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トラップ
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「教えろ。どんな動機なんだよ!」
新島は話そうと思って口を開けるが、思いとどまった。「まだ予想に過ぎない。まずは確認をしに行こうじゃないか」
新島は椅子から立ち上がって扉に近づいていき、部室を出た。高田も新島の後に続くように、廊下に足を踏み出した。部室とは温度に差があり、廊下に出た瞬間は背中に寒気がした。
新島が向かったのは校庭だった。遊具などは当然なく、あるのは隅の防火倉庫や一定間隔で並べられている樹木くらいだ。しかし、彼が近づいたのは、その樹木だった。
「おい。なんで木なんかに行くんだよ。何か関係でもあるのか?」
「ここが重要だからに決まってんだろ! お前は馬鹿か?」
「はぁ?」
「ほら」新島は樹木の高い部分の幹を指差した。「あそこを見てみろ」
高田は顔を上げた。太陽がまぶしくて目を細めたが、何とか見ることが出来た。「蜂の、トラップか」
「そういうことだ。そんでもって、蜂のトラップはペットボトルでできているだろ?」
「ああ、ペットボトルだ。まさか、そのペットボトルって......」
「放課後清掃委員会の集めたゴミのペットボトルだろう。だが、ペットボトルの再利用方法が思いつかなかった。で、蜂被害者を自作自演によって急増させることで、教職員にゴミのペットボトルを使ってトラップを作らせたんだよ」
「ペットボトルの再利用のために、というわけだな。だけど、教職員が気づいてないわけなくないか?」
「知らんな。もしかしたら気づいているかもしれないが、学校としては何らかの対策を取らなくてはいけないんだろ。ましてや、それが自作自演にしろ蜂だからな。親御さんに知られたら騒がれるだけではすまない」
「確かにそうだな。生徒を疑うことも出来ないし、何の対策をしないわけにもいかない。放課後清掃委員会は、そのことも計算に入れていたのかもな。だとすると、かなり頭がいいんじゃないか?」
「どうでもいいだろ。さあ、長かった推理ゲームは終わった。部室に帰ろう」
「なあ、本当にそれでいいのか?」
新島は歩き出していた足を止めて、高田の方に振り返った。
「何言ってんだよ?」
「放課後清掃委員会を守れる方法はないのか?」
「守る? 放課後清掃委員会を?」
「トラップに蜂が入ってなかったり、放課後清掃委員会の委員以外に被害者が出なかったら確実にあの委員会は潰される」
「それでいいじゃん。文芸部は残るから」
「駄目だ。守るぞ、あの委員会を!」
高田は急に右足を前に出すと、校舎の方に突進していった。
「あの馬鹿野郎っ」
新島も校舎に向かって歩き始めた。
部室に戻ると、ソファに座っている人物がいた。土方はすでに帰ってきていた。
「二人とも、どこに行っていたんだ」
「新島が、蜂被害者として自作自演していた動機を解いたすよ」
「どんな動機だったんだ?」
「放課後清掃委員会が集めたペットボトルを再利用するために、蜂被害者を増やしてペットボトルでトラップを作らせるというものだったっす」
「なるほど」
「だけど、それだと放課後清掃委員会が存続できなるなるっす」
「ふむ」
「それで考えたのが、トラップに蜂の死骸をいれたり、蜂のラジコン(?)で実際に目撃者を増やすとかすればいいっす!」
「やってみるか。放課後清掃委員会を存続させるために」
蜂のラジコンの調達は新島が行い、土方は蜂の死骸の調達をした。土方の親戚には害虫駆除を仕事とする人物がいるらしい。高田がすることはラジコン操作や死骸をトラップに入れることである。
まずは死骸をカップの中に入れて、トラップに近づいた。それから、死骸をトラップに突っ込む。もちろん、全て人目につかないよう細心の配慮をする。
蜂のラジコンは二階から操作する。誰かが近くを通ると、すかさず蜂のラジコンを放ち、コントローラーで威嚇を始める。蜂を見た者は叫びながら逃げだしていく。その叫び声を聞いた人がまた近づいてくる。早速、ラジコンを動かして驚かせる。やはり、また逃げ出す。今度は場所を変えて校舎内にする。例えば、授業中の教室などは効果的だ。
高田は自分のクラスの授業中にラジコンの蜂を侵入させる。誰かが気づいて騒ぎが大きくなると、高田自身が害虫スプレーをつかんで噴射する。ラジコンは廊下に逃がし、あとは蜂の死骸を廊下に置くのみだ。教職員生徒が一斉に廊下に飛び出し、蜂の死骸を見て目撃者が増える。こういう計画を続けること二日。おそらく放課後清掃委員会は存続するだろうとして、計画を終わりにさせた。
蜂のラジコンは当分、文芸部の部室に置かれることになったが、高田が最近はそのラジコンで遊ぶようになった。新島は本を読んでいる時に目の前を飛行してくるから、かなり怒っている。素直に高田の計画を実行させてしまったことを後悔していた。しかし、蜂のラジコンもあと二ヶ月したら、操作を誤った高田が壁に激突させて壊すことなど誰も知らなかった。また、土方の飲んでいる紅茶の入ったカップにも当たり、土方を怒らせることにもなった。
