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新参者 その弐
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土方は新島の家の合鍵を持っているから、すでに新島の家に入っていた。
「先輩、新入部員の新田さん」
「......。新島、なんで敬語なんだ?」
「あ、いや、上級生としての自覚を──」
「私、ため口の方がいいです」
「ほら。新田もそう言っているぞ」
「う~ん」新島は悩んだすえに、ため口にした。
「よし」土方は立ち上がった。「じゃあ、烏合の衆の会議始めよー」
「俺、いい情報があるっす」
「いってみろ」
今回の司会進行は土方だった。
「はいっす」高田は手帳を取りだした。「まず、文芸部に入ってくれそうか人物を発見。名前は三島紗綾(みしまさや)。当然女生徒。三年生で、今年の転入生だ。本が好きらしい。それと、いつも一人でいる」
「なら、明日その三島の偵察、新島行け」
「俺?」
「秘密を探ってこい」
「しょうがないか。......わかった」
「で」高田は続けた。「まだ、他にも情報はある。七不思議の四番目が判明した。プールだ」
プール? と、高田以外の三人が口をそろえて言った。
「プールに入るシーズンは夏。それ以外の時は、プールに雨水が溜まっている。その溜まった雨水が外に漏れ出すらしい。プールの水は大量だから、漏れ出したら水浸しだ。最近の事例だと四年前の四月にも一度、四番目が実行されていた」
「何でだろう?」
「それを考えるのは新島、お前の仕事だろ?」
「えー、マジかよ」
「マジだよ」
土方は少し考えてから「では、三島紗綾を文芸部部員に迎えてから七不思議の四番目の捜査に取りかかるとしよう」と言って、一端座った。
次の日の休み時間、三年三組教室。新島は三島の元に行くか行かないかで自問自答していた。だが、高田に後押しされるかたちで教室を出ると、三年六組教室まで向かった。三島は六組なのだ。
「あのう」新島は、六組の生徒に話しかけた。「三島さんを呼んでくれる?」
「ああ、わかった。──三島さん!」
立ち上がったのは、長身で美形の女生徒だ。目はくりっとしているが、愛らしさを感じさせないほどの禍々しさを持つ。だが、愛嬌がないわけではないらしい。まあ、ほとんど笑わないんだけどね。
「何?」
三島は冷徹な目差しで新島を見た。新島は早速本題に入ろうとしたが、三島に話しかけた時点でかなり注目されている。会話の内容が聞かれてはまずいから、新島は三島の右手をつかんだ。
「こっち、来て」
三島の右手を引っ張りながら、小走りに五階の理科室に入った。
「何で、理科室に?」
「二人きりで話しがしたかった。本、好き?」
「ああ、一応好きだ」
「文芸部入らない?」
「文芸部?」
「そう、文芸部」
「?」
「部員を探してたんだ」
「そういうことか」
「文芸部に入る?」
「ちょっとまて。急すぎる。......お前も本は好きなのか?」
「好きだ」
「なら、私の秘密を解明してみろ。文芸部には日常探偵団という通り名があると聞いた」
「!?」
三島はそのまま理科室を出て行った。
新島は三島勧誘の成果を、放課後に文芸部部室で話した。高田は大笑いをした。
「三島、面白い問題を投げてきたな。ハハハハハハハハハハッ!」
「高田、笑いすぎだ。......それより、そもそも三島の秘密って何だ?」
「それなら、大体予想はつく。三島は豆と父親、人が嫌いだ。多分、そこら辺だろう」
「父親が嫌い?」
「それ、部長の『クローン』と同じで、父親に殺されそうになったんじゃないんですか?」
「俺と同じなら、他人にホイホイ秘密を探るようには言わないと思うよ」
「確かに、そうですね」
三人は頭を悩ませた。
「なあ」高田は椅子に深く座りながら言った。「豆が嫌いなのは、名前が紗綾だからじゃないか? さやえんどうってあるだろ?」
「紗綾なんて名前を持つ人は腐るほどいるだろ」
「それもそうか」
