めちゃくちゃ強い100歳

めかぶ

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第10話『運命を握るのは狐かJKか。ワシは死にたい』

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「さぁ、着いたよ」

夜の学園に到着した一行。
凛とした表情で、道明寺が仁王立ちをしている。
昼間の制服とは打って変わって、巫女装束を着ている。
この巫女装束こそ、霊能者・道明寺どうみょうじりんの戦闘服なのである。
すると、ギルじいが妙な気配を感じ取った。

「ん?霊能者や、早くも気配をいくつか感じるんじゃが?もしや音楽室以外にもおるんじゃないのか?」

ギルじいのこの問いかけに、道明寺は頷いた。

「うん、よく気づいたわね。さすがギルじいさん。どうやら学園中の霊が私たちを出迎えてくれてるみたい」

「え!?他にも幽霊いんの!?」

「ちょっと!聞いてないわよそんなの!!」

「あ、あわわわ…」

高木は驚いて顔が青ざめ、西馬は少々怒り顔に、西野は口をあんぐりと開けながら足が震えている。
その様子を見たギルじいが、困り顔で額から汗を流した。

「ああ~…言わんほうが良かったかのぅ…」

「いえ、そんなことは無いよ。乗り込む前に状況を先に知っておくのも重要。なんせ、この戦いは命懸けだからね、へへへへ」

道明寺が悪い顔をして笑い出す。
ギルじいはその顔を見るや否や、まったく…わざと怖がらせる表現しとるなこいつと心の中で密かにため息をついた。

「まぁ、今は特に攻撃してきそうにもないし、一先ず音楽室まで向かおっか」

道明寺はそう言うと、そそくさと門から校舎の方へ歩いていった。
慌てて高木ら学生3人も道明寺に着いていく。
ギルじいは前を歩く一同を見守るように、ゆっくりと後方を歩いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


数分後、例の音楽室がある4階に到着。
まだ階段を登ってすぐだというのに、既に冷たい空気が廊下中に漂っている。
どうやら、音楽室に入らなければ良いというものでも無さそうだ。

「この階全体がもはや奴のナワバリって感じだね~」

道明寺は周りをキョロキョロと見回し、いよいよ警戒し始めた。
不穏な空気ともあって、ギルじいも少し眼を見張らせる。

「まさか、急に飛び出してきたりとか…」

西野が震えながらボソっと呟くと、高木が急に前方を指差して叫び出した。

「うわぁぁ!!出たぁぁ!!」

その声に西馬と西野も声をあげる。

「きゃぁぁぁ!!!」

「いやぁぁぁ!!!」

そんな事には御構い無しの道明寺が、服の袖からジャラジャラと何かを取り出した。
数珠じゅず』だ。

「とうとうご対面だねぇ~。怨念ちゃん」

ニヤッと笑う道明寺。
その前方に立っていたのは、真っ黒いオーラを身に纏った長い黒髪の女の霊。
両手を広げ、如何にも道を塞いでいるように思える。

「うううゔゔゔぅぅ……」

女の霊は謎の唸り声をあげる。
その不気味で奇妙な声が、廊下中に響き渡る。

「なに?そんなに音楽室に入れたくないわけ?いつもなら肝試しで来た子たちを招き入れてるくせに、私がいると入れてくれないんだ?」

道明寺がべらべらと喋り出す。

「ふぅ~~~ん。私だけ仲間はずれ~~?嫉妬しちゃうなぁ~~もう~。あ、それとも何?もしかして私のことが怖い?怖いの?え?怖いのかなぁ?ねぇ?」

なぜか女の霊を執拗に煽り始める。
これにはさすがのギルじいも呆れ顔を浮かべた。
すると、煽られた女の霊が途端に殺気立ち、廊下の窓がガタガタと揺れ出した。
肌がビリビリとし、ヤバイ空気であると学生3人ですら察しがつく。
しかし、道明寺はフフッと鼻で笑った。

「はぁい、乱れた。君の負け」

キュイーンと音を立てて道明寺の右手に持った数珠から、白く光る玉が現れた。
ハンドボール程の大きさがあるその白い玉は、宙に浮き、ビュンッと女の霊の方へ飛んでいった。

白魂びゃっこん

白い玉は女の霊の胸元に直撃。
まるで昼間かのような明るさが夜の廊下を照らし、白い玉が突然破裂した。
ボゴォォオオン!!と大きな音が廊下に響き渡り、女の霊は後方へ勢いよく弾き飛ばされる。
そのまま、ダァンッと廊下奥に設置された非常階段の扉におもいっきり背中を叩きつけられた。
道明寺の意外な力に学生3人らは目を丸くして口を開ける。
ギルじいは、ほうっと感心したように眉をくいっと上に動かした。

