8 / 18
8
しおりを挟む
拝啓、この世界の顔も覚えていないお母さま。
貴女の大嫌いな醜い娘はすくすくと育ち、図太く逞しく育っております。
先日とんでもない夢を見ましたが、さらにとんでもないことが発覚しました。
この世界、というか私の置かれている状態は、なんとなろう系小説あるあるの『異世界転生ループ物』だったのです。
正直いろいろ盛りすぎだと思うので神様にいっちょ文句を付けたいのですが、窓口はどちらにあるかご存じですか?
もし宜しければ、不出来な娘にお教えください。
かしこ。
なぁんて脳内で無意味な手紙を作成しながら、小屋の解体作業に意識を移す。
自分がループに巻き込まれていると気づいた私の行動は我ながら早かった。
とりあえず目下の死亡フラグである、ボロ小屋の解体作業を神父様に申請した。それはもうイキシアに心配される勢いで。
それはそれで幸せだったんだけど、置いておこう。
最初は「予算が……」と渋い顔をされていた神父様だったけど、崩落した時の危険性、巻き込まれたらどうなるかを事細かに説明したところ、GOサインをもぎ取ることに成功した。
ちなみにとてもリアルな「巻き込まれたらどうなるか」という「たとえ話」を聞いた神父様は真っ青になっていたけど、背に腹は代えられないんです。ごめんなさい。
もう一度体験するのは言わずもがな御免だし、かといってシスターを見殺しにするのも寝覚めが悪い。
いくらいびってくる人とはいえ、あんな死に方をさせたいとは思わないし。
それに、シスターや私が「その日その時間」にあのボロ小屋に行かなかったら……別の人が犠牲になるかもしれない。
──もし、それがイキシアだったら?
攻略キャラであるイキシアが犠牲になる可能性は限りなく低いだろう。
けれど、万に一つでも可能性があるなら、それを放っておくことはしたくなかった。
「先生、こりゃまずい。むしろ今までよく崩れなかったか不思議なくらいだ」
「そんなに……すいません、ご協力感謝いたします」
手伝ってくれている町のおじさ……お兄さんたちに、神父様が深々と頭を下げる。
それに合わせて、私やシスター……イキシアの大人組も続けて頭を下げた。
え? ザンカ? ついにバレたマシロに夢中な子供たち(プラスレリア)のお守りだよ。
「ああ、いやいや、先生や教会の人たちにはいつもお世話になってるからねぇ」
「ああ。これくらいなんてことないさ」
カラカラと豪快に笑い、お兄さんたちは作業に戻っていく。
大工の方々だから、その手際は鮮やかだ。これなら事故もないだろう。
……それにしても。
「よかったですね、神父様」
フリージア神父は、まだまだ年若い。
若輩者である自分が教会を守っていけるのか、町の人に受け入れてもらえるのか。
彼が悩み、努力していたことを、教会のみんなが知っている。
だからあのシスターだって、ぐちぐちと文句を言いつつ、絶対に神父様の決定には逆らわないんだ。
あなたの頑張りは、町の人たちにちゃんと伝わっていますよ。
まるで自分の事みたいに誇らしくって、自然と笑顔になる。
イキシアやシスターも同じ見たいで、皆笑っていた。
そして私は空気の読めるイイ女かつ、元日本人ですので。
うつむく神父様の目元がすこし濡れていることは、見なかったことにしておきましょう。
※ ※ ※
そして、無事に小屋の解体作業を終えた、約一月後。
そう、レリアがやってきて、一か月目の今日。
本来起きるはずだったレリアの能力が開示される、という重要イベントがスルーされるはずもなく、代わりに町で亡くなった方の葬儀が行われた。
ちなみに亡くなったのは百歳を超えたおじいちゃんだったので、ストーリーのつじつま合わせに~、なんてことはなさそう。よかった。
通常、神父様が亡くなった方のご自宅まで伺うには、そこそこのお金がかかるんだけど……。
