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七不思議の六番目、幽霊の怪 その伍
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壁にはノートが貼られてある。新島はそのノートを剥がして、一ページ目を開いた。
「『60BPMのテンポの曲を聴くことによる心拍数の上昇』......。このノートは七不思議のギミックの研究記録だ。『聴覚サブリミナル効果の実験結果』の頁によると、かなり有用性は高いらしい。リラックスしている状態だと効果が見られている。聴覚を無意識のうちに刺激するサブリミナル音源を忍ばせた曲だと効果がはっきりとわかるな」
「七不思議の六番目の研究記録はあるか?」
「ちょっと待て」新島はノートをパラパラとめくって確かめた。「絵画の目が動くことについて触れているページはなかった」
「それは残念」
「ただ、七不思議の六番目はこの研究記録を守るためのものだったのか」
「なら、研究記録を持ってさっさとずらかるぞ」
四人は研究記録を持つと、音楽室を飛び出して校内を離脱した。
「その研究記録はどうする?」
「この世から抹消すべきものだ」
「だから、どうやる?」
「よし、燃やそう」
高田はどこからか100円ライターを取りだした。
「お前、何でライターをっ!」
「煙草吸うからだよ」
彼はライターを取りだしたポケットから煙草を取りだすと、ライターをカチカチとやって煙草を口にくわえた。ちゃんと煙も出ている。
「高田! 喫煙はやばいって......」
高田は大笑いを始めた。
「焦りすぎだって。これはフェイクシガレットって言って、何の害もないおもちゃの煙草だ」
「煙は?」
「害のないパウダーだ。煙草の先をよく見てみろ。火が着いてないだろ?」
新島は煙草の先端を確認した。
「本当だ。これは偽物だぞ」
「お前を驚かすために購入したものだ」
「そうか。そりゃ良かったな」
新島は研究記録のノートを地面に放り出すと、高田は火を焚いた。たちまちノートに着火され、炎の柱は勢いよく天を昇り始めた。
「あとは新島が七不思議の六番目の絵画の目が動いたトリックを明かしてくれれば万事解決なんだがな」
「一応、わかったと言えばわかってはいる」
「だったら話せ!」
「今はまだ駄目だ。少し考えをまとめたい。今日の烏合の衆の会議で一緒に話す」
「マジかよ......。さっさと新島の家に行くぞ」
土方には学校に忍び込むから会議に遅れると伝えてあった。おそらく、先に新島宅にいると思われる。
缶コーヒーをごくごくと飲みながら、土方は新島の家でくつろいでいた。やがて扉が開いて、新島らが戻ってきた。
五人で床を囲むと、珍しく新島が話し始めた。
「七不思議の六番目を解明した。絵画の目が動く奴だ。シューベルトの肖像画の目をよく観察して気がついたことは、黒目が薄いんだ」
「薄い?」
「半透明のような黒目だった。その点で推理したのは、黒目は水彩絵の具で描かれているんじゃないかということだ。水彩絵の具とわかれば話は早い。加湿器を使用したのだと考えている。あの加湿器はシューベルトの肖像画の近くにあるテーブルの上に乗っていた。遠隔で動かせそうな加湿器だった。あとは噴射する方向も変えられる。加湿器の霧がシューベルトの肖像画の黒目に付着して、溶けた水彩絵の具が下にずれ落ちたんだよ。そんな面白くもないトリックだろ?」
「『真珠の耳飾りの少女』の黒目が動いたのはどう説明する?」
「あれは七不思議を探っている文芸部の俺達を脅すためにやったことだ。つまり、黒目だけ液晶パネルでも大丈夫だということだ」
「そんなにくだらないトリックだったのか?」
「そういうことなんだよ。で、どうする? 八坂中学校にどう言及する?」
「言及するにしても、どうやるんだよ」
「確かにそうだな。......でも、鈴木先輩に言及するって言っちまったからな」
「だが、言及したとしたら八坂中学校は罵倒されるだろうよ」
「そいつは困るな。俺の通う学校なのに」
「まあ、俺達が卒業するまでは八坂中学校にいるんだから気長にいこうぜ」
その後、七不思議の対処について討論を一時間続けた。討論の結果、新島と高田が八坂中学校を卒業するまでに何らかの言及するというものだった。
全員は七不思議を全て解明したことに大はしゃぎ、遊び疲れて寝てしまった。起きていたのは新島と三島だけだ。
「ったく......。こいつら、人の家でグーグー寝やがって」
新島は毛布を眠ってしまった土方、高田、新田にかけた。
「三島は毛布いるか?」
「私は大丈夫です」
「そうか。寒くなったら言ってくれよ。毛布はあるから」
「はい......。──あのぅ!」
三島が急に声を大きくしたから、新島は驚いて目を点にした。
「な、何だ? ビックリした」
「私、いじめられていました」
「ああ、知ってる」
「でも、義父も母も理解してくれません」
「わかる。義父は本当にうざい。大嫌いだ」
「けど、今年、この八坂中学校に転入して私より辛い目にあっている人に会いました。その人は私を理解してくれました」
「なるほどなるほど」
「それが、あなたです」
「まあな。伊達にクローンはやってない」
三島は唇を噛んだ。「好きなんです! あなたのことが......」
