3 / 4
動機
しおりを挟む
「どうした。そんな悩んだような顔をして」
新島は考え事の最中に話しかけられると腹を立てる。例によって今回も高田に話しかけられて、相当立腹した。だが、仕方のないことだと割り切って、窓の外から高田の顔に視線を移した。
「ちょっと考え事をしていたんだ」
「そうか。制汗剤も香水もないとすると、考えられることは一つじゃないか?」
「......あまり俺の口からは言いたくないが、自作自演か」
「そういうことだ」
高田と新島が話している中、土方はカップに紅茶を注いでいた。
「ただ、自作自演と言っても動機がわからなければ意味がない」
「ただ単に目立ちたかったからだとか?」
「それはないだろ」
「何でだよ」
「そんなもの、簡単だよ」新島は椅子から立ち上がって、腰に手を当てた。「カースト下位の者が目立ってみろ。上位の奴らにボコられるだけだ。それに、蜂に追われたくらいじゃ目立てない」
「確かに、言うとおりだな」深くため息をもらした。
その間、土方は紅茶を口に運んでいた。
「自称被害者たちに共通することはないのか?」
「ふむ」高田は手帳をパラパラとめくって、ニヤリと口元を緩めた。「共通することはある」
「それは、何だ?」
「所属委員会が自称被害者たちは皆同じだ」
「何委員会だ?」
「放課後清掃委員会だ」
新島は八坂中学校に存在している委員会を出来る限り思い出して、高田が言った委員会名と同じもの考えた。結局わからず、放課後清掃委員会とは何だ、と尋ねた。
「放課後清掃委員会は放課後に清掃をして、校内を綺麗にする委員会だ。小学校の頃にあった美化委員会みたいなものだ」
「そんな委員会があったのか......」
「俺も今回の件のことについて調べ始めるまで知らなかった委員会だよ」
「やけに情報網を広げている高田でも知らなかったか」
高田は一瞬固まり、それからものすごい力でうなずいた。おそらく、情報収集を得意とする彼は知らないことがあって悔しかったんだろう。
新島は少し焦って頬を掻いた。「まあ、よし。放課後清掃委員会について、もう少しくわしく調べてみる価値はありそうだ」
「調べるのは俺だ。汚名挽回のチャンスなんだからなっ!」
「挽回もなにも、高田は元々汚名だろ?」
「......そういうことにしておく」
──次の日
三年七組、放課後清掃委員会校内ゴミ削減対策本部本部長である門倉誠一郎(かどくらせいいちろう)は校内や学校周辺のゴミを削減する案を考えていた。というのも、放課後清掃で集められたゴミは全て捨てられてしまう。ゴミ削減を行うとともに、集めたゴミの再利用の方法を考えるのがゴミ削減対策本部の本部長の毎年の役割なのだ。しかし、門倉には考える力というものがないと自称しているほどなのだ。つまり、ゴミの再利用する方法などということはまったく以て考えつかない。
放課後清掃委員会の会議でも、まだゴミの再利用の対策方法に結論は出ていない。はてさて、どうしたものか。ふと天を見上げると、頭上に何かが飛んでいることに気づいた。小さく黄色い体に、尻には針。顔は特徴的だ。これはスズメバチだろう。門倉は直感した。後ろに百八十度回転すると、マラソン大会でも本気を出さなかった門倉が頭を手で覆いながら猛ダッシュをした。
百メートルを10秒で走った門倉は、後方を確認した。少しずつではあるが、スズメバチはまだ追いかけてくる。咄嗟の判断で門倉はポケットから、みかんを取りだした。今日の給食で出たのだが、嫌いだったためにポケットに突っ込んだものだ。皮を破ると、スズメバチが匂いを感じ取れるように汁をまいて遠くに投げた。スズメバチは顔をきょろきょろさせたが、予想通りみかんの方に向かって飛んでいった。
同日、放課後。高田は得た情報を発表するために、文芸部部室に走って向かった。部室に入ると、新島だけが椅子に座っている。土方の定位置であるソファには、毛布が一枚あるのみだった。
「部長は?」
「補習だってさ。確か数学と理科と社会だったと思う」
「部長って頭悪いのか?」
「勉強しないでテスト受けたんだって」
「そういえば、新島はテストどうだった?」
「数学が78点、社会が82点。他は平均点とほぼ変わらない」
「ん? 確か今回の数学の平均点は30点代だろ? お前頭いいの?」
「悪知恵がよく働くな。勉強に自信はない」
「俺なんか数学は41点だぞ」
「......訂正する。高田の点数聞いて、自分は勉強に自信がついてきた」
「馬鹿で悪かったな」
新島は読んでいた本にしおりをはさんでテーブルに置くと、腕を組んだ。「お前が一日の内に手に入れた、放課後清掃委員会の情報を話してくれ」