フリージア神父は、「死は平等であり、その弔いに差が生じるのは神の教えに背く」と言って、家族に拒否されない限り、必ず自分からご帰宅に出向くようにしている。
きっとこんな方だから、みんなから愛されているんだろうなぁ……。
最推しはイキシア一択だけど、たしか前世のゲーム内アンケートで「結婚したいキャラNo.1」だったのもうなずける。絶対いいお父さんになるもんね、神父様。
今日は、お手伝いとして私とイキシア、そしてレリアも神父様に同行した。
私とイキシアは神父様の補佐。レリアは初めてのお葬式ということで、慣れるためも兼ねた見学だ。
教会に身を置くということは、人の生き死にに係わる、ということでもある。
それがどうしても耐えきれなくて、教会を出ていった子もいる。
早いうちに、体験しておいた方がいい。
そういう、神父様の気遣いだ。
「ご家族様、すごく感謝していましたね」
「ああ、そうだね。少しでも悲しみを払えたのなら、良いのだけど……」
ちらりと盗み見たレリアは、死を悲しみ、悼んではいたけれど、引きずっている様子はなさそうだ。
ゲームで大丈夫なのは知っていたけど……やっぱり現実に見るまでは、ハラハラしてしまう。
ほっと、息を吐きだした、その時。
「──きゃああああ!!」
「うわあああ!! 逃げろ!!」
突然の叫び声と、馬の嘶き。
そして、ふと日の光が陰る。
え、と思ったときには、もう遅かった。
振り返った視界いっぱいにひろがる、馬の脚。
そして、息が止まるような衝撃が走って、青い空が見えて、視界が回って。
気が付いた時には、私は地面に倒れ伏していて、意識がどんどん薄れていく最中だった。
何が何だかわからないけど、多分、暴走した馬車に轢かれたんだろう。
なんとなく、また死ぬんだなぁ、なんて他人ごとに思いながら、瞼が下りていく。
ああ、イキシアは、無事だったかなぁ。
霞む視界の中、いつも追いかけていた黒色が、駆け寄ってくれている気がした。
──きっと、見間違いなんだろうけど。
また、真っ暗になる、その直前。
「ラーレ!!!」
鐘の音に交じって、大好きな声が、聞こえた気がした。
貴女の大嫌いな醜い娘はすくすくと育ち、図太く逞しく育っております。
先日とんでもない夢を見ましたが、さらにとんでもないことが発覚しました。
この世界、というか私の置かれている状態は、なんとなろう系小説あるあるの『異世界転生ループ物』だったのです。
正直いろいろ盛りすぎだと思うので神様にいっちょ文句を付けたいのですが、窓口はどちらにあるかご存じですか?
もし宜しければ、不出来な娘にお教えください。
かしこ。
なぁんて脳内で無意味な手紙を作成しながら、小屋の解体作業に意識を移す。
自分がループに巻き込まれていると気づいた私の行動は我ながら早かった。
とりあえず目下の死亡フラグである、ボロ小屋の解体作業を神父様に申請した。それはもうイキシアに心配される勢いで。
それはそれで幸せだったんだけど、置いておこう。
最初は「予算が……」と渋い顔をされていた神父様だったけど、崩落した時の危険性、巻き込まれたらどうなるかを事細かに説明したところ、GOサインをもぎ取ることに成功した。
ちなみにとてもリアルな「巻き込まれたらどうなるか」という「たとえ話」を聞いた神父様は真っ青になっていたけど、背に腹は代えられないんです。ごめんなさい。
もう一度体験するのは言わずもがな御免だし、かといってシスターを見殺しにするのも寝覚めが悪い。
いくらいびってくる人とはいえ、あんな死に方をさせたいとは思わないし。
それに、シスターや私が「その日その時間」にあのボロ小屋に行かなかったら……別の人が犠牲になるかもしれない。
──もし、それがイキシアだったら?
