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クロロホルムの利用 その参
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「新島は車の中で待っていろ」
「わ、わかりました」
「では、前々から考案していた方法で眠らせてくる。手荒ではないから安心しろ」
高柳教授はクロロホルムのビンを持っていた。そのビンをポケットに隠すと、弟の家のインターホンを押した。すると、扉が開いた。
「誰?」
初対面に向かって、弟の第一声がこれである。
「君のお兄さんの新島真君が助手をしている、高柳真朔という者だ。八島大学の理学部教授だ」
「義兄の?」
「窃盗事件のことで来たんだ」
「......。外で話そう」
「わかった」
新島弟は家の鍵を掛けた。新島弟はサンダルを履いていた。低身長で顔が小さく、眼光は鋭い。相当性格がひん曲がっているようだ。
新島弟は高柳教授と、家の近くの路地で話していた。新島は助手席で腕を組んで、二人が話しているのを遠目に見ていた。だが、十五分経った頃には飽きてきていた。スマートフォンを取り出して、画面をスライドさせた。そして、高田にメールで次はいつ呑むか話していた。
だが、少ししてから運転席のパワーウインドウがノックされていることに気づいた。目を向けると、高柳教授がノックをしていて、肩には弟が乗っていた。おそらく、眠ったのだろう。
新島は急いで車から降りた。
「新島。弟は眠らせた。これからの筋書きは──弟が貧血で倒れたから横にさせるために鍵を拝借して家に入り、ベットで眠らせた。そしたら、つい札束を見つけてしまった──という感じだ。わかったか?」
「なるほど、そういう感じですね? よくわかりました」
「よし。弟のズボンのポケットに鍵が入っていた。多分家の鍵だろう。その鍵で、ひとまず家に侵入する」
高柳教授は鍵を右手でつかんで、鍵が新島に見えるように腕を上げた。
「新島。弟を持ってくれ」
「はい」
弟を新島に預け、鍵を扉の鍵穴に差し込んでひねった。すると、ガッチャッ、という音がして扉が開いた。
「入ろう」
新島が相づちを打つ前に、高柳教授は家に入ってしまった。新島もあとに続き家に入り、ベットに弟の体を横たえた。
「さて。札束を探すぞ」
「ですが、こいつの家は広いですね」
「そのようだな」
「手分けをするぞ」
「はい、わかりました」
二人は各部屋を調べ回った。机の引き出し、本棚の裏、カーペットの下、あるいは本の中に挟んでないかまでだ。だが、一向に見つからない。新島が眉を斜めにして悩んでいると、高柳教授がやってきた。どうやら、彼の方も見つからないらしい。
「新島。エドガー・アラン・ポーの『盗まれた手紙』は知っているか?」
「はい、知っています。オーギュスト・デュパンの第三作品目ですよね? 確か、大臣が盗んだ手紙の在処を、話しを聞いただけでデュパンは探し当てたとか」
「その通りだ。警察は綿密に調べるのだが、結局は手紙を裏返して別の手紙のように細工がしてあるだけだったんだ」
「それが、どうかしたんですか?」
「札束を別の何かに変えなきゃ、ここまで見つからないわけがない。何せ、万札の束なんだろ?」
「二百万円らしいです」
「なら、かなり厚いはずだ。さて、どこに隠したのか......」
「あ、そういえば開かなかった部屋が一つありました」
「本当か?」
「ええ。一階の一番奥の部屋、つまり角部屋です」
「案内してくれ」
新島は高柳教授を、その部屋まで案内した。
「ふむ。確かに開かないな」
「でしょう?」
「ああ、そのようだ。だが」彼は扉と壁のすき間を見た。「鍵が掛かっているわけではない」
「どういうことですか?」
「何か扉の奥に物が置いてあるとかだ。だが、扉がビクともしないのはおかしい」
「どっちにしろ、窓の方からも見てみましょう」
「そうだな」
二人は庭に回った。そして、窓から覗いてみたが、カーテンが閉まっていて見えなかった。
「無理矢理入りますか?」
「それで札束がなかったら不法侵入になるぞ」
「なら、どうするんですか?」
「俺はここで思案しているから、新島は再度同じところを調べてくれ」
「わ、わかりました」
新島は渋々同じ部屋を調べて始めた。しかし、すぐに終わることになった。高柳教授が呼び止めたのだ。
「開かずの間に入る方法を見つけた。ついてきたまえ」
「はい」
彼はまた庭に回った。だが、今度は開かずの部屋の窓の斜め横に、壁に密着して生えている植物をどかし始めた。すると、壁が見えてきた。そして、ガムテープが貼られていた。
「教授、これはどういうことでしょうか?」
「まあ、ガムテープを外すぞ」
高柳教授はガムテープを外した。どうやら、壁の一部に穴が開いていて、外から木材とガムテープで密封していたらしい。その穴から中に入ると、扉の前には何もなかった。代わりに、扉のすき間もガムテープで目張りがされている。気になってカーテンを開けると、窓のすき間にも目張りがされてあった。
