【完結済】ラーレの初恋

こゆき

文字の大きさ
3 / 18

3

しおりを挟む
「あ、ザンカ」
「……んだよ、お前かよ」

 また春がきて、季節が巡る。
 私は十七、イキシアは十九。ついでにザンカは十八になった。

 今日も今日とてシスターの使いっ走りをやっていると、使わなくなった農具とかをいれてる小屋で動く人影を見つけた。
 ここは普段あまり人が来ないところだし、痛みも激しい。言葉を選ばず言うならボロ小屋だ。

 子供たちが遊んでいるなら注意しないとな~、なんてのぞき込んだら、そこにいたのは思いもよらない人物だった。

「なにしてんの? 珍しいね」
「てめえには関係ねえだろ。失せろよブス」
「まぁたそんなこと言って。…………ん?」
「にゃあ」
「あっ、バカ!」

 お馴染みの憎まれ口を叩くザンカにちょっと呆れていると、聞こえた可愛い高音の鳴き声。
 私に……というか、入り口に背中を向ける形で、奥の方でしゃがみこんでいたザンカの足元から聞こえるそれ。

 ……テンプレにもほどがあるんじゃない??

「みい、にゃぁお」
「…………子猫?」
「ッチ」

 ザンカの足元からすり抜けて、私の方へよちよち歩いてきたちんまい生物。
 それは真っ白な毛並みの、なんともかわゆい子猫だった。

「か……、かっっっっわい~~~……!!」
「どこがだよ。邪魔くせぇ」

 そう吐き捨てたザンカは、私の横を通り抜けてどこかへ行ってしまう。
 が、私にはそんなの気にする余裕はなかった。

 何を隠そう猫派な私はもうメロメロ。
 前世はペット不可なマンション暮らしだったから飼えなかったんだよね。
 あああああ可愛い。毛づくろいへたっぴぃ~。

 ころころとした体を一生懸命折り曲げて、お腹の毛づくろいをしようとしている子猫様。
 はぁん可愛い。語彙力? 子猫の魅力を語るのに人間ごときの語彙で事足りるとでも? シンプルに可愛いとしか言いようがないのよ……。

 あっ、失敗してコロンって!
 もうほんと、この可愛さは。

「「天使か」」
「「…………」」

 ハモった声は、私とザンカ。
 立ち去ったと思っていたザンカは、私の後ろに立って子猫を見守っていたらしい。

 この日、私とザンカに友情が生まれた。



「ていうか、どうしたの? この天使」
「こないだの嵐の時に、ここに迷い込んでたの見つけた」
「ザンカのこと、ここ一年で一番見直した」
「おう、褒めろや」

 狭い小屋に、二人並んでしゃがみこんで子猫を見守る。
 今は残しておいた朝の牛乳を子猫様に献上しているところだ。
 あ~~、心が浄化される……。口元べちょべちょ……。かわ……。

 雨の日に捨て犬に傘を上げちゃう不良タイプなザンカはどうやら捨て猫も拾っちゃうタイプだったらしい。
 お前のそういうとこ、愛おしいと思うよ。

「名前は?」
「この可愛さを表現できる名前が浮かばない」
「それはそう」

 ザンカは思ったよりもノリが良かった。
 ゲームだとツッコミ役だったもんね、君。

 それにしても名前かぁ……。ないのは可哀そうだよね。

「お前、良いのあるか?」
「ねこ」
「お前に聞いた俺がバカだった」
「ひっどいな!」

 じゃあザンカはなにかあるの!?

「天使」
「ザンカも大概じゃん!」

 ダメだ、会話がコントになってる気がする。
 このままではこの可愛い子猫の名前が「ねこ」or「天使」になってしまう。可愛さはよく伝わるけどDQNネームも真っ青だ。よろしくない。

 そのとき、ふと浮かんだ。

「あ、『ましろ』は?」
「マシロ? 聞きなれねぇ響きだな」
「うん、遠い極東の地方で、『白』って意味なんだって」
「へえ、ラーレにしちゃぁいいセンスじゃねぇか」

 その名も『日本の言葉をつかっちゃおう大作戦』。
 うまくいったようで何よりだ。

『すくうた』の世界は中世ヨーロッパ的な世界観だ。
 もちろん使われる言語も英語モドキ。
 私には日本語にしか聞こえないし、何故か普通に読めるけど、英語モドキ。

 外国の言葉ってかっこよくオシャレに聞こえるよね!
 という法則のもと提案した名前だったけど、うまくいったようだ。

「よし、今日からお前はマシロだ。ちび助」
「みぃ!」
「「かっわい」」

 マシロの可愛さを残そうとしてザンカの特技がクロッキーになるのはこの翌年のこと。
 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

すれ違う心 解ける氷

柴田はつみ
恋愛
幼い頃の優しさを失い、無口で冷徹となった御曹司とその冷たい態度に心を閉ざした許嫁の複雑な関係の物語

結婚はするけれど想い人は他にいます、あなたも?

灯森子
恋愛
度重なる不幸で家族を亡くし、一人ぼっちになってしまった少女エレノア。女手ひとつ歯を食いしばって領地を守ってきた。 その能力を買われどうしてもと言うから、断りきれずに公爵家へと嫁いだ。 切望されて嫁いだはずだったのに。 式当日の朝、新郎は迎えにこない。誓いのキスはくちびるではなくおでこだし、結婚披露パーティーのダンスはあなたとは踊れないと言われてしまった。え?踊らないって?わたしたち主役ですけど、どうするの? どうやら夫レオンはこの結婚を望んでいなかったらしい。 ま、いいか。わたしにも想い続けている人がいますから。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

【完結】時計台の約束

とっくり
恋愛
あの日、彼は約束の場所に現れなかった。 それは裏切りではなく、永遠の別れの始まりだった――。 孤児院で出会い、時を経て再び交わった二人の絆は、すれ違いと痛みの中で静かに崩れていく。 偽りの事故が奪ったのは、未来への希望さえも。 それでも、彼を想い続ける少女の胸には、小さな命と共に新しい未来が灯る。 中世異世界を舞台に紡がれる、愛と喪失の切ない物語。 ※短編から長編に変更いたしました。

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

側妃の愛

まるねこ
恋愛
ここは女神を信仰する国。極まれに女神が祝福を与え、癒しの力が使える者が現れるからだ。 王太子妃となる予定の令嬢は力が弱いが癒しの力が使えた。突然強い癒しの力を持つ女性が異世界より現れた。 力が強い女性は聖女と呼ばれ、王太子妃になり、彼女を支えるために令嬢は側妃となった。 Copyright©︎2025-まるねこ

背徳の恋のあとで

ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』 恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。 自分が子供を産むまでは…… 物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。 母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。 そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき…… 不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか? ※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。

処理中です...