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第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その陸漆
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必死になって政宗がコウモリを頬張っている頃、魔女教の主力集団が寺に滞在する仁和達と相対していた。
エリアスが魔女教に戻ってくる気がないことを確認したセシリアは、後ろを向いてフードを被った男に視線で合図を送る。するとフードの男は小さな球体を取り出して右手に持ち、エリアス目掛けて親指で球体を軽く弾いた。
弾かれた球体はかなりのスピードで飛び、エリアスの眉間に命中する。
「痛いじゃないですか。それにしても、親指で弾いただけでこんなに飛ぶのはおかしいですね」
フードの男の右手は外見上細工が施されていないように見える。ではなぜ軽く弾いただけであのような威力の球体を飛ばせるのか。実際、エリアスでなければ頭蓋骨を撃ち抜かれているほどの威力の球体だった。
エリアスは自分の眉間に当たった球体をマジマジと観察し、球体には何の仕掛けもないと理解する。それと同時にフードの男の右手に何らかの仕掛けがあると見抜き、身構えて警戒態勢になる。
それに満足したエヴァは、自慢するようにフードの男の元へ行って肩に手を置いた。
「エリアスは彼とは初対面だったね。紹介しよう、彼は実験体番号245。攻撃型に分類される、私の実験を受けた秘蔵っ子さ」
不老不死を求める彼女は、主に捕虜を実験体にしている。その結果として様々な能力を持つ実験体が生まれていて、それぞれ実験を受けた順に番号で呼ばれている。オーウェンは当初、補助型実験体・番号21と呼ばれていたが、戦闘での活躍によって名を与えられた存在だ。
補助型や攻撃型という実験体の分類は、能力を鑑みてのものである。オーウェンの再生能力は戦闘の補助にしかならないのに対し、245番の能力は攻撃に応用出来る。このような分類がエヴァの独断でされているのだ。
「確かに私の知らぬ実験体ですが、私を戦闘不能にするほどの能力を持っているとは思えぬのですが?」
エヴァは鼻で笑う。「最初の頃、245番を攻撃型か汎用型のどちらに分類するか迷ったのだ。だが能力的に攻撃型に分類させてもらった。その意味がわかるかね?」
エヴァによる実験体の分類は攻撃型、防御型、補助型、凡庸型、汎用型の五つに分けられる。
攻撃型は攻撃に、防御型は防御に、補助型は補助に優れている。凡庸型は実験体の中では文字通り無能という烙印を押され、汎用型に分類される実験体はそれぞれが高い戦闘能力を持つ。
汎用型に分類される実験体は指で数えるほどしか存在せず、全員が全員幹部クラスに位置する。その汎用型に分類するか攻撃型に分類するか迷うほど245番は強い、とエヴァは言った。
これにはエリアスも内心で驚きつつ、具体的にどのような強さを245番が持つのか思考する。
「エヴァが嘘を言っているようにも見えませんし、本当に245番は私に有効な攻撃法を持っているのでしょうね」
「どうだい、私の秘蔵っ子と一対一で戦うのは?」
「遠慮しておきます」
ここで会話が終わって両者が黙ると、九頭竜は声を大にして尋ねる。「生命の、魔女! 死んだんじゃ、なかった、のか?」
「ん? おや、君はいつぞやの犬畜生じゃないか?」
犬畜生と呼ばれたことに顔を引きつらせた九頭竜に気を良くし、エヴァはニヤリと笑った。
「君は実験の良いサンプルになると思って飼ってあげていただけだよ。君に名前を付けたことはなかっただろう? あの時逃がしたのはサンプルに死んでしまえば、これ以上実験が出来なくなってしまうからだ。ちょうど良い、こちらに来てくれないかい? まだ君を使った実験を行っていないんだ」
目に涙を浮かべた九頭竜は、エヴァの言葉を頭で否定してもう一度口を開く。
「だった、ら、何で、あの時、優しく、して、くれた、の?」
「それは本当のことを話して、今の君みたいな表情が見たかったからだよ。うん、想像以上に面白い反応だ」
「で、でも......あの、時、は──」
「何度も言わせないでくれ。私に可愛がられたかったら、もう少し流暢に話せるようになってくれないか? 君の言葉は聞きにくくて適わん」
最後にとどめを刺され、大粒の涙を流しながら大声で喚く。それを見届け、エヴァに指示を出された245番は球体を親指で弾く態勢に入り、九頭竜に狙いを定めた。
毛深いために隠れているが、九頭竜もそれなりにたくましい筋肉を持つ。だがそれでも九頭竜は子供で、しかも今は精神的ダメージにより無防備だ。
245番が先ほどエリアスに向けた、親指で弾いた球体を九頭竜に向けて放てば、最悪は死ぬ場合もある。それに気付いた仁和は、それを食い止めるために九頭竜の前へと走り出て、両腕をクロスさせて球体を受け止めようとする。
エリアスも当世具足を装備していたので九頭竜を庇う形で抱き上げ、万が一にも九頭竜に弾が当たらないようにした。
あと数秒で球体が弾かれる。仁和はまぶたを閉じて、顔を下に向けて歯を食いしばった。245番は標的を仁和に変えて覆われていない顔を狙い、球体を弾くために親指に力を込める。
そんな時、森から出てきた黒い影が245番の頭上へと飛び上がる。辺りはすでに暗くなっていて、星明かりだけが地上を照らしている。なのでその影が何者なのかは誰にもわからなかった。
落下して加速していく影は245番の頭にかかと落としを食らわせ、その後うまく着地した。そして仁和やエリアスを見やると、右手を前に突き出して親指を立てた。