「父親が嫌いな理由、俺が調べてやるよ」
「新島が? 大丈夫」
「ああ。自信がある。今日、家まで尾行する」
新島は正門で三島を、茂みに隠れて待っていた。やがて、三島が一人で出てくると、茂みからこっそり抜け出した。そして、距離を保ちつつ尾行を開始した。
三島の歩みは早く、足が長いためと思われる。一歩が新島の二歩と同じだ。新島は見失わないために大股で歩き始めた。
正門を左に曲がってしばらくすると、分かれ道に着いた。そこを右に曲がり、突き当たりの八坂駅の前まで進んだ。
駅の裏に回ると、大きな古本屋がある。三島は躊躇(ちゅうちょ)せずに、その古本屋に入っていった。新島は裏口から古本屋に入り、三島がどんな本を見ているのか観察していた。
三島が手に取ったのは、ホラーやミステリーの類い。つまり、推理小説と呼んで差し支えないだろう。その本をパラパラとめくると、左手に持ち替えた。右手で他に数冊パラパラめくって、それも左手でつかんだ。その本を全てレジに持って行った。財布から五千円札を二枚出すと、本とおつりを受け取った。
三島は本をカバンに詰め込むと、そのまま古本屋を出た。新島が尾行を続けると、三島はマンションに入っていった。ポストを確認すると、『三島』という表札を掲げているのは309号室だけだ。
新島はポストの中を覗いた。ネットで注文したであろう書籍が一冊入っている。新島は他に郵便局から三島宛ての手紙があることを発見し、宛名を見て新島は目を疑った。そして、ポストに入っている全ての郵便物の宛名も見た。
走って文芸部部室に戻れたのは二十分後だ。新島は息を切らせていた。
「姓が違う?」新島から、ことの顛末(てんまつ)を聞いた高田は、そう尋ね返した。
「そう、姓が違う。三島宛ての郵便物の宛名は、○○様方 三島紗綾様、だった。
様方を使うの時は、世帯主と届けたい人の姓が違う場合だ。つまり、世帯主である父親と三島は姓が違う。まあ、様方の前に書いてあった名前は滲(にじ)んでいたが『遠』という漢字は識別できた」
「だったら、なんで表札に三島って書いてあるんだ?」
「さあ。ただ、世帯主と三島は姓が違う」
「先輩、新入部員の新田さん」
「......。新島、なんで敬語なんだ?」
「あ、いや、上級生としての自覚を──」
「私、ため口の方がいいです」
「ほら。新田もそう言っているぞ」
「う~ん」新島は悩んだすえに、ため口にした。
「よし」土方は立ち上がった。「じゃあ、烏合の衆の会議始めよー」
「俺、いい情報があるっす」
「いってみろ」
今回の司会進行は土方だった。
「はいっす」高田は手帳を取りだした。「まず、文芸部に入ってくれそうか人物を発見。名前は三島紗綾(みしまさや)。当然女生徒。三年生で、今年の転入生だ。本が好きらしい。それと、いつも一人でいる」
「なら、明日その三島の偵察、新島行け」
「俺?」
「秘密を探ってこい」
「しょうがないか。......わかった」
「で」高田は続けた。「まだ、他にも情報はある。七不思議の四番目が判明した。プールだ」
プール? と、高田以外の三人が口をそろえて言った。
「プールに入るシーズンは夏。それ以外の時は、プールに雨水が溜まっている。その溜まった雨水が外に漏れ出すらしい。プールの水は大量だから、漏れ出したら水浸しだ。最近の事例だと四年前の四月にも一度、四番目が実行されていた」
「何でだろう?」
「それを考えるのは新島、お前の仕事だろ?」
「えー、マジかよ」
「マジだよ」
土方は少し考えてから「では、三島紗綾を文芸部部員に迎えてから七不思議の四番目の捜査に取りかかるとしよう」と言って、一端座った。
次の日の休み時間、三年三組教室。新島は三島の元に行くか行かないかで自問自答していた。だが、高田に後押しされるかたちで教室を出ると、三年六組教室まで向かった。三島は六組なのだ。
「あのう」新島は、六組の生徒に話しかけた。「三島さんを呼んでくれる?」
「ああ、わかった。──三島さん!」
立ち上がったのは、長身で美形の女生徒だ。目はくりっとしているが、愛らしさを感じさせないほどの禍々しさを持つ。だが、愛嬌がないわけではないらしい。まあ、ほとんど笑わないんだけどね。
「何?」
三島は冷徹な目差しで新島を見た。新島は早速本題に入ろうとしたが、三島に話しかけた時点でかなり注目されている。会話の内容が聞かれてはまずいから、新島は三島の右手をつかんだ。
「こっち、来て」
三島の右手を引っ張りながら、小走りに五階の理科室に入った。
「何で、理科室に?」
「二人きりで話しがしたかった。本、好き?」
「ああ、一応好きだ」
「文芸部入らない?」
「文芸部?」
「そう、文芸部」
「?」
「部員を探してたんだ」
「そういうことか」
「文芸部に入る?」
「ちょっとまて。急すぎる。......お前も本は好きなのか?」
「好きだ」
「なら、私の秘密を解明してみろ。文芸部には日常探偵団という通り名があると聞いた」
「!?」
三島はそのまま理科室を出て行った。
新島は三島勧誘の成果を、放課後に文芸部部室で話した。高田は大笑いをした。
「三島、面白い問題を投げてきたな。ハハハハハハハハハハッ!」
「高田、笑いすぎだ。......それより、そもそも三島の秘密って何だ?」
「それなら、大体予想はつく。三島は豆と父親、人が嫌いだ。多分、そこら辺だろう」
「父親が嫌い?」
「それ、部長の『クローン』と同じで、父親に殺されそうになったんじゃないんですか?」
「俺と同じなら、他人にホイホイ秘密を探るようには言わないと思うよ」
「確かに、そうですね」
三人は頭を悩ませた。
「なあ」高田は椅子に深く座りながら言った。「豆が嫌いなのは、名前が紗綾だからじゃないか? さやえんどうってあるだろ?」
「紗綾なんて名前を持つ人は腐るほどいるだろ」
「それもそうか」
「父親が嫌いな理由、俺が調べてやるよ」
「新島が? 大丈夫」
「ああ。自信がある。今日、家まで尾行する」
新島は正門で三島を、茂みに隠れて待っていた。やがて、三島が一人で出てくると、茂みからこっそり抜け出した。そして、距離を保ちつつ尾行を開始した。
三島の歩みは早く、足が長いためと思われる。一歩が新島の二歩と同じだ。新島は見失わないために大股で歩き始めた。
正門を左に曲がってしばらくすると、分かれ道に着いた。そこを右に曲がり、突き当たりの八坂駅の前まで進んだ。
駅の裏に回ると、大きな古本屋がある。三島は躊躇(ちゅうちょ)せずに、その古本屋に入っていった。新島は裏口から古本屋に入り、三島がどんな本を見ているのか観察していた。
三島が手に取ったのは、ホラーやミステリーの類い。つまり、推理小説と呼んで差し支えないだろう。その本をパラパラとめくると、左手に持ち替えた。右手で他に数冊パラパラめくって、それも左手でつかんだ。その本を全てレジに持って行った。財布から五千円札を二枚出すと、本とおつりを受け取った。
三島は本をカバンに詰め込むと、そのまま古本屋を出た。新島が尾行を続けると、三島はマンションに入っていった。ポストを確認すると、『三島』という表札を掲げているのは309号室だけだ。
新島はポストの中を覗いた。ネットで注文したであろう書籍が一冊入っている。新島は他に郵便局から三島宛ての手紙があることを発見し、宛名を見て新島は目を疑った。そして、ポストに入っている全ての郵便物の宛名も見た。
走って文芸部部室に戻れたのは二十分後だ。新島は息を切らせていた。
「姓が違う?」新島から、ことの顛末(てんまつ)を聞いた高田は、そう尋ね返した。
「そう、姓が違う。三島宛ての郵便物の宛名は、○○様方 三島紗綾様、だった。
様方を使うの時は、世帯主と届けたい人の姓が違う場合だ。つまり、世帯主である父親と三島は姓が違う。まあ、様方の前に書いてあった名前は滲(にじ)んでいたが『遠』という漢字は識別できた」
「だったら、なんで表札に三島って書いてあるんだ?」
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