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第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その陸壱
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俺と仁和、エリアスと剣崎は四人で寺の外に集まった。ここはカルミラと対峙した場所だ。地面にはまだ俺の血痕が残っている。この量の血を流してよく死ななかったな、俺よ!
「さて。まず魔女教は俺達のことをどの程度掴んでいる?」
俺の問いに応じてエリアスは咳払いをして口を開き、仁和も真剣に耳を傾ける。
「魔女教の開祖はキリシタン宗を敵視すると同時に、伊達政宗という年若い武将を警戒するようにと日頃言っておりました。おそらく、お屋形様と以前何かあったのでしょう」
「江渡弥平という人物は知っているか? その魔女教の教祖本人か、もしくは繋がりのあるのが江渡だと俺は考えているのだが」
「江渡弥平、ですか? 聞き及んではいないですね」
「開祖はどんな名前を名乗っている?」
「それが......開祖や教祖としか名乗っていないのです。容姿からして私と同じ欧州の者でしょうが、それ以外は皆目わかりません」
江渡弥平は生粋の日本人だったな。ということは教祖=江渡弥平ではないか。ただ魔女教教祖と江渡弥平が仲間の可能性もある。けれどそうなるとキリスト教と江渡弥平は繫がっていなかったということに......。
「ま、いいや。どんなに考えても意味ないし。それで魔女教に教典は?」
「ありません」
「魔女教の中枢にいる重要人物についてくわしく」
「魔女教は開祖の下に魔女格と罪人格という最高幹部を設けております」
「格?」
「格上や格下の格です。魔女格や罪人格という格を最高幹部に与えているのは、当然キリシタン宗の敵対宗教として興したからでしょう。キリシタン宗にとって魔女は狩るべき対象であり、七つの大罪を犯した者も敵だからです。
魔女格の三人は原初の魔女です。彼女らは原初の魔女と呼ばれていることは知らないでしょう。この魔女格が名乗る肩書きは未来視の魔女、生命の魔女、魅惑の魔女です。この三人に序列はないのですが、その格下の罪人格には明確な序列が存在します。罪人格は上から嫉妬、傲慢、怠惰、憤怒、強欲、色欲、暴食という序列があり、カルミラは暴食担当なので最高幹部では下っ端です。かく言う私も下から三番目なのですが」
魔女教による七つの大罪の序列も、キリスト教による七つの大罪の罪の重さと順番と同じだ。つまり魔女教はかなりキリスト教を意識しているな。
「魔女教の主力は?」
「開祖を除く、先に述べた最高幹部全員が魔女教の主力です。最高幹部各人がそれなりに武の才や特殊な能力を有していて、私も例に漏れませんよ」
「エリアスの能力は何だ?」
「私は魔女教では主に情報収集に徹していましたが、有する特殊能力は骨が常人より硬いということ。どんなに殴られても骨が折れたことはありません。火縄銃を近距離から頭に撃たれたこともありましたが、後頭部に撃たれた銃弾が頭蓋骨の周りを半周して額で止まりましたね。あの時は運が良かったです」
「すげー。どんだけ硬い骨なんだよ」
「私はこれを利用し、痛みを麻痺させる薬を打つことで自衛の際には最強の盾と化しますよ。カルミラの攻撃から愛姫様を守ったのもこの特殊能力によるものです」
「真面目に最強の盾だな。まあこれからは捨て身な行動はするな。いくら骨が硬くとも心臓を撃ち抜かれたら死ぬぞ」
「心得ております」
それから魔女教最高幹部達の持つ特殊能力についての説明を一通り受けた。原初の魔女達が持つ異質な力も特殊能力に数えられるらしい。
「最後にご忠告を。お屋形様に注意していただきたいのは、魔女教司教の罪人格の一人である憤怒の罪人・オーウェンです。彼は日本人であり、魔女教が捕虜として捕らえた者の一人です。生命の魔女エヴァが捕虜で実験を行って完成したのが彼で、その能力は再生です。
エヴァの目的が不老不死であることは知っていると思いますが、まずは不死身の肉体を持つ者を創り出すためにエヴァは捕虜を実験体にしました。そうして人より再生能力の高い捕虜が一人出来上がり、カルミラのように日本人なのにオーウェンの名が与えられ、憤怒の罪人の格を得ています。
オーウェンは私と違って傷を負うものの、重傷でもものの一週間ほどで回復してしまいます。戦場に赴くと彼は怒りに任せて敵をなぎ払うような戦法をするので、憤怒の罪人の格に収まったのです。カルミラと似たような戦法ですが、オーウェンは傷の治りが早い分、奴の方が厄介極まりないでしょう。オーウェンに会ったなら警戒をしてください」
「オーウェンか。ちょっといいか、エリアス?」
「どうしました?」
「もしお前がオーウェンの能力を手に入れたら、もっと強くなれるだろ? 何でエリアスにオーウェンの能力を持たせるための実験を魔女教はしなかったんだ?」
「エヴァが捕虜をいじくって出来上がったのがオーウェンで、言わば偶然の産物。なぜオーウェンの再生能力が高いのか調べてはいるものの原因は未だに突き止められていないので、私に高い再生能力を持たせることは魔女教では出来なかったのです」
「ふーん。──んで、仁和はなぜオーウェンが高い再生能力を誇るのかわかるか?」
さすがの仁和でも少し考えるような仕草をとる。ついうっかり美人ではあるなと思ってしまうが、首を横に振って思案顔を強引に作った。
「発言よろしいでしょうか、政宗殿」
「構わないよ」
「内臓の中には肝臓という部分があるのはご存知でしょう。肝臓は栄養の貯蔵や有害なものの分解や解毒などを行ったり、食べ物を消化するための胆汁を作り出すなどの仕事があります。つまり肝臓はかなり重要な仕事を担う臓器であり、この肝臓がなくなると体は長く保ちません。なので肝臓が欠損すると脳が再生を促すために神経信号を使って肝臓内の細胞を刺激します。これにより、肝臓は四分の三ほど欠損しても半年ほどで再生出来るのです。
おそらくオーウェンとやらの体は、体が欠損するごとに神経信号が細胞を刺激して再生を急速に促すような状態になっているのでしょう。欠損個所を脳が肝臓だと誤認して神経信号を出すのか、それとも欠損するたびに神経信号を出すように脳が壊れてしまったのかはわかりません。ですがそのようなことが体で起こっているならば、オーウェンは早死にする可能性が高いですね」
やや小難しいが、何となくわかる。仕組みが理解出来ずとも、オーウェンの体はもうすぐ限界が来ることは明白ということだ。
エリアスは自分にそんな実験が行われなくて良かったと安堵し、脱力してから胸を撫で下ろしていた。
「さて。まず魔女教は俺達のことをどの程度掴んでいる?」
俺の問いに応じてエリアスは咳払いをして口を開き、仁和も真剣に耳を傾ける。
「魔女教の開祖はキリシタン宗を敵視すると同時に、伊達政宗という年若い武将を警戒するようにと日頃言っておりました。おそらく、お屋形様と以前何かあったのでしょう」
「江渡弥平という人物は知っているか? その魔女教の教祖本人か、もしくは繋がりのあるのが江渡だと俺は考えているのだが」
「江渡弥平、ですか? 聞き及んではいないですね」
「開祖はどんな名前を名乗っている?」
「それが......開祖や教祖としか名乗っていないのです。容姿からして私と同じ欧州の者でしょうが、それ以外は皆目わかりません」
江渡弥平は生粋の日本人だったな。ということは教祖=江渡弥平ではないか。ただ魔女教教祖と江渡弥平が仲間の可能性もある。けれどそうなるとキリスト教と江渡弥平は繫がっていなかったということに......。
「ま、いいや。どんなに考えても意味ないし。それで魔女教に教典は?」
「ありません」
「魔女教の中枢にいる重要人物についてくわしく」
「魔女教は開祖の下に魔女格と罪人格という最高幹部を設けております」
「格?」
「格上や格下の格です。魔女格や罪人格という格を最高幹部に与えているのは、当然キリシタン宗の敵対宗教として興したからでしょう。キリシタン宗にとって魔女は狩るべき対象であり、七つの大罪を犯した者も敵だからです。
魔女格の三人は原初の魔女です。彼女らは原初の魔女と呼ばれていることは知らないでしょう。この魔女格が名乗る肩書きは未来視の魔女、生命の魔女、魅惑の魔女です。この三人に序列はないのですが、その格下の罪人格には明確な序列が存在します。罪人格は上から嫉妬、傲慢、怠惰、憤怒、強欲、色欲、暴食という序列があり、カルミラは暴食担当なので最高幹部では下っ端です。かく言う私も下から三番目なのですが」
