227 / 245
第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その伍肆
しおりを挟む
突っ込んできた奴の首根っこを掴み、そのままそいつの首を捻ろうとするが、逆に俺の体が強く締め付けられた。
「あー、ちょ、痛い痛い!」
俺が巨体野郎に捕まえられている間に、仁和には仲間を呼ぶように合図を送った。合図に応じて仁和は寺に戻ろうとするが奥からヒョロガリの銀髪男が出てきて、その男が仁和の行く手を阻んだ。
「困るな」銀髪男は巨体野郎に目を向ける。「まったく、仁和凪さんも剣崎庵君も勝手な動きはしないでほしいですよ」
どうやら巨体野郎は剣崎庵とかいう名前らしい。知らなくても良かった情報ではあるがな。
仁和は依然として固まったままだったので、俺は奴らの情報を少しでも聞き出すために専念した。
「おい銀髪男! お前らはいったい何なんだ?」
「そうでした、自己紹介もまだでしたね。──剣崎君もそろそろ彼から手を離してください」
銀髪男の指示で剣崎は俺から手を離し、痛みがある部分をさする。「助かるよ。剣崎とかいう奴が俺を掴んだままだったら話しにくかった」
「それは失礼しました。さて、申し遅れましたね。私は強欲の罪人・エリアスです。魔女教の司教を務めさせていただいておりました。知識や情報を強く欲してしまったため七大罪の一つである強欲を犯し、キリシタン宗から追われる身となってしまったので魔女教に下りました。私は情報屋と呼ばれていて、お察しの通り戦闘なんて出来ませんよ」
「魔女教? 何だよそれ」
「魔女教とは教祖と原初の魔女達を中心として、キリシタン宗に立ち向かうべく発足した新興宗教団体です。この宗教団体の目的はただ一つ、世界の真理を知るためですよ」
「お前も真理なんてものが知りたいのか?」
「私は教祖から直々に''強欲''の二つ名をいただいた身です。その名の通り、知識を何よりも強く欲していますので」
ふむ、こいつら二人を素手で相手するのは難しい。かと言って仁和は戦闘には向いていない。かろうじて刀が振るえるという程度だ。
「お前らが俺達に接触する目的は何だ?」
「魔女教の目的は真理を知ることです。真理を知るということはこの世界の創造主たる神を知るのと同義になります。しかし伊達政宗様は真理を知る障害になると教祖が判断いたしました。よって、魔女教にとっては処分対象です」
「は? 何で俺が処分対象なんだよ。つうか''魔女教にとっては''ってどういうことだ?」
「あなた様が処分対象な理由は、まず生命の魔女様が飼っていた犬をあなた様が奪ったことです。これがなければ見逃していたようですがね。次にその目。日本では昔から一つ目の怪異の類いは神格化されているのは知っていますか?」
俺は同意を求めるように仁和の方を向いた。彼女はため息交じりに一度だけうなずいた。「そこにいる銀髪のエリアスの言っていることは正しいですよ。実際に一つ目小僧は山の神が落ちぶれた姿なのだと言われていますし、天目一箇神やサイクロプスは隻眼の神様です」
「仁和さん、あなたは物知りですね。良いですよ、あなたみたいな人が大好物なんです。ええっと、話しを戻しますが隻眼であるあなた様は、先ほど仁和さんが例として挙げた怪異や神達と同等の存在になる可能性があるんですよ」
「それはつまり、隻眼の俺が神に近しい存在になることを魔女教は危惧してるってことでいいのか?」
「理解が早くて助かります。単眼の方はこの世に数多くいますが、あなた様ほど突出した戦闘能力を持っている者は少ないゆえに魔女教が目を付けていたんです。本日はそんなあなた様とお話しをしたく、私と剣崎の二人であなた様の元を訪れたのですよ」
「話しをするだけなら、何でそこの剣崎が俺に攻撃してきたんだ?」
「彼は強い方と出会うと戦わずにはいられない性分のようで......。ご迷惑を掛けて、どうもすみません」
ということは、少なくとも今回はこいつら二人と戦わなくて良いということか。だが九頭竜を犬と呼んだのは気に入らねぇな。
「訂正しろ。九頭竜は犬じゃない。ちゃんとした人間だ!」
「九頭竜とは生命の魔女と一緒にいた獣人のことですね? 私の情報網で、彼にあなた様が名付けをしたことは知っております。わかりました、訂正しましょう」