「どういうことですか? この目張りは?」
「後で話す。それより、札束を早く探せ」
札束はすぐに見つかった。積み重なったダンボールの上に、ポンと置かれていた。
「わ、わかりました」
「では、前々から考案していた方法で眠らせてくる。手荒ではないから安心しろ」
高柳教授はクロロホルムのビンを持っていた。そのビンをポケットに隠すと、弟の家のインターホンを押した。すると、扉が開いた。
「誰?」
初対面に向かって、弟の第一声がこれである。
「君のお兄さんの新島真君が助手をしている、高柳真朔という者だ。八島大学の理学部教授だ」
「義兄の?」
「窃盗事件のことで来たんだ」
「......。外で話そう」
「わかった」
新島弟は家の鍵を掛けた。新島弟はサンダルを履いていた。低身長で顔が小さく、眼光は鋭い。相当性格がひん曲がっているようだ。
新島弟は高柳教授と、家の近くの路地で話していた。新島は助手席で腕を組んで、二人が話しているのを遠目に見ていた。だが、十五分経った頃には飽きてきていた。スマートフォンを取り出して、画面をスライドさせた。そして、高田にメールで次はいつ呑むか話していた。
だが、少ししてから運転席のパワーウインドウがノックされていることに気づいた。目を向けると、高柳教授がノックをしていて、肩には弟が乗っていた。おそらく、眠ったのだろう。
新島は急いで車から降りた。
「新島。弟は眠らせた。これからの筋書きは──弟が貧血で倒れたから横にさせるために鍵を拝借して家に入り、ベットで眠らせた。そしたら、つい札束を見つけてしまった──という感じだ。わかったか?」
「なるほど、そういう感じですね? よくわかりました」
「よし。弟のズボンのポケットに鍵が入っていた。多分家の鍵だろう。その鍵で、ひとまず家に侵入する」
高柳教授は鍵を右手でつかんで、鍵が新島に見えるように腕を上げた。
「新島。弟を持ってくれ」
「はい」
弟を新島に預け、鍵を扉の鍵穴に差し込んでひねった。すると、ガッチャッ、という音がして扉が開いた。
「入ろう」
新島が相づちを打つ前に、高柳教授は家に入ってしまった。新島もあとに続き家に入り、ベットに弟の体を横たえた。
「さて。札束を探すぞ」
「ですが、こいつの家は広いですね」
「そのようだな」
「手分けをするぞ」
「はい、わかりました」
二人は各部屋を調べ回った。机の引き出し、本棚の裏、カーペットの下、あるいは本の中に挟んでないかまでだ。だが、一向に見つからない。新島が眉を斜めにして悩んでいると、高柳教授がやってきた。どうやら、彼の方も見つからないらしい。
「新島。エドガー・アラン・ポーの『盗まれた手紙』は知っているか?」
「はい、知っています。オーギュスト・デュパンの第三作品目ですよね? 確か、大臣が盗んだ手紙の在処を、話しを聞いただけでデュパンは探し当てたとか」
「その通りだ。警察は綿密に調べるのだが、結局は手紙を裏返して別の手紙のように細工がしてあるだけだったんだ」
「それが、どうかしたんですか?」
「札束を別の何かに変えなきゃ、ここまで見つからないわけがない。何せ、万札の束なんだろ?」
「二百万円らしいです」
「なら、かなり厚いはずだ。さて、どこに隠したのか......」
「あ、そういえば開かなかった部屋が一つありました」
「本当か?」
「ええ。一階の一番奥の部屋、つまり角部屋です」
「案内してくれ」
新島は高柳教授を、その部屋まで案内した。
「ふむ。確かに開かないな」
「でしょう?」
「ああ、そのようだ。だが」彼は扉と壁のすき間を見た。「鍵が掛かっているわけではない」
「どういうことですか?」
「何か扉の奥に物が置いてあるとかだ。だが、扉がビクともしないのはおかしい」
「どっちにしろ、窓の方からも見てみましょう」
「そうだな」
二人は庭に回った。そして、窓から覗いてみたが、カーテンが閉まっていて見えなかった。
「無理矢理入りますか?」
「それで札束がなかったら不法侵入になるぞ」
「なら、どうするんですか?」
「俺はここで思案しているから、新島は再度同じところを調べてくれ」
「わ、わかりました」
新島は渋々同じ部屋を調べて始めた。しかし、すぐに終わることになった。高柳教授が呼び止めたのだ。
「開かずの間に入る方法を見つけた。ついてきたまえ」
「はい」
彼はまた庭に回った。だが、今度は開かずの部屋の窓の斜め横に、壁に密着して生えている植物をどかし始めた。すると、壁が見えてきた。そして、ガムテープが貼られていた。
「教授、これはどういうことでしょうか?」
「まあ、ガムテープを外すぞ」
高柳教授はガムテープを外した。どうやら、壁の一部に穴が開いていて、外から木材とガムテープで密封していたらしい。その穴から中に入ると、扉の前には何もなかった。代わりに、扉のすき間もガムテープで目張りがされている。気になってカーテンを開けると、窓のすき間にも目張りがされてあった。
「どういうことですか? この目張りは?」
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