「一日でかなりわかった」高田はいつもの手帳ではなく、A4のノートをカバンから取りだした。彼いわく、今回は膨大な量の情報で、普段の手帳では書き切れなかったらしい。「放課後清掃校内ゴミ削減対策本部の本部長も今日の朝に蜂に襲われた。事実か否かわからんが、蜂被害者は放課後清掃委員会の委員しかいなかった。動機に関しては未だ不明」
「放課後清掃校内ゴミ削減対策本部って、何?」
「校内の美化のためにポイ捨てされたゴミを集めたり、そのゴミの再利用に尽力している活動をしている本部だ」
新島は右手で顎を撫でた。「なるほど。動機が読めた」
高田はノートを閉じながら、少しばかり驚いたような表情を浮かべた。
新島は考え事の最中に話しかけられると腹を立てる。例によって今回も高田に話しかけられて、相当立腹した。だが、仕方のないことだと割り切って、窓の外から高田の顔に視線を移した。
「ちょっと考え事をしていたんだ」
「そうか。制汗剤も香水もないとすると、考えられることは一つじゃないか?」
「......あまり俺の口からは言いたくないが、自作自演か」
「そういうことだ」
高田と新島が話している中、土方はカップに紅茶を注いでいた。
「ただ、自作自演と言っても動機がわからなければ意味がない」
「ただ単に目立ちたかったからだとか?」
「それはないだろ」
「何でだよ」
「そんなもの、簡単だよ」新島は椅子から立ち上がって、腰に手を当てた。「カースト下位の者が目立ってみろ。上位の奴らにボコられるだけだ。それに、蜂に追われたくらいじゃ目立てない」
「確かに、言うとおりだな」深くため息をもらした。
その間、土方は紅茶を口に運んでいた。
「自称被害者たちに共通することはないのか?」
「ふむ」高田は手帳をパラパラとめくって、ニヤリと口元を緩めた。「共通することはある」
「それは、何だ?」
「所属委員会が自称被害者たちは皆同じだ」
「何委員会だ?」
「放課後清掃委員会だ」
新島は八坂中学校に存在している委員会を出来る限り思い出して、高田が言った委員会名と同じもの考えた。結局わからず、放課後清掃委員会とは何だ、と尋ねた。
「放課後清掃委員会は放課後に清掃をして、校内を綺麗にする委員会だ。小学校の頃にあった美化委員会みたいなものだ」
「そんな委員会があったのか......」
「俺も今回の件のことについて調べ始めるまで知らなかった委員会だよ」
「やけに情報網を広げている高田でも知らなかったか」
高田は一瞬固まり、それからものすごい力でうなずいた。おそらく、情報収集を得意とする彼は知らないことがあって悔しかったんだろう。
新島は少し焦って頬を掻いた。「まあ、よし。放課後清掃委員会について、もう少しくわしく調べてみる価値はありそうだ」
「調べるのは俺だ。汚名挽回のチャンスなんだからなっ!」
「挽回もなにも、高田は元々汚名だろ?」
「......そういうことにしておく」
──次の日
三年七組、放課後清掃委員会校内ゴミ削減対策本部本部長である門倉誠一郎(かどくらせいいちろう)は校内や学校周辺のゴミを削減する案を考えていた。というのも、放課後清掃で集められたゴミは全て捨てられてしまう。ゴミ削減を行うとともに、集めたゴミの再利用の方法を考えるのがゴミ削減対策本部の本部長の毎年の役割なのだ。しかし、門倉には考える力というものがないと自称しているほどなのだ。つまり、ゴミの再利用する方法などということはまったく以て考えつかない。
放課後清掃委員会の会議でも、まだゴミの再利用の対策方法に結論は出ていない。はてさて、どうしたものか。ふと天を見上げると、頭上に何かが飛んでいることに気づいた。小さく黄色い体に、尻には針。顔は特徴的だ。これはスズメバチだろう。門倉は直感した。後ろに百八十度回転すると、マラソン大会でも本気を出さなかった門倉が頭を手で覆いながら猛ダッシュをした。
百メートルを10秒で走った門倉は、後方を確認した。少しずつではあるが、スズメバチはまだ追いかけてくる。咄嗟の判断で門倉はポケットから、みかんを取りだした。今日の給食で出たのだが、嫌いだったためにポケットに突っ込んだものだ。皮を破ると、スズメバチが匂いを感じ取れるように汁をまいて遠くに投げた。スズメバチは顔をきょろきょろさせたが、予想通りみかんの方に向かって飛んでいった。
同日、放課後。高田は得た情報を発表するために、文芸部部室に走って向かった。部室に入ると、新島だけが椅子に座っている。土方の定位置であるソファには、毛布が一枚あるのみだった。
「部長は?」
「補習だってさ。確か数学と理科と社会だったと思う」
「部長って頭悪いのか?」
「勉強しないでテスト受けたんだって」
「そういえば、新島はテストどうだった?」
「数学が78点、社会が82点。他は平均点とほぼ変わらない」
「ん? 確か今回の数学の平均点は30点代だろ? お前頭いいの?」