「やけに素直だな。んで、お前らは俺達と何を話し合いたいんだ?」
「率直に申し上げます。魔女教の目的は今後障害となり得るあなた様の抹殺です。しかし私と剣崎はそれを望んでいません。よって私達は魔女教を抜け、あなた様の手足となるべく馳せ参じました。まあ、ぶっちゃけるとそんな感じです」
なるほど、二人はすでに魔女教を抜けていたのか。ならば敵対しなくて済むが......。
「エリアスと剣崎が仲間になるのは認める。だが魔女教を抜けたってことは、お前ら二人は現在進行形で魔女教に追われているってベタな展開はないよな?」
「それが......まさにあなた様の言うとおりなのです。直に彼女が私達の前に姿を現すでしょう」
「彼女? 彼女って誰だ?」
「魔女教司教であり七大罪の一つである暴食を犯した、暴食の罪人・カルミラです」
エリアスが言い切るのとほぼ同時に悪寒を感じ、俺達の目の前に刃物を複数所持する女が現れた。彼女は気味悪い笑みを浮かべ、見つけた、とだけつぶやいた。
「ああ!」エリアスは硬直する。「彼女こそが暴食の罪人・カルミラですよ!」
タイミングが悪すぎる。仁和とエリアスは戦闘向きではないから、実質は俺と剣崎だけでカルミラを倒さないといかん。厄介な奴を連れてきやがったな、エリアスめ!
「あー、ちょ、痛い痛い!」
俺が巨体野郎に捕まえられている間に、仁和には仲間を呼ぶように合図を送った。合図に応じて仁和は寺に戻ろうとするが奥からヒョロガリの銀髪男が出てきて、その男が仁和の行く手を阻んだ。
「困るな」銀髪男は巨体野郎に目を向ける。「まったく、仁和凪さんも剣崎庵君も勝手な動きはしないでほしいですよ」
どうやら巨体野郎は剣崎庵とかいう名前らしい。知らなくても良かった情報ではあるがな。
仁和は依然として固まったままだったので、俺は奴らの情報を少しでも聞き出すために専念した。
「おい銀髪男! お前らはいったい何なんだ?」
「そうでした、自己紹介もまだでしたね。──剣崎君もそろそろ彼から手を離してください」
銀髪男の指示で剣崎は俺から手を離し、痛みがある部分をさする。「助かるよ。剣崎とかいう奴が俺を掴んだままだったら話しにくかった」
「それは失礼しました。さて、申し遅れましたね。私は強欲の罪人・エリアスです。魔女教の司教を務めさせていただいておりました。知識や情報を強く欲してしまったため七大罪の一つである強欲を犯し、キリシタン宗から追われる身となってしまったので魔女教に下りました。私は情報屋と呼ばれていて、お察しの通り戦闘なんて出来ませんよ」
「魔女教? 何だよそれ」
「魔女教とは教祖と原初の魔女達を中心として、キリシタン宗に立ち向かうべく発足した新興宗教団体です。この宗教団体の目的はただ一つ、世界の真理を知るためですよ」
「お前も真理なんてものが知りたいのか?」
「私は教祖から直々に''強欲''の二つ名をいただいた身です。その名の通り、知識を何よりも強く欲していますので」
ふむ、こいつら二人を素手で相手するのは難しい。かと言って仁和は戦闘には向いていない。かろうじて刀が振るえるという程度だ。
「お前らが俺達に接触する目的は何だ?」
「魔女教の目的は真理を知ることです。真理を知るということはこの世界の創造主たる神を知るのと同義になります。しかし伊達政宗様は真理を知る障害になると教祖が判断いたしました。よって、魔女教にとっては処分対象です」
「は? 何で俺が処分対象なんだよ。つうか''魔女教にとっては''ってどういうことだ?」
「あなた様が処分対象な理由は、まず生命の魔女様が飼っていた犬をあなた様が奪ったことです。これがなければ見逃していたようですがね。次にその目。日本では昔から一つ目の怪異の類いは神格化されているのは知っていますか?」
俺は同意を求めるように仁和の方を向いた。彼女はため息交じりに一度だけうなずいた。「そこにいる銀髪のエリアスの言っていることは正しいですよ。実際に一つ目小僧は山の神が落ちぶれた姿なのだと言われていますし、天目一箇神やサイクロプスは隻眼の神様です」