新島は驚きを隠すように前髪を触り、表情が三島にバレないようにした。彼の顔はリンゴのように真っ赤に染まっていた。頬は熱を発している。
「『60BPMのテンポの曲を聴くことによる心拍数の上昇』......。このノートは七不思議のギミックの研究記録だ。『聴覚サブリミナル効果の実験結果』の頁によると、かなり有用性は高いらしい。リラックスしている状態だと効果が見られている。聴覚を無意識のうちに刺激するサブリミナル音源を忍ばせた曲だと効果がはっきりとわかるな」
「七不思議の六番目の研究記録はあるか?」
「ちょっと待て」新島はノートをパラパラとめくって確かめた。「絵画の目が動くことについて触れているページはなかった」
「それは残念」
「ただ、七不思議の六番目はこの研究記録を守るためのものだったのか」
「なら、研究記録を持ってさっさとずらかるぞ」
四人は研究記録を持つと、音楽室を飛び出して校内を離脱した。
「その研究記録はどうする?」
「この世から抹消すべきものだ」
「だから、どうやる?」
「よし、燃やそう」
高田はどこからか100円ライターを取りだした。
「お前、何でライターをっ!」
「煙草吸うからだよ」
彼はライターを取りだしたポケットから煙草を取りだすと、ライターをカチカチとやって煙草を口にくわえた。ちゃんと煙も出ている。
「高田! 喫煙はやばいって......」
高田は大笑いを始めた。
「焦りすぎだって。これはフェイクシガレットって言って、何の害もないおもちゃの煙草だ」
「煙は?」
「害のないパウダーだ。煙草の先をよく見てみろ。火が着いてないだろ?」
新島は煙草の先端を確認した。
「本当だ。これは偽物だぞ」
「お前を驚かすために購入したものだ」
「そうか。そりゃ良かったな」
新島は研究記録のノートを地面に放り出すと、高田は火を焚いた。たちまちノートに着火され、炎の柱は勢いよく天を昇り始めた。
「あとは新島が七不思議の六番目の絵画の目が動いたトリックを明かしてくれれば万事解決なんだがな」
「一応、わかったと言えばわかってはいる」
「だったら話せ!」
「今はまだ駄目だ。少し考えをまとめたい。今日の烏合の衆の会議で一緒に話す」
「マジかよ......。さっさと新島の家に行くぞ」
土方には学校に忍び込むから会議に遅れると伝えてあった。おそらく、先に新島宅にいると思われる。
缶コーヒーをごくごくと飲みながら、土方は新島の家でくつろいでいた。やがて扉が開いて、新島らが戻ってきた。
五人で床を囲むと、珍しく新島が話し始めた。
「七不思議の六番目を解明した。絵画の目が動く奴だ。シューベルトの肖像画の目をよく観察して気がついたことは、黒目が薄いんだ」
「薄い?」
「半透明のような黒目だった。その点で推理したのは、黒目は水彩絵の具で描かれているんじゃないかということだ。水彩絵の具とわかれば話は早い。加湿器を使用したのだと考えている。あの加湿器はシューベルトの肖像画の近くにあるテーブルの上に乗っていた。遠隔で動かせそうな加湿器だった。あとは噴射する方向も変えられる。加湿器の霧がシューベルトの肖像画の黒目に付着して、溶けた水彩絵の具が下にずれ落ちたんだよ。そんな面白くもないトリックだろ?」
「『真珠の耳飾りの少女』の黒目が動いたのはどう説明する?」
「あれは七不思議を探っている文芸部の俺達を脅すためにやったことだ。つまり、黒目だけ液晶パネルでも大丈夫だということだ」
「そんなにくだらないトリックだったのか?」
「そういうことなんだよ。で、どうする? 八坂中学校にどう言及する?」
「言及するにしても、どうやるんだよ」
「確かにそうだな。......でも、鈴木先輩に言及するって言っちまったからな」
「だが、言及したとしたら八坂中学校は罵倒されるだろうよ」
「そいつは困るな。俺の通う学校なのに」
「まあ、俺達が卒業するまでは八坂中学校にいるんだから気長にいこうぜ」
その後、七不思議の対処について討論を一時間続けた。討論の結果、新島と高田が八坂中学校を卒業するまでに何らかの言及するというものだった。
全員は七不思議を全て解明したことに大はしゃぎ、遊び疲れて寝てしまった。起きていたのは新島と三島だけだ。
「ったく......。こいつら、人の家でグーグー寝やがって」
新島は毛布を眠ってしまった土方、高田、新田にかけた。
「三島は毛布いるか?」
「私は大丈夫です」
「そうか。寒くなったら言ってくれよ。毛布はあるから」
「はい......。──あのぅ!」
三島が急に声を大きくしたから、新島は驚いて目を点にした。
「な、何だ? ビックリした」
「私、いじめられていました」
「ああ、知ってる」
「でも、義父も母も理解してくれません」
「わかる。義父は本当にうざい。大嫌いだ」
「けど、今年、この八坂中学校に転入して私より辛い目にあっている人に会いました。その人は私を理解してくれました」
「なるほどなるほど」
「それが、あなたです」
「まあな。伊達にクローンはやってない」
三島は唇を噛んだ。「好きなんです! あなたのことが......」
新島は驚きを隠すように前髪を触り、表情が三島にバレないようにした。彼の顔はリンゴのように真っ赤に染まっていた。頬は熱を発している。
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