攻略キャラであるイキシアが犠牲になる可能性は限りなく低いだろう。
けれど、万に一つでも可能性があるなら、それを放っておくことはしたくなかった。
「先生、こりゃまずい。むしろ今までよく崩れなかったか不思議なくらいだ」
「そんなに……すいません、ご協力感謝いたします」
手伝ってくれている町のおじさ……お兄さんたちに、神父様が深々と頭を下げる。
それに合わせて、私やシスター……イキシアの大人組も続けて頭を下げた。
え? ザンカ? ついにバレたマシロに夢中な子供たち(プラスレリア)のお守りだよ。
「ああ、いやいや、先生や教会の人たちにはいつもお世話になってるからねぇ」
「ああ。これくらいなんてことないさ」
カラカラと豪快に笑い、お兄さんたちは作業に戻っていく。
大工の方々だから、その手際は鮮やかだ。これなら事故もないだろう。
……それにしても。
「よかったですね、神父様」
フリージア神父は、まだまだ年若い。
若輩者である自分が教会を守っていけるのか、町の人に受け入れてもらえるのか。
彼が悩み、努力していたことを、教会のみんなが知っている。
だからあのシスターだって、ぐちぐちと文句を言いつつ、絶対に神父様の決定には逆らわないんだ。
あなたの頑張りは、町の人たちにちゃんと伝わっていますよ。
まるで自分の事みたいに誇らしくって、自然と笑顔になる。
イキシアやシスターも同じ見たいで、皆笑っていた。
そして私は空気の読めるイイ女かつ、元日本人ですので。
うつむく神父様の目元がすこし濡れていることは、見なかったことにしておきましょう。
※ ※ ※
そして、無事に小屋の解体作業を終えた、約一月後。
そう、レリアがやってきて、一か月目の今日。
本来起きるはずだったレリアの能力が開示される、という重要イベントがスルーされるはずもなく、代わりに町で亡くなった方の葬儀が行われた。
ちなみに亡くなったのは百歳を超えたおじいちゃんだったので、ストーリーのつじつま合わせに~、なんてことはなさそう。よかった。
通常、神父様が亡くなった方のご自宅まで伺うには、そこそこのお金がかかるんだけど……。
フリージア神父は、「死は平等であり、その弔いに差が生じるのは神の教えに背く」と言って、家族に拒否されない限り、必ず自分からご帰宅に出向くようにしている。
きっとこんな方だから、みんなから愛されているんだろうなぁ……。
最推しはイキシア一択だけど、たしか前世のゲーム内アンケートで「結婚したいキャラNo.1」だったのもうなずける。絶対いいお父さんになるもんね、神父様。
今日は、お手伝いとして私とイキシア、そしてレリアも神父様に同行した。
私とイキシアは神父様の補佐。レリアは初めてのお葬式ということで、慣れるためも兼ねた見学だ。
教会に身を置くということは、人の生き死にに係わる、ということでもある。
それがどうしても耐えきれなくて、教会を出ていった子もいる。
早いうちに、体験しておいた方がいい。
そういう、神父様の気遣いだ。
「ご家族様、すごく感謝していましたね」
「ああ、そうだね。少しでも悲しみを払えたのなら、良いのだけど……」
ちらりと盗み見たレリアは、死を悲しみ、悼んではいたけれど、引きずっている様子はなさそうだ。
ゲームで大丈夫なのは知っていたけど……やっぱり現実に見るまでは、ハラハラしてしまう。
ほっと、息を吐きだした、その時。
「──きゃああああ!!」
「うわあああ!! 逃げろ!!」
突然の叫び声と、馬の嘶き。
そして、ふと日の光が陰る。
え、と思ったときには、もう遅かった。
振り返った視界いっぱいにひろがる、馬の脚。
そして、息が止まるような衝撃が走って、青い空が見えて、視界が回って。
気が付いた時には、私は地面に倒れ伏していて、意識がどんどん薄れていく最中だった。
何が何だかわからないけど、多分、暴走した馬車に轢かれたんだろう。
なんとなく、また死ぬんだなぁ、なんて他人ごとに思いながら、瞼が下りていく。
ああ、イキシアは、無事だったかなぁ。
霞む視界の中、いつも追いかけていた黒色が、駆け寄ってくれている気がした。
──きっと、見間違いなんだろうけど。
また、真っ暗になる、その直前。
「ラーレ!!!」
鐘の音に交じって、大好きな声が、聞こえた気がした。
47
あなたにおすすめの小説
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
【完結】時計台の約束
とっくり
恋愛
あの日、彼は約束の場所に現れなかった。
それは裏切りではなく、永遠の別れの始まりだった――。
孤児院で出会い、時を経て再び交わった二人の絆は、すれ違いと痛みの中で静かに崩れていく。
偽りの事故が奪ったのは、未来への希望さえも。
それでも、彼を想い続ける少女の胸には、小さな命と共に新しい未来が灯る。
中世異世界を舞台に紡がれる、愛と喪失の切ない物語。
※短編から長編に変更いたしました。
王妃はただ、殺されないことを願う
柴田はつみ
恋愛
一度目の人生で、愛する国王の剣によって結婚半年で殺されたお飾り王妃リリアナ。彼女は運命に抗うことなく、隣国から送られた「呪いの血を持つ王妃」として処断された。
しかし、リリアナは婚礼直後に時を戻して転生する。二度目の人生、彼女に残された時間は、運命の冬至の夜会までの半年間。
リリアナは、以前のような無垢な愛を国王アレスに捧げることをやめ、「殺されない」ため、そして「愛する人を裏切り者にしたくない」ために、冷徹な「お飾りの王妃」として振る舞い始める。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる