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第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その伍陸
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お屋形様はカルミラに短刀で首を斬られて倒れた。カルミラがいくら元首斬り役だったとしても、一撃で首を切り裂くにはかなり高度が技術が必要となる。首は硬い骨といくつもの筋肉が集まって形成されているし、お屋形様は相当鍛えている。だからカルミラの短刀の一振り程度では死なないだろう。
問題なのは、あのカルミラがお屋形様の血しぶきのせいで感情を手に入れてしまったことだ。おそらくカルミラは曲がりなりにもお屋形様に恋をしている。愛する人を殺して剥製にするとかは理解出来ないが......。
お屋形様が心配な愛姫様は、カルミラのことを恐れているにもかかわらず立ち上がった。お屋形様を取り合って争いが起きるとは、この私ですら予想外の出来事だ。
私としては愛姫様の手助けをしてあげたい。入れ知恵の一つや二つ程度ならばバレても問題ないだろう。
「愛姫様」私は薙刀を彼女に渡す。「戦闘が不慣れで非力な方でも扱えるのは薙刀です。薙刀は腕力を酷使せずとも槍のように回転させることで威力を発揮します。薙刀は女性が扱う方が向いているので、ぜひお使いください」
「あ、ありがとうございます」
「それと、もしあなた様が戦うのであれば、私は盾役に徹しましょう」
「た、盾!? 危ないのでは!?」
「いえ、私にはちょっとした特殊能力が備わっていますので安心してください」
「?」
不思議そうにしていた愛姫様だが、すぐにカルミラの方へ向き直って刀を投げた。惜しくも刀はカルミラに避けられてしまうが、愛姫様は薙刀を持って前へ出た。私も愛姫様の横に並び、指の関節をポキポキと鳴らす。
「私の! 私の政宗様に触れないで!」
カルミラは鬼のような形相となる。「私の政宗様、とはどういうこと?」
「私は政宗様の正妻です!」
「そうなのね。なら邪魔だから死んで!」
予想通りカルミラは短刀を振り下ろすが、私は捨て身で愛姫様を守った。鎧を装着しているとは言え、やはり私の特殊能力がなければ危なかったな。
「またお会いしましたね、カルミラ」
「エリアス! あなたは毎回毎回私の邪魔をしなければ気が済まないのかしら?」
「違います。私の行く手にあなたがいただけですよ」
「......あなたが本気を出した上に兵力でも圧倒的な差がある。分が悪いわね」
「今日のところは撤退してはどうです?」
「そうするわ」
悔しそうな表情になったカルミラは駆け足で退散していった。まさか感情のなかった彼女が表情をコロコロと変える日が来るとは。
私はカルミラの攻撃で受けた怪我を自分で確認し、問題ないと判断してからお屋形様の元へ向かった。
お屋形様の治療はすでに仁和様がしており、ひとまずの危機は去った。けれど今回のことを受けて魔女教は黙っていないはず。またすぐにでも何かが起こる可能性も視野に入れておかなくては。
起き上がってから何があったのか思い出し、どれほどの被害が出たのか確認するために辺りを見回したが、これと言って死人も出ていないようだ。一安心。
カルミラに斬られた首を触ると止血がされていて、このやり方は間違いなく仁和だ。あとでお礼を言っておこう。
「起きましたね」
「ん? エリアスか。そう言えば見た感じ死者は出てないようだが、俺が気を失ってから何があった?」
「あ、ええと、その......」
「早く教えてくれ! 何があったんだ!?」
「わ、私が助力して愛姫様が少々無茶をしました! すみません!」
「はあ!? テメェまさか、愛姫をカルミラと戦わせたのか!?」
「さようです」
「この野郎! ぶっ飛ばしてやる!」
俺の愛しの愛姫を戦いに参加させるとは、やっぱりエリアスは疫病神だ。ここで俺が倒さないといかん。
しかしエリアスをぶっ飛ばそうとすると、愛姫が割って入ってきた。「政宗様、私が戦いに参加したのは自ら望んだからです! 彼を責めないでください! それに彼が私をかばって攻撃を受けてくれなかったら、私は今頃死んでいたかもしれません!」
「そうなのか? 愛姫がそこまで言うなら許してやることにするか」
それにカルミラという厄災も消えたから、エリアス達からゆっくりと魔女教について知る限りの情報を聞き出せる。キリスト教や江渡弥平達の動向も気になるが、今は表立って行動している魔女教をどうやってぶっ潰すか考えないと。
「さてエリアス。俺とお前と剣崎と仁和の四人で魔女教のことを話し合いたい」
「お屋形様ならそう言うと思っていました。私と剣崎が知り得た魔女教の情報を無償で提供いたします」
「無償でってのがありがたい。エリアスは知識を欲しているから情報は有料だと思ってたぜ」
「忠誠を誓ったお屋形様のためならば何でもします。それが私の流儀です。しかしお屋形様も気付いているとは思いますが、私は魔女教を一度裏切っています。つまりお屋形様が主として相応しくないと私が判断した時点で、私はお屋形様も裏切ります」
「俺がお前の主に相応しくない、とお前が判断する材料は何だ?」
「私の独断と偏見です」
「そいつは困ったなー。エリアス相手には出来るだけ秘密を全て伝えないといけないってことか」
「お屋形様にとって困ることはないと思うのですが? 私は知った秘密をそう易々とは話しませんから」
「そうじゃなくて、敵を騙すにはまず味方からって言うじゃん」
「そういうことですか」
少し呆れた顔のエリアスであった。おそらく俺の株は急降下した。エリアスに寝首を掻かれる可能性を自分で上げちまったぜ。......寝るのが怖くなってきた。
問題なのは、あのカルミラがお屋形様の血しぶきのせいで感情を手に入れてしまったことだ。おそらくカルミラは曲がりなりにもお屋形様に恋をしている。愛する人を殺して剥製にするとかは理解出来ないが......。
お屋形様が心配な愛姫様は、カルミラのことを恐れているにもかかわらず立ち上がった。お屋形様を取り合って争いが起きるとは、この私ですら予想外の出来事だ。
私としては愛姫様の手助けをしてあげたい。入れ知恵の一つや二つ程度ならばバレても問題ないだろう。
「愛姫様」私は薙刀を彼女に渡す。「戦闘が不慣れで非力な方でも扱えるのは薙刀です。薙刀は腕力を酷使せずとも槍のように回転させることで威力を発揮します。薙刀は女性が扱う方が向いているので、ぜひお使いください」
「あ、ありがとうございます」
「それと、もしあなた様が戦うのであれば、私は盾役に徹しましょう」
「た、盾!? 危ないのでは!?」
「いえ、私にはちょっとした特殊能力が備わっていますので安心してください」
「?」
不思議そうにしていた愛姫様だが、すぐにカルミラの方へ向き直って刀を投げた。惜しくも刀はカルミラに避けられてしまうが、愛姫様は薙刀を持って前へ出た。私も愛姫様の横に並び、指の関節をポキポキと鳴らす。
「私の! 私の政宗様に触れないで!」
カルミラは鬼のような形相となる。「私の政宗様、とはどういうこと?」
「私は政宗様の正妻です!」
「そうなのね。なら邪魔だから死んで!」
予想通りカルミラは短刀を振り下ろすが、私は捨て身で愛姫様を守った。鎧を装着しているとは言え、やはり私の特殊能力がなければ危なかったな。
「またお会いしましたね、カルミラ」
「エリアス! あなたは毎回毎回私の邪魔をしなければ気が済まないのかしら?」
「違います。私の行く手にあなたがいただけですよ」
「......あなたが本気を出した上に兵力でも圧倒的な差がある。分が悪いわね」
「今日のところは撤退してはどうです?」
「そうするわ」
悔しそうな表情になったカルミラは駆け足で退散していった。まさか感情のなかった彼女が表情をコロコロと変える日が来るとは。
私はカルミラの攻撃で受けた怪我を自分で確認し、問題ないと判断してからお屋形様の元へ向かった。
お屋形様の治療はすでに仁和様がしており、ひとまずの危機は去った。けれど今回のことを受けて魔女教は黙っていないはず。またすぐにでも何かが起こる可能性も視野に入れておかなくては。
起き上がってから何があったのか思い出し、どれほどの被害が出たのか確認するために辺りを見回したが、これと言って死人も出ていないようだ。一安心。
カルミラに斬られた首を触ると止血がされていて、このやり方は間違いなく仁和だ。あとでお礼を言っておこう。
「起きましたね」
「ん? エリアスか。そう言えば見た感じ死者は出てないようだが、俺が気を失ってから何があった?」
「あ、ええと、その......」
「早く教えてくれ! 何があったんだ!?」
「わ、私が助力して愛姫様が少々無茶をしました! すみません!」
「はあ!? テメェまさか、愛姫をカルミラと戦わせたのか!?」
「さようです」
「この野郎! ぶっ飛ばしてやる!」
俺の愛しの愛姫を戦いに参加させるとは、やっぱりエリアスは疫病神だ。ここで俺が倒さないといかん。
しかしエリアスをぶっ飛ばそうとすると、愛姫が割って入ってきた。「政宗様、私が戦いに参加したのは自ら望んだからです! 彼を責めないでください! それに彼が私をかばって攻撃を受けてくれなかったら、私は今頃死んでいたかもしれません!」
「そうなのか? 愛姫がそこまで言うなら許してやることにするか」
それにカルミラという厄災も消えたから、エリアス達からゆっくりと魔女教について知る限りの情報を聞き出せる。キリスト教や江渡弥平達の動向も気になるが、今は表立って行動している魔女教をどうやってぶっ潰すか考えないと。
「さてエリアス。俺とお前と剣崎と仁和の四人で魔女教のことを話し合いたい」
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「お屋形様にとって困ることはないと思うのですが? 私は知った秘密をそう易々とは話しませんから」
「そうじゃなくて、敵を騙すにはまず味方からって言うじゃん」
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