日常探偵団─AFTER STORY─

髙橋朔也

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クロロホルムの利用 その弐

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「高田は、学校でどうだ?」
「きかん坊の生徒が多くて困ってるよ」
「文芸部はまだ続いているんだっけ?」
「一応、まだある。だが、今の文芸部の部員は七不思議の事実を知らない」
「活動記録も日誌も、全て燃やしたからな」
「懐かしいな」
「今度は、あの頃の文芸部部員全員で集まって呑もうぜ」
「いや。波は酒が弱いぜ?」
「そうか。高田は先輩に求婚してたな」
「ああ。去年、実った」
「式は挙げたか?」
「金がかさむからやらん」
「なら、俺が資金を出すから、結婚式やれよ」
「いいのか?」
「その代わり、俺も結婚式に呼べよ」
「当たり前だろ?」
「んじゃ、今日は高田の奢りだ」
「マジ?」
「マジだよ」
「仕方ないな」高田はカバンから財布を取り出して、そこから一万円札を三枚出した。「三万円以内で、呑みまくるぞ!」
「高田、太っ腹だな?」
「俺達の仲だ。呑むぞ」
「ああ」
 二人は日本酒を注文して、それを一気に口に注ぎ込んだ。
──二時間後──

「──気持ち悪いぃ」新島は口を押さえた。
「俺も、無理だ」
 新島と高田は酒を呑みすぎたらしく、今夜はこれで帰ることにした。
「割り勘?」高田はとぼけたように言った。
「いや、高田の奢りだろ」
「ああ、そうだった」
 高田が会計を済ませている間に、新島は駐車場から車を回した。黒塗りのリムジンだが、この車は新島のものではなく、今日一日だけ高柳教授から借りたものだった。新島の愛車は白のRX7で、よく高田に自慢していた。なぜ高柳教授からリムジンを借りたかというと、愛車RX7は現在修理に出していて、その間はRX8で大学まで通っていた。だが、今日は格好をつけるためにリムジンにしたのだ。
「いやぁ、その噂に聞く高柳教授っていうのは相当儲けてるんだな」
「ああ。まだ四十半ばなんだけど、警察に捜査協力してたから、多分そのお金でリムジンを買ったんだな」
「捜査協力?」
「科学技術やらを使って、捜査協力しているらしい。鑑識課より信頼もあると聞いた」
「そいつは、探偵ガリレオだな」
「まあ、似たようなもんだ」
 高田は助手席に乗りこんだ。それから新島はハンドルを握り、高田の家に向かった。高田の家は一軒家の五階建て。ローンはあと二十年だそうだ。思い切って買ったとは思うが、高田は土方波(ひじかたなみ)という人と結婚して、今はその人と暮らしている。土方は、新島と高田の一つ年上で、彼女が三年生の時は八坂中学校文芸部の部長だった。
「ほら、高田。家に着いたぞ」
「早いな」
「そうか?」
 高田は車を降りた。
「んじゃ、またな」
「ああ。高田も気をつけろよ」
 新島は車を走らせて、自宅に戻った。自宅は中学校の頃から変わらず、八坂中学校の目の前のマンションの206号室だ。飼っていた金魚のイチゴは死んでしまったが、代わりに亀を二匹飼い始めた。だが、飼ってからわかったのだが、亀の世話は大変なのだ。

 次の日、新島は二日酔いのまま八島大学に向かった。それから白衣をまとって、理学部第五研究室に入ると、当然ながら高柳教授は寝ていた。机を見ると、書きかけの論文もあった。新島はまったく、とため息をついた。すると、それに気づいたのか高柳教授は起き上がった。
「来ていたのか、新島......」
「ええ」
「じゃあ、君の弟君の家に行こう」
「今からですか?」
 新島に言われて我に返った高柳教授は、少し訂正をする。
「仕事が終わってからに決まっているだろ?」
「そうですよね。どんか研究をするんですか?」
「どうしようか?」高柳教授は腕を組んだ。「蒸気機関をつくろう」
「蒸気機関?」
「まずは簡単なものからつくろう」
 高柳教授は今朝に飲み干したらしい、キャップ付きのコーヒー缶を取りだした。
 それから、キャップに穴を開けて洗面ゴム栓用ボールチェーンを取り付けた。
 そして、細い鉄製の筒を出した。ストローの四分の一の細さだ。
 両方の穴をはんだで塞いで、片方の側面の端に小さい穴を開けた。その際に、高柳教授ははんだごてで手を焼いてしまっていた。その細い針のようなものを缶に平行に貫通させた。
 缶の穴と細い針のようなもののすき間をはんだで埋めて、最後に缶の中に少し水を注いだ。
「完成だ」
 高柳教授は洗面ゴム栓用ボールチェーンの先をテーブルの下に吊した。それから、缶の下にガスバーナーを置いて熱した。
「さあ、見ていろ。缶の水が沸騰し蒸発。針に空いた唯一の横穴から蒸気が放出し、回転を始めた。これも、蒸気機関の一種だ。熱エネルギーを回転するための運動エネルギーに変わっているだろ? これはヘロンの蒸気機関と同じ原理だ」
「ええ、まあ。ただ、すごさが伝わってきませんね」
「なら、もっとすごいものをつくるか」
 高柳教授は材木も運んできて、ピストン、クランク、シリンダー、移動式バルブ、冷却器をつなぎ合わせてワットの蒸気機関を完成させた。
「見ろ! これが馬力の元になったんだぞ!」
 このような作業の後で、高柳教授は車を回した。
「新島。君の弟の家に行こう」
「かなり急ですね」
「やりたいことは終わった」
「蒸気機関ですか?」
「ああ、その通りだ」
 高柳教授は車を走らせて、新島の弟の家に向かった。亡き新島の兄が、義弟にはあるらしく、親は弟を甘やかした。結果、ニートにしてこのような大豪邸に住めたのだ。だが、さすがに今回の窃盗は親たちも否めなかったようだ。だから、新島にこのような頼みをしたのだ。
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