ、ライル」
 
 そして、その『レッテル』を引っぺがすのも、周りの大人の役目だろう。
 
「君は、『ここ』に立つ権利があるのですから」
 
 その言葉に、ライルがはたと足を止める。
 
 
 ──そこは、今まで歩いてきた鬱蒼とした山とは打って変わった、静かな湖のほとりだった。
 
 
 濃く漂っていた魔物の気配は塵と消え。
 深く生い茂る木々によって薄暗かった視界は、広く明るい。
 いつの間にか周りには、微かに靄がかかっている。
 
「──っ!? ナギ! 俺の後ろに──」
『久しいな、ナギよ』
 
 異変に気づき、私を庇おうとしたライルだが、少し遅い。
 パキリと足元の小枝が折れる軽い音がして、それとほぼ同時に懐かしい声が降り注ぐ。
 
 会うのは久しぶりだ。
 
「お久しぶりです。──マガミ」
 
 いつの間にか湖のほとりに佇んでいたのは、白銀の豊かな毛をもつ、巨大な狼だった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...