「何か知らんが、九頭竜を守ってくれたみたいだなっ!」
その声に仁和やエリアス達は反応し、245番を倒した影──政宗の方を見たのだった。
エリアスが魔女教に戻ってくる気がないことを確認したセシリアは、後ろを向いてフードを被った男に視線で合図を送る。するとフードの男は小さな球体を取り出して右手に持ち、エリアス目掛けて親指で球体を軽く弾いた。
弾かれた球体はかなりのスピードで飛び、エリアスの眉間に命中する。
「痛いじゃないですか。それにしても、親指で弾いただけでこんなに飛ぶのはおかしいですね」
フードの男の右手は外見上細工が施されていないように見える。ではなぜ軽く弾いただけであのような威力の球体を飛ばせるのか。実際、エリアスでなければ頭蓋骨を撃ち抜かれているほどの威力の球体だった。
エリアスは自分の眉間に当たった球体をマジマジと観察し、球体には何の仕掛けもないと理解する。それと同時にフードの男の右手に何らかの仕掛けがあると見抜き、身構えて警戒態勢になる。
それに満足したエヴァは、自慢するようにフードの男の元へ行って肩に手を置いた。
「エリアスは彼とは初対面だったね。紹介しよう、彼は実験体番号245。攻撃型に分類される、私の実験を受けた秘蔵っ子さ」
不老不死を求める彼女は、主に捕虜を実験体にしている。その結果として様々な能力を持つ実験体が生まれていて、それぞれ実験を受けた順に番号で呼ばれている。オーウェンは当初、補助型実験体・番号21と呼ばれていたが、戦闘での活躍によって名を与えられた存在だ。
補助型や攻撃型という実験体の分類は、能力を鑑みてのものである。オーウェンの再生能力は戦闘の補助にしかならないのに対し、245番の能力は攻撃に応用出来る。このような分類がエヴァの独断でされているのだ。
「確かに私の知らぬ実験体ですが、私を戦闘不能にするほどの能力を持っているとは思えぬのですが?」
エヴァは鼻で笑う。「最初の頃、245番を攻撃型か汎用型のどちらに分類するか迷ったのだ。だが能力的に攻撃型に分類させてもらった。その意味がわかるかね?」
エヴァによる実験体の分類は攻撃型、防御型、補助型、凡庸型、汎用型の五つに分けられる。
攻撃型は攻撃に、防御型は防御に、補助型は補助に優れている。凡庸型は実験体の中では文字通り無能という烙印を押され、汎用型に分類される実験体はそれぞれが高い戦闘能力を持つ。
汎用型に分類される実験体は指で数えるほどしか存在せず、全員が全員幹部クラスに位置する。その汎用型に分類するか攻撃型に分類するか迷うほど245番は強い、とエヴァは言った。
これにはエリアスも内心で驚きつつ、具体的にどのような強さを245番が持つのか思考する。
「エヴァが嘘を言っているようにも見えませんし、本当に245番は私に有効な攻撃法を持っているのでしょうね」
「どうだい、私の秘蔵っ子と一対一で戦うのは?」
「遠慮しておきます」
ここで会話が終わって両者が黙ると、九頭竜は声を大にして尋ねる。「生命の、魔女! 死んだんじゃ、なかった、のか?」
「ん? おや、君はいつぞやの犬畜生じゃないか?」
犬畜生と呼ばれたことに顔を引きつらせた九頭竜に気を良くし、エヴァはニヤリと笑った。
「君は実験の良いサンプルになると思って飼ってあげていただけだよ。君に名前を付けたことはなかっただろう? あの時逃がしたのはサンプルに死んでしまえば、これ以上実験が出来なくなってしまうからだ。ちょうど良い、こちらに来てくれないかい? まだ君を使った実験を行っていないんだ」
目に涙を浮かべた九頭竜は、エヴァの言葉を頭で否定してもう一度口を開く。
「だった、ら、何で、あの時、優しく、して、くれた、の?」
「それは本当のことを話して、今の君みたいな表情が見たかったからだよ。うん、想像以上に面白い反応だ」
「で、でも......あの、時、は──」
「何度も言わせないでくれ。私に可愛がられたかったら、もう少し流暢に話せるようになってくれないか? 君の言葉は聞きにくくて適わん」
最後にとどめを刺され、大粒の涙を流しながら大声で喚く。それを見届け、エヴァに指示を出された245番は球体を親指で弾く態勢に入り、九頭竜に狙いを定めた。
毛深いために隠れているが、九頭竜もそれなりにたくましい筋肉を持つ。だがそれでも九頭竜は子供で、しかも今は精神的ダメージにより無防備だ。
245番が先ほどエリアスに向けた、親指で弾いた球体を九頭竜に向けて放てば、最悪は死ぬ場合もある。それに気付いた仁和は、それを食い止めるために九頭竜の前へと走り出て、両腕をクロスさせて球体を受け止めようとする。
エリアスも当世具足を装備していたので九頭竜を庇う形で抱き上げ、万が一にも九頭竜に弾が当たらないようにした。
あと数秒で球体が弾かれる。仁和はまぶたを閉じて、顔を下に向けて歯を食いしばった。245番は標的を仁和に変えて覆われていない顔を狙い、球体を弾くために親指に力を込める。
そんな時、森から出てきた黒い影が245番の頭上へと飛び上がる。辺りはすでに暗くなっていて、星明かりだけが地上を照らしている。なのでその影が何者なのかは誰にもわからなかった。
落下して加速していく影は245番の頭にかかと落としを食らわせ、その後うまく着地した。そして仁和やエリアスを見やると、右手を前に突き出して親指を立てた。
「何か知らんが、九頭竜を守ってくれたみたいだなっ!」
その声に仁和やエリアス達は反応し、245番を倒した影──政宗の方を見たのだった。
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