「さぁ、今のうちに音楽室入るよ!ほら、急いで!」

道明寺の指示で、全員がすぐ側の音楽室へ走る。
扉を開けて中に入り、最後に入った道明寺が扉を閉めた。
内側から鍵をかけ、更にお札を一枚取り出し、それを扉に貼る。
このお札は、結界を張り、霊や妖怪を近づけないようにする力がある。

「これで少しは時間が稼げる。でも、奴の力は普通の霊と比べると桁違いだから、きっと結界すらも破ってくる。だから、そうなる前に闇からお友達を引きずり出すよ!」

部屋の奥に視線を向けると、女の霊が出てきたであろう黒い渦が出現したまま残っていた。

「これが黒い渦、あいつだけの世界か」

ギルじいは、本当にこんな物があるのかと目を大きく見開く。
まさに、悲しさと欲望に満ち溢れた漆黒の世界。
人間の立ち入っていいような世界でないことは入らずとも分かる。

「ここからどうやって探し出すんじゃ?まさか、中にでも入るんか?」

「いや、さすがにこの中に入るのは無謀すぎる。下手すると誰も戻ってこれないよ」

道明寺はそう言うと、数珠を両手で持ち黒い渦に向けて差し出した。

「私がここをこじ開けたら、高木くん!あんたがお友達の手を掴んで引きずり出しなさい」

「はっ!え!?おれぇ!!?」

「文句言わない!私が入り口を開けてる間は安全だから!分かったぁ!?」

「ああ、もう、うん!!分かったよ!!」

高木から了承を得て、道明寺は目を瞑り出した。
数珠がゆっくり光りだし、呪文のように唱え始める。

往古来今おうこらいこん永永無窮えいえいむきゅう純一無雑じゅんいつむざつ情緒纏綿じょうしょてんめん。欲望にまみれた邪悪な空間よ。天に従い、その戸を開け」

黒い渦の中心が開き、穴が広がっていく。
すると、音楽室の扉がガシャーンと音を立てて倒れた。
結界を破って女の霊が入ってきたのだ。

「ちくしょお、入ってきやがった」

高木が側にあった椅子を持ち上げ、女の霊に向けて振り回す。
西馬も側にあったホウキを手に取り、高木と共に振り回し始めた。
しかし、実態を持たない霊を相手に、何の力も無い一般人が攻撃を当てられるわけもない。
振り回す椅子やホウキは、当たった感触が全く感じず、手応えを微塵も感じない。
ギルじいもパンチを繰り出すが全く当たらない。

「はい!開いたよ!!高木!!」

黒い渦をこじ開けた道明寺が大声で呼びかける。
高木はその声を聞いて、黒い渦の方に戻ろうとしたが、手に持っていた椅子が勝手にあらぬ方向へ飛び出した。

「うわぁ!!」

部屋の端に置かれたピアノに向かって、椅子ごと高木も飛ばされた。
女の霊の物を投げ飛ばす力だ。

「誰でもいいから早く引きずり出して!!!!」

道明寺が怒号を飛ばしたその時、西野が渦の中に手を伸ばした。

「志場くん!」

渦の中には確かに連れ去られた志場宗太の姿があった。
虚ろな目で、今すぐにでも魂が抜けてしまいそうな表情をしている。
しかし、身を乗り出して手を伸ばす西野を見て志場も手を伸ばした。

「ううううゔゔぅぅ…」

女の霊がギルじいと西馬をすり抜けて黒い渦に向かって飛んでいく。
まずい。とギルじいが思ったその瞬間、高木がピアノを踏み台に女の霊目掛けて飛んだ。

「うおらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

右手に握っていた何かを霊に向けて投げつけた。
細かくパラパラとしていて、暗くてよく見えない。
しかし、見事に女の霊にかかった。

「ヴヴヴヴヴォォゥゥゥゥ…!!!」

女の霊は頭を抑えて床に倒れこんだ。

「志場…くん!」

「にし…の…」

その隙に、西野はガシッと志場の手を掴んだ。
そのままグイッと引っ張り、志場を黒い渦から引きずり出した。
ドサァっと飛び出した勢いで志場と西野は床に倒れる。
同時に、道明寺が術を解く。

かい!」

この一言により、渦に開いた入り口が一気に閉じる。
そして、道明寺も床に座り込む。
かなりスタミナを消耗したのか、汗だくで息遣いが荒い。

「はぁ…はぁ…はぁ…。あんなに怯えてたのに。へへ」

見事に志場を救い出した西野を見て、道明寺が呼吸を整えながら口を緩める。

「こ…これは、俺はいったい…」

志場が何が起こっているのか分からないといった表情で辺りを見回す。
そんな志場の様子を見て、西野はニコッと笑顔になった。

「はぁ…。よーし、みんなここ出るよ」

道明寺はまだ呼吸が整ってない中、その場を立ち上がり、この場を離れようとする。
が、しかし、蹲った女の霊を見ていたギルじいが妙な気配を感じ取る。

「おい、霊能者。大勢の殺気がここに集まってる気がするが、気のせいか?」

道明寺は額からツゥーっと汗を垂らしつつニヤッとした。

「さっすがギルじいさん。来てるわよ。学園中の怨念が」

それを聞いた高木と西馬が思わず悲鳴をあげる。
すると、道明寺は再び白い光の玉を数個作り出し、全員を囲むように配置した。

「みんななるべく離れないで!ここから一気に走って脱出するよ!」

すると、女の霊は唸りながら突然立ち上がり、こちらをギロッと睨みつけた。
その目はまさに、人を呪い殺すかのような、闇に染まりきった邪悪な瞳。

「あ~ら、まさか…」

嫌な予感がしたのか、道明寺が苦笑いを見せる。
と、その時。

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

女の霊が大声で叫び出した。
音楽室全体がゴゴゴゴと揺れ出し、ビリビリと空間が震える。
学園中の怨念達が壁をすり抜け女の霊に取り込まれていく。
それに伴い、みるみるうちに女の霊は体が大きく表情が凶暴になり、天井に頭が当たるほどに巨大化。

「これでも喰らえ!!」

突然、高木が手に握っていた何かを再び女の霊に向けて投げつける。

バチィーーッン!!

しかし、力を増し、より強力となった霊気に弾き飛ばされる。

「え!?塩が全然効かねぇ!!」

高木は先程から塩を投げつけていたらしい。
しかし、凶暴化した女の霊には全く効果なし。

「ヴヴヴォオオオオオオオオオオオオ」

それどころか、逆に怒らせてしまったらしい。

「はい!もう誰も手出し禁止!!」

そう言って、道明寺は懐から一枚のお札を取り出した。
その札には、なにやら狐のような絵柄が描かれている。
道明寺は札にフゥ~っと息を吹きかけ、シュバッと前方に投げつけた。
札はヒラヒラと宙を舞い、直ぐさま道明寺が両手をパンッ!と合わせる。

「解放!!!!!!」

その一声に反応するかのように、ヒラヒラと舞っていた札が、クルクルと高速で回転し始めた。

ボゥン!!

回転していた札が煙を放出し、その煙で目の前が真っ白に。
煙の中には、大きな影がぼんやりと見える。

「まったく。また訳の分からないとこに呼び出したな」

ギルじい含め一同は、え?といった表情で目を丸くした。
それもそのはず、煙が薄れてそこに現れたのは大きな白い狐だったのだ。

「なぁ?輪」

「ごめんねキュウちゃん、へへ」

「俺は狭くて湿気の多いジメっとした場所は嫌いだといつも言っているだろ」

「そんな事言ったって仕方ないじゃ~ん。そういう場所に現れがちなんだもん、こういう霊は」

「まぁいい。で?俺は何をすればいい?」

出てくるや否や道明寺と言い合いを始めた狐が、ギラッと女の霊を睨みつける。

「あの子が今回の相手。建物は壊さずにあの子を抑え込んでほしい」

「壊し禁止?つくづくやりづらいな」

そう言いつつ、狐はお尻を突き上げ、飛び出す構えを取る。

「俺が合図したら、全員走って部屋を飛び出せ。いいな?」

「オッケー」

「じゃあ、行くぞ。。。。。。。今だっ!!!」

狐の合図と共に、道明寺を先頭に全員扉の方へ走り出す。
女の霊がそれに気づき、手を伸ばした。

「させるか!」

ガブッ!

女の霊の伸ばした腕に狐が飛びかかり、思いっきり噛みつく。
その隙に、一同は音楽室から脱出。
廊下を全力で走っていった。

「輪には指一本触れさせやしねぇよ」

狐は腕に噛みついたまま、ニィっと笑った。

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