日常探偵団

髙橋朔也

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辞書の紛失 その壱

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 さて。なんと言うことか。あっという間に二月。
 別にバレンタインをどうこう、という訳ではない。文芸部にとっては死活問題だ。部長の土方が卒業するのだ!
 もうすでに部活で三年生は卒業。つまり、土方は文芸部部員ではない。だが、彼女の強い意志で勝手に部室に来ていた。三人が話し合い、新入部員の確保及び学校非公式の七不思議解決の方向性を決めていた。
「どうする?」
「うーん? 俺は他の部、七不思議研究部とかと協力して解決したほうがいいんだが...」
 新島と高田が話し合っている中、土方は文芸部の過去の活動記録に目を通していた。
「多分、他とは協力しない方がいい」
「何でだ?」
「どこで教職員が聞いているかわからない」
「なるほど」
「で、入学式の時の勧誘だが──」
「無理やり勧誘するか?」
「それは強引だ。部の評判は落としたくない」
「なら、どうする?」
「簡単だ。勧誘はしない」
「はぁ!? だったら、新入部員はこないぞ」
「来ない。だが、いい方法がある」
「いい方法?」
 新島はニヤリと笑みをこぼしながら話した。

── 一ヶ月前 ──
 いつもの流れで当然、放課後である。新島は高田の前に立った。
「早くしろ、高田」
「なんだ、今日は準備早いな新島」
「ああ」
「ちょっと待ってろ」
 高田は席を立ち上がると、新島と歩き出した。
「なあ、新島」
「どうした?」
「おすすめの本とかある?」
「ジャンルは?」
「推理小説」
「なるほど」
 新島は少し考えてから、新島を見た。
「ジョン・ディクスン・カーは知ってるか?」
「ああ、知ってる。『本陣殺人事件』の作中で少し触れていたな」
「そういえば、本陣殺人を読んでたな」
「ああ」
「なら、話しが早い。『三(みっ)つの棺(ひつぎ)』を読め。名作だ」
「わ、わかった」
「面白いぞ」
「そうなのか!」
「ああ」
 すると、部室前で土方が立っていた。
「二人とも、遅いよ」
「あ、どうしたんすか?」
「うん。私が部長の時の最後の事件が起きた」
「最後の事件っすか?」
「ああ。まずは部室に入ってくれ」
 三人は部室に入って、椅子に座った。土方は本棚の前に座っていて、本棚の方向を向いていた。
「八坂中学校ではスマートフォン並びに携帯電話の持ち込みは禁止だ。つまり、調べ物をするには辞書は必須というわけだ」
「それが、どうかしたのか?」
「我が文芸部が重宝(ちょうほう)する辞書は月始(げっし)社のものだ。そして、現在使っているのは月始社の第七版だ。で、その辞書が紛失した」
「紛失っすか?」
「紛失?」
「そう、紛失だ。昨日まではあったのだが、今日部室に入ってみれば辞書がなくなっていた」
「その時に鍵は掛けていたのか?」
「もちろんだ」
「となると──」
 新島に続いて、二人も同じ方向を向いた。そこには、入り口とは別の扉がある。その向こうは隣りの部屋に繫がっていて、机以外には何もない。三人はその扉を開けて、その部屋から廊下に繫がっている扉の鍵を確認した。
「ああ、掛かってないぞ」
「つまり、この部屋を経由して文芸部部室に侵入した何者かが本棚から辞書を抜き出して、盗んでいったというかとか」
 新島は結論をつけた後で、部室に戻った。
「まずは部室に本当にないか、探そう」
「わかった」
 三人で手分けして、部室の隅から隅までを探したが辞書は出てこなかった。土方はため息まじりに古いダンボールに歩いて行き、中から辞書を取りだした。
「前の文芸部の奴らが使っていたものだ。月始社の第三版、か。相当古いな」
 土方はその辞書についたほこりを払ってから、テーブルに置いた。
「辞書が見つかるまではこれで我慢(がまを)しよう」
 辞書がテーブルに置かれると、すき間から小型の蜘蛛(くも)が出てきた。文芸部の三人は虫嫌いなだけあって、部室内はプチパニックになっていた。
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