新島は話そうと思って口を開けるが、思いとどまった。「まだ予想に過ぎない。まずは確認をしに行こうじゃないか」
新島は椅子から立ち上がって扉に近づいていき、部室を出た。高田も新島の後に続くように、廊下に足を踏み出した。部室とは温度に差があり、廊下に出た瞬間は背中に寒気がした。
新島が向かったのは校庭だった。遊具などは当然なく、あるのは隅の防火倉庫や一定間隔で並べられている樹木くらいだ。しかし、彼が近づいたのは、その樹木だった。
「おい。なんで木なんかに行くんだよ。何か関係でもあるのか?」
「ここが重要だからに決まってんだろ! お前は馬鹿か?」
「はぁ?」
「ほら」新島は樹木の高い部分の幹を指差した。「あそこを見てみろ」
高田は顔を上げた。太陽がまぶしくて目を細めたが、何とか見ることが出来た。「蜂の、トラップか」
「そういうことだ。そんでもって、蜂のトラップはペットボトルでできているだろ?」
「ああ、ペットボトルだ。まさか、そのペットボトルって......」
「放課後清掃委員会の集めたゴミのペットボトルだろう。だが、ペットボトルの再利用方法が思いつかなかった。で、蜂被害者を自作自演によって急増させることで、教職員にゴミのペットボトルを使ってトラップを作らせたんだよ」
「ペットボトルの再利用のために、というわけだな。だけど、教職員が気づいてないわけなくないか?」
「知らんな。もしかしたら気づいているかもしれないが、学校としては何らかの対策を取らなくてはいけないんだろ。ましてや、それが自作自演にしろ蜂だからな。親御さんに知られたら騒がれるだけではすまない」
「確かにそうだな。生徒を疑うことも出来ないし、何の対策をしないわけにもいかない。放課後清掃委員会は、そのことも計算に入れていたのかもな。だとすると、かなり頭がいいんじゃないか?」
「どうでもいいだろ。さあ、長かった推理ゲームは終わった。部室に帰ろう」
「なあ、本当にそれでいいのか?」
新島は歩き出していた足を止めて、高田の方に振り返った。
「何言ってんだよ?」
「放課後清掃委員会を守れる方法はないのか?」
「守る? 放課後清掃委員会を?」
「トラップに蜂が入ってなかったり、放課後清掃委員会の委員以外に被害者が出なかったら確実にあの委員会は潰される」
「それでいいじゃん。文芸部は残るから」
「駄目だ。守るぞ、あの委員会を!」
高田は急に右足を前に出すと、校舎の方に突進していった。
「あの馬鹿野郎っ」
新島も校舎に向かって歩き始めた。
部室に戻ると、ソファに座っている人物がいた。土方はすでに帰ってきていた。
「二人とも、どこに行っていたんだ」
「新島が、蜂被害者として自作自演していた動機を解いたすよ」
「どんな動機だったんだ?」
「放課後清掃委員会が集めたペットボトルを再利用するために、蜂被害者を増やしてペットボトルでトラップを作らせるというものだったっす」
「なるほど」
「だけど、それだと放課後清掃委員会が存続できなるなるっす」
「ふむ」
「それで考えたのが、トラップに蜂の死骸をいれたり、蜂のラジコン(?)で実際に目撃者を増やすとかすればいいっす!」
「やってみるか。放課後清掃委員会を存続させるために」
蜂のラジコンの調達は新島が行い、土方は蜂の死骸の調達をした。土方の親戚には害虫駆除を仕事とする人物がいるらしい。高田がすることはラジコン操作や死骸をトラップに入れることである。
まずは死骸をカップの中に入れて、トラップに近づいた。それから、死骸をトラップに突っ込む。もちろん、全て人目につかないよう細心の配慮をする。
蜂のラジコンは二階から操作する。誰かが近くを通ると、すかさず蜂のラジコンを放ち、コントローラーで威嚇を始める。蜂を見た者は叫びながら逃げだしていく。その叫び声を聞いた人がまた近づいてくる。早速、ラジコンを動かして驚かせる。やはり、また逃げ出す。今度は場所を変えて校舎内にする。例えば、授業中の教室などは効果的だ。
高田は自分のクラスの授業中にラジコンの蜂を侵入させる。誰かが気づいて騒ぎが大きくなると、高田自身が害虫スプレーをつかんで噴射する。ラジコンは廊下に逃がし、あとは蜂の死骸を廊下に置くのみだ。教職員生徒が一斉に廊下に飛び出し、蜂の死骸を見て目撃者が増える。こういう計画を続けること二日。おそらく放課後清掃委員会は存続するだろうとして、計画を終わりにさせた。
蜂のラジコンは当分、文芸部の部室に置かれることになったが、高田が最近はそのラジコンで遊ぶようになった。新島は本を読んでいる時に目の前を飛行してくるから、かなり怒っている。素直に高田の計画を実行させてしまったことを後悔していた。しかし、蜂のラジコンもあと二ヶ月したら、操作を誤った高田が壁に激突させて壊すことなど誰も知らなかった。また、土方の飲んでいる紅茶の入ったカップにも当たり、土方を怒らせることにもなった。
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