魔女教による七つの大罪の序列も、キリスト教による七つの大罪の罪の重さと順番と同じだ。つまり魔女教はかなりキリスト教を意識しているな。
「魔女教の主力は?」
「開祖を除く、先に述べた最高幹部全員が魔女教の主力です。最高幹部各人がそれなりに武の才や特殊な能力を有していて、私も例に漏れませんよ」
「エリアスの能力は何だ?」
「私は魔女教では主に情報収集に徹していましたが、有する特殊能力は骨が常人より硬いということ。どんなに殴られても骨が折れたことはありません。火縄銃を近距離から頭に撃たれたこともありましたが、後頭部に撃たれた銃弾が頭蓋骨の周りを半周して額で止まりましたね。あの時は運が良かったです」
「すげー。どんだけ硬い骨なんだよ」
「私はこれを利用し、痛みを麻痺させる薬を打つことで自衛の際には最強の盾と化しますよ。カルミラの攻撃から愛姫様を守ったのもこの特殊能力によるものです」
「真面目に最強の盾だな。まあこれからは捨て身な行動はするな。いくら骨が硬くとも心臓を撃ち抜かれたら死ぬぞ」
「心得ております」
それから魔女教最高幹部達の持つ特殊能力についての説明を一通り受けた。原初の魔女達が持つ異質な力も特殊能力に数えられるらしい。
「最後にご忠告を。お屋形様に注意していただきたいのは、魔女教司教の罪人格の一人である憤怒の罪人・オーウェンです。彼は日本人であり、魔女教が捕虜として捕らえた者の一人です。生命の魔女エヴァが捕虜で実験を行って完成したのが彼で、その能力は再生です。
エヴァの目的が不老不死であることは知っていると思いますが、まずは不死身の肉体を持つ者を創り出すためにエヴァは捕虜を実験体にしました。そうして人より再生能力の高い捕虜が一人出来上がり、カルミラのように日本人なのにオーウェンの名が与えられ、憤怒の罪人の格を得ています。
オーウェンは私と違って傷を負うものの、重傷でもものの一週間ほどで回復してしまいます。戦場に赴くと彼は怒りに任せて敵をなぎ払うような戦法をするので、憤怒の罪人の格に収まったのです。カルミラと似たような戦法ですが、オーウェンは傷の治りが早い分、奴の方が厄介極まりないでしょう。オーウェンに会ったなら警戒をしてください」
「オーウェンか。ちょっといいか、エリアス?」
「どうしました?」
「もしお前がオーウェンの能力を手に入れたら、もっと強くなれるだろ? 何でエリアスにオーウェンの能力を持たせるための実験を魔女教はしなかったんだ?」
「エヴァが捕虜をいじくって出来上がったのがオーウェンで、言わば偶然の産物。なぜオーウェンの再生能力が高いのか調べてはいるものの原因は未だに突き止められていないので、私に高い再生能力を持たせることは魔女教では出来なかったのです」
「ふーん。──んで、仁和はなぜオーウェンが高い再生能力を誇るのかわかるか?」
さすがの仁和でも少し考えるような仕草をとる。ついうっかり美人ではあるなと思ってしまうが、首を横に振って思案顔を強引に作った。
「発言よろしいでしょうか、政宗殿」
「構わないよ」
「内臓の中には肝臓という部分があるのはご存知でしょう。肝臓は栄養の貯蔵や有害なものの分解や解毒などを行ったり、食べ物を消化するための胆汁を作り出すなどの仕事があります。つまり肝臓はかなり重要な仕事を担う臓器であり、この肝臓がなくなると体は長く保ちません。なので肝臓が欠損すると脳が再生を促すために神経信号を使って肝臓内の細胞を刺激します。これにより、肝臓は四分の三ほど欠損しても半年ほどで再生出来るのです。
おそらくオーウェンとやらの体は、体が欠損するごとに神経信号が細胞を刺激して再生を急速に促すような状態になっているのでしょう。欠損個所を脳が肝臓だと誤認して神経信号を出すのか、それとも欠損するたびに神経信号を出すように脳が壊れてしまったのかはわかりません。ですがそのようなことが体で起こっているならば、オーウェンは早死にする可能性が高いですね」
やや小難しいが、何となくわかる。仕組みが理解出来ずとも、オーウェンの体はもうすぐ限界が来ることは明白ということだ。
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