「仁和さん、あなたは物知りですね。良いですよ、あなたみたいな人が大好物なんです。ええっと、話しを戻しますが隻眼であるあなた様は、先ほど仁和さんが例として挙げた怪異や神達と同等の存在になる可能性があるんですよ」
「それはつまり、隻眼の俺が神に近しい存在になることを魔女教は危惧してるってことでいいのか?」
「理解が早くて助かります。単眼の方はこの世に数多くいますが、あなた様ほど突出した戦闘能力を持っている者は少ないゆえに魔女教が目を付けていたんです。本日はそんなあなた様とお話しをしたく、私と剣崎の二人であなた様の元を訪れたのですよ」
「話しをするだけなら、何でそこの剣崎が俺に攻撃してきたんだ?」
「彼は強い方と出会うと戦わずにはいられない性分のようで......。ご迷惑を掛けて、どうもすみません」
ということは、少なくとも今回はこいつら二人と戦わなくて良いということか。だが九頭竜を犬と呼んだのは気に入らねぇな。
「訂正しろ。九頭竜は犬じゃない。ちゃんとした人間だ!」
「九頭竜とは生命の魔女と一緒にいた獣人のことですね? 私の情報網で、彼にあなた様が名付けをしたことは知っております。わかりました、訂正しましょう」
「やけに素直だな。んで、お前らは俺達と何を話し合いたいんだ?」
「率直に申し上げます。魔女教の目的は今後障害となり得るあなた様の抹殺です。しかし私と剣崎はそれを望んでいません。よって私達は魔女教を抜け、あなた様の手足となるべく馳せ参じました。まあ、ぶっちゃけるとそんな感じです」
なるほど、二人はすでに魔女教を抜けていたのか。ならば敵対しなくて済むが......。
「エリアスと剣崎が仲間になるのは認める。だが魔女教を抜けたってことは、お前ら二人は現在進行形で魔女教に追われているってベタな展開はないよな?」
「それが......まさにあなた様の言うとおりなのです。直に彼女が私達の前に姿を現すでしょう」
「彼女? 彼女って誰だ?」
「魔女教司教であり七大罪の一つである暴食を犯した、暴食の罪人・カルミラです」
エリアスが言い切るのとほぼ同時に悪寒を感じ、俺達の目の前に刃物を複数所持する女が現れた。彼女は気味悪い笑みを浮かべ、見つけた、とだけつぶやいた。
「ああ!」エリアスは硬直する。「彼女こそが暴食の罪人・カルミラですよ!」
タイミングが悪すぎる。仁和とエリアスは戦闘向きではないから、実質は俺と剣崎だけでカルミラを倒さないといかん。厄介な奴を連れてきやがったな、エリアスめ!
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。
SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。
伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。
そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。
さて、この先の少年の運命やいかに?
剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます!
*この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから!
*この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
悲恋脱却ストーリー 源義高の恋路
和紗かをる
歴史・時代
時は平安時代末期。父木曽義仲の命にて鎌倉に下った清水冠者義高十一歳は、そこで運命の人に出会う。その人は齢六歳の幼女であり、鎌倉殿と呼ばれ始めた源頼朝の長女、大姫だった。義高は人質と言う立場でありながらこの大姫を愛し、大姫もまた義高を愛する。幼いながらも睦まじく暮らしていた二人だったが、都で父木曽義仲が敗死、息子である義高も命を狙われてしまう。大姫とその母である北条政子の協力の元鎌倉を脱出する義高。史実ではここで追手に討ち取られる義高であったが・・・。義高と大姫が源平争乱時代に何をもたらすのか?歴史改変戦記です
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる