日常探偵団

髙橋朔也

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卒業 その弐

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 すると、声を聞いたのか職員が駆けつけてきた。その職員は、現場を見てすぐに新島を保健室に運んだ。高田と土方は保健室には入れずに、部室に戻った。
「部長!」
「どうした?」
 高田は躊躇(ためら)ったが、口を開いた。
「新島から告白を受けたっすよね?」
「なんだ、やっぱり聞いていたのか」
「......!」
「多分、新島が聞いていたのはシナリオを読み上げているときだよ」
「シナリオ?」
「演劇部のシナリオだよ」
「なんで、演劇部のシナリオを?」
「その時、演劇部の人達が来ていたんだけど、劇のシナリオについてアドバイスが欲しいらしかったんだ。だから、どこが悪いかを私と新島で演じて、説明していたんだ」
「演劇部がなんで文芸部に?」
「演劇部は文芸部のお陰で、屋上で劇の練習を続けられるからだろ」
「ああ、ポルターガイストの時の......」
 高田は納得した。

 次の日。高田は学校が終わると、急いで部室に行った。
「大変っす!」
「どうしたんだ、高田」
「新島、入院した!」
「あいつが!?」
「千葉県済生会八坂市病院に入院したらしいっす」
「病室はわかるか?」
「わかるっす」
「行こうっ!」
 二人は済生会病院に向かった。八坂中学校前のバスから三十分程度で行けるのだ。
「えっと、新島の病室は二階の256っす」
「わかった」
 土方と高田は二階まで階段で上がって、ナースステーションの前を通り過ぎると256室が現れる。そこは個室で、高田がノックした。
「はい、とうぞ」
 高田が扉を開けた。新島はベットから起き上がった状態で座っていた。
「なんだ、高田と先輩か」
「なんだとはなんだ」
「お前ら、カーテンの中に隠れろ」新島は扉を睨みながら言った。
「なんでだ?」
「親父が来るんだ」
 新島の威圧感に負けて、二人はカーテンに隠れた。
 それからすぐに扉が開いて、男が入ってきた。顎髭を生やしている割りには中肉中背だ。だが、サングラスの奥にある眼は冷徹だった。
「真......中学二年生にまでなって、私に迷惑をかけるとは。一人暮らしは君には向いていないようだね」
「親父と一緒には暮らしたくない」
「親には敬語を使え」
「お前は親じゃない」
「血は繫がっていなくとも、立派な親子じゃないか」
「親じゃない」
「まあ、そういうことにしておく」
 親父はサングラスを外して胸ポケットに入れた。
「今日は話しがあるからわざわざ来たんだ」
「......」
「戻ってこい」
「どこにだ?」
「我が家だ」
「我が家? あそこに親父の居場所はない」
「君の居場所もないがね」
「失せろ」
「おっと? 言葉遣いは気をつけろ」
「......」
「考えておけ」
 親父は立ち上がって、病室を出て行った。
「二人とも、出てきていいよ」
「......」
「なんだ、どういうことだ新島?」
「俺は今、一人暮らしをしている。理由は簡単だ。母が今来た義父と再婚した。俺は義父が嫌いだから逃げてきた」
「なんで嫌いなんだ?」
「母を殺したんだ」
「殺した?」
「物理的にではないんだ......。あの義父は母から金を巻き上げていた。金を素直に出さなければ殴ることもあった。それで母は、俺を残して自殺した」
「だが、なんで義父は新島を連れ戻しに?」
「あいつは小説を書いている。以前、ゴーストライターをやっていたんだ」
「なるほど」
 新島は頭を押さえた。
「頭、大丈夫か?」
「それだけ聞くと、俺が頭おかしいみたいだろ?」
「真面目に聞いてるんだ」
「大丈夫だ」
「そうか。ほら、お見舞いだ」
「ああ、ありがとう」
 新島は高田から漫画本を受け取った。
「じゃあ、俺は帰るな」
「わかった。退院は三日後だ」
「オーケー! 覚えとく」
 高田は病室を出た。土方は椅子に座って話し始めた。
「昨日のことは演劇部の劇のシナリオだと伝えた」
「違う。その後のことを高田は聞いていたか?」
「多分聞いていない」
「......なら大丈夫か」
「お兄さんのことは、高田には言えないな」
「ああ。俺が義父を嫌う本当の理由に直結するからな」
「あの男は最低だ」
「俺が生きているのは、先輩のお母さんのお陰だ」
「新島がお礼を言っていたことは、母に伝えておこう」
「お願いするよ」
 土方は椅子から立ち上がってカバンを肩にかけた。
「私も帰るよ」
「ああ、さよなら」
「頑張れよ」
 土方は病室の扉を開けた。
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