「悪知恵がよく働くな。勉強に自信はない」
「俺なんか数学は41点だぞ」
「......訂正する。高田の点数聞いて、自分は勉強に自信がついてきた」
「馬鹿で悪かったな」
新島は読んでいた本にしおりをはさんでテーブルに置くと、腕を組んだ。「お前が一日の内に手に入れた、放課後清掃委員会の情報を話してくれ」
「一日でかなりわかった」高田はいつもの手帳ではなく、A4のノートをカバンから取りだした。彼いわく、今回は膨大な量の情報で、普段の手帳では書き切れなかったらしい。「放課後清掃校内ゴミ削減対策本部の本部長も今日の朝に蜂に襲われた。事実か否かわからんが、蜂被害者は放課後清掃委員会の委員しかいなかった。動機に関しては未だ不明」
「放課後清掃校内ゴミ削減対策本部って、何?」
「校内の美化のためにポイ捨てされたゴミを集めたり、そのゴミの再利用に尽力している活動をしている本部だ」
新島は右手で顎を撫でた。「なるほど。動機が読めた」
高田はノートを閉じながら、少しばかり驚いたような表情を浮かべた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
日常探偵団─AFTER STORY─
髙橋朔也
ミステリー
『クロロホルム? あれは推理小説なんかと違って、吸引させることで眠らせることは出来ない』
八島大学に勤務する高柳真朔教授の元に舞い込んだのは新島真准教授の義弟が親のお金をくすねた事件。義弟の家で大金を探すため、高柳教授はクロロホルムを使うのだが推理小説のように吸引させて眠らせるのは無理だ。そこで高柳教授が思いついた、クロロホルムを吸引させて確実に眠らせることの出来る方法とは──。
※本作は『日常探偵団』の番外編です。重大なネタバレもあるので未読の方は気をつけてください。
日常探偵団2 火の玉とテレパシーと傷害
髙橋朔也
ミステリー
君津静香は八坂中学校校庭にて跋扈する青白い火の玉を目撃した。火の玉の正体の解明を依頼された文芸部は正体を当てるも犯人は特定出来なかった。そして、文芸部の部員がテレパシーに悩まされていた。文芸部がテレパシーについて調べていた矢先、獅子倉が何者かに右膝を殴打された傷害事件が発生。今日も文芸部は休む暇なく働いていた。
※誰も死なないミステリーです。
※本作は『日常探偵団』の続編です。重大なネタバレもあるので未読の方はお気をつけください。
マクデブルクの半球
ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。
高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。
電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう───
「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」
自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。
宛ての不明なラブレター【5分図書】
比呂太
ミステリー
――とても短いミステリーに五分だけ、お時間下さい。
ごく一般的な高校生男子・葉山のもとに届いたラブレター。
差出人不明のラブレターは誰からの物か解き明かす、日常系ミステリー。
朱糸
黒幕横丁
ミステリー
それは、幸福を騙った呪い(のろい)、そして、真を隠した呪い(まじない)。
Worstの探偵、弐沙(つぐさ)は依頼人から朱絆(しゅばん)神社で授与している朱糸守(しゅしまもり)についての調査を依頼される。
そのお守りは縁結びのお守りとして有名だが、お守りの中身を見たが最後呪い殺されるという噂があった。依頼人も不注意によりお守りの中身を覗いたことにより、依頼してから数日後、変死体となって発見される。
そんな変死体事件が複数発生していることを知った弐沙と弐沙に瓜二つに変装している怜(れい)は、そのお守りについて調査することになった。
これは、呪い(のろい)と呪い(まじない)の話
量子迷宮の探偵譚
葉羽
ミステリー
天才高校生の神藤葉羽は、ある日突然、量子力学によって生み出された並行世界の迷宮に閉じ込められてしまう。幼馴染の望月彩由美と共に、彼らは迷宮からの脱出を目指すが、そこには恐ろしい謎と危険が待ち受けていた。葉羽の推理力と彩由美の直感が試される中、二人の関係も徐々に変化していく。果たして彼らは迷宮を脱出し、現実世界に戻ることができるのか?そして、この迷宮